これが……せい…いっぱい…です
受け取って…くだ…さい……
あわよくば…評価を…くだ…さい…。
無事に初ミッションを終え(いつかのチュートリアルは含めないものとする)てから数日後、シンジは前回の模型屋に一人で来ていた。というのも、カズヤは講義があるためまだ来れず、他に一緒にGBNをプレイする人もいないためである。
いつものように席代を払って荷物を預け、GBNにログイン。今日はどんなミッションを受けようか悩みながらロビーへ向かう。好みのミッションといえば戦闘系のそれであるが、今の初心者に毛が生えたような腕前と機体でソロ攻略ができるミッションのことを調べて来ていない。
低ランク、もとい現在のランク相応のミッションなら難しいことないだろ、と思ったヴァイデは推奨ランクEのミッションを検索し、適当なミッションを受注。前のミッションよりもはるかに簡単そうな内容を確認して、これならソロでも攻略できそうだ、と満足しながら格納庫エリアへ転送されていった。
「……簡単すぎた」
推奨ランクEのミッションを受けるまでは良かった。だがそのミッションは簡単すぎたのだ。まさに鴨撃ちといった具合で、正直ミッション報酬もしょっぱかった。一度ロビーに戻ってミッション受け直そうかと思った瞬間、初期設定のまま開いていたオープン回線から絹を裂くような悲鳴が聞こえてくる。
『だれかぁ! 助けてッ!!』
──悲鳴は嫌なことを想起させる。記憶の奥底、呪いのように絡みつく最悪の思い出。もう二度と……あんな思いはしたくないッ!
オープン回線で通信できたということは、さほど距離は離れていないはず。ミッションエリアに入る前、別のミッションエリアも見たのをヴァイデは覚えていた。確か方角は……南!
南の方角に機体を向け、全速力で飛ばす。何が起こっているのか分からないが、あそこまで迫真の悲鳴を、しかもオープン回線で流したのだ。ただ事ではないのは容易に想像できる。自治厨の真似事ではないが、できることなら問題解決に手を貸したい、そう思わせるほどの感情が先程の悲鳴に込められていた。
しばらく飛んでいると、戦闘している二機を発見する。だが、それは傍目にも戦闘というよりも片方の圧倒的優勢、更に言うなら有利な方が徹底的に痛めつけているように見える。しかもその機体は、見覚えのある機体だった。
「まさか、あいつは……ッ!」
∀ガンダムを基本にゴッドガンダムの腕、ストライクフリーダムのバックパック。──ビートと同じ機体だ!
『そろそろトドメを刺してやるぜェ!』
オープン回線で喚き散らすセリフといい、やってることといい、仮にビートでなくても完全に黒である。通信回線等もろもろいじりながら接近、優勢な方に飛び蹴りをかましてやり、襲われていたと思われる方に通信を試みる。
「そこの人、大丈夫ですか!」
『あ、ありがとうございます……』
ひどく消耗した声で相手……少女アバターのダイバーが答える。どうやらかなりの時間いたぶられていたようだ。
「さっきのやつロクなこと言ってなかったんで介入しましたけど、何があったんです?」
『あの人に声をかけられていろいろ教えてもらってたんですけど、チュートリアル終わったらフリーバトルでもっと練習しないかって……危ない!』
事情を聞いて見たところ、概ねヴァイデが想像した通りのことが起こっていて、やはり先程のダイバーは悪質なダイバーだった。そこまで聞いたところで警告と同時に被ロックオンのアラートがなったので振り返りながらアルミューレ・リュミエールを起動、飛来したビームを防御する。
『なんだよお前はぁ! 邪魔するんじゃねぇッ!』
「アンタ、もしかしてビートか?」
『あ? なんで知ってんだよ』
その時点でようやく相手は通信の映像機能を有効にしたようで、相手の顔が判明する。ビートだ。ヴァイデは、まさか常接ウン万人を超えるというGBNで、これほど短期間で再び特定の個人と遭遇するとは思っていなかった。嫌な偶然である。
それにしても、ヴァイデとしては業腹なことに、ビートはヴァイデのことを覚えていない様子だ。やつにとってはどうでもいいカモのうちの一匹だったということか。
「そんなことはどうでもいい! またそうやって人を傷つけるのか、アンタは!」
『なんのことだ? 俺はレクチャーしてやったあと、フリーバトルで稽古してやろうってだけだぜ』
「都合のいいことをッ!」
