ゴジラvsシンデレラガールズ   作:キシ

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〈エピソード7:ボクらのヒーロー!〉

〈2024年5月31日、16時28分〉

 

 徳島県のとある住宅地の公園で、1人の少女がベンチに腰掛けてスケッチブックに絵を描いていた。 何色もの水彩絵の具を巧みに使い分け、迷わず筆を走らせる。その手つきはまだ幼い少女のものとしては、随分と熟達しているように見える。

 

「オイお前、何してんだよ?」

 

「見ない顔だな」

 

 そこへ、たまたま通りがかった下校中の男子中学生2人組が、少女の存在に気づき近寄ってきた。

 

「え……あの……?」

 

 少女は手を止めて画材を置き、スケッチブックを閉じる。怖がってスケッチブックで顔を隠して逃れようとするが、ベンチに座っているのでどこにも逃げ場はなく身を縮めるばかりだ。

 

「何ビビってんだよ」

 

「う……ぅ……」

 

「おい、何描いてんのか俺らにも見せろ」

 

 男子の1人がスケッチブックを掴み引き剥がそうとするが、少女は両手で掴んだまま離さず必死に抵抗する。

 

「や、やだ……!」

 

 涙目に抵抗するが聞いてはくれない、力比べも虚しく、スケッチブックはあっさりと奪われてしまった。 2人はニヤニヤと笑いながら奪ったスケッチブックを見せびらかす、取り返せるものなら取り返してみろと言わんばかりだ。

 そしてこれ以上は抵抗できないと分かるや、スケッチブックを開こうとすると。

 

「待てーーーー!!」

 

 雄叫びと共に何者かが少年らの背後から颯爽と駆け寄り、すれ違いざまにスケッチブックを取り上げて硬直したままの少女との間に割って入った。

 

「テメッ……南条!」

 

「男子2人がかりで女の子相手にこんなマネ、恥ずかしくは無いのか!」

 

 少女の名は南条光、校内はもちろん他の中学にまで噂が広まるほどの強い正義感の持ち主で、今も男子2人組相手であろうと、少女を守る為ならば居ても立ってもいられず走り抜けてきた。

 

「ヒーローぶりやがって、あんまナメてっとお前も痛い目あわすぞ!」

 

「断る!」

 

「何ぃ!? ……いやお前が断るかどうかの話じゃ無くて」

 

「アタシは喧嘩はしない主義だ!」

 

「聞けや!」

 

 そんなやりとりが繰り広げられる中、光の背後で少女は一転して冷静な表情で光をじっと見つめていた。 胸元に隠し持ったペンダントに触れ目を閉じ、何かを確信したようにふっと口元を綻ばせた。

 

「テメェ今日こそ……あぁ?」

 

「ん?」

 

 少女は立ち上がり光の前に来ると、2人に向かって何かを呟いた。するとどうした事か、2人とも高ぶっていた感情が嘘のように消え去り、目を見合わせるとそのまま無言で帰っていってしまった。

 

(どうしたんだろう……何か言ったのかな?)

 

「助けてくれてありがとうございます、南条光さん」

 

「えっ、あ、あぁ、当然のことをしたまでさ!」

 

 下の名前を教えたっけ? という疑問が頭によぎったが、少女の独特でどこか浮いた雰囲気に魅了されたのか、ついつい飲まれかけてしまい、聞き直す余裕もなかった。

 

「はじめまして……私、成宮由愛……です」

 

「ユメちゃんか、よろしく!」

 

 光はニコニコと眩いばかりの笑顔を浮かべながら、スケッチブックを差し出す。

 

「ありがとうございます……あの……気になりませんか……?」

 

「気になる?」

 

「いえ……よく、スケッチブックを見せてって言われるので……今みたいに……」

 

 そう恐る恐る話す由愛に対し、光は再びニカッと笑う。

 

「見られるのを嫌がってたみたいだからね、本当は気になるけど由愛ちゃんが見ていいって言うまでは見ないことにするよ!」

 

 驚いた、そんなことを言われたのは初めてだった。 初対面で絵を描いていると、みんな口を揃えて「見せて」と言ってくる、人見知りの激しい由愛にはどうしてもそれが恥ずかしく、心苦しかった。

 それを光は見たいという気持ちより、由愛の気持ちを汲み取って優先してくれたのが嬉しくて由愛はほんの少し笑顔になる。

 

「……なら、完成したら見てください……頑張って描きますから」

 

 スケッチブックで赤みがかった頬を隠しながら、由愛はそう言って笑い返した。

 

 

 

〈16時39分〉

 

「そっかー、普段は大阪に住んでるんだ」

 

「はい、お家は滋賀県なんですけど……私、ちょっとした施設に入らなくちゃいけなくて、近くだと大阪にしかないんです」

 

 それから少しの間、2人はベンチに腰掛けて軽く自己紹介をしていた。

 由愛は大阪に住んでいて昨日の夜に徳島へやってきたこと、中学一年生だが普通の学校には通っていないこと、保護者同伴だが用があって外しているので帰ってくるまでここで待っていたこと。

