ゴジラvsシンデレラガールズ   作:キシ

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第一節・怪獣
〈エピソード1:世界が終わる日〉


 街が燃えてる。炎が全てを焼き尽くし、黒煙が空を覆い隠していく。肌が焼けるほどの熱気の中で、私は“それ”を見上げていた。

 

 どうして? 私は問いかけるけど、話が出来る相手じゃないことは誰の目にも分かる。

 

 岩のように黒くゴツゴツとした皮膚、背中から不気味に伸びた不揃いの背鰭は、赤々とした炎を滾らせている。

 大きな腕を振ればビルはなぎ倒され、一歩足を進める度に道は陥没し、長く太い尻尾が地面を叩く度に地震のような揺れが襲う、まるでいくつもの災害を形にしたかのような、暴力的な力の化身。

 

 色んな音が聞こえる、サイレンの音、避難を促す放送、泣いている子供の声、逃げ惑う人々の悲鳴、焼き殺される人の断末魔……その全てが咆哮ひとつでかき消されていく。

 

 どうして? どうして私たちを殺すの? 私たちがあなたに何をしたの? お願い、もうやめて。

 もう殺さないで、これ以上奪わないで、私の夢を、明日を返して。

 

「……っ!」

 

 ああ、私を見ている。あの目……感情のない瞳で人を見下しながら焼き殺してきた。次は私の番だ。

 熱気の中で私は震えていた、流れる汗も気にとめず、焼き付く肌の痛みに悶え、むせ返るほどの恐怖と絶望に寒気すら覚えて震えた。

 

(あぁ……私、死んじゃうんだ……殺される、もうダメ、助けて、たすけて、だれか、おねがい……あぁ、あぁぁ……光が……っ!!)

 

 青く弾ける閃光の後、世界が暗転する。

 その暗闇の中で、私は小さな黄金の光を見た……。

 

 

 

〈2011年11月3日、10時32分〉

 

「おっきな怪物が街を壊す夢?」

 

 卯月の話を聞いた未央が、頭にクエスチョンマークを浮かべながら問い返す。

 笑顔がトレードマークの卯月が浮かない顔をしていたので、心配した未央と凛が悩みでもあるのかと尋ねると、卯月はその内容を覚えている限り話した。

 

「怪物って、どんな?」

 

「えーっと……黒くて、ごつごつした肌で、手足があって……こう、ちょっとだけ前かがみで歩くんです、それから……背鰭がたくさん生えてるんですけど、そこから炎が上がってて……」

 

「炎……?」

 

「ええ!? 燃えてるってこと!?」

 

「熱がってる様子はないんですけど……それが余計怖くて……」

 

 卯月の表情がみるみるうちに沈みこんでいくのを見て、未央はポンっと肩に手を乗せる。

 

「大丈夫だってしまむー! ほら、今日のことで緊張してたんだよきっと!」

 

「卯月って結構抱え込みがちな所あるからさ、もっと私たちを頼ってよ」

 

「凛ちゃん、未央ちゃん……はい、ありがとうございます! なんだか話していたら楽になりました、今日のミニライブ、頑張りましょう!」

 

 笑顔を取り戻した卯月は、そう言って両手の拳を握り、小さくガッツポーズをして見せた。

 

 今日は3人のアイドルユニット、ニュージェネレーションズのライブ本番日だ。とは言え、駆け出しアイドルユニットの彼女らのステージは、まだショッピングモールの中にある。 それでも、ほんの小さなステージでも、ここまでの長い道のりを思えば夢のような舞台だ。

 養成所からスタートしてようやく事務所に入った卯月、未経験のままスカウトされた凛、友達に勧められてアイドルオーディションを受けた未央と、それぞれスタートラインも違っていた3人。ライブハウスを借りての初めてのステージでも苦い経験をしたが、だからこそより強い結束力で次に進めた。

 そんなニュージェネの努力を認めてくれたファンも、数こそ少ないが存在する。きっと今回のステージにも集まってくれているだろう。 どれだけ練習を積み重ねても本番前の不安と緊張は消えないけれど、今日のステージはきっと笑顔で終われる、そんな自信も心のどこかに芽生えていた。 だから大丈夫だと、卯月は自分に言い聞かせた。

