試合開始前のノックの時間。
聖陵の選手らがノックを受けている様子をベンチからジッと見つめる人物がいた。
その人物は日焼けした色黒の肌にスキンヘッド、そしてサングラスと端から見れば野球をしているようには見えない男性、明倭野球部の監督である古屋《ふるや》監督が見つめていた。
(今年の聖陵の一年生、いい人材が集まっている。というより何かあったんじゃないかと思うくらいの人材だ)
「監督、いい人材が集まってるなとか思ってません?」
「え?いや、まぁ…よく分かったな」
「監督の顔見ればわかりますよ?」
監督に話しかけたのは眼鏡を掛けた女子マネージャー。
鋭い指摘に古屋監督は苦笑いを見せる。
「でも、確かにそう思いますよね。今年一番欲しかった野手の子が向こうにいるんですもの。」
「あぁ、横山俊哉。アイツにはずっとアプローチしてたんだけどなぁ」
「彼、とても欲しがってましたものね」
「身体能力、バランスはもちろんの事だが、何よりウチの一番のポイントである守備力だな。アイツには外野手を束ねる選手になって欲しかったんだがなぁ。まぁ課題はあるが、欲しかった選手ではある」
「あとは、望月君や山本君ってところでしょうか?」
「望月は土屋と一緒に切磋琢磨させれば投手陣は万全になるし、山本の守備とバントには光るものがあるからな…。あとは竹下も来ては欲しかった選手だな。それは1つの高校に集まるとは…厄介な相手だよ」
「負けそうですか?」
二人で話しながらグラウンドを眺める古屋監督と女子マネージャー。
最後のマネージャーの言葉に、ポリポリと帽子を取り頭を搔きながら古屋監督はキリッと表情を変えながら
「まぁ、だとしてもウチが負ける要素は見当たらないんだけどね」
いよいよ試合が始まる。
両者が整列をし挨拶を終えると、まずは明倭の選手たちがグラウンドへと散らばる。
聖陵の打順は
1:青木・左
2:山本・二
3:俊哉・中
4:明輝弘・一
5:早川・遊
6:堀・右
7:桑野・三
8:竹下・捕
9:望月・投
1,2回戦と変わらないオーダーで挑む。
相手投手が投球練習をしているのをジッと観察する青木、山本、俊哉の三人。
「山本、相手のデータなんだっけ?」
「130キロ弱のストレートとカーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップの四球種の変化球。んで何よりコントロールが抜群」
「っていっても、これ今年の選抜のデータだけどね…データ不足だよ。テレビの解説とかの話から割り出したもんだし。」
三人で話をしていると、投球練習が終わり審判から打席へ入るように促される。
「まぁ、頼んだよ青木」
「おう。」
ベンチからの言葉短く返事をし、打席へと入る青木。
審判からのコールがされいざ試合開始となった。
サイレンが鳴り響く中、投じた初球は外へ決まる変化球で青木はこれを見逃しストライク。
続く二球目はボールとなり並行カウント。
そして三球目の少し甘く入ったストレートを青木は叩きつけた。
叩きつけるようなバッティングをしボールは高くバウンドをしながら内野グラウンドを転がる。
これに意表を突かれたのか三塁手が慌てて捕りに行くも間に合わないと判断し青木は内野安打を記録した。
「うぉ、はやっ…」
思わず口にする三塁手。
投手にスマンと一瞥しボールを返すと、続く打席には二番の山本が入る。
山本は打席に入るとすぐにバントの構えを見せる。
(定石ってか)
投手の投じたボールを見事バントを決め1死二塁とし、打席には俊哉が入る。
(こいつが俊哉か。監督が欲しがってた人材…でもなんでこんなトコに入ったかは知らないが)
打席に入る俊哉を見ながら考える捕手。
パパッとサインを出すと投手はコクリと頷き一球目を投じた。
投じられたのは外へのカーブ。
しかし、俊哉は待ってましたと言わんばかりにタメて見事カーブにタイミングを合わせて振ってきた。
