できたら亀更新で何話か続けようかなと。
人類最後のマスター藤丸立香が彼女を初めて認識したのは、息も絶え絶えになりながら、フランスから帰還した後だった。
食堂でマシュと共にささやかなお疲れ様会を開いていると、突如隣から栄養ドリンクを持った手がぬっと現れた。
「お飲み」
それだけ言って立ち去った彼女の姿に、そこはかとないかっこよさを感じた立香が誰だか尋ねると、マシュは、
「ああ。毒島さんです。カルデア一の掃除のおばさんだと、ご自分で言われてました」
そう答えた。
人理継続保障機関フィニス・カルデアは人類の絶滅を防ぐために作られた特務機関だ。
地球の最南端、南極の標高6000mの山にあり、魔術結界で隠匿された施設に入るためには、相当な伝手が必要となる。
そんな場所に。
(なぜ、掃除のおばさんがいるんだろう・・・・)
それが、毒島さんと初めて出会ったときに、立香が最初に抱いた感想だった。
それからというもの旅を続けてきたが。
一度毒島さんを認識してから気付いたのは、彼女がありとあらゆる場所に、まるで分身でもしているのかと言うくらいに出没していることだ。
例えば、食堂。
赤い弓兵や、構いたがりのブリタニアの女王が炊事当番をする傍ら、高速で野菜の皮を剥き、後片付けにいそしむ彼女の姿が見て取れる。
「何、毒島さんはここで何をしているのか、だと。ああ、傍目にはただ下ごしらえを手伝ってくれているようにしか見えんかもしれんが、マスター。あの人はこの食堂の防衛線の要だぞ」
「夜ごと厨房に忍び込もうとするアルトリア系サーヴァント達が度々廊下に吊るされているのを知っているでしょう?あれは全てあの人の仕業よ」
「え?そ、掃除のおばさんなんだよね・・・」
「本人はそう言うのだが、私は信じていない」
真顔で言う赤い弓兵に毒島さんは剥き終わったじゃがいもをザルごと渡していた。
例えば、ダヴィンチ工房。
「分かった、分かったから捨てないでおくれよ。お願いだよ、毒島さん~~」
「ああ、汚い。さっさと片付けな」
がらくたや何かがうず高く積まれた工房内は見るも無残な有様だった。マシュと二人、片付けの手伝いに呼ばれた立香は、そこで仁王立ちをしながら英雄をこき使い、延々と掃除させる鬼軍曹の如き表情をした毒島さんに出会った。
「汚しても誰かが片付けてくれるなんて、甘えてるんじゃないよ!」
「悪かった。私が悪かったから」
「早くしないと、あたしが適当に片付けるからね!」
「それは勘弁して!一見無造作なようなんだけど、きちんと意図されて物が置いてあるんだよ~」
人類史に名を遺す、天才レオナルド・ダ・ヴィンチが涙目で黙々と動く毒島さんに懇願していた。
「あっ、マシュ、マスター。君たちからも彼女に何とか言っておくれ。この素晴らしい構図で置かれた物達を片付けるなんて、無茶苦茶なことを言うんだ!」
「いや、それは普通では・・・」
「はい。ダ・ヴィンチちゃん、毒島さんの仰る通りだと思いますが」
「酷い!裏切者!!」
「口より先に手を動かしな!!早くしないと、この変に金ぴかな鳥も捨てるよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってそれは駄目~!!」
まるで、汚い部屋を片付けないとゲーム機を捨てると怒る母親のような毒島さんの振る舞いだった。
そして、医務室。
「あのねえ、あたしゃあんたのママじゃないんだよ。ただの掃除のおばちゃんなの、分かる?」
マギ☆マリのブログの更新が止まったようだ、どうしたんだろうと不安がるDr.ロマンことロマニ・アーキマンの愚痴の相手を毒島さんはしていた。
「止まったって、ほんのちょっとの間だろう?それをいちいちぐちぐちと!」
「そんなこと言ったって、今まで休みなく続けてきたものが突然ストップすると、ほらどうしたんだろうと不安になるじゃないか」
「アイドルって言ったって、ネットの中の奴だろう?本当に実在するか分からないじゃないか!」
「何言ってるんだい、いやだなあ。マギ☆マリは実在するよ。毒島さんも今度彼女のブログを見てみるといいよ。ボクみたいにファンになること請け合いさ。って、あれ立香君にマシュ、二人ともどうしたんだい?どことなく可哀想なものでも見る目でボクを見つめて」
「いいかい、あんた達、こんな大人になるんじゃないよ」
「「はい」」
毒島さんの心からの忠告に二人は真剣に頷いた。
自室に戻った立香はマシュを相手に毒島さんについて考えていた。
「毒島さんってどうしてカルデアにいるんだろう」
自分だって様々な偶然の末にカルデアにいるのだが、それに比べても毒島|毒島さんの存在は意外過ぎる。
「ご本人に聞いてみたらいかがでしょう」
「でもなあ。どうやってここに来たんです、とは面と向かってききづらいよ」
「私にお任せください」
口を挟んだのは静謐のハサン。マスターを慕う彼女はしょっちゅう立香の部屋に入り浸り、今も当然のように二人の会話を聞いていた。
「私の気配遮断スキルであれば、彼女に気付かれずに行動できます。吉報をお待ちください」
いなくなったと思った彼女が戻ってきたのはすぐだった。
「乙女の秘密をこそこそ探ろうとするんじゃないよ、と怒られてしまいました・・」
誰が乙女なんだろうと疑問に思いつつ、頭にこぶを作りしょんぼりとする静謐のハサンに、気にしないでと声を掛けながらも、その気配探知スキルの高さに立香は恐れおののいた。
「塵ほどの汚れも見落とさない掃除のおばちゃんは伊達じゃないんだよ!!だ、そうです・・・」
「え?掃除のおばちゃんってそんなにハイスペックだっけ、マシュ」
「いえ、その。どうなんでしょう」
戸惑う二人の耳に、廊下の方から毒島さんが大きな声で怒る声が聞こえた。
「英雄王だか何だか知らないけど、食べながら歩くからカスがこぼれてるじゃないか!気をつけな!!」
「ちょっと!!」
「不味いです、先輩!!」
カルデア一洒落が通じないと言っても過言ではない傲岸不遜な英雄王相手にも通常モードの毒島さんに、二人が急ぎ駆けつけると、そこにはぶつぶつと文句を言いながらゴミを拾う金ぴかの姿があった。
「ええい、貴様ら!この我の無様な姿を見るでない!」
「つべこべ言わずに手を動かしな。あたしが昨日きれいにしたばっかりの廊下だよ!」
二人のやりとりを見ながら、マシュは呟いた。
「先輩、掃除のおばちゃんという職の人たちは皆あのように例外なく強いのでしょうか・・・」
「いや、毒島さんだけだと思うよ」
登場人物紹介
毒島さん・・・・年齢不詳。マシュと立香によると、英霊特攻EXなのではと考えられている。