さて、一通り組み上げた新機体だが、流石にもう疲れたので塗装はやらないことにする。……そもそも始めから塗料を買っていないし、そもそもすでにがっちり組み上げてしまったので分解するのが面倒くさいしコワいという理由もあるが。
ともかく、せっかくなので早いところ試運転したいが、生憎結構慣れない作業で時間が経っていたようで、スマホをみるとこの店の閉店時間が迫っている。明日は日曜日、ゲーセンの方は席が埋まっているだろうしこの店の筐体からGBNにログインしよう、などとシンジは考える。
「店長、作業スペースありがとうございます、明日もログインしにきますね」
「いやいや、これもサービスのうちだしね。明日も待ってるよ」
何はともあれ、明日には修理時間も終わっているだろうし、カズヤのバイトは休みであろう。なんだか久々に明日が待ちきれない、そんなシンジであった。
「いやあ、昨日はごめん。ほんとに急にバイト入ったんだ」
「しょうがないよ、仕事だしな。それに結果的に気合入ったし」
翌日、例の模型屋の前で待ち合わせ、集合したシンジとカズヤ。今日こそ二人でGBNをプレイしよう、ということでシンジが前日の夜に連絡したところ、幸いにもカズヤにも一日予定がなかったのだ。
「おっちゃん、おはよう!」
「おはようございます、店長」
「やあ、おはよう二人とも。GBN空いてるよ」
言われた通り席は一つも埋まっておらず、自由に座ることができそうだった。シンジはほとんど人の気配のしない店内にこの店の経営状況が少し不安になったが、それは自分の気にすることではないと思い直す。
店長に使用料金を払い、さっそく筐体のイスに座る。VRゴーグルをかぶり、シンジとカズヤは電子の世界に飛び込むのだった。
シンジ──ヴァイデは意識を覚醒させたあと、待ち合わせ場所に決めていたロビーエリアのミッションカウンターまで向かう。一応ダイバーネームやアバターの見た目は伝えあってはいるが、上手く合流できるだろうか?
確かカズヤ──ダイバーネーム・スドーの特徴は、ジオンの軍服に黒髪とのことだったが。シンジとしては、もう少しわかりやすい特徴はなかったものかとしか言いようがない。向こうが見つけるのを期待して目立つところで待っていた方が早い気すらしてきたが……。そんなとき、後ろから声をかけられる。
「君、もしかしてヴァイデくん? 僕、スドーだよ」
「今更言うのもなんだけど、やっぱ服と髪色だけだと手がかりとしては弱すぎるって」
その人物、スドーは、事前に話された通りジオン軍服を着た黒髪の青年であった。身長はリアルと同じくらいで、けっこう高め──これに関しては同じくリアルとそう変わらないヴァイデが小さいのもあるが──。さらにアバターがかなりガチムチなタイプのため、顔が穏やかでなければ威圧感のある部類だと言えよう。
「あ、やっぱり? あとからちょっと情報なさすぎたかな、とは思ってたんだけどね」
「まあ無事合流できたからいいんだけどな……。ところでどのミッション行くんだ? なんかいいの知ってるのか?」
「そうだね……これなんてどうかな」
スドーが示したのは、ガンダム作品のストーリーを追体験できるミッション……その中でもガンダムSEED DESTINY第6話「世界が終わる時」におけるブレイク・ザ・ワールド事件を体験できるものだった。
「え、それ俺ら2機でクリア出来んの? それメテオブレイカー守りながら戦うやつだろ?」
「大丈夫、いけるいける。なんなら僕これクリアしたことあるし……メテオブレイカー2基だけ集中して守っただけだけど」
「えぇ……。しかもこれ推奨ランクDとかじゃないか!」
「僕はDだよ」
「俺はFだよッ! ……まあいいか。ミッション受けよう」
「ダイバーのミッション受注を確認しました。いってらっしゃいませ」
受付のNPDの声に見送られ、ヴァイデ達は格納庫まで転送されるのであった。
ユニウスセブン破砕作戦に参加したザフト艦のうちの1隻から出撃したヴァイデは、まずスドーとの合流のためにレーダーを確認する。程なく自機の近くにスポーンしたスドーの機体は、グフカスタムをベースにバックパックをグフイグナイテッドのものに換装。
その右側に短砲身のビームキャノン、左側にやはり短砲身の滑空砲を備え、右前腕部にはM181SE ドラウプニル 4連装ビームガンを接続。またシールドに接続されている75ミリガトリングは銃身が切り詰められており、格納している剣もヒートサーベルではなくテンペストになっているらしい。総じて中〜近距離での戦闘が意識されている。
「それで、このあとどうなるんだ?」
『しばらくしたらジンハイマニューバがスポーンするはずだから、そうしたらメテオブレイカーを護衛しながら一定時間でイベント、そっから更に一定時間生存でクリアだったと思うよ』
スドーの話から推測するに、ある程度の時間が経つと大気圏に突入し、帰還できる限界点まで生き残ればクリアなのだろう。しかし、何故スドーは明らかに2人では難しいミッションを受注したのだろうか?
