エミヤさんの異世界転移   作:夕叢白

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和也の答えとレンタル彼女

「和也と一緒にいたから連れてきたんだけど、大学の同級生の方かしら?」

 

和也の母である晴美がエミヤと千鶴に向かってそう問いかけると、千鶴は視線を彷徨わせ、言葉に詰まってしまった。その様子を見兼ねたエミヤは自らが注目を浴びる事で助け舟を出す。

 

「私は同級生ではないのですが、木ノ下君とはルームシェアをしていましてね。名前は衛宮士郎と言います。」

 

和也のルームメイトといった話題で彼が注目の的になる事で、千鶴には和也との関係を考える時間が生まれた。エミヤに心の中で感謝をしつつ、千鶴は隣で額に汗を流している和也に小声で話しかける。

 

「で、どうするのよ...?」

 

「どうするっつったって。」

 

和也が苦悩している間にも、エミヤは彼の家族と順調に話を進めていた。詳細までは明かさなかったが、自分が訳あって行き倒れていた事。そして、和也に手を差し伸べてもらった事。

 

と、経緯を説明している内にエミヤは思い出す。先日、折衷案を出した際の答えを、まだ本人の口から聞いていないではないかと。

 

あの時は和也が服を大量に購入したせいもあって有耶無耶になってしまっていたが、今日中には答えを出してもらわなければ。和也の返答次第で、エミヤはこの町に留まるか離れるかを決めるつもりでいた。

 

「あの和也がルームシェア、ねぇ。」

 

「不出来な息子だけど、今後とも仲良くしてやってくれ。」

 

最初こそ、派手な服装からエミヤを好ましくは思っていなかった晴美と和男だが、会話の中から彼の礼儀正しさを感じ取り、自然と緊張は解けていた。そして、エミヤとの会話が終われば次に話の矛先を向けられるのは必然的に千鶴な訳であり。

 

「でも、それじゃ...そちらの方は?」

 

万事休す。和也からの指示がない以上、自分で乗り切るしかない。千鶴が意を決して同級生と宣言しようとすると何者かの手が彼女の肩に馴れ馴れしい動作で触れた。何事かと手が延ばされている先を確認した直後、千鶴は目を丸くする。

 

「こ、こいつは!お、俺の...彼女...彼女だっ!」

 

その一言に、病室が静まり返った。和也の両親は呼吸を忘れ、和は千鶴を凝視。この中で唯一平常心を保っているのはエミヤ一人だろう。和也は不安げに彼女の顔色を伺うが、直ぐにそれは無駄な心配だと悟る。何故なら、彼女の纏う雰囲気は以前感じたプロ特有のものに変わっていたからだ。

 

「ほう。」

 

切り替えの早さで言えば、エミヤが感心する程である。水原千鶴の対応力は伊達ではない。

 

「初めまして、和也君とお付き合いさせて頂いています。水原千鶴と言います。」

 

満面の笑みを浮かべる女神こと、千鶴の演技の前では三人も形無し。あまりの衝撃に口が塞がらない和也の両親は、お互いに頬を引っ張りあっている。

 

「こんな形でのご挨拶になってしまい、申し訳ありません。宜しくお願いします。」

 

そこからはもう、大騒動だった。孫に彼女が出来た事に感動した和が退院して宴を開くと躍起になったり、息子に彼女など出来る訳がないと諦めていた晴美と和男が椅子から転げ落ちたりと。余談だが、あまりの煩さに途中で看護師が怒鳴り込んできた際はエミヤが対応していた。

 

そんな賑やかな時間はあっと言う間に過ぎ、和也の両親が帰った後。

 

「では、私も失礼させてもらうよ。おっと...その前に、木ノ下青年。家に帰ってきたら、二日前の答えを聞かせてくれ。」

 

和也へ向けてそう言い残したエミヤは空気を読み、病室を後にした。一瞬、彼の言葉の意味を計り兼ねた和也だったが、二日前の記憶を振り返った時点でやっと理解したらしい。

 

「...あぁ。」

 

無論、和也の答えは既に決まっていた。

 

 

 

病院から和也の家へと帰宅したエミヤはこの五日間の出来事を思い返していた。過去の自分を抹消する機会を得たと思い、己が目的の為に聖杯戦争を利用していた五日前。

 

過去の自分と対峙した末に答えを得、英雄王を打倒した四日前。

 

座に還る途中、謎の力によって引き寄せられ、別世界へと転移した三日前。

 

見ず知らずの他人である自分を助けてくれたお人好し、木ノ下和也と改めて話し合った二日前。

 

和也の家で何気無い時間を過ごした一日前。

 

「悪くはない、か。」

 

未だに謎は残っているが、今日のような穏やかな日常に身を置くのも悪くはない。ただ、やはり自分はこの世界にとっての異分子。まだ決まった訳ではないにしろ、この世界に魔術の歴史が存在していないのなら。

 

「私の力が露見すれば、この世界に悪い影響を与える事は間違いない。」

 

最悪、彼等を巻き込む可能性すら。そう、エミヤが深い思考の渦に飲まれる寸前。家の扉が勢い良く開かれ、和也の生き生きとした元気な声が部屋の中に響き渡った。

 

「ただいまでーす。」

 

どうやら、エミヤの気付かぬ間に相当な時間が経過していたらしい。窓から外に目を向ければ、既にそこは真っ暗闇。

 

「あれ、電気点けてなかったんですか?」

 

「...ああ、少し考え事をしていてね。」

 

エミヤの返答には特に疑問も抱かず、和也は部屋の電気を点けると片手に持っていたコンビニ袋を机に置き、壁に背を預けていたエミヤへと歩み寄る。

 

「答え、出しました。」

 

「ん...そうか、聞かせてくれ。」

 

彼女にフラれて自暴自棄となり、一番余裕のなかった時期に出会った謎多き男、衛宮士郎。最初こそ、手を差し伸べた者としての責任感から滞在を許可していたが、今は違う。彼の人となりを理解した上で和也なりの答えを導き出したのだ。

 

「正直、今の俺なら衛宮さんが倒れていても家には連れて帰りません。」

 

「それは至極当然な事だ、誰も責めはせんよ。」

 

「はい、だけど四日前の俺はあなたを連れて帰ってきちゃった訳です。最初は責任感から滞在を許してたんですけど、今は違うって言い切れる。あー...何か言うのすげー恥ずかしいんですけど...その、俺と一緒に暮らしてくれませんか?」

 

左手で頬を掻きながら、右手をエミヤに差し出した和也の顔付きはどこまでも真剣で。エミヤには彼の手を取らないと言う選択は残されていなかった。

 

「...此方こそ、宜しく頼むよ。木ノ下青年。」

 

「っ。はい!今後とも、宜しくお願いします。衛宮さん。」

 

これが正義の味方として生きた英雄、衛宮士郎と人間性が未熟な大学生、木ノ下和也の心が通じ合った最初の瞬間である。

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