 内気で恥ずかしがり屋な子だが、話すこと自体は嫌いじゃないのかすっかり光に対しては馴染んだ様子だった。

 

「それで、光さんは……どうして私を助けてくれたんですか……?」

 

「どうして、か……そうだな〜、困ってる人がいたら助けるのが当たり前って、それしか理由はないかな」

 

 問いかけに対しわずかながら間を置いたものの、深く考えることも無くあっけらかんとした口調で答えた。

 

「アタシさ、ヒーローに憧れてるんだ」

 

「ヒーロー……?」

 

 光はカバンを探ると、古びたソフビ人形を取り出した。 赤と銀と黄色という極彩色に彩られたヒーローフィギュアだ。 ところどころ色が剥がれていて年季を感じるものの、埃はほとんどついておらず丁寧に手入れされている。

 

「ジェットジャガー、アタシの宝物だ!」

 

「宝物……」

 

 意外にも、興味はなさそうだと思っていた由愛の食いつきは良く、注意深く細部まで眺めていた。

 

「昔の特撮番組の主役ヒーローなんだ、お父さんが好きでよく一緒に見てて、これもお父さんから譲ってもらったんだ」

 

「特撮?」

 

「そう、こういうヒーローのスーツを着て、悪を懲らしめるヒーロー番組のことなんだ! 昔は少し流行ったみたいなんだけど、最近は全然みなくなっちゃった」

 

「どうして無くなっちゃったんでしょう……?」

 

「お父さんが言うには、平成になる頃にはほとんど流行らなくなってたところに、本物の怪獣が現れたせいで怪人や怪獣と戦うヒーロー特撮は意味がなくなっちゃったんじゃないかって……あ、怪獣って言葉は元々特撮で使われてた用語なんだ、知ってた?」

 

 由愛はふるふると首を横に振るが、食い入るように光の言葉に耳を傾ける。 思っていた以上に興味津々なようだ。

 

「だよね、でも現実に怪獣がいるからこそ、ヒーローは必要なんじゃないかって思うんだ。 だからアタシがヒーローになって、困っている人を1人でも多く助けてあげたいって思った、それが由愛ちゃんを助けた理由!」

 

 ジェットジャガーを手に持ったまま立ち上がった光は、身振り手振りでジェットジャガーのマネをしながらその魅力を熱く語り出した。

 

「ジェットジャガーはね! 良心回路っていう正義の心を持ったAI搭載型ロボットなんだ! 普段は人間と同じ大きさで人助けしてて、怪獣が現れると巨大化して平和のために戦うんだ! だから強いだけじゃなくて優しくて、それから……!」

 

 そこでハッとして我に返る、好きなものを語ろうとするとどうしてこんなにまくし立ててしまうのだろうか。

 ビックリさせてしまっていないかと恐る恐る由愛の顔を伺うと、彼女はクスクスと笑いながら楽しそうに目を細めていた。 小さな笑い声を上げるその子は、まるで妖精のように可愛らしい。

 

「光さんは、きっと素敵なヒーローになれます」

 

「ホント!? アタシ、ジェットジャガーみたいになれるかな!」

 

「私はそう信じています」

 

「えっへへ……嬉しいなぁ〜! ジェットジャガーは子供たちと心を通わせることで強くなれるんだ、みんなの応援がジェットジャガーの力になる、だからアタシのこと、応援して!」

 

「はい……応援しています」

 

 由愛に応援されたことがよっぽど嬉しかったのか、光はムズムズと体を揺らしたと思えば、飛び上がるように体を伸ばして「やったー!」と声を上げた。

 

「ふふふ……あっ」

 

 由愛は飛び跳ねる光の向かいから、茶髪のポニーテールを揺らしながらスーツ姿で必死に駆け寄ってくる待ち人の姿を見つけ、ベンチから立ち上がった。

 

「はぁ……はぁ……ご、ごめんね由愛ちゃん……待たせちゃった……」

 

「お疲れ様です、美優さん」

 

(さっき言ってた保護者の人かな、お母さんって歳じゃなさそうだし、どういう人なんだろう?)

 

 会社員のようにスーツ姿が似合う彼女の首には、社員証のようなネックストラップがぶら下がっていた。 光が気になって覗き込んでみると、名前は三船美優ということが分かった。

 

驚いたのは、名前の上に書かれていた企業名……否、組織名だ。

 

「G対策センターM研究所……?」

 

「あら、えっと……あなたは?」

 

「あ、南条光って言います! さっき由愛ちゃんと会って、友達になりました!」

 

 姿勢を正し大きな声で友達宣言をする光に対して、由愛は嬉しさと恥ずかしさから顔をスケッチブックで覆い隠してしまった。

 

「お友達……由愛ちゃん、お友達できたの?」

 

「……はい」

 

 スケッチブックで隠れてよく見えないが、由愛は顔を真っ赤に染めながらコクコクと強めに頷いた。 そうだったらいいな、と心の中で思っていたことを真正面から言われてしまい、嬉しくてドキドキが止まらない。

 

「そうなの、ありがとう、お友達になってくれて」

 

