エミヤさんの異世界転移   作:夕叢白

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向き合う時

多くの人々が興味を惹かれたビーチバレーの試合が終わり、和也達は全員が元の場所に戻ってきていた。現在、彼等の間で話題に挙がっているのは今しがた砂浜のコートで繰り広げられたエミヤ・木部ペア対笹野・栗林ペアのプレーについて。中でもアスリート顔負けの驚異的な活躍を披露したエミヤが注目を集めている。当事者は大人気ない行為をしたと内心猛反省しているのだが、もはや今更でしかない。

 

「衛宮くんって何かスポーツやってたの?それとも元プロとか?」

 

「あの時さ、すっごーい高く飛んだよね!どうやったの?コツとか教えてほしい!」

 

七海麻美の友人、今井みはると島江園子が困り顔のエミヤに次々と質問を投じる。受肉したとて、身体能力に関してはサーヴァントの時と出力は何ら変わらない。転移当初、エミヤは情報収集目的で図書館へ向かった際にビルの上を経由して空中を移動した事があった。今思えば、あの行動は彼自身にとって非常に危険な行為だ。監視カメラに映り込んでしまい、世間を騒がせる事態になっていた可能性すらある。霊体化ができない以上、力の出し過ぎは控えた方が無難、それはエミヤも理解している─────しているが、和也らと共に平和な日々を享受し続けている内に、エミヤの内面は無意識に精神の弛緩を許してしまっていた。

 

「まぁまぁ落ち着いて。衛宮さんも困ってるし、メシでも食べながらゆっくり聞こうぜ。」

 

「「えぇ〜。」」

 

大振りに手を叩きながら木部が場を取り纏め、エミヤへ対する質問攻めは一旦幕を閉じる。現状、この世界に魔術の痕跡は見受けられない。歴史はエミヤの知るものと大差はなく、彼女(アーサー王)の伝説も確認済みだ。だが、依然として謎の力の正体は掴めておらず、エミヤを連れ去った目的も不明。つまり、エミヤの調査は行き詰まっている。しかし、相手は只者ではないだろう。仮にも英霊であるエミヤを別世界へ転移させ、ご丁寧に受肉まで施している。そんな出鱈目を可能とするのは根源に至り魔法を極めた者か、或いはそれに準ずる高位の存在。とはいえ、根源へと至った上位者が果たしてこのような真似をするだろうか。何にせよ、いつ爆発するとも判らない問題を抱えたエミヤが和也達の傍らに居続ければ、きっと彼らにまで被害の及ぶ日が必ず訪れる。

 

「あの、衛宮さん。」

 

「む...どうした、木ノ下青年。」

 

聞き慣れた呼び声に意識を急浮上させたエミヤ、彼が声の出どころへ目を向ければ、神妙な面持ちの和也が立っていた。纏う雰囲気は木ノ下和也らしからぬ厳かなもの、エミヤはその彼の有り様に既視感を覚える。飲み会の帰り、和也が水原千鶴との関係を絶ったあの時と酷似しているのだ。そして明確な違いは和也から漏れ出るエミヤに対する僅かながらの恐怖心。気の緩みが進んでいるとはいえ、人の変化に気が付かないほどエミヤは愚鈍ではない。

 

「今日、夜の九時頃、ホテルのロビーに来てほしいんすけど...だ、大事な話があって...。」

 

「......了解した。」

 

和也の様子を視界に収めつつ、エミヤは思う。平和な日常を送る普通の大学生、それがエミヤから見た和也の印象。転移の影響で気絶していた所を保護され、一向に事情を明かさない自分を全面的に支援してくれている。最初はまるで過去の自分を見ているようだったが、やはり和也は自分(衛宮士郎)ではない。比較対象として挙げる事すら失礼なくらい、普通の善人である。

 

「全く私はいつからこうも(なまくら)になってしまったのか。凛が知れば...それこそ笑われるな。」

 

聖杯戦争を通して答えを得た。世界の壁を超えて和也達と出会った。思い返せばたった三週間程度ではあるが、純粋に楽しいと思える時間だった。なれば次は木ノ下和也と向き合い、この関係を断ち切る時だ。

 

 

 

─────そして伊豆半島一泊二日旅行初日、時刻は午後九時過ぎ、ホテルのロビーにはエミヤと和也の二人だけが残っていた。

 

「話して下さい...衛宮さんの事、全部。」

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