「で、なんだってこんなキツいミッションにしたんだ?」
『なんでって、このミッションの稼ぎがいいからだよ。本当はフォース推奨のミッションだけど、時間内に落とせば落とすほどビルドコインやダイバーポイントがたまるようになってるから』
なるほど、確かに納得のいく動機である。──―ヴァイデらが少人数だということを除けば。もうミッションは始まっているのだから、いまさら何を言ってもどうしようもないのだが……。
そんなことを言い合っているうちに、どうやらテロリストのジンハイマニューバがスポーンしたようだ。思ったよりとんでもない数ではないが、間違っても2人で相手する数ではなかった。
「スドーお前、本当にこれクリアしたのか?」
『間違いなくクリアしたよ。前回はソロでやってギリギリだったから2人でやれば楽勝だよ』
「……信じるからな。じゃあ俺はこっから見て一番左のやつとその隣のやつを守る」
そう言うが早いか、ヴァイデは目標のメテオブレイカーに向けて機体を飛ばす。頑張って諸々の作業を加えたからか、前よりスムーズに加速しているし、操作性も良くなっている気がする。最高速度も向上しているようで、ヴァイデはほとんど時間をかけずに目的地まで来ることができた。
レーダーを確認し、手近な敵機体をビームサブマシンガンで叩き落としながら、今回の戦闘法を考える。ミッションに出発する前にインパルスCのステータスを見たところ、作り込みのおかげかヴァリアブルフェイズシフト装甲のアビリティが発動していたため、敵の斬機刀の回避は最低限でもいいだろう。
問題は腕部アルミューレ・リュミエールが上手く作動するかどうかである。さっそく作動させてみたところ全く問題なかったようで、敵機体のビームカービンをしっかり防ぐことができた。ハイペリオンのビームサブマシンガンはパワーセル内蔵型であるし、ビームサーベルの使用を控えればエネルギーも相当保つことだろう。
基礎的な機体性能についての確認が終わったところで、武装についての確認に移る。先程からヴァイデが撃ちまくっているビームサブマシンガンはこのランクの敵にも通用するらしく、撃破に時間を要するということはない。弾切れを待たず腰にマウントし、今度はビームサーベルで攻撃してみる。
光刃一閃、振り抜かれたビームサーベルは敵機体を両断し、ポリゴンの塊へと変えた。サーベルも威力は充分のようで、ヴァイデはこれならしばらく使い続けられるだろう、と当たりをつける。
次はあまり手を加えていない──まだ自分の技術ではあまり手を加えられない──ガーベラストレートに持ち替え、背後の敵に振り返りながら斬り払う。うまいこと腰の関節部分に当たったらしく大した抵抗なく一刀の元に斬り伏せ、更に両手で構えて関節以外を狙う。
斬りかかってきた敵の刀を回避し、その無防備な背中に向けてガーベラストレートを振り下ろす。狙い通りに頭部に直撃、そのまま股間まで叩き斬る。
「まさに一刀両断、ってな」
一度下がってメテオブレイカーの様子を見たところ、味方NPDのおかげで未だ張り付かれてはいないようだ。周囲を見渡してみると、どうやらNPD同士のレベルは同じくらいに設定されているらしい。確かにこれならネームドNPD、つまりミネルバ隊やジュール隊の近くで戦えば、単機でも最低限の護衛はできないことではないだろう。
一通り機体の動作確認は終わったので、ヴァイデはしばらく敵機体を撃墜することを優先していくことにする。メテオブレイカーに背を向ける形になっている以上、何をしなくとも敵はこちらにやってくる。それを順に斬り捨てるか撃ち落とす簡単なお仕事。楽勝である。
