やっぱり下手くそなんで、いろいろ優しく教えやがれくださいお願いします
それは、午前中に大学の講義が終わる、ある日のことだった。青年──タカナシ・シンジはその日の講義を受け終え、午後からの予定を考えていた。が、そんな彼に話しかける者がいる。
「あのさ、タカナシくん、GBNって興味ある?」
そう問いかけてくるのは、スドウ・カズヤという青年だった。彼はシンジの友人の一人で、またシンジに多くの影響を与えた人物である。例えば趣味とか。
「GBN? それってあのガンプラ読み込ませて遊べるMMORPGだっけ?」
「それそれ。それなんだけどさ、今度一緒にやりに行かない? 実は僕ちょっと前からやってたんだけど、やっぱり友達と遊びたくて」
「え? いいけど、いつにする?」
「そうだね……今度の土曜日にしない?」
「土曜か、わかった」
そんな具合に遊びの予定を決めていく二人。彼らの話題であるGBN──ガンダムネクサスオンラインとは、ダイバーギアというものとVRゲーム用のゴーグルを使ってログインし、スキャンしたガンプラで戦うもよし、様々なミッションをこなすもよし、ただ集まって駄弁るもよしという非常に自由度の高いオンラインゲームである。
さらに、二、三年ほど前には電子生命体なるものが誕生したというニュースがあったのは彼らもよく覚えていた。なにやら聞いた話によると、プレイヤーの感情がどうこういっていた気がするが、もちろん二人はそこまでは覚えていないのだが。
そんなゲームで遊ぶ計画を立てる二人。このゲームでどんな楽しいことが待ち構えているのか、シンジは期待に胸を膨らませていた。
帰宅後、シンジはGBNについて調べていた。どうやらガンプラなしでもログインはできるようだが、バトルなどのコンテンツを遊ぶならやはり必要であるようだ。
彼は傍らの本棚を眺める。教科書や漫画、ゲームソフトなどが詰められているそれの最上段には、ガンプラが飾られていた。真新しくあまり加工はされていないフォースインパルスガンダム、少し古いデスティニーガンダムをベースにガンダムF91をミキシングしたもの、さらにその隣にはすでにボロボロで破損しているアストレイレッドフレーム改である。
少し考えたあと、シンジはデスティニーの腰の追加パーツを取り、フォースインパルスの腰に取り付ける。そのパーツにレッドフレーム改の刀の片方、ガーベラストレートをマウントする。
GBNにおける機体の強さにはオリジナリティも関わってくるというが、今思いついたのはこのくらいであった。強いて理由をもう一つ見つけるとしたら、最初はほとんど素組の状態で使ってみたいと思ったのだ。
そういえば、ダイバーギアは基本的に筐体に取り付けることで機能するらしいが、家庭用もあるらしい。先程確認したサイトにそう書いてあったのを思い出し、貯金箱の中身を探りだす。幸いにも、バイトのおかげでちょっと贅沢できるだけの蓄えはあるので、ギアを買うことは充分に可能だった。
VRゴーグルは自前のものがあるが、生憎ブツは実家である。手元にないとはいえそれなりの値段がするものを買い直す気にはならなかったので、帰省するときについでに持ってくることにしたが……それだとやはりしばらくは筐体があるところまで行かなければならなくなるだろう。少々手間であるが、彼はそんなことを気にしない程にはGBNを楽しみにしていた。
さて、約束の土曜日である。事前にアカウントとアバター作成を済ませているあたりシンジがどれだけ楽しみにしていたかわかるが、早速一つ問題が起きていた。というのも、カズヤいわく、
「ごめん! 土曜日急にバイト入っちゃって、行けなくなったんだ!」
とのこと。であるからして、シンジは一人で近場のゲーセンまできているのである。
このゲーセンの一角にあるガンダムのブース、そこでGBNにログインできるようになっている。今やガンダムというのものは、一ブース作られるものとなったのだ。調べた通りにガンプラとダイバーギアをセットし、ゴーグルを装着する。
【ARE YOU READY?】
「さぁて、行こう!」
【WELCOME TO GBN!】
これまでフルダイブ型のゲームはいくつかやってきたが、未だに意識が移っていくこの感覚は慣れない。地面に足が着くのを感じると、彼──ダイバーネーム・ヴァイデは、近くにあった鏡を覗き込み、自らの身体を眺める。
現実とあまり変わらない少し長めの黒髪と、どちらかというと中性的な顔立ち。瞳は黒ではなく赤に変わり、身体にはザフトの赤服を纏っている。そこからイメージされるのは、ガンダ厶SEED DESTINYの(誰がなんと言おうと)主人公のシン・アスカである。──まあ、たまたま少しいじったら似てきただけなのだが。
自分のアバターの身体を眺めるのに満足したヴァイデは、まず初心者がどうするべきか、というのを思い出そうとした。……が、その前に見知らぬ男に声を掛けられた。
「やあ、君、初心者だろ? よかったらレクチャーしようか」
「え、なんで俺が初心者だと?」
「アバターの姿をまじまじと眺めてるなんて、よほどのナルシストじゃなきゃ初心者だろ? 俺、初心者の人のサポートするのが好きなんだよ」
男はそういって、人好きのする爽やかな笑みを浮かべる。ヴァイデは経験がなかったが、稀にいるのだ。より強くなりたいとかより勝ちたいとかの思いより皆で楽しく遊びたいと思った結果、初心者サポートに回る人物が。
経験はなくともそういう話を聞いたことのあるヴァイデは男をそういったものだと思い、ありがたくレクチャーしてもらうことにする。
「そういってもらえるなら助かります。お願いします」
「よし、わかった。まかせてくれよ、実はこのためにいろいろ考えていたんだ。俺はビート、君は?」
やはりほほえみを浮かべながら、男──ビートは問いかける。これからいろいろ教えようというのだから、自己紹介するのは当然だといえよう。
「ああ、俺はヴァイデです。よろしくお願いします」
「いやいや、敬語なんていらないよ。タメ口でいこうよ」
どうやらビートは人に好かれるのが得意なタイプの人種らしい。割と他人と仲良くするのにグイグイいく方でないと自覚しているヴァイデにとって、多少羨ましく思えることだ。
「さてと、それでレクチャーなんだけど……まずはカウンターでチュートリアルミッションを受けるんだ。その後、格納庫に行って機体の確認、そこからミッションに出発だね」
その言葉に従い、チュートリアルミッション──ガンプラ、大地に立つ! ……どっかで聞いたことがあるタイトルだ──を受け、やり方を教わって格納庫にワープする。
そこに立っていたのは、間違いなくヴァイデがログイン時にインストールさせたガンプラであった。もう一つ、見覚えのないガンプラがあったが、それはおそらく同行するビートのものだろう。見た目から推測すると、∀ガンダムをベースに様々なパーツをを組み合わせたものだろう。例えば、バックパックはストライクフリーダムのもの、腕部はゴッドガンダムだろうか?