 

 

〈11時55分〉

 

 ステージ裏に用意されたテントの中で衣装に着替え、全ての準備を整えた3人。

 

「あと5分……」

 

 本番直前、凛はふぅー、と大きく息を吐き心を落ち着かせる。

 

「おやおやしぶりん、緊張しておりますな?」

 

 そんな凛の緊張を解すように、未央は両肩を掴んでぐいぐいと肩を揉む。人一倍ストイックな所がある凛は気が張りつめやすく、未央がこうしてリラックスさせるのだ。

 

「もう、未央ったら」

 

 くすくすと3人の笑い声が小さく木霊する。本番前のこの静かな空気が、たまらなく高揚するのだ。

 常に人通りもあり音楽も流れているモール内では、ステージ裏から会場のお客さんの話し声も聞こえてこない。だけど、きっと多くのお客さんが私たちを待ってくれている、1人でもいい、そして1人でも多く、自分たちの持てる力で感動を与えたい。

 

「皆さん、準備よろしいですか?」

 

 テントをくぐるスタッフの呼び掛けに、3人は「はい」と声をそろえる。いよいよ本番だ、テントの出口に並び気持ちをひとつに手を繋ぐ。

 

「行くよ、しまむー、しぶりん!」

 

「はい!」

 

「うん」

 

 開幕を知らせる音楽が鳴り、ステージへと飛び出す。真っ先に驚いたのは、用意されていた席がほぼ完全に埋まっていた事だ、予想以上の客入りに、つい顔がほころぶ。

 そして2階を見ると、数人の見知った顔のグループが大弾幕を掲げて出迎えてくれていた。ファンのみんながここまで駆けつけてくれたのだ。

 

「せーのっ!」

 

 感動で昂ぶる気持ちをぐっと抑えて未央が合図を出し、3人が声をそろえる。

 

「私たち、ニュージェネレーションズです!」

 

 席を埋め尽くす観客達の拍手、2階からは名前を呼ぶファン達。小さなステージだと思っていた、小さな歩みだと思っていた、だけどその小さな積み重ねがこうして目に見える成果に繋がっている事が、心から嬉しい。

 

「皆さん、今日は集まっていただいてありがとうございます!」

 

「二階にいるみんなー!いつもありがとー!」

 

 未央が手を振ると、一際大きな歓声が返ってくる。この未央の底抜けに明るい性格に心を射抜かれたファンも多い。

 

「じゃあ早速、自己紹介から初めて行くね! まずは……あれ?」

 

 先陣を切って未央が名乗ろうとしたその時、マイクの音が切れた。続いてバックで鳴らしていたステージ音楽も消され、スタッフの一人がステージ脇に立ち声を張り上げる。

 

「すみません! 観客の皆さんはそのまま、この後の館内放送を聞いてください! ニュージェネレーションズの皆さんも、一旦このまま待機でお願いします!」

 

「あれ、えっと……?」

 

 機材トラブルだろうか? と会場がザワつき始めた頃、間もなくショッピングモール内に館内放送が流れる。

 

『お知らせいたします、現在、八王子市にて正体不明の生物による害獣被害が発生しているため、館内のお客様はスタッフの指示に従いその場で待機していただきますよう、お願い申し上げます。』

 

「正体不明の生物……」

 

 その言葉に卯月は今朝の夢を思い出す。黒い大きな影、生気のない瞳がこちらを見据える、あの悪夢を……。

 

「あっ……ぁ……!」

 

 絞り出されたような、震えた小さな声。よろめく卯月の体を両側に立つ2人が支える。

 卯月が例の夢を連想したのは2人ともすぐに分かった、けれど、まさかそんな巨大な生物が本当に出てくるなんて思えない。きっとただの野生動物が出てきただけだ……そう思った。

 

「うわ……なんだこれ……!」

 

 観客のひとりがスマホを見ながらそう呟いた。よく見ると、みんな事態を確認するためにスマホを見つめており、その顔はひとつの例外もなく、驚きと混乱を顕にしている。

 

