初心者狩り。古くは作ったばかりのサブアカウントやらを使って意図的に初心者とマッチングして一方的に甚振ったりする行為を指していたが、GBNのようなオンラインゲームでは、初心者を騙したり待ち伏せしたりしてPKする者のことだ、とヴァイデは考えていた。まさか自分が引っかかってしまうとは思っていなかったが……。
『ハハハハハッ、食らって沈めェ!』
自らの機体に乗って2丁のライフルを乱射してくるビートの顔はもはや先程までの爽やかなものではなく、他者を傷つけることに快楽を見出しているかのような──実際そうなのだろう──表情をしていた。
ヤツの機体の攻撃力のほどはわからないが、少なくとも始めたばかりでほとんど手を加えていない自機ではそう何発も耐えられないだろう。幸いにも調子に乗っているのか向こうの射撃は狙いが雑で、大きく動けば回避するのには苦労は要さなかった。
しかし、イチイチ大袈裟に避けているのでは反撃もままならない。どうにかビームの雨を避けながらこちらもビームライフルを撃ってみるが、なかなか狙いが定まらず、掠めるばかりで有効打は与えられていないようだ。
『おいおい、そんなしょっぱいライフルじゃあこいつにダメージなんざ入んねーぞ、ザコがよぉ!』
「うるさい、卑怯者ッ!」
反駁しながらやり返してみるも、言葉の通りボディに直撃したが大きなダメージにはなっていないように見える。おそらく当たったというより避けなかったのだろうが──ラチがあかない。
『なぁにが卑怯なんだよ、えぇ? ほら、避けろ避けろ、避けなきゃ当たるぞ?』
正直めちゃくちゃ腹立つ。だがしかし、連射されるビームに一発でも直撃すればどれだけダメージを受けるかわかったものではないし、向こうはこちらのライフルの攻撃では致命傷にならないときた。何発も当てれば別かもしれないが……、そこまで操縦にも集中力にも自信がない。
一矢報いるとしたら、ビームサーベル、もしくはガーベラストレートでの接近戦だが、そうするための覚悟が決まらない。射撃戦の距離でも避けて一発撃つので精一杯なほどのビームの雨である、突撃しながら避けることなどできるはずがない。しかしこのまま撃ち続けても状況を打開できるとは思えない。どうするべきか、迷っていたのだ。
『素組の機体なんぞで出てくるからそうなるんだよぉ! 素人はGBNに来るんじゃねえ!!』
──―素人がガンプラバトルやってんじゃねーよ、時間と金の無駄だわ!
──―嫌ッ! 助けて……シンジ……。
「……なんつった?」
『ハァ?』
「今なんつったって聞いてるんだッ!」
『な、何を……』
「ふざけんなよ、アンタのようなヤツがいるから俺達はッ!」
『何を訳のわからないことを!』
ヴァイデは敵の言い草に怒りを覚えた。ここしばらく感じたことのないほどの激しい怒り。だがそれこそが彼にきっかけを与えた。覚悟は決めた。あいつを叩き潰す!
決めてしまえば後は早かった。ビームライフルを投げ捨てながら腰のガーベラストレートを抜刀し、シールドを前面に構えながら敵機に向けて突撃をかける。
『破れかぶれの突撃かぁ!?』
おそらく、ヤツを叩き斬るまでにシールドが持つことはないだろう。そう考えた故に最速最短をまっすぐに突っ切る。
予想通り数発受けたところで穴が空き始めてしまったシールドを牽制ついでに投擲、守りを失ってしまったが、まだ敵はこちらの間合いには入っていない。間に合うか? いや、間に合わせる!
ひっきりなしに飛んでくるビームをよくみる。当たりそうにないものや末端に当たるものは無視。ボディに当たるであろうもののみを、手にした刀で──斬り落とす!
『んなバカな!? まさか、お前なんかチート使ってんのか!』
そんな戯言に返答する余裕もなかったが、そのおかげでヴァイデは自らの間合いにビートを捉えた。このまま刀を振りかぶって振り下ろす。すでに耐久値は注意域に達したのだろう、黄色くなったコクピットで、それだけを考える。
「墜ちろぉぉぉぉぉぉッ!!」
振り下ろされた刃は───────
──────空を切った。
「しまっ……」
ビートが反応して避けたわけではない。刀の間合いを測りそこねたわけでもない。
折れていたのだ。
先程最後のビームを斬ったときその威力に耐えきれず、刃の半ばから圧し折れてしまっていた。
突撃の勢いが消せずにぶつかってしまうが、弾かれるのはヴァイデのインパルスだけ。再び距離を離されてしまう。
『クソチート野郎が、ビビらせやがって!! ばぁく熱──』
「クッソォォォォォォォ!!」
それでもまだ諦めない。諦められない。折れた刀を捨て、バックパックのビームサーベルを両手で引き抜いて斬りかかる。
「おらあぁぁぁぁああッ!!」
『──―ゴッドフィンガーッ!!』
神の指と光剣がぶつかりあう。激しく光がスパークするが、それも一瞬のこと。何秒も競り合うことなく押し切られてしまい、必殺の一撃を叩き込まれる。
『死ぃぃぃねぇぇぇ! ヒート、エンドォ!!』
少なくとも機体の出来は格上の相手の大技を直撃で食らったのだ、当然致命傷である。コクピット内は赤く染まったかと思えば、光が消える。……負けたのだ。
「畜生……ッ」
気づけばヴァイデはフィールドから帰還し、格納庫エリアに戻ってきていた。見上げれば、自分の機体が屹立している。
……ただし、「修理中」の文字が浮かんでいるが。
我ながらいきなり初日からケチがついたものだ、とヴァイデは思う。だからといってやる気を失ったか?