カァァンと言う打球が鳴り響くと、打球は鋭いライナーで一二塁間へと飛んでいき二塁手がグラブを差し出すも抜けていく。
その間にランナーの青木は加速していき三塁を蹴り一気にホームへと帰り生還を果たした。
なんと、この試合の初得点は聖陵が奪ったのであった。
俊哉のヒットにより青木が生還し1点がスコアボードに掲示されると、明倭スタンドはざわつき、また同じく聖陵スタンドもざわついていた。
「すごい…」
そうポツリとつぶやくのは司。
彼女の顔はどこか嬉しそうな表情をしており由美はそんな彼女を横目で見ながらクスリと笑う。
「さすがね~。トシは、ここで打つなんて」
明日香の言葉に対しハルナが「なんで?」と聞くと明日香はパタパタと団扇を扇ぎながら話す。
「中学んときね。トシは打率こそはソコソコの成績だったんだけど、得点圏打率になると打率がグンと跳ねあがるのよ。それにアイツが打つとね、チームの雰囲気が良くなるのよね」
明日香の話に感心をする生徒たち。
改めて司は俊哉のいる一塁上へと目をやり“すごいんだなぁ”と感心するのである。
試合は続き打席には四番の明輝弘。
左打席へとゆっくり入る明輝弘にスタンドでは興奮気味の女子生徒、美咲がいた。
「見てほら明輝弘君!!」
「うん見えてる見えてる。揺らさなくていいからぁ」
真琴の肩を掴み揺らす美咲。
グラウンドでは明倭のキャッチャーが打席に立つ明輝弘を見上げる。
(雰囲気はある…実際前の試合でもホームラン1本打ってるし、長打力という面では持っているんだろうが…)
サインが出され投じた一球目はインコースへのストレート。
明輝弘はこれを振っていきバットに当たるも一塁へのファールとなる。
二球目。三球目と同じストレートを投じ明輝弘はこれを全てファールにする。
(全部ファールにした。そしたら…)
サインを出し投じた四球目は緩いカーブ。
明輝弘はバットを振りに行くもタイミングを合わせられず引っかけてしまう。
「クソッ」
打球は一二塁間へのゴロ。
二塁手が捕球し素早くセカンドで待つショートへと投げアウト。
受け取ったショートは流れるような動きで一塁へ送球しアウトとなり、ゲッツーが成立されチェンジとなった。
「クソ、カーブなんか投げやがって…」
ヘルメットを取りながらボヤく明輝弘。
俊哉が近づき「ドンマイ」と声をかけると明輝弘は「次は打つ」とだけ答えてグラウンドへと向かう。
だが明倭にとっても意外な結果が待っていた。
スコアボードに掲示された1の文字にざわつくスタンド。
それとは対照的に聖陵の選手たちはイキイキとしながらグラウンドへと散る。
マウンドに上がるのは望月。
ここまで望月はすべての試合に先発し好投を見せている。
そして望月はここでも好投を見せる。
打撃はあまり良いとは言えない明倭打線だが、他の高校に比べれば上位には着くレベルではあるが、望月はその明倭打線を三者凡退に打ち取ったのである。
内容もセカンドゴロ、ショートゴロ、セカンドゴロと打ち取らせるピッチングのお手本と言うべき内容。
望月とグラブタッチを交わしながらベンチへと戻っていく聖陵ナイン。
「うーん…望月はやっぱり良いな」
秀樹が見せるマウンドでのピッチングに古屋監督も唸るしかない様子。
「でもまぁ…大丈夫だろう。ウチならな」
笑みを浮かべる古屋監督。
その後も試合は進んでいき2回にも聖陵が攻撃を仕掛ける。
初回失点が響いたのか先頭の早川に四球を出してしまうが続く堀は空振りの三振を取りアウト1つ。
7番の桑野は犠打で三塁まで進めるも二死となり打席には8番の竹下。
だがその竹下への初球は真ん中付近へと放られ竹下はこれを見逃さなかった。
キィィンと快音が響き打球は一二塁間を抜けていくヒットとなり三塁ランナーを帰す。
「っしゃ!」
一塁上でガッツポーズを見せる竹下にベンチから拍手が飛ぶ
なんと2イニング連続の得点となり2点目が聖陵に入った。
これには古屋監督も少し表情が曇るとベンチにいる背番号10番の選手に声をかける。
「土屋、準備しとけ」
「…はい」