エミヤさんの異世界転移   作:夕叢白

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板橋第三病院へ

「だから、そんな事して何になんの?プロとして的な?意味ないでしょ、そんなん。どうせ一日だけの付き合いなんだからさ!」

 

自制など意味をなさず、和也の口から溢れ出す皮肉は止まらない。そんな和也の近くにいた客達は皆一様に非難の目を向けている。千鶴は必死に彼を宥め賺そうとするが、もはや無駄と言うしかないだろう。

 

「すぐ別れるんだから!いくら相手の事思ったって、無駄じゃん!」

 

そしてついに、水原千鶴の我慢も限界を超えた。だがその場で感情を曝け出す事はせず、和也の腕を引いて人気の無い場所へと駆け出した彼女は彼とは違い落ち着いている。

 

この場にエミヤがいたならば、和也の未熟さを完全に見抜いた上で説教が始まっていたに違いない。

 

「(バカみてぇだけど、言ってやった。好きでもねぇのにどいつもこいつも、恋人ごっこしてんじゃねぇよ。)」

 

二人は水族館内の一番人気の無い場所で立ち止まり、一度息を整える。いくらレンタル彼女のプロである千鶴であっても、今回の件に関しては相当腹を立てていた。

 

千鶴は和也を睨み付けると一気に彼へと詰め寄り、今日の恨み辛みを盛大に吐き出す。

 

「あなたね!どういうつもり?バカなの?こんな所で大声出して、皆見てるじゃない!」

 

「えっ。」

 

この変わり様、つい数分前まで逆恨みによる怒りをぶつけていた和也も彼女の素には驚くしかない。

 

「大体、さっきから何?虚しくない?とか聞いてきたり、他人でしょ?とか言って。ねえっ、バカなの!?こっちはレンタル彼女だっつってんじゃん、そういう契約、約束じゃん!」

 

反論する隙すら与えず捲し立てる千鶴の勢いに押され気味の和也は早くも自責の念に駆られていた。彼女の言っている事はどれも正論で、今回は明らかに自分が悪い。冷静さを取り戻した彼は既に自らの過ちを認めつつあった。

 

「あなただよね、申し込んできたの!利用規約に同意ってとこにカチカチってやったよね!?大体、私の満足度一ってどういうこと?私あなたに何かした!?あれで評価結構下がったんだからね!」

 

「その...はい、ごめんなさい...。」

 

謝罪の言葉と共にがっくりと項垂れた和也を見て、高ぶった気持ちを鎮めた千鶴は呆れながらも仕事モードに切り替える。何か事情があったのだろうと自分を納得させて。

 

「で?どうする?まだ続ける?その気があるなら、私もそのつもりでやるけど。」

 

一方的に空気を悪くしてしまったのは間違いなく自分であり、この誘いを断れば一部とは言え両親からの仕送りも無駄になってしまう。そう思った和也はデートのやり直しを希望しようと口を開くが、その声は和也に届いた一本の電話により遮られる事となる。

 

「あっ...ちょっとごめん。もしもし、えっ...うそ...マジ!?...分かった。」

 

業務妨害紛いの事はする上、人との会話中に電話に出る。失礼だとは思わないのかと愚痴を言う為、千鶴が和也に近寄った瞬間。

 

「ばあちゃん...倒れたって...。」

 

和也の口から飛び出したのは、思いもよらない言葉だった。

 

「はっ!?」

 

 

 

一方、木部と名乗る謎の救世主と別れたエミヤは比較的和也と千鶴の近くにいた。そして偶然にも、和也と千鶴が水族館から急ぎ足で出てきた場面を目撃していたようで、現在は二人を追跡している。和也の顔色から推測するに異常事態が発生したのは明白。何にせよ、エミヤには二人を尾行しないという選択肢はなかった。

 

「む...あの建物は、病院?」

 

二人が急ぎ向かっている方向に見えてきたのは、板橋第三病院と表記された大きな建物。病院に用事とは、和也と関係を持つ誰かに不幸でも起きてしまったのだろうか。

 

兎にも角にも、エミヤは二人が病院の入口前に辿り着いた所を確認すると彼等に近付き、声をかけた。

 

「え、衛宮さん!?ど、どうして此処に...?」

 

「いや何、水族館の辺りで偶然二人を見かけてね。君が随分と焦っているようだったから、何かあったのかと。」

 

突如、自分達の前に姿を現した派手な服装の男に水原千鶴は幾らか怯えていた。浅黒い肌に地毛と思われる白髪、鷹のように鋭い目付きに長身ときた。和也とは知り合いのようだが、どう考えても怪しすぎる。

 

「あ、あぁ...と、取り敢えず、後で説明しますから!付いてきて下さい!」

 

そんな思いを抱かれているとは露知らず、エミヤは和也の後を追い、病院の中へと入っていった。一人置いてけぼりを食らった千鶴の胸中はと言うと、荒れに荒れていた。

 

「ああ!もうっ、何なのよ!」

 

 

 

板橋第三病院内のとある病室にて、一人の老女が仏頂面でベッドに背を預けていた。

 

「大袈裟な...気絶ぐらいで。」

 

気絶を大袈裟と言ってのけたこの老女こそ、木ノ下和也の祖母に当たる人物、木ノ下和である。

 

「心配しますよ、お義母さん。まだまだ大事なお体なんですから。」

 

「おふくろ、年寄りだって自覚を持ってくれよ。店の事もあるんだから、入院だって初めての事じゃないんだ。」

 

そう不安げな様子で口を開いた二人は木ノ下晴美と木ノ下和男。晴美は和也の母であり、和男は和也の父。彼等はいつも和の無茶振りに振り回されているが、基本的に和は家族全員に慕われている為、関係は良好だ。

 

「この部屋、Wi‐Fi通っとるか?」

 

ご老体からWi‐Fiといった単語が飛び出すとは思わず、部屋の端にいたエミヤは苦笑いを浮かべる。尚、和也と千鶴の二人に至っては一言も言葉を発さず、椅子に座った状態で固まっている。

 

「...で?そちらのお嬢さんとお兄さんは?」

 

和に視線を向けられた二人はビクッと体を震わせた。挙動不審な和也と千鶴、この時点でエミヤは二人の関係性を見抜きつつあった。

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