「よし、じゃあお楽しみの出撃の時間だよ! メニューから発進シーンに移行できる。俺が先に行くから、次にやって見てよ!」
そう言いながら彼はメニューを操作し、どこかに消えていった……と思うと、通信を開いてくる。
『さぁ、ターンエーFG、出る!』
まるで君も言ってみるといいと言っているようだ。確かに、こんなタイミングでもないとなかなか言う機会はないし、何を隠そう昔から一度は言ってみたかったのだ。言わない選択肢はない。
教わった操作を行うと発進シーンに移行し、周囲の風景がカタパルトに変わる。今こそ、幼い頃からの夢の一つを叶えるときだ!
「ヴァイデ、フォースインパルス──―行きますッ!」
ヴァイデのその言葉と同時に機体が射出され、その勢いのままに飛翔する。本来ならコアスプレンダーの状態で発進し、しかる後に合体するのだが、特にそうする理由もないのでMSのまま出られるように設定している。
『うん、問題なくできたみたいだね。ミッションに関しては俺が手伝うと意味ないから後ろで見てるよ』
当然だ。そもそも機体の操作を覚えるためのミッションなのに、他者の力を借りてしまえば練習にならない。といっても、基本操作は
そう考えていたのは間違っていなかったようで、しばらく動かすとすこしは機動に慣れる。すると前方に光のドームのようなものが見えた。
『あれがバトルフィールドの境界線だよ。あれを越えたら戦闘開始になるんだ』
言われた通り、光を通過したときにバトルスタートの文字が表示され、レーダーに敵機の反応が映った。別に敵がくるのをわざわざ待っている意味もなく、こちらから交戦距離まで近づくためにブースターを吹かせて前進すると、どうやら敵はNPD──ノンプレイヤーダイバーの機体──リーオーのようだ。だがその動きは直線的で、ほとんど脅威を感じない。
これなら、あまり偏差を考える必要はない。まっすぐ向かってくるだけの敵、攻撃もまだしてこない、他の障害もない。これだけ条件が揃えばそうそう当たらない訳もなく、ビームライフルが火を吹いて1機撃墜。
そこで反撃のドーバーガンが飛んで来るがそれも散発的なもので、シールドを使うまでもなくかなり余裕を持って回避できる。敵の弾を躱しながらの射撃でさらに1機を落とし、最後はあえて接近させ、ビームサーベルで斬り捨てた。
これで全機撃墜、増援もないようだ。チュートリアルミッションなので当然だが、かなり弱く設定してあるようだ。操作確認にはなったし、一応回避行動もとっていたが……。そんな風に物足りなさを感じていると、ビートから通信が入った。
『すごい、操縦上手いじゃないか! 君、ほんとに初心者?』
「まあ、GBNは始めたばっかりだよ」
『へえ……どっちにしろ君、今のじゃつまらないでしょ?』
「え、まあ……そうだな」
そう返事したとき、通信ウインドウに表示されているビートが嫌らしくニタリと笑ったのに、ヴァイデは気づかなかった。
『そう……じゃあさ、俺とフリーバトルしない? 操作は……』
フリーバトル。確かに今のチュートリアルでは歯ごたえがなかったし、まさかビートがチュートリアル用のNPDより弱いことはないだろう。
「わかった、お願いするよ。けど、なんかそこまでしてもらうんだし、後でお礼するよ」
教わった通りに操作しながら、感謝の言葉を伝える。その言葉にビートは──
『お礼? ならさ──』
『──俺のポイントになれよ、ヌーブがよぉッ!』
──叫ぶと、ビートは機体を呼び出し、ブースト全開でヴァイデに突撃した。そう、彼は初心者を騙し、狩る。
初心者狩りであったのだ。
タカナシ・シンジ/ヴァイデ:小鳥遊 進次。リアルのイメージはファフナーの真壁一騎、アバターのイメージは髪ちょい長めのシン・アスカ。つまりあんま変わんない。