図書館の近辺に位置する服屋から出て来たのは白い服の上に黒色のカーディガンを羽織り、グレーのスキニージーンズを着こなした白髪の男。言わずもがな、彼はエミヤである。
唐突に現代風なファッションに目覚めた、と言う訳ではなく、ただ単に和也から貰った派手で目立つ服を今後も着続けるのはデメリットが大きいと判断したので装いを変えたに過ぎない。支払いは和也が答えを出した日に彼からお小遣いとして受け取った一万円で済ませていた。因みに、服装を変える前に図書館には入ったようだが、例の三人組や妙に騒ぎ立てる人がいなかった事で彼の情報収集は手短に終わっていた。
「彼には感謝しなくてはな。」
ふとエミヤが空を見上げれば一面は茜色に染まっており、辺りの空気が夕暮れ時である事を知らせてくれている。買い物袋を片手に子供を連れて歩く母親、ビジネスバッグを手に提げながら慌ただしく歩道を走り抜けるスーツ姿のサラリーマンらしき男性。平和だな、何の脈絡も無くそう呟いたエミヤは和也のアパートへ帰る為にその場から歩き出した。
そして数分後、彼は人通りの多い商店街の中で見知った顔を三人視界に捉え、立ち止まる。一人はエミヤにとっての恩人、木ノ下和也。二人目は和也の彼女を演じている女性、一ノ瀬千鶴。三人目は以前に図書館前で出会った謎の人物、木部芳秋だった。
「和也...?こんな所で何してんの?」
今、木ノ下和也は危機的状況に立たされていた。水曜日の今日、大学が終わった後に水原千鶴をレンタルした彼は彼女と一緒に祖母の病院に出向き、無事に和を癒した。エミヤがいなかった事に多少の不満は抱いていたようだが。
問題はその帰りに発生した、仕事モード全開の千鶴と手を繋いでいた所に和也の幼馴染と友人である木部芳秋と栗林駿に遭遇してしまったのだ。この状況、最悪の場合は水原千鶴の正体が同じ大学の生徒だとバレてしまうかもしれない。
「あっあぁ、そっか!和さんの病院、この近くか。...ていうかお前、その子。」
「(や、ヤバい...。)」
終わった。そんな和也の呟きを掻き消すように木部と栗林は千鶴へ向けて頭を下げ、捲し立てるように喋り出す。
「すみません!こいつ馬鹿で世間知らずなんで、宗教とかはちょっと!勘弁してやって下さいっ!」
「か、金ないし...壺とか売り付けたければ他所で!」
和也が今浮かべている表情はまさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔。どうやら木部と栗林の二人は千鶴の事を詐欺師か何かと勘違いしているらしく、和也はその誤解を解く為、図らずも彼女との関係を
「お、お前らぁ!何を勘違いしてるのか知らねぇけど、お...俺の...彼女に失礼だろっ!」
「「.........彼女?」」
和也の背後から徒ならぬ冷気が漂い始め、敏感にそれを感じ取った彼はギギギ、と嘘みたいな擬音を出しながらゆっくりと後ろへ振り返る。鬼の形相を覚悟していた和也だったが、彼女のプロ根性が伊達ではない事を直ぐに知る。何故なら、彼が振り返った直後に頭を上げた水原千鶴の顔には完成された自然な微笑みが形成されていたのだから。
「水原と言います、いつも和也さんがお世話になっています。」
隙のない、完璧な演技。その場の誰もが、水原千鶴に魅了された。人混みの中から四人の様子を眺めていた、一人を除いて。
そんな和也の衝撃の告白にショックを受けながらも、無事に再起動した木部と栗林は千鶴に断りを入れて和也を路地裏に強制的に連れ込む。
「お、お前ぇ...ま...マジなのか、あの彼女はマジモンなのかっ!?」
「あ、当たり前だろーが...俺の、彼女だよ。」
千鶴に対して多少の後ろめたさを感じている和也だったが、最終的には優越感の方が勝ち、口端を吊り上げて本物の彼女だと言ってのける。
「くぅ〜、本物かぁ...すげぇS級美女じゃねぇか、幼馴染としては...って、あれ...あの人。」
「ん?どうしたんだ...ょ...って、衛宮さん!?」
木部が顔を歪めながら握り拳を作り、千鶴の方へと目を向けて固まる。彼の視線の先には、派手な服を卒業したクールと呼ぶに相応しい姿のエミヤが千鶴と話を交わしていた。エミヤは和也達からの視線に気が付くと、その顔に皮肉げに見える笑みを浮かべて千鶴と共に路地裏近くまで足を進める。
「偶然だな、木ノ下青年...と木部青年。」