一方その頃、スドーはミッションエリアの中央部分で戦闘していた。接近しながら滑空砲とビームキャノンで撃ち抜き、別の敵をドラウプニルとシールドガトリングを浴びせかけ、刀で斬りかかってくるものはシールドに納められたテンペストで迎撃する。彼の機体はヴァイデのそれと比べて射撃武装が多いため、その分ハイペースで敵機体を撃墜していた。
そもそも実はこのミッション、イベント進行による大気圏突入以降はメテオブレイカーの護衛がクリア条件から外れ、更に味方NPDの機体の数が目に見えて減り始めるのはフェーズ移行の直前なので、よほど運が悪くなければ護衛のことはあまり考えなくても良かったりする。その点がこのミッションの楽なところの1つなのだ。
2度目のミッションということもあり、順調に護衛を遂行していく。敵ネームド機体のエクステンデッド、及びファントムペインはエリアの右部分にスポーンし、味方のネームド機体もそちらに寄っていくように設定してあるようだが、そのおかげで一般敵のみ相手にできるというのもこのミッションの推奨ランクDの所以の1つ。
と、ネームドNPDというワードに引っかかるものがあることに気付く。そう、確かまだ他にもネームドNPDがいたような……。
「あ……しまった!」
思い出した! ヴァイデに伝え忘れていた、というか今の今まで忘れていた。このままではヴァイデは控えめに言って苦労するだろう。そう思ったところにちょうど良く通信がかかってくる。早く伝えなければ……。
近づく敵を倒すだけの簡単なお仕事。
──そう思っていた時期が俺にもありました。
(byヴァイデ)
多い。単純に数が多いのだ。数機撃墜するたびに同じくらいの数がリスポーンするので、とてもではないがキリがない。更に味方NPDのリスポーンはなさそう、あってもペースが遅すぎて間に合っていない。もはやメテオブレイカーに取り付いたやつから撃墜しなければならない有様である。
つまり、このままではジリ貧なのである。すでにビームサブマシンガンは弾切れ、ビームサーベルとガーベラストレートの二刀流とVPS装甲に頼りすぎたことでエネルギーも注意域ギリギリまで落ち込んでいるとなると、このままでは、でなくもうジリ貧といっても過言ではない。エネルギー切れはヴァイデが焦ってペース配分をミスしたこともあるが……。
「スドー! 時間はッ!?」
『あと1分! それと伝え忘れてたけどそっち側、大気圏内に入ったらネームド出るよッ!』
「ハァ? 早く言ってくれよそれッ!」
『ごめんって、今まで忘れてたッ! 僕も後で向かうからどうにかしてッ!』
それだけ言ってスドーは通信を切ってしまった。耐久値はともかく、エネルギーの残りが心許ない。この状態で生き残るだけならできるかもしれないが、ネームド機体の戦力設定がわからない以上、倒せるかどうかわからない。倒せたとしてもそこで終わりではなく、そこからしばらく生き残らなくてはならない。
「どうにかって──えぇい、やるしかないだろこんなの!」
この時点で、ヴァイデのなかではネームド機体と戦うつもりになっていた。やられてもまだ次がある。やり直せる。悔しいのと少々クリア報酬がもったいないだけなのだから、やれるだけやりたいと思ったのだ。そういえばスドーはこちらに向かうと言っていたが、メテオブレイカーはどうするのだろうか?
