和也が連れられて行った路地裏を一目見て、小さな溜め息を吐いた千鶴。彼女は数分前の騒ぎにより興味本位で集まってきた十人程の野次馬の中から、終始此方側を注視していた鋭い視線の主を目で探す。
「絶対、あの人よね。」
自分の推測が正しければ、あの視線はエミヤのものに違いない。初対面の時、派手な服装のエミヤから鷹のように鋭い一瞥を受けた記憶が彼女の頭の中でフラッシュバックする。
「......見付からない。」
一人、二人と千鶴がいくら目を凝らして見ても一向に目的の人物、エミヤの姿は見当たらない。既にこの場を去った可能性、それを考慮した彼女は若干安心した様子で野次馬から目を逸らす。抑、今の千鶴はエミヤに合わせる顔がない。昨日の彼の言葉の本当の意味を理解した彼女だからこそ、罪悪感で余計に会いたくないと言うのが本音だった。
「私をお探しかな。」
だが無情にも、彼女の真横に冷ややかな笑みを携えて姿を現したエミヤの存在が告げる。千鶴の推測は見事に的中していたと。
「っ!...び、ビックリさせないで下さい。」
エミヤが千鶴と接触した理由、それは事情を知っている者ならば誰しもが分かると頷くだろう。かく言う彼女も、分かりきっていた。
「目的は、昨日の返答...ですか。」
昨夜。和也の窮地を助けた千鶴がエミヤに聞かれたのは、何故、和也の提案に否定的だった千鶴が和也に手を差し伸べるような真似をしたのか。彼女の中では、まだエミヤへの返答は出来上がっていない。
その事を言い訳に答えを先延ばしにする事自体は可能ではあるが、千鶴の矜持はそんな行為を許さない。故に今、彼女は答えを引きずり出した。
「......私は、彼の成長を妨げてしまいました。それは紛れもない事実で、彼の身近にいる衛宮さんがその事を怒るのも当然です。ましてや、彼を成長させようとしていたなら...尚更。」
エミヤと目を合わせて粛々とした空気を纏った千鶴は脳内で言葉を組み立ながら、丁寧に話を進める。
「私は一時の同情で問題を先送りにしただけ、私の行動は正しくなかった。...彼の行動も。でも、和也さんのお婆さんへの想いはとても問答では計れないくらい...本物でした。」
家族の目の前で千鶴の事を自分の彼女だと豪語した和也、あの日の夕方。病院の外にある休憩所で、彼から聞かされた和の話には随分と感化されたものだと千鶴は思う。
「だから、彼の事を人として少しでも支えたいと思った。そして......これからも、私は彼を支えます。
「...そうか。」
和也の成長を妨げ、決して正しいとは言えない行動をした千鶴。その影響は、時を経れば和也や千鶴の周囲にまで伝染するだろう。だが彼女は、か細い糸で結ばれた和也との関係の中でも、彼を見捨てる事はせずに剰え支えると言い切った。その覚悟が生半可なものではないと、千鶴と数分間に渡り目を合わせていたエミヤは認識していた。
「ところで、一つ指摘したいのだが...私は別に怒ってはいなかった。そこまで器の小さな人間だと思われていたとは...少し心外だな。」
「へ...?あ、えっと...ごめんなさい...。」
「...いや、此方こそ悪かった。少しからかっただけなのだが、まさか本気にしてしまうとは。...凜を相手にするのとは訳が違うか。」
エミヤが第五次聖杯戦争での
「か、和也!この人は...知り合い、なのか?」
路地裏近く、和也に木部、栗林。千鶴にエミヤの全員が揃った場で最初に口を開いたのは木部だった。自分達の目の前で親しそうに千鶴と会話していた彼は一体何者なのか。以前に図書館の件で顔を合わせた事があるとは言え、木部自身はまだエミヤの名前すら知らない。和也を問い詰めるのも仕方の無い事だった。
「あー...えっと、うん。ルームメイト的な...?」
詳細を話せと訴えている木部の視線を受け止め、和也は一週間前の出来事をぽつりぽつりと話し始めるのだった。