浅黒い肌に色を失った髪。正義の味方として生きた男は時間の概念が存在しない剣の丘で自らを断罪する機会を待ち続け、ついにその時を迎えた。借り物の理想に縋り、数多の人間を不幸にし、殺めてきた自分。その生き方は間違いでしかない。
「この夢は...間違いなんかじゃないッ!」
だと言うのに、男にとっての過ちは諦める事をしない。血を垂れ流し、幾度倒れようと立ち上がる。その瞳に映っているのは、もはや自分ではなかった。
「(こういう男が、いたのだったな。)」
その日、
霧が晴れるように、夢の中の情景は薄れてゆく。意識が現実へと引き戻される感覚に目を覚ました大学生、木ノ下和也は天井を仰ぎ見ながら呟いた。
「今のって...衛宮さん...だよな。」
和也の見た夢、端的に言えばそれはエミヤの記憶である。本来はマスターとサーヴァントの魔力の繋がりによって発生する事象であり、和也とエミヤの間に夢が共有される事は有り得ない。
「単なる夢、か。...はは。」
彼の口から乾いた笑いが漏れる。単なる夢と片付けるには些か現実味のあるものだった為、和也は困惑していた。念の為、夢に登場した本人へ確認を取ろうと隣の布団を伺った和也だが、その場所にエミヤの姿はない。そして脳が覚醒し切れていない中、目的の人物を探そうと起き上がった彼の鼻は確かに嗅ぎ取った。食欲をそそる和食の香りを。匂いの元を辿れば和也から見て玄関の左側、狭いキッチンに立ちながら手慣れた様子で料理を作っているエミヤがいた。そんな和也の気配を察知した彼はキッチンからリビングへ顔を覗かせる。
「お目覚めかね?...その様子だと、まだ脳が覚醒していないと見える。顔を洗うといい。」
「あ...はい...。」
調理中であろう和食の香りに意識を取られていた和也は空返事でそう答えると水を飲む為にキッチンにいるエミヤの隣へ並び立つ。横目で確認するとフライパンで焼かれているのは何らかの魚、取っ手の取り外しが可能な小さい鍋では和布の浮かぶお味噌汁が湯気を放っている。
「あの...衛宮さん、どうして料理を?」
「ん、ああ...勝手に食材を消費した事は詫びよう。だが、君の食生活を考えると今後が心配になってな。不躾ながら、キッチンを使わせてもらっている。」
「は、はあ。」
別にエミヤが料理をしている事自体は和也にとって何の問題もなかった。今後は共同生活を送るのだ、家事の分担も決めなければならない。エミヤが料理に精通しているのであれば、彼に一任すべきだろう。乾いた喉を潤した和也は顔を洗う為、洗面台へ向かうのだった。
それから数十分が経った頃、エミヤの料理は滞りなく完成した。リビングの小さな机に並べられた和食。白飯に鮭の醤油焼き、ひじきの煮物や和布のお味噌汁。エミヤ曰く、冷蔵庫の残り物を使用した有り合わせらしいが、そうは思えない程の立派な出来である。和也は頂きますと手を合わせ、箸で鮭の身を摘んで口へ運ぶ。
「えっ...うま...。」
「それは何より、人に振る舞うのは久々だから心配していたが...安心した。」
「衛宮さん...まさか一流のシェフだったとか!」
「いや、そんな大層なものではないよ。時間がある時に、ただ作っている。それだけだ。」
淡々とそう返答したエミヤに和也は疑問を抱く。彼の料理はお店にも引けを取らない素晴らしい出来栄え。だが、先の言動から察するに料理が趣味と言う訳ではないのだろう。一体何が切っ掛けで彼の腕は高められたのか、和也は考えを巡らせる。
「私の事より、自分の今後を考えた方が賢明だとは思わないか?」
一度思考を中断した和也はエミヤの言葉に首を傾げる。今後と言われても思い当たる節が複数ある為、彼が何を指しているのか分からないでいた。だが、次のエミヤの発言に和也は目を見開く。
「おっと、これは失敬。少々具体性に欠けた言い方だった。つまり私が言いたいのは、君の協力者...水原千鶴との今後の関係だよ。」
態々、水原千鶴の事を協力者と言い表したエミヤ。その意味に気が付いた和也は戦慄した。
「あの...も、もしかして、バレてます...?」
「寧ろバレないと思ったのかね?」
水原千鶴の演技力を以てしても騙されない人物が此処に存在した。その事実を前に和也の頭の中は大混乱。何とか言い訳を考えようとするが、抑エミヤを説き伏せるビジョンが思い浮かばない。結局、言い逃れは出来ないと悟った和也は包み隠さず、全てを打ち明けた。