全く悪びれないビートのターンエーFGに対してビームサブマシンガンを向けるが、正直ヴァイデは自分に勝ち目があると思って喧嘩を売ったわけではない。前回の戦いから機体は作り込み武装も変わっているが、肝心の操縦技術はほぼ向上していない。一撃当てられればどうとでもできるかもしれないが……。
ただ、今回はターンエーFGを撃墜する必要はない。すでに最低条件はすでに達成されているのだ。かと言ってやられたくはない。本ッ当にやられたくないので、ビートに対するこちらからの通信回線などを切りながらビームサブマシンガンで牽制し、接近する機会を探ってみる。
だがしかし、ヴァイデが思っていたよりもその牽制射撃は大きな効果をもたらした。前回のビームライフルではほとんどまともなダメージを与えられなかったが、今回はかなり明確に被弾痕が残る程のダメージを与えられたのだ。
どうやら自分で予想した程の戦力差だったわけではないらしい、と勢いづくヴァイデ。よく考えれば、前回は避けるのに精一杯だったのが余裕をもって反撃できている。それとは正反対に、正義感に酔ったどこぞのバカだと相手を見下していたビートは当たらない射撃に焦り、逆に相手の射撃は的確に自らの機体にダメージを与えてくるのに苛立つ。
『クソッ! なんで当たんねえんだよ、このッ!』
「よし、効いてるみたいだ……それなら一気にッ!」
この勢いのまま一気呵成に攻め立てて、勝負を決めてしまおうか。そう思ったヴァイデは左腕のアルミューレ・リュミエールを起動し、距離を詰めるべくスラスターを吹かせる。もちろん接近すればするほどこちらが被弾する危険も高まるが盾もある、ダメージレースで最終的に勝てばよかろうなのだ。
こうなれば更に焦るのはビートだ。自機は未だ安全域とはいえいくらかのダメージを負っているが、相手にはほとんどダメージを与えられていないのだ。このままでは撃破されるのは時間の問題だと脳裏に過ぎる。その考えを振り払うかのように、ビートもまた距離を詰める。
『あああッ、クソ! こうなったらビームサーベルで叩き斬ってやる!!』
「あいつ、格闘戦のつもりか? ならこっちも!」
ビートも距離を詰めてしまえば、削りきる前にこちらがぶった斬られる。そう感じたヴァイデはビームサブマシンガンを腰にマウントし、ガーベラストレートを抜刀。ビームサーベルと鍔迫り合いができるのはこの前のブレイク・ザ・ワールド追体験ミッションの時に確認済みだ。前回のように無茶な使い方をしなければそうそう折れることもない……はず。
『おぉぉぉぉッ!』
「せやぁぁぁぁッ!」
互いに喚声を上げ、己を鼓舞しながらぶつかりあい、鍔迫り合う。如何に相対する敵を膾に切り刻んでやるか、奇しくもヴァイデとビートの思考は一致していた。どちらからともなく相手を押して距離を取り、まるで示し合わせたように、今度はほとんど足を止めての斬り合いとなる。
ターンエーFGの左腕を狙った小手打ち、ビートはサーベルで防ぐ。
受けたガーベラストレートを跳ね除けての唐竹割り。ヴァイデは半身になって回避。
次はどうくる? 次の次は? そのまた次は?
赤熱するような思考の中で、しかしヴァイデのうち、一抹の冷静な部分が告げる。──勝てる。
これまではっきりとはわからなかったが、刀剣での斬り合いを演じたからこそわかった。インパルスCとターンエーFG、機体……もといガンプラの作り込みはいくらか負けているが、機体の操縦技術では自分が勝っている。
その分析を裏付けるかのように、戦況はヴァイデ有利のものとなっていた。だんだんとインパルスCの攻勢にターンエーFGが対応できなくなっているのだ。
『思い出したぞ! お前いつぞやのチート野郎ッ!』
「……自分よりも上手いやつみんなチーターだって言うのか? そういうの、見苦しいぞ」
『ああ? うるせえよチート野郎!』
耐えきれず距離をとったビートが喚き散らし始める。その様子をみて、なんだか可哀想になってきたヴァイデは、回線をオンにして苦言を呈してやる。もちろん、可哀想だからといって簡単に見逃しはしないが。
『もう許さん、これでもくらえッ!』
頭に血がのぼっている様子のビートはその場でサーベルをマウントし、ゴッドフィンガーを発動させる。正直スキだらけだし、サブマシンガンで撃ち落としても良かったが……敢えてヴァイデはそうしなかった。
右手を流体金属で覆いながら突っ込んでくるターンエーFGに対し、向かって左に回避。真っ直ぐくる相手に、わざわざ真正面から大技をくらってやる必要などない! そのまま背後に回り込み、ガーベラストレートを叩き込むッ!