「なに? なんなの……?」

 

 未央が引きつった声でそう呟くと、凛が立ち上がる。

 

「私、スマホ持ってくる。」

 

「待ってしぶりん! その、もしかしたら見ない方がいいかも……」

 

 凛を制したのは、もちろん卯月を思っての事だった。観客達の反応はあきらかにただの害獣被害を見ている様子ではない、何か想像もつかない非常事態が起こっている……もしかすると本当に、という事も考えられた。

 

「大丈夫です……私は大丈夫だから、凛ちゃん、お願いできますか?」

 

 額に汗を浮かべ、浅い呼吸をなんとか整えながら卯月は凛にそう言って、続けて未央に向かってなんとか笑顔を作ってみせた。

 

「……分かった」

 

 ニュースを見てしまえば夢が現実のものになるかもしれない、そんな不安は確かにあるが、心の奥で「何か」が、真実を確かめなければならないと訴えかけているような気がした。

 

「持ってきたよ……卯月、本当に見ても大丈夫?」

 

 卯月は大きく深呼吸をしてから答える。

 

「……はい」

 

 凛がスマホを操作し、ネットニュースを開く。どうやら、ヘリで上空から撮影しているらしい。

 

『見えますでしょうか、景信山から出現した巨大生物は八王子城跡を破壊した後、中央道を横断し住宅街へと侵入しました! 次々に建物を破壊ながら進行を続けていて、舞い上がる土埃により全貌は見られませんが、かなり巨大であることは確かです!』

 

「…………」

 

 言葉を失った、夢に出てきたあの光景とは全く違っているが、にわかには信じ難い出来事が現実に起こっている。

 どう見ても“害獣被害”なんてものでは無い、巨大なブルドーザーでも走っているかのような、しかし土埃の隙間から覗く影の動きは、紛れもなく生物の動きだった。

 

「……これ、わりと近くだと思うんだけど……ここ、大丈夫だよね……?」

 

「こっちに来てるわけじゃ無さそうだし、大丈夫だと思うんだけど……」

 

 かつてない事態に不安を露わにする3人、すると再び、館内放送が流れる。

 

『館内のお客様にお伝えします、現在発生している巨大生物被害のため、当館は全ての営業、及びイベントを一時休止といたします。また、被害による交通規制によって一部道路と交通機関が封鎖されているため、お帰りの際は交通状況をご確認の上、急がず、慌てず行動して頂きますよう、お願い申し上げます』

 

「……ライブ、中止になっちゃったね……」

 

 報道によれば巨大生物の進行ルートはほぼ直線的で、この先ビル街に入った場合は道なりに進むようになるものと考えられている。距離こそそう離れていないものの、このショッピングモールに来る可能性は今のところ低い。 いつ解決するかも分からない巨大生物被害が発生してしまった以上、今日のライブは中止という事になる。

 

「嘘だろ、ここら辺の道路全部封鎖されてるじゃねえか……!」

 

 ステージすぐ隣にいた客が頭を抱えながらそう言った。先ほど館内放送でも伝えられた通り、被害発生地区周辺の道路はほぼ封鎖、電車もほとんど動いていないようで、帰ることもできない。

 完全にショッピングモールに閉じ込められた、こうなると次に心配なのは、客たちの精神面だ。この異常事態によるショックに加え、帰ることもできないという状況は非常にストレスを溜める。 先程までステージを楽しみにしてくれていた観客たちも、暗い表情のまま俯き、ため息や独り言を発している。

 

「卯月、未央、とりあえず控え室に戻ろう……」

 

 

 

〈12時20分〉

 

 ライブが中止になってから20分、ニュースによれば巨大生物は予想通り国道20号線を東京都内に向けて進行していた。建物の倒壊が無くなった代わりに、次は道路に乗り捨てられた車を次々に踏み潰している。 同時に、土煙が晴れたことで巨大生物の全貌も見えてきた。

 

『ご覧ください、巨大生物は四足歩行、長い尻尾を持ち、頭と背中には棘のようなものが沢山生えているのが確認できます! 巨大なヤマアラシのようにも見えます!』

 

