エミヤさんの異世界転移   作:夕叢白

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図書館での騒ぎ

水原千鶴に虜のスレ、それはまさに深淵。夢を見続けたいのなら、絶対に踏み入ってはならない領域。を迷いなくクリックした男がいた。その強者(つわもの)の名は、木ノ下和也。

 

36:名無しさんのせい

俺も最後手握られたンゴw

 

48:名無しさんのせい

事務的なのは最初だけ

あとは普通に楽しかったわ

 

62:名無しさんのせい

またねっからのニコッ

は完全にリピートする

流れですぞwww

 

158:名無しさんのせい

虜になったのは

俺だけじゃなかったんだぁ

てか多スギィ!!!

 

真実は残酷なり。そのスレは物の見事に和也の夢をぶち壊した。後ろでパソコンの画面を遠くから覗いていたエミヤに至っては何故か哀れみの眼差しで和也を見ている。頭から湯気が出るのではとエミヤが心配するほどに肩を震わせていた和也だったが、徐にスマートフォンを手に取ると慣れたフリック操作で水原千鶴に対する酷評レビューを一気に書き込む。

 

和也が記入した内容は巫山戯ているとしか思えない幼稚なものだが、その意見一つで彼女の積み上げてきた信頼と実績に傷がつくのだから笑えない。

 

「(ぐっ!まさか全部演技とか、人の心弄びやがって。んんぅ...あいつ、一言、絶対に一言何か言ってやる!んんぅ!)」

 

逆恨みとはまさにこの事である。

 

和也が一人で憤慨している中、エミヤは呆れ顔で先程の事を思い返していた。深夜とも言える真っ暗な時間帯に息を切らせて帰ってきた和也へ一体何事かとエミヤが駆け寄ると、彼は男物の服や下着が大量に入った袋を渡してきたのだ。話を聞いてみると用事が終わった後に一度家の近くに戻ってきたものの、服の件を完全に忘れていたらしく、急いで街に戻って片っ端から買ってきたのだとか。

 

エミヤは袋を中を再度確認する。ピンクやイエローと言った中々に派手な色が詰まっているのだが、どれも適当に選んできたとしか思えない奇抜な服だらけ。焦っていたせいもあるのだろうが、正直な所、進んで着たいデザインではない。

 

エミヤの為に引き返した点を含めても、基本的に善人ではあるのだが、その実、人の気持ちを推し量る事を苦手としているようだ。

 

「まあ、外に出れるのは有難いがね。」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、両親からの仕送りを再び水原千鶴に貢いだ木ノ下和也は以前と同じ場所で彼女の到着を待っていた。今回彼女をレンタルしたのは失恋の傷を癒す為ではなく、物申す事を言い訳とした八つ当たりの為である。

 

「あっ、和也君。待った?髪やるの時間かかっちゃって。」

 

小走りで自分に近付いてきた彼女を捉え、先日手を繋いだ時の記憶がぶり返した和也は露骨に目を逸らしてしまう。

 

「和也君、嫌かもって不安だったんだけど...どう、かな?」

 

髪を気にしているのか、自分に率直な意見を求める千鶴が余りにも純粋に見えてしまい、和也の顔は次第に赤く染っていく。

 

「べ!別に...嫌じゃ、ねぇよ?」

 

「よかったぁ!」

 

まだ初々しさが残るカップル、傍から見ればそう捉える事の出来る二人をビルの上から眺めている白髪の男がいた。通常ならばスコープや双眼鏡等の道具を使わなければ、ビルの上から二人を視認する事など不可能に近い。だがこの男、エミヤには肉眼での視認を可能とする能力が備わっている。千里眼、彼のサーヴァントとしての保有スキルの一つ。

 

「青春、か。今の私には無縁だな。」

 

二人から目を離し、そう結論づけたエミヤは今いるビルから別のビルの屋上へと飛び移り、それを繰り返しながら目的の場所を目指す。

 

この世界の歴史や文化を手っ取り早く覚えられ、尚且つ今後も通うであろう最良の公共施設、図書館。和也の家から距離はあるが、必要な情報を正確に手に入れるのなら図書館しかない。

 

エミヤは人通りが途絶えたタイミングを狙ってビルの上から地面へ着地すると、足早に図書館の中へと入っていった。

 

そして数分後、エミヤは図書館に入った事を後悔した。簡潔に説明すると、彼の着ていた服が不味かった。ピンク色の派手な服装をした外国人風のエミヤが図書館に入ってきた時点で多少の注目は浴びていた訳だが、公共の場所で妙に騒ぎ立てる非常識な人間はいない。例外を除けば。

 

「おー?めっちゃ変な格好してる奴いね。」

 

「ん、うわ...何あれ引くわ。」

 

「面白、写真撮らん?絶対バズるよ。」

 

真面目に調べ物をしていたエミヤの周りが、若者三人を皮切りに騒がしくなる。そんな状態が暫く続けば、流石に職員も黙ってはいなかった。厄介そうな三人を相手にするよりも、三人が注目している派手な服装の一人を追い出した方が効率的だと判断したのだろう。

 

「誠に申し訳御座いませんが...これ以上の騒ぎは他の来館者様のご迷惑となりますので、どうかお引き取りを。」

 

腰が引けていると思われる男性職員にそう言われてしまえば、エミヤは立ち去るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、勘弁してほしいものだな。」

 

結局のところ、服装に関しては和也のせいでもあるのだが、エミヤが彼を責める気になれるはずもなく、調べ物を諦めて帰ろうと歩き出した瞬間。

 

「あの、さっきの大丈夫っすか?」

 

エミヤにとっての救世主は唐突に現れた。

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