「……墜ちろッ!」
流石に一刀のもとに真っ二つとはいかなかったが、ビートの聞くに堪えない罵声とともにターンエーFGは墜落していく。それを追いかけて着地、地面に叩きつけられたその機体のコクピットにガーベラストレートを突きつける。
「おい、アンタの名前の綴りを教えろ。そしたら見逃してやる」
『わ、わかった! わかったから見逃してくれぇ!』
「……早く言えよ」
『カタカナでビートだ、教えたんだから見逃してくれ!』
案外素直に教えてきたのでガーベラストレートを納刀、振り向いて移動する素振りを見せる。大体こういうときは──
『スキありィィィッ!』
「──お約束過ぎるだろ」
当然予想していたヴァイデは振り向きざまに抜刀、斬りつける……が、一つだけ予想外のことが起こっていた。何者かの射撃──そうわかったのは銃声が聞こえたからだが──によってビートは頭部を撃ち抜かれ、体勢を崩していたのだ。
ダイバーポイントが加算されたのでトドメを刺したのは自分、つまり警戒は無駄ではなかったが……いったい誰の攻撃なのだろうか。空を見回してみると、一機のMSが飛行していた。ゆっくりとこちらにやってくるその機体は、どこか見覚えのある……というか、先程ビートにボコボコにやられていた機体だった。
「つまり、さっきの戦闘がどうなるか気になって、遠目から見てて、最後不意打ちしてたから撃った、ってことですか」
『えっと、その……ごめんなさい、お手伝いできなくて。……最後も気付いてたみたいですし』
「いや、気にしなくていいですよ」
軽く自己紹介したあと、彼女──ユーリに質問して見たところ、そういうことだったらしい。それにしても、素晴らしい射撃の腕前である。ビートを撃ったとき、彼女はかなりの上空にいたはずだ。ヴァイデは自身の射撃の腕前が控えめに言って大したことないことは自覚しているが、それでも狙撃の難易度がわからない訳ではない。
「しかし、すごいですね。あの距離で動く的に当てるなんて」
『そんなことないです、少し慣れてるだけで……それしかできないし……』
慣れてるとは。そこんとこ詳しく、と言いたいヴァイデだったが、そこまで踏み込むほどの関係ではない、と自重する。
ここで踏み込めるほどにコミュニケーションが得意な青年ではないのだ。
「ああ、そうだ。さっきのやつとフレンド登録とかしましたか? してたら綴りとか教えて欲しいです」
『え? えっと……してます。綴りはカタカナでビート。……嘘はついてなかったみたいですね、どうするんですか?』
「聞こえてたんですか……。実は見かけたときに動画撮っといたんですよ。これで通報します」
そう、ヴァイデが戦闘前にいろいろいじっていたのは、録画機能だった。動画さえ撮れば運営への通報メールに添付して信憑性を高められる。ユーリに写り込んでる動画を載せる許可をとって、運営にメールを送る。
「これでペナルティくらって懲りればいいんですけどね」
『そうですね……あの、今回はありがとうございました』
「本当に気にしなくていいですよ、俺あいつのこと気に食わないし……じゃあ、また縁があれば」
『はい、またいつか』
挨拶を交わし、二人は別れる。お互いにまた会うことはそうないだろうと思っていたが、再会できたのなら、その縁を信じてフレンド登録を誘いたい、との思いもまた、共通であった。
──数日後、日本某所にて
「クソッ、ふざけんなよペナルティだと? 俺は悪くない、バカが勝手に騙されたって騒いでるだけだろうにッ! あのチート野郎はいいのに、なんで俺だけ!」
「え、何があったかって? 聞いてくれよ兄貴……」
「いいものくれる? なんだよ、もったいぶるなよ」
「……本当か? マジでこれがあればあのチート野郎を叩きのめせるんだな?」
そう確かめる、GBNではビートと名乗る男の手には、禍々しい意匠の新たなガンプラがあった。
ボツシーン
>ダメージレースで最終的に勝てばよかろうなのだ。
→〜最終的に勝てばよかろうなのだァァァァッ!
流石に違和感半端ないのでボツ