「み、美優さん……! もう行きましょう……! ねっ……!」

 

 由愛は美優の服の袖を引きながら、2人に顔を見られないようにそう訴えるが、美優はそんな反応が可愛く見えて微笑むばかりだ。

 

「あらあら、ふふ、照れちゃったみたい」

 

 恥ずかしさが限界まで来た由愛はからかう美優の背中に隠れて、ぽこぽこと猫の手で叩いていた。 光が顔を覗こうとすれば、美優の影に隠れる。

 もっと控えめな子だと思っていたが、感情豊かでこういう所は年相応だ。

 

「うぅ〜……も、もう先に行きますから……!」

 

 そう言ってパタパタと足早に2人のもとを離れ立ち去ろうとするが、ある程度の距離のところで立ち止まってチラチラとこっちの様子を伺っていた。

 

「……こういう時は、普通の女の子みたいなのにね」

 

「え?」

 

「ねえ、光ちゃん。 由愛ちゃんはちょっと特別な施設にいて、普通の学校に通ってないの、だからお友達ができたのは本当に嬉しいの……離れていても、会えなくても、友達でいてくれる?」

 

「……うん、もちろん!」

 

 その言葉を聞いてにっこりと笑うと、美優は少し離れた木陰にいる由愛のもとへ歩み寄り、仲良く手を繋いで立ち去っていった。

 

(G対策センターって書いてあった、M研究所っていうのは聞いたことないけど……)

 

「光さん!」

 

 考え事にふけっていたところに、思わぬ由愛の大声が響きハッと顔を上げる。

 

「今日の夜、7時くらいになったらジェットジャガーを持ってまたここに来てください、その時に私の絵も見せますから!」

 

「……! うん! 必ず来るよ!」

 

 手を振る由愛に大きく手を振り返しながら、光は約束を交わした。 季節は5月の末、7時とは言えまだ明るい時間帯だろう。 美優も同伴するのなら多少外に出たって平気なはずだ……なんて事を、この時は考えていた。

 G対策センター大阪支部から、わざわざ徳島まで来た2人の目的も、これから起こる出来事も、まるで想像もできていなかったのだ。

 

 

 

〈同日、17時10分〉

 

 G対策センター徳島支部へ向かう送迎車の後部座席で、由愛はスケッチブックを眺めていた。 隣に座る美優はその内容を見て眉をひそめる……描かれているのは、怪獣の絵と、短い文章と、年月日。

 

 

 ──2020年3月15日。 チタノザウルス、ぎふ県の山で3人の女性をおそう。

 

 ──2021年12月16日。 クモンガとカマキラス、神奈川県。 ゴジラ、花のかいじゅうとたたかう。

 

 ──2022年8月11日。 大阪、大きなタコとガバラを、大きなゴリラが倒す。

 

 ──2023年7月30日。 マンダが船を襲う。 たまたま乗っていたモスラの巫女がモスラを呼び出す。 モスラが世界中に知られる。

 

 その他にも、2018年10月のムーバ、2019年2月のアンギラス、2021年9月のオルガ、2022年11月のバラゴン。 これらの絵と文章は見てわかる通り、今までに日本で起こった怪獣災害の様子とその発生日である。

 それだけならばただの記録だった、異常なのはこれらの絵が現実で怪獣災害が“発生する前”に描かれたものという事だ。 これらの出来事を発生の数日から数ヶ月前には、この絵を描いている。

 美優が属するM研究所とはすなわち、モスラの巫女を保護する施設だ。 由愛はモスラの巫女として、未来で起こる怪獣災害の様子を予言している。 それだけなら他のモスラの巫女でも可能だ、だが由愛の予知能力は桁外れの精度と予知範囲を持つ。

 この正確すぎる予言によるG対策センターとGフォースへの貢献度は非常に高く、彼女が居なければどの怪獣被害も実際の結果より遥かに凄惨なものとなっていただろう。

 そして……彼女が徳島県へやってきた理由は最も新しいページに描かれている。 燃える町と、空を飛ぶ赤いつがいの翼竜の絵。

 

「ラドン……」

 

 翼竜ラドン、クラスーAの中でもその強さと被害規模は最上位とされ、クラスーXを除いた全ての怪獣の中でも最強と名高い人類の天敵。

 そのラドンが今この徳島県へ迫っているというのだ。 現に今つがいのラドンが北マリアナ諸島の小さな島で羽を休めている、日本に向かってきてもおかしくは無い。

 しかしラドンは日本を含む各国Gフォースによって包囲されており、厳戒態勢が敷かれている。 通常ならば日本へ上陸する可能性は低いと予測される。

 だが絵に書かれている文章はこうだ。

 

 ──2024年5月31日、ラドンのつがいが徳島県を襲う。 モスラを呼ぶために行かなければならない。

 

 それが、それだけが、2人がここへ来た理由だ。 G対策センターの由愛の予言に対する信頼は強い、当然眉唾物と疑う人間も多いが、秘密裏にGフォースの戦力が四国近海に集結しつつある。

 

「あのお2人がまだ徳島県に残っていてくれれば良かったんですけど……」

 