否。むしろ彼の中には熱が宿っていた。もう逃げたくない。
あの時とは違う。格下相手にイキリ散らすようなヤツにすら勝利を勝ち取れない、無力なままでは終われない!
そうして彼は覚悟を決めた。
「食費、削るか」
大きな買い物である。具体的にはガンプラとちょっとした工作用の諸々。
そうと決まれば早速ログアウト。ログインしたときにも感じた不思議な感覚を再び味わい、意識が覚醒したそばからさっさとがとギアを回収し荷物をまとめる。使用料金を払えばもうここに用はない、とばかりに自転車に飛び乗ったシンジが向かう先は、最寄りの模型屋。……インパルスを購入した場所である。
目的の場所に向かいながら、彼は自らの機体の改良すべき点を考える。GBNでは使用するプラモデルの完成度等、様々な要素から機体のステータスが変動する。本体完成度を上げるついでにミキシングするなりなんなりして性能の向上を図ろうというわけである。
まず武装。先程の戦闘で強く感じたのは、射撃が当たらない、ということだ。正直これはシンジの射撃の腕前がド三流だというのもあるが、そちらについては一夕一朝でどうにかなるものではないので置いておく。ともかく、より当てやすくするのであれば、セミオートで狙い撃つのではなくフルオートでばら撒くタイプに変更するべきだろう。
また、格闘戦の武装について、現在のもので一番威力が高いのはガーベラストレート*1なのだが、これをメインウェポンにして効率よく使うため、両手で使いやすいようにシールドのサイズを落とす。ガーベラストレートを磨りあげて片手で使えるようにしないのは単純にシンジの好みである。
機体に関しては……関節の可動域の拡大とスラスターの追加、その他諸々の加工だろうか。シンジ自体、オリジナリティのあるタイプでも手先が器用なタイプでもないのであまり複雑な加工はできないが。
その点、目的地の模型屋は個人営業だというのに、いったいどんなコネやら伝手があるのか作業スペースだけでなくGBNの筐体とパーツ射出成形機があるので、パーツデータさえ手に入れてしまえばパーツ作成は楽なのだ。機体の修理中判定が消えれば。
考えごとをしながら自転車をこぐのは本来ほめられたことではないが、運良く事故なく目的の模型屋まで到着したシンジは、さっそくガンプラの棚──この店で最も充実している──に向かい、品物を物色し始める。
まずは一から創り直すためのFインパルス、次にマシンガン系統の射撃武装が付属するキットを探す。ビームマシンガンといえば、確かGジ○ネやったときにハイペリオンガンダムの武装にあった記憶がある。インパルスと同じSEED系列の機体なので近くにあると思うのだが……見つけた。
CAT1-X1/3ハイペリオン。機動戦士ガンダムSEED X ASTRAYに登場する機体で、防御光波帯「アルミューレ・リュミエール」を持つMS。
このMSの武装の一つに「ザスタバ・スティグマト」なるビームサブマシンガンがあり、シンジはそれを使用することにしたのだ。
他にも機体に追加する予定のスラスターのパーツやガンプラの完成度向上のためのヤスリやらペンチやら諸々を探し、レジの男性……店長の元へ向かう。
「店長、これください」
「はいはい。お、キミが一人で来るのは初めてだね。いつもの彼はどうしたんだい?」
「スドウは今日急にバイト入ったらしくて、今頃忙しくしてますよ」
そう、いつもはシンジ一人で来ることはなくカズヤと一緒、というより彼に付き合ってここに来ていたが、どうやらカズヤ一人でも来ていることがあったようだ。カズヤは地元民でここも彼に紹介されて来たので当たり前といえば当たり前だが。
「これだけのものを買うってことは、プラモデル沼にハマったか、GBNでも始めたり?」
「正確には始めるというか、もう始めたんですよね。いきなり騙されて撃墜されましたけど」
「えっそれは……ツイてなかったねぇ」
おっしゃるとおり。オンラインゲームやっていきなり最初にあった人が初心者狩りのPKとか、どこの死の恐怖かという話である。
「ツイてないですよね。……作業スペース借りても?」
「うん、いいよ」
許可もとったので、さっそく買ったプラモを組んで見ることにする。パーツを少し余してランナーから切り離し、あとからヤスリでキレイに削っていく。シンジにとって正直気の遠くなるような作業であったが、これもすべて勝つための努力。彼は面倒くさがりで飽き性な男であると同時に、その気になれば必要な努力もできるのである。
一通り作業を終わらせ、サブマシンガンのついでにハイペリオンも組み上げようかというところである。腕のアルミューレ・リュミエール発生機を見て、思いついたのだ。
「……腕パーツこれと交換したら、シールドいらないんじゃね?」
ウイングバインダー分もつけるとエネルギー切れ待ったなし、な燃費激悪の機体になるのは分かりきってることなのでやらないが、ダメージ受ける直前だけ展開する程度ならなんとかなるだろう。思いたったが吉日、関節部分を作り変えてハメてみる。
「せっかくミキシングみたいになったし、名前考えてみようか……」
ハイペリオンとは、神の名前から転じたものだったはず。
そこから考えて……。
「そうだな……セレスティ……いや、セレスティア。
こいつはインパルスセレスティアだ」
組み上げたインパルス……インパルス