そう言いきり山下はスイングをする。
長尾の投じたのはカーブ。
そのボールを山下は引っ張らず流し打つと打球はライト線に落ちるヒットとなった。
ライトファールゾーンへ転がる打球を追いかける堀。
堀が追いつきボールを帰すころには打った山下は三塁へ到達し、ランナー2人はホームへと帰るタイムリースリーベースとなった。
「9点目…」
そう呟くのはスタンドのマキ。
聖陵の応援もただ黙るしかない。
「これは…圧倒的というかなんというか…」
「ここまで差が開くとは…」
と苦笑いを見せる明日香にハルナ。
司もただグラウンドを見つめるのみで何も言えない。
むしろ、この時俊哉はどんな気持ちなんだろうと考えていた。
8回裏はこの2点で抑えて終了。
いよいよ9回となる。
9回表の聖陵の攻撃は5番の早川から。
マウンドには変わらず土屋が上がり聖陵打線を迎え撃つ。
その早川に対して土屋は徹底して低めに集め最後はストレートを詰まらせピッチャーゴロで一死を取る。
打席には6番の堀が入りフルカウントまで粘るも最後は落ちるボールに手を出してしまい空振り三振。
これで二死となった所で、春瀬監督は代打を告げる。
「内田、行くぞ」
「は、はい…」
と力のない返事をするのは内田。
代打を告げ打席へと向かう内田だが、明らかに緊張しており若干足が震えていた。
「あれ?内田君?」
そうグラウンドを見ながら言うのはハルナ。
明日香は打席に向かう内田を見て言う。
「すっごいガチガチじゃん…」
「内田君確か初心者だよね…」
そんな話をするスタンド。
春瀬監督は内田に期待ではなく、この空気を直に感じさせるのが狙いだった。
ベンチから見る風景と実際に試合に出て味わう風景とは全然違うからだ。
(この経験は内田にとって今後良いものになるハズだ…)
内田を送り出す春瀬監督は打席を見つめる。
打席へと立つ内田はバットを構えるも緊張からか固まっていた。
(すごい緊張だな…)
キャッチャーも見てわかるほどの緊張が見える内田に対し初球はストレート。
これを内田は見逃しストライク。
(次は振らなきゃ…)
二球目のストレートを振りに行くもバットはボールの上を振ってしまう。
これでツーストライクとなり追い込まれ、最後の土屋の投じたストレートを内田はフルスイングするも、バットは空を切った。
「ストライク!バッターアウト!」とコールがされワッと球場が沸き上がった。
キャッチャーとハイタッチをしながらマウンドから降りていく土屋。
他の選手も互いにハイタッチやグラブタッチを交わしながら集まっていき整列をする。
また聖陵の選手らも黙ったままであるが整列をし互いに礼をする。
ウゥゥゥ~とサイレンが響き試合終了の合図が流れると聖陵の選手らはベンチへと戻り荷物を纏め始める。
誰も何も言わないままベンチを後にし、球場の外で春瀬監督を囲むように並ぶ。
「うん。今日の試合は負けるべくして負けたなお前ら。」
と話す春瀬監督。
誰も何も言わない。
「だが、この負けは次に繋がる負けになる。多くの課題がこの夏で出たと思う。これを乗り切れるか同どうかは、お前ら次第だ。」
話す春瀬監督に黙ったまま頷く選手ら。
解散となり選手らは帰路へと着いた。
俊哉が自分の部屋に入ると、そこにはマキと明日香がいた。
「あ、トシちゃん」
「おう、マキ・・・」
と元気のない返事をする俊哉にマキも寂しそうにすると明日香は
「負けたわね。久しぶりに」
「あぁ~…中学2年以来かな…公式戦で負けるの…」
と苦笑いを見せながら答える俊哉。
すると、マキは俊哉の目の前に立つと俊哉の頭をポンポンと撫でながら言う。
「泣いても良いんだよ?ね♪」
言いながらそのまま頭を抱えるように抱き寄せるマキ。
俊哉は最初こそ驚いていたが、次第に涙が込み上げてくると一筋の涙が頬を伝いながら流れると次から次へと零れてくる。
「悔しい…すっげぇ悔しい…」
「うん…うん…」
と涙を流しながら話す俊哉を何度も相槌をしながら優しく抱き寄せるマキ。
明日香はその二人をただ見守るだけである。
俊哉にとっての初めての夏がここで終わったのである。
マキたちが帰ったあと、俊哉は入浴を済ませ部屋にいた。
タオルで頭を拭きながらスマフォを見ると一件の通知が来ており俊哉は通知を開くと、表情が和らぐ。
「司ちゃん…」
司からのメッセージ。
内容は“今日は残念でした。でも今回初めて試合を見せていただき俊哉さんのヒットが見れて良かったです。辛いと思いますが、また次の大会へ向けて頑張ってください。あと俊哉さん、カッコよかったです”と書かれており俊哉は思わずニヤつくと、“ありがとう。秋に向けて頑張るよ”と打ち返信する。
メッセージを打ち終えベッドに横たわる俊哉。
「あ~…実力不足だ…クソ!」
と1人呟き今日の反省を自分なりにする。
俊哉にとっての高校生活初めての夏大会の最後は納得のいかない内容では無かった。
負けるべくして負けたと感じていた。
彼と同じことを考えている選手がどの位いるかは分からないが、俊哉自身としては皆が同じ意見であることを願うばかりだ。
(課題か…俺の課題は…)
自分の課題を見つける作業をする俊哉。
だがそこはいまいち出てこず諦めた。
(さてこれから夏休み…たぶん練習とかが多くなるし、この時期が結構キツいんだけどね…中学の時散々やったなぁ…やだなぁ~)
と考えながら俊哉は夜を過ごしたのであった。
聖陵学院夏予選大会。
3回戦敗退。