 由愛はポツリと言葉を漏らした。 去年のクルーズ客船襲撃事件の際にモスラを呼び出し船を救った、非常に高度な能力を持った双子のモスラの巫女。

 彼女らはこの徳島に住んでいたのだが、夢を追って関東に行ってしまった為に、今は徳島を守れる巫女がいない。 もしも彼女たちが徳島に残っていれば、由愛が出向く必要も無かったのだが、美優はこう返す。

 

「そうね、でも夢を追いかけるってことは、とても素敵な事なの。 本当はそうあるべきなのよ、きっと……」

 

 きっとそうだと、美優は強く思った。 違う時代、違う世界、怪獣のいない世の中であるならば、由愛も普通の女の子であったのかもしれない。 そしてこれから生まれる子供たちは普通の人生を歩んで欲しい、そんないつかの未来を取り戻すために、今も人々は抗っている。

 それ以降、2人は言葉を交わすことなく徳島G対策センターへと向かった。

 同時刻……北マリアナ諸島にて防衛網を張っていたGフォース部隊より、全世界のG対策センターへ一斉に入電があった。

 

 休眠状態にあったラドンが覚醒した、と。

 

 

 

〈同日、18時50分〉

 

 日も傾き人もまばらになった公園へと戻ってきた光は、段々と薄暗くなる空と7時に近づく時計を交互に見ながら、由愛がやってくるのを待っていた。

 手にはジェットジャガー、約束の時間まであと10分。 夕飯までには戻ると親には伝えているので、それほど時間に余裕はなく、落ち着かない。

 

(楽しみだなぁ、由愛ちゃんの絵)

 

 2時間ほどの別れだが、それでも光は再会に心を躍らせていた。 だが……そんな期待を無慈悲にも打ち砕かんばかりに、緊急警報が鳴り響く。

 

『怪獣災害警報、怪獣災害警報、現在、怪獣ラドンが太平洋側より日本に接近中、四国・中国地方を横断するものと見られます。 住民の皆様は避難誘導に従い速やかに地下シェルターへと避難してください。 繰り返します──』

 

「か……怪獣……!?」

 

 ラドンの名は光もよく知っている。 北マリアナ諸島にいることも連日ニュースで取り上げられていた、周辺の小国を一夜にして尽く滅ぼすほどの“生きた災害”だと。

 公園に残っていた学生や親子連れが慌てて散ってゆく、光も早く逃げなくてはと立ち上がるが、由愛との約束を放り出す訳にもいかない。

 

(どうしようどうしようどうしよう……!? いや、でも……来ない……来ないよこんな時に……! でも、約束したし……!)

 

 決断に迷い、どっちつかずな足はその場を何度も踏みしめるだけだ。その時──公園の入口に一台の黒い車が止まる。

 

「光ちゃん!」

 

 後部座席から慌てて飛び出してきた美優と、それに続いてえらく落ち着いた様子で由愛が顔を見せる。

 

「由愛ちゃん……美優さん……!!」

 

 助かった、と思った。 G研究センターの関係者なら安全なところまで避難誘導してくれるはずだ……しかしそんな期待に反して、美優が何度か言葉を交わした後、車は2人を残して走り去ってしまった。

 

「え、あ、あれ……」

 

「ごめんなさい光ちゃん! 遅くなっちゃった……!」

 

 心配そうな顔を浮かべて美優が小走りに駆け寄る。 助けに来てくれたんじゃないのかと光が尋ねると、美優は振り返りゆっくりと歩いてくる由愛を見つめながらこう言った。

 

「光ちゃんに大事なお話があるの、由愛ちゃんの事よ」

 

「大事な話……?」

 

「モスラ……という怪獣の名前は聞いたことある?」

 

 モスラ……光にも確かにその名前には聞き覚えがある、去年の夏に日本近海に出現し初めて存在が認められた怪獣。

 過去には十数件ものモスラ出現と思しき未確認現象は観測されているものの、確たる証拠も有力な目撃情報もなく世間では謎の怪獣として噂されていた。

 

「……はい」

 

 それがついに大多数の人間の前に姿を現し、その後も数度世界各国に出現しては怪獣を倒したとして、人類の守護者と呼ばれるに至ったと、その活躍はニュースでもよく耳にする。

 

「私はそのモスラと会話することができます」

 

「えっ……?」

 

 話の流れも理解出来ないでいる間に由愛の口から出た言葉は、あまりにも突拍子がなくて理解し難いものだった。

 

「この世界にはモスラの巫女と呼ばれる、テレパシーによってモスラの声を聞くことの出来る女の子たちがいます。 モスラは、巫女の呼び掛けに応じてその姿を現します」

 

「ま、待ってよ……モスラは怪獣なんだろう? 人間の味方はしてくれてるみたいだけど、なんていうか……今の内容は、現実味が無さすぎるって言うか……」

 

 混乱するのも無理はない、モスラの巫女の存在は世間に対しては完全にシャットアウトされている機密情報だ。 モスラは現代のいかなる兵器よりも強く、それを呼び出せる巫女はある意味国家が抱える重要な戦力と言っても過言ではない。