「しまむーが言ってたのとは違うね……」

 

「はい……でも、やっぱり予知夢だったんだと思います……こうして現実に大きな怪物が暴れてるから……」

 

 とは言え、卯月はどこか安心していた。あれほどの惨劇は現実には起きていないし、自衛隊の出動を検討しているという政府の発表もあった、きっとしばらくすれば解決するはずだ、と。

 凛はひとり、テントから外の様子を伺っていた。気にしていたのはショッピングモール内の客達だ、どんよりとした空気で息が詰まりそうになるが、だからこそ凛は目を逸らさない。

 

「……みんな、楽しみにしてくれてたんだよね、私たちのライブ」

 

 その言葉に、未央は俯いて悔しさに拳を握る。

 

「いつも見に来てくれてたファンの皆も来てくれたもんね……あの人たちさ、SNSで宣伝してくれてたんだよ、なのに……!」

 

「……」

 

 卯月は、静かに自分の震える手のひらを見つめる。

 震えているのは、不安と恐怖だけではなく、自分の無力さに対する悔しさも混じっていたからだ、アイドルはみんなを笑顔にするはずなのに、何も出来ない自分の無力。 どうしようも無いことだってある、自分にはあの怪物をどうこうすることは出来ない。

 

(だけど……!)

 

 今日のために毎日レッスンに励んできた、今日だけでなく、今までだってずっと。 アイドルになりたいと言う幼い頃からの夢を叶えるために、今まで頑張ってきた。その夢は決して、あんな悪夢に負けるようなものじゃない、確かにこの胸の中に宿る希望の夢であるはずだ。 考える、自分が、アイドル島村卯月が今できることを。

 

(やっと踏み出せた一歩、こんな所で踏みとどまっていたらきっとこの先に進めなくなっちゃう……アイドルは皆を笑顔にするもの、みんなを楽しませるもの……私に、私たちに出来ることは……)

 

 結論は出た、卯月は立ち上がると、2人に向けて言った。

 

「凛ちゃん、未央ちゃん、ライブを始めましょう!」

 

「えっ?」

 

「卯月……?」

 

「私たち、アイドルですから、見に来てくれた皆さんが笑顔になってくれるように歌いましょう! もう音響も照明もないけど、演出がなくたって歌って踊ることはできますから!」

 

 そう言う卯月の、迷いも不安も振り切った表情からは、確かな決意が読み取れた。それは、アイドルとしての覚悟、夢を諦めない彼女の強い想いが出した結論。

 

「うん……うん、そうだよね、私たちアイドルだもんね!」

 

「やろう、卯月、未央! 私たちニュージェネレーションズのライブを!」

 

 3人は手を取り合い、顔を見合わせる。自分たちが今できる精一杯の事をしたいという純粋な思いが、その結束をより強めていく。 アイドルとして出来ること、その決意を胸に、再びステージに戻る。

 

 

 

〈12時34分、巨大生物は依然として国道20号線を進行中〉

 

 テントを出てステージに戻ってきた3人を、まばらながらも残っていた観客たちが拍手で出迎えた。 笑顔と小さな歓声、予想外の反応に目を丸くしていると、どういう訳か先んじてステージの用意を整えていたスタッフが言った。

 

「みんなの声、ステージまで聞こえてましたよ」

 

 顔を見合わせる、確かに、布ひとつ隔てただけのテントの中で会話していれば、店内BGMもかかっていないのだから丸聞こえになっていただろう。3人は、ついおかしくなって笑い合った。

 

「みんな、ありがとう! 今、信じられないような事が起こってて、みんな不安だと思う……私達もそれは同じ」

 

「でも、だからこそ私たちは歌いたい! この不安に負けないように、力の限り!」

 

「私たちは私達にできる事をします! それがアイドルだって、そう思うから……!」

 

 歓声が上がる、拍手が鳴る、騒ぎを聞きつけた客が館内のあちこちから集まっていた。

 マイクはついていない、音楽もない、演出もない、押し迫ったタイムスケジュールの中で出来ることももう少ないだろう。しかし、だからこそ……。

 