そうこうしているうちに、イベント進行によって大気圏に突入。周囲が赤く染まり摩擦熱による熱風が吹き荒れる。演出だけでダメージなどはないようだが……。そして、来た。ネームド機体接近のアラートがけたたましく鳴り響き、否が応でも警戒心を高めさせる。
『これ以上はやらせんぞ!』
サトー。
血のバレンタインによって恋人を、ヤキン・ドゥーエ戦役で戦友を失ったために地球連合に憎悪を抱き、パトリック・ザラのナチュラル殲滅に共鳴した男。その男の最期の戦場が恋人の墓標であるユニウスセブンだということは、いかなる皮肉なのだろう。もしくは、だからこそか。
まあそんなことはどうでもよく、ボーッとしてればこの十数分が無駄になるので今考えるべきは目の前の敵をいかに倒すかということである。幸いにも敵機体の武装は他の一般敵機と同様のものだが、おそらくAIはより高位のものが割り当てられているはずだ。
正面から堂々と挑んでも無駄だろうし、向こうにはビームカービンがあるがこちらにはない。どうにかして張り付かなくてはならない。ヴァイデの動きを制限するように邪魔してくる一般機を一刀の元に斬り伏せながら、どうにかサトー機に接近を試みる。
その間にもサトー機はビームカービンを放ち、しかも少しずつ距離を開けている。俗に言う引き撃ちというやつだが、そのせいで全く距離を詰められないでいる。ビームサブマシンガンはすでにエネルギー切れで撃てず、それ以外に射撃武装は積んでいない。CIWSなど何発撃ってもこの距離では意味を為さないであろう。……そこでヴァイデに電撃走る!
「そうだ、銃がないなら──奪えばいいッ!」
閃きのままに少し遠くで射撃している一般機に無理やり突っ込んで右腕を切り落とし、握っているビームカービンを外して持ってみる。ヴァイデ自身後で思い出してびっくりしたが、奪い取った武装はそのまま利用できるようで、問題なく使用できた。
しかも、敵機体からの攻撃を回避しつつサトー機を照準して連射したビームは、なんと奇跡的にサトー機の持つビームカービンに直撃、破壊する。これでサトー機は接近戦をせざるを得なくなった上、いくらか当たった射撃とカービンの爆発とでダメージが蓄積する。
それを確認したヴァイデは雑魚に群がられる前にすぐさまバーニアを全開にし、サトー機に飛びかかる。が、相手も流石にネームド機体、やはり正面からでは防がれ、鍔迫り合いとなる。
『何故気付かぬか!? 我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそが唯一正しきものとッ!』
「うるさいッ! さっさと──」
鍔迫り合いの状態から、敢えて出力を下げて上に受け流す……いわゆる巴投げのような動きでサトー機の体勢を崩し、続けて背後に回り込む。重力下のステージならこちらもスキだらけだが、無重力下ならここからすぐに攻められる。ガーベラストレートを構えて、全力全開の突撃。
「──墜ちろぉぉぉぉッ!」
ガーベラストレートはその突撃のスピードを威力に変え、サトー機のコクピット部分を貫通。まさにクリティカルヒット、ヴァイデのレーダー上でも撃墜判定となったので機体を蹴り飛ばしてガーベラストレートを引き抜く。
『ぐおおおッ、こんなところで終わるのか……ッ』
断末魔のセリフを吐いた直後、機体が爆散。無事ネームド機体撃破。……ヴァイデは気を抜いてしまった。響くアラート、背後から狙われていることに気付かなかったに気付かなかった。不味い、躱せない……。
と思ったのも束の間、ヴァイデを狙った機体はビームによって撃ち抜かれる。そのまま爆散、ポリゴンが散ってゆく。
ヴァイデ以外に敵に攻撃するのは1人しかいない。
『なんだか間に合ったとも間に合わなかったとも言いづらいタイミングだったね』
「……いや、助かったよ。もうちょい早く来てくれたらもっと助かったけどな」
こちらに向かっていたスドーがギリギリ間に合い、ビームキャノンで敵機体に大穴を開けてヴァイデを助けたのだった。結局サトー機との戦闘には間に合わなかったのだが。
その後、規定の時間まで生存し、2人揃ってミッションクリア。スドーはいいところまでポイントが貯まり、ヴァイデに至ってはランクEまで上がったのに加えて更にDまでの半分ほど貯まり、ネームド機体撃墜ボーナスのパーツデータまで手に入れた。
「というかな、ネームド出てくるって忘れてたの、勘弁してくれよ。お前が誘ったんだろ」
『いやあ、それに関してはロビーに戻った後でってことで、ね?』
「わかったよ、全く……」
友人同士だからこその気安い会話を続けながら、ポップアップしてきた「ロビーに帰還しますか?」の選択肢でYESを選択。ヴァイデのまともな初ミッションクリアで、今回は終われたのであった。
最近ラノベすらあんまり読まないから語彙力の低下が著しいことを感じる今日この頃