 加えてモスラの世間一般での印象はあくまでも人類に与する怪獣に留まっており、テレパシーだモスラの巫女だという話はあまりにも飛躍しすぎたファンタジーに聞こえる。

 

「モスラは生き物ではなく、言うなれば精霊のような存在です。 理解できなくても、信じてくれなくても構いません……ただ、今は光さんの力を借りたいだけなんです」

 

 そう言って、由愛はスケッチブックを開き一番新しいページを見せた。 先程公園で描きかけていた絵の完成、そこに描かれているのは、赤く滾る2頭のラドンと燃える街と……悠然と立ち向かうジェットジャガーの姿。

 

「これ……は……?」

 

「これは私が見た未来、モスラが私に教えてくれたこの街の未来の光景です」

 

「未来だって!? なんでそんな事が……!」

 

「モスラは未来を予知し、私たちモスラの巫女に伝える。 私の使命はそうやって訪れる未来を伝えて最悪の結果を避ける事にあります」

 

 語られる全ての言葉が現実味のない内容だった、しかし、光の目をしっかりと見据える由愛の瞳は、とても嘘をついているように思えない。 全てが真実なのだろう。

 当たり前に怪獣が闊歩するこの世界には、まだ知らぬ真実がいくつもの存在する、そう納得せざるを得なかった。

 

「でも……使命だなんて、由愛ちゃんはまだ子供で……!」

 

 顔を歪ませ、心配そうに声を震わせながら出た言葉に、由愛はほんの一瞬戸惑い目を見開いた。

 子供なのに──その通りだ、そしてこの世界には、同じ使命を背負ってしまった少女が数多く存在する。

 

「光さんは優しいですね……それでも、私が誰かを救えるなら何も辛くありません、だってそれは、誰かを救えるヒーローになりたい光さんの思いと同じですよね?」

 

「……っ!」

 

 言い返す言葉もない。 自分がヒーローに憧れていることを話した手前、誰かのために使命を負う彼女の現状にこれ以上の口出しはできない。

 でもそうじゃない、ヒーローへの憧れは夢だ、だがモスラの巫女は本当に戦っている、光は納得できずにいた。

 

「私の誕生日、言ってませんでしたね。 私が生まれたのは2011年11月3日……ゴジラが初めて現れた日です」

 

「それは……どういう事……?」

 

「あの日の出来事を予知夢のような形で見た女の子たちは数多く居ます、そして私も……まだお母さんのお腹にいる間からずっとモスラに呼びかけられていました……これは私の生まれついての使命、でも辛いとか、苦しいとは思いません」

 

「どうして……?」

 

「私たちは未来で笑っていますから」

 

「……それも、モスラの見せた未来予知?」

 

 光の問いにゆっくりと首を横に振りながら、由愛は言った。

 

「私の願いです」

 

 

 

〈同日、19時13分〉

 

 ラドンは太平洋に構えるGフォース連合部隊による最終防衛線を突破、全防衛戦力の60%を瞬く間に壊滅させ、日本へと向けて直進を続けている。 到達予測時刻まで、あと3分。

 緊急避難警報により街は騒然としていた。 当然、徳島に限った話ではない。 四国・中国・近畿地方全域で避難が呼びかけられており、その混乱はますます拡大している。

 しかし由愛を初めとしたモスラの巫女たちの予知により水面下で避難と迎撃の準備を整えていたGフォースの対応は早く、混乱の規模に反して避難誘導そのものは比較的スムーズに進行している。

 光たちはラドンが羽を休めると予測されている地点から離れるために走って移動していた、その途中で、光のスマホに着信が入る。

 

「お父さんから……」

 

 ちらっと美優の顔を伺うと、彼女は真剣な顔で頷く。 モスラや巫女についての話は秘密にして欲しいとの事だった、明らかな機密の漏洩だが、全ては光を信頼しての会話だ。 そうしなければ力を借りることが出来ないと思った由愛と美優の独断であり、状況はそれほどまでに切迫している。

 

「……もしもし」

 

『光! お前、今どこにいるんだ!?』

 

 鬼気迫る父の声に、光は返すべき言葉を探す。自分が今すべきことを2人の口から聞かされた、なぜ2人が光に機密情報を明かしてまで協力を求めたのか、光に何が出来るのかを。

 

「……大丈夫、アタシは大丈夫だよ、お母さんもいるよね?」

 

『いるけど、大丈夫ってどういう事だ? もう避難してるのか?』

 

「あのさ! 変なこと聞くけど……ジェットジャガーはみんなの応援を力に変えて戦うんだよね?」

 

『はぁ? そんなこと今は……』

 

「ごめん! 終わったら、全部は無理だけど、ちゃんと話すからさ! だからお父さん……ジェットジャガーを応援して! じゃ!」

 

 そう言って一方的に通話を切り、すかさず電源を落とす。 まるで反抗期の子供のような事をしてしまい心は痛むが、街を守るためだ。

 

「……ラドンが来るわ、2人とも建物の中へ!」

 