「精一杯、心を込めて歌います!」

 

「皆の心まで、絶対に響かせてみせる!」

 

「いくよ、ニュージェネファイトー!」

 

「オー!!」

 

 ニュージェネレーションズのライブが始まった。無音の中で響かせる歌と踊り、本来見せるはずだったパフォーマンスはそこにはない。だけれど、だからこそ、懸命に歌を届けようとする彼女たちのライブは観客の心を魅了するものとなった。

 小さな一歩は、こうして踏み出された、それは小さくても大きな意味のある一歩、彼女達にとって偉大な前進。 歓声の中、ライブが終わる。

 

 

 

〈13時37分〉

 

 その後、巨大生物が自衛隊の攻撃によって倒されたというニュースが流れ、程なくして警戒が解かれニュージェネの3人は帰路についていた。

 自衛隊の攻撃が行われたのは12時48分ごろ、どうやらライブを再開してからすぐの事だったらしい。

 

「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、無事解決したみたいでよかったね」

 

「そうだね、駆除されたみたいだし、被害は大きくて亡くなった人もいるかもしれないけど……もう大丈夫だね」

 

「はい! ライブも成功してよかったです!」

 

 すっかりいつもの笑顔を取り戻した卯月が、跳ねるような足取りで2人の先を歩いている。

 夢に出てきたような巨大生物こそ出現しなかったものの、やはりあれは予知夢のようなものだったのだろう。ライブ前のストレスが原因とも考えられるが、それならもう見なくても済む。

 

「すっかり元気になったね、卯月」

 

「はい!」

 

「うんうん、しまむーは笑顔が一番だね!」

 

 腕を組み深く頷く未央に、凛は「なにそれ」と苦笑する。笑顔が一番、卯月は笑顔には自信があった。ますます元気を溢れさせる卯月が、明るい声でこう言った。

 

「はい、例えまた怪獣が出てきたって笑顔で乗り越えてみせますよ! 島村卯月、頑張ります!」

 

 振り向いてダブルピースと笑顔を向ける卯月。

 そんな天真爛漫な明るさを見せる卯月に対して、凛と未央は卯月の発した何気ない言葉が引っかかり、訝しむような顔をして足を止めた。

 

「しまむー……今、なんて?」

 

「え?」

 

「いや、その……」

 

 2人は顔を見合わせ、違和感を覚えたその言葉の意味を、凛が改めて問う。

 

 

 

「怪獣って、なに?」

 

 

 

「…………え?」

 

 怪獣、怪獣、怪獣……?

 なんだろう、確かに聞き馴染みのない言葉だ……卯月でさえも今初めてその言葉を意識した。 だというのに、まるでよく知る言葉のように自然に口から出たその“怪獣”というワード……分からない、自分が何を口走ったのか、自分自身が全く理解できない。

 

「あれ、なんでしょう……確かに変な言葉ですね……でも、なんだか今、自然にそんな言葉が浮かんで……あれ? 何でだろう……何で……!?」

 

 おかしい、自分の身に何かが起こっている。そんな得体の知れない感覚に怯え、卯月は震え出す。

 同時にチカチカと明滅するように頭の中に謎のイメージが浮かんだ、闇に輝く……黄金の光の球体……“何者か”が卯月をじっと見つめて理解できない言葉を投げかけてくる幻……。

 

「誰……? 何なの、やめて! 話しかけないで! 嫌!」

 

「卯月!?」

 

 ただならぬ様子に2人が駆け寄るが、錯乱した卯月はそんな2人からも逃れるようにして暴れ出した。

 

「あっ……あぁ……う……ッ! きゃあぁぁああぁぁぁーー!!」

 

 唸り声を上げるばかりであった卯月は、突然耳を押さえて絶叫し、地面に倒れ込みのたうち回った。

 完全に常軌を逸した反応だ、2人は卯月の体を力ずくで抑え込みながら何度も何度も名前を呼ぶ、しかし、卯月はうわ言を繰り返すばかりで、まるで呼び掛けが聞こえていない。

 