 美優の呼び掛けに従い、ビルの中へと退避する。やがて街は、地獄の如き火炎に包まれた。

 翼竜ラドンが最強格の怪獣と呼ばれる所以は、そのゴジラにも匹敵するほどの凄まじい破壊規模にある。 紅蓮に滾る翼は常時マグマの如く煮え、不死鳥さながらに赤く燃え続ける。 その熱量はゴジラの纏う炎すら上回り、存在するだけで周囲が灼熱地獄に変貌し、火災を引き起こす程だ。

 さらにその巨体ながら超音速による飛行は強烈なソニックブームを発生させ、飛行する事その物が破壊活動となる。 ただ移動するだけで街が、果ては国が滅び、引き起こした火災が延々とその被害を拡大し続けるのだ。

 ゴジラが消息不明となった今、そしてゴジラを南極大陸の底へと沈めた“嵐の王”が月面に住み着き地球を離れた今は、このラドンこそが地球の覇者に成り代わったと言っても過言ではない。

 

 ラドンに対抗すべく、超音速飛行が可能な最新鋭戦闘機ドッグファイター2機が出撃する。 徳島に上陸した2頭のラドンは、地上に破壊と火災を齎しながら、由愛の予測通りビルの屋上にて足元をドロドロに溶かしながらも翼を休めている。

 ドッグファイターから放たれたミサイルはラドンの口から発射された超高温のウラニウム光線によって撃ち落とされ、太平洋に構える軍艦からの遠距離ミサイルもその尽くが回避され、イタズラに街の被害を大きくするばかりであった。

 速く、強く、熱く、知能もある、これを討伐するには核の使用に踏み切るしかないと議論を長引かせているうちに、市街地への侵入を許してしまう事例が続いている。

 だからこそ必要としている、この絶体絶命の危機を救うべく立ち上がる、ヒーローを。

 

 

 

 遠方で爆音が鳴り響く、日が沈み暗闇に染っていく空を、その場所だけが赤々とした光で染め上げる。

 

「光ちゃん、あなたにこれからお願いすることは、誰かの命を背負う事なの……特撮番組の中のヒーローのようには行かないかもしれない……それでも立ち向かってくれるなら、お願い、みんなを守って……!」

 

「心配しなくても大丈夫だよ美優さん! ずっとずっと憧れてたんだ、皆の役に立てるヒーローになりたいって……これはアタシにしか出来ないことなんだろう? だったらやり遂げてみせるよ!」

 

 光の目に迷いはない、それを確かめた由愛は胸元に隠していたペンダントを取り出す。 それはモスラを呼び出すための太陽の紋章が彫られたものだった。

 

「では、始めます……あ……」

 

「ん?」

 

「……その……光さん……私の絵は、どうでしたか……?」

 

「……うん、とっても上手だったよ! でも今度は、もっと綺麗な景色の絵を見せて欲しいな!」

 

 嬉しくて、顔がほころぶ。上手だったの一言だけがとても嬉しかった。 予言の絵は見る人をみな恐怖させた、光も最初は同じだった、それでも絵を褒めてくれるのがこんなにも嬉しい。

 叶うなら、もうあんな絵を描きたくはない、もっと綺麗で、楽しくて、明るくて、踊るような絵を……そう願い、由愛はペンダントを握りしめて祈りを捧げる。

 

「おいで……モスラ」

 

 夜空を黄金の太陽が照らす、その輝きはやがて3人を包み込み……光の握りしめるジェットジャガーを強く輝かせる。

 

「行くぞ、ジェットジャガー!!」

 

 輝きは増大し、光とジェットジャガーが一体化する、それはいつも憧れていたヒーローの姿。 助けを求める人がいる、夢を踏みにじる悪がいる、そしてここにヒーローがいる。

 今、この大地にジェットジャガーが立ち上がった。

 

「ほ、本当に巨大化してる……アタシ、ジェットジャガーになってる!!」

 

 光はジェットジャガーと一体化し、巨大化した。 思い通りに動くジェットジャガー手のひらを見て確信する、これは夢ではない、光は本当に巨大ヒーロージェットジャガーとなった。

 ジェットジャガーにモスラが近づく、光とジェットジャガーを一体化させるために黄金の粒子を消費しきったモスラは、その真の姿を晒していた。 青白く美しい輝きを放つ羽は、太陽ではなく月のように優しく神秘的だ。

 

「よし……行くぞっ!!」

 

 大地をえぐり、ジェットジャガーが駆け出す。 ラドンは遠方から降り注ぐ全ての攻撃を回避したが、短時間での太平洋縦断とGフォースによる絶え間ない攻撃に晒された事よる疲労が回復しきっておらず、その場を動けない。

 

「うおおおおおお!!」

 

 天高く飛び上がったジェットジャガーのフライングキックが、雄のラドンの胴体を捕らえた。 ドロドロに溶けだしたビルが崩れ落ち、ラドンが地面に叩きつけられる。

 

「ジェットジャガー参上! これ以上の悪さは許さないぞ、ラドン!」

 

 雌のラドンはジェットジャガーを睨みつけながら威嚇する、しかし同時に背後に感じとった強烈な気配に振り向き、自分の戦う敵を認識した。 モスラが照射した光線を躱し飛び上がると、大回りに滑空しながらモスラに狙いを定める。

 信じ難い加速力で一瞬にして時速数百キロにまで達する突進は、しかしモスラに当たることは無かった。 モスラとラドンの間には半透明なバリアが貼られ、それに弾き返されたのだ。

 ふらつき落下するラドンだが、なんとか地面に接する前に体勢を持ち直す。

 

「すごい……あれがモスラか……!」

 飛び回るラドンに対してモスラはその場からほとんど動くことなく、全ての攻撃を防ぎ反撃している。

 まさしく無敵とも言える戦いぶりに見とれていると、息を吹き返した雄のラドンが超低空の姿勢でジェットジャガーに飛びかかり鋭い足の爪で両肩を掴み、その勢いのまま地面を引きずった。

 

「しまった! けど!」

 

 目から光線を放ちラドンの掴みから逃れる。 引きずられた勢いを利用してすかさず立ち上がり、戦うべき敵をその目に捉える。

 由愛と美優が光に頼んだ内容はこうだ、いくら無敵に近いモスラといえども2頭のラドンを同時に相手するのは分が悪い。 負ける、ということではない、高速で暴れ回る2頭を相手しているうちに街が壊滅するし、たとえ片方倒せたとしても生き残った片方の逃亡を許してしまうからだ。

 人類とモスラにとっての対怪獣における勝利とは、ただ怪獣を倒すことに非ず、人の営みを守ることにある。 被害を抑え、次に繋がる未来を掴み取って初めての勝利なのだ。 そのためにはモスラと肩を並べて戦う存在がいる。

 そこでモスラが目をつけたのが南条光という少女だった。 彼女を利用するような作戦に由愛も美優も後ろめたい気持ちはあった、だが光はいま自らの意思で戦うことを選んだ。

 

「そこだ!」

 

 ジェットジャガーに攻撃するために旋回するラドンに対して先手をかける、高く跳躍しラドンの頭上を取り再び目からレーザー光線を発射するが、身を翻し躱される。

 

「くそっ!……ハッ!?」

 

 着地した隙を狙ってウラニウム光線を撃ち込まれ、光は咄嗟に左腕を構えた。

 

「ジャガーーーー、バリア!!」

 

 長方形のバリアがウラニウム光線を防ぐが、モスラのそれと比べて耐久力は心もとない。 ジリジリと光線の熱を感じながら、ひび割れ行くバリアに力を込める。

 完全にバリアを破られる前に照射が終わる、だが光線の代わりに見えたのは体当たりを繰り出すラドンの姿だった。 ウラニウム光線は目くらまし、本命はこの突進だ。 ひび割れたバリア程度ならジェットジャガーにその嘴を突き刺すことは出来る、だが……。

 

「甘い!!」

 

 その攻撃を読んでいたジェットジャガーの右アッパーがラドンの顎を捉え天高くかち上げる。

 

「残念だったな! その攻撃はジェットジャガー第31話で悪のサイボーグ怪獣ガイガンが繰り出したのと同じ手だぞ!」

 

 ケンカをしない光の戦闘を支えていたのは、他でもないジェットジャガーの戦いだ。 擦り切れるほどに見続け脳裏に焼き付いたその勇士は、戦いの知識となってラドンへの対処法へと昇華されていた。 意気揚々とかち上げたラドンを見上げていた時、光は背中からの熱と衝撃に吹き飛ばされ苦悶の声を上げる。

 

「うっ……っ!? ぐぁぁぁー!!」

 

 背中を灼熱のウラニウム光線が焼く。 雌のラドンは一瞬だけモスラへの攻撃をやめ、隙を晒したジェットジャガーを狙ったのだ。

 すぐさまモスラのバリアがジェットジャガーの背後に展開され光線を遮断するが、雌のラドンはすぐさま狙いをモスラに切り替え飛びかかる。

 ラドンはモスラを倒せるとは思っていない、その飛びつきも当然防がれた。 ラドンの狙いはただ一つ、モスラを足止めしている間にジェットジャガーを倒し逃げ去る事だ。 モスラも素早いラドンを捕まえられず決定打に欠いている。 このままでは元の木阿弥だ。

 

「くそっ……! この展開は29話の……いや、違う……!」

 

 これは本物の戦いだ、何が起こるかは分からない。 だがそれはこちらからの攻撃も同じだ、光は思考を巡らせる。モスラをサポートしつつラドンを倒す方法を……。

 

「うわっ!!」

 

 頭上から足の爪を向けて掴みかかるラドンを辛うじて回避し、頭の中で作戦を整理する。

 時間は無い、自分の力が弱まっているのを感じる、どうやら時間制限付きらしい事が感覚的に分かる。 攻めあぐねいている暇はない。

 

「よし……来い、ラドン!!」

 

 構えをとりながら、高速で旋回するラドンから目を離さない。 チャンスはラドンが突進してきた瞬間、瞬きすることも許されない一瞬だけが与えられた猶予。

 ラドンは旋回しつつ加速している、どうやら向こうも全身全霊の攻撃を仕掛けようとしているらしい。 突風が吹き荒れる、風は巨大な炎の渦となって街を焼き付くし、ラドンの体を赤々と燃え上がらせていく。

 そして全身に炎を纏ったラドンの速度は亜音速に達し、ジェットジャガーに突っ込む。

 

(今!!)