「聞こえた……聞こえた……声が! あの怪獣の声が聞こえた……あぁ、逃げなきゃ……来る……ここまで来る……!」

 

 否、卯月の脳に響く“咆哮”が2人の声をかき消していたのだ、それは距離という単純な空間を超えた音、得体の知れない“何者か”が卯月に聞かせている音──。

 

「卯月! どうしたの、何が来るの!? ねえ!!」

 

「しっかりしてよ! しまむー! 」

 

「あ、あぁあぁ! ああ゛ぁぁあっぁ゛あぁあ゛ぁぁっぁあ゛あぁぁーーーーー!!!!」

 

 絶叫……零れ落ちる涙を堪えることも出来ず、卯月は歩み寄る絶望の足音から逃れるように耳を塞ぎ、泣き崩れた。

 

 

 そして……遠く東京湾に、その咆哮は轟く。

 

 

 

 ──2011年11月3日、怒れる獣が人の時代の終わりを告げた。全ての生命が恐れるこの惑星の覇者。これより始まる怪獣時代、その頂点に座す究極の生命体、その名は──。

 

 

【挿絵表示】

 

 怪獣王、ゴジラ。

 

 

 

 

 

〈2011年11月3日の記録〉

 

10:58、景信山を中心とした謎の地響きを確認。

 

11:12、景信山山中より巨大不明生物一号(以下一号)が出現、東京都方面へ向けて進行開始。

 

11:51、一号は八王子城跡を破壊後、八王子市に侵入。周辺地域への避難命令、道路の封鎖と鉄道の運行休止。

 

12:10、一号、国道20号線沿いに進行。

 

12:40、大和田橋倒壊、浅川を南下。

 

12:48、自衛隊ヘリの攻撃が開始、数分後、新浅川橋付近にて一号は完全に沈黙。被害地より離れた一部区域の避難命令を解除。

 

13:30、一号の死体調査中、川崎港からおよそ4km離れた場所にて異常な海面温度の上昇を確認。自衛隊は再出撃の準備に入る。

 

13:39、海面温度上昇地点で巨大な爆発が発生、爆心地より謎の影が川崎港に向かって進行し、巨大不明生物二号(以下二号)が上陸。

 

13:44、自衛隊による攻撃開始、しかし効果は認められず。

 

14:17、二号、新宿駅付近に到達後、放射能熱線による攻撃を開始、半径6kmが焼失、600万人の犠牲者を出す。

 

14:24、二号、新宿御苑を通過し港区に進行。

 

14:37、芝浦埠頭より再び海に戻る。レインボーブリッジ、東京湾トンネル、臨海トンネルを破壊し太平洋方面へ、その後の消息は不明。

 

 

 後日、一号は恐竜のアンキロサウルスに似た特徴からアンギラスと命名。二号は大戸島に伝わる神獣・呉爾羅からその名を取り、ゴジラと命名。

 その後世界各地で連続して怪獣が出現し、2011年が終わる時点で、この一件を含む世界8ヶ国で9種類の怪獣が観測された。

 

〈2012年4月24日〉

 比叡山にて二頭目のアンギラスが出現、日本では5ヶ月ぶりの怪獣の出現となる。一頭目より遥かに大きな体躯から、一頭目が未成熟な個体であったことが判明。

 この日、政府は対怪獣攻撃宣言を発令。日本は怪獣の出現を国家の存亡に関わるものと見なし、徹底的な武力攻撃を行う事を決定する。

 

〈2013年12月11日〉

 全世界で観測された怪獣は、小型や幼体を除いておよそ50頭に上り人類に多大な被害を及ぼした。

 これを受け、国連は怪獣の観測・調査・討伐を目的とした国連G対策センター及びその軍事部門Gフォースを発足、この日始動した。

 

〈2013年12月25日〉

 ラスベガスにてアメリカGフォースの活躍により怪獣メガロを撃破、人類の反撃が始まる。

 

 

 

 

〈2014年5月16日〉

 ゴジラ、サンフランシスコに上陸。Gフォース、完全敗北。

 

 

 

〈エピソード1:世界が終わる日〉-完-

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