 

 体をひねりながら低く飛び上がったジェットジャガーはラドンの背中へと回り、燃え盛るラドンの背にしがみついた。 1秒にも満たない一瞬、予想外の行動に混乱するラドンはそのまま高く飛び上がり、モスラと雌のラドンの高度を上回る。

 これを待っていた。光はすかさず目から放つ光線を雌のラドンへ向けて照射し一瞬だけその動きを止めた。 当たりはしなかった、だが動きを止めたその一瞬こそが勝負の分かれ目。

 攻撃を躱す事で体勢を崩したラドンは2段構えの攻撃には対応できない、直後に放たれたモスラの消滅光線を避けることができず、跡形もなく消え去った。

 

「よし、あとはお前だけだ! ……って、うわあああ!?」

 

 気づいた時、ジェットジャガーを乗せたラドンの高度は雲の上にまで達していた。 モスラの方に気を取られて振りほどかれたジェットジャガーは落下していく。

 さらに追い打ちをかけるようにウラニウム光線が迫る。 飛行能力を持つジェットジャガーだがウラニウム光線を防ぐバリアを展開するのに手一杯で、このままでは地面に叩きつけられる。

 

「こんなところで……!!」

 

 落ちゆくジェットジャガーを遠くに見つめながら、由愛は目一杯に息を吸い込み、肺に取り込んだ空気を全て吐き出すように、できる限りの声で叫ぶ。

 

 

「頑張れー!! ジェットジャガー!!」

 

 

 ──ジェットジャガーは子供たちと心を通わせることで強くなれるんだ、みんなの応援がジェットジャガーの力になる、だからアタシのこと、応援して!

 

 光から聞かされたジェットジャガーの設定……由愛はそれを信じて力を振り絞った。 声はモスラのテレパシーを通じて光の耳へと届く。

 不思議だ、ただの設定だったはずなのに、体の奥底から力が湧いてくるのを感じる。

 

「そうだ……そうだよ由愛ちゃん……それがジェットジャガーのパワーだ!!」

 

 バリアを貼る左手に右手を合わせ、拳を引く。 それはジェットジャガーが繰り出す最大最強の必殺技。 突き出された両拳がジェット噴射によりバリアを内側から突き破り飛び出す。

 

「ジャガーーーー!! ロケットパーーーーーンチ!!!」

 

 両拳がウラニウム光線を引き裂きながらラドンへと迫る、しかし……最後の切り札はあとわずかといったところでラドンに回避された。

 ラドンはもはやジェットジャガーやモスラと戦うつもりなどない、このまま逃げてしまえば、生き延びることが出来る。 ジェットジャガーにはもう攻撃の手は残っていない、勝利の軍配がラドンの方に上がろうとしていた、その時。

 

「その行動は……読んでいたーー!!」

 

 ロケットパンチを放った直後、ジェットジャガーはすかさずジェット飛行でラドンの目の前へと迫っていたのだ。 拡散するウラニウム光線による目くらましに対する、見事なまでの意趣返しだ。

 ラドンの頭上まで飛び上がったところで腕を合体し、再び拳を構える。 絶対に外さない距離、絶対に避けられないタイミング、繰り出す一撃に全てを込める。

 

「これがジェットジャガー! 南条光だァーーー!!」

 

 ドッ!! と鈍い音が遥か天空に響く、超高速で撃ち出された拳がラドンを真っ直ぐに地上へと落とし……その巨躯を叩きつけ、ついにあの翼竜ラドンが沈黙した。

 地上へと戻ってきたジェットジャガーは、動かなくなったラドンを見つめ静かに佇む。

 やがてその体は黄金の粒子となって消滅し、ひとり地面に立たされた光はジェットジャガーのソフビ人形を握りしめながらモスラを見上げた。

 

「ありがとう……由愛ちゃん」

 

 日本を襲う未曾有の危機は、2人の少女によって防がれた。

 

 

 

〈6月1日、10時28分〉

 

「す、すごい!! 本物のメーサーヘリだ!!」

 

 戦いは終わった、破壊された街は元通りではないものの、戦いの後でモスラは残された力を使って火災だけは跡形もなく消し去ってくれた。復興に時間はかかるだろうが、立ち直れないほどではない。

 光は大阪へと帰る由愛と美優に別れの挨拶をしにきたのだが、なんと2人の帰省手段とはメーサーヘリによる空路だったのだ。 Gフォース基地のフェンス越しではあるものの、実物のメーサーヘリを目の当たりにし光の興奮は冷めない。

 

「光さんのジェットジャガーに与えた力は、1度きりではありません。 恐らく数える程でしょうがあと数回はジェットジャガーに変身できます」

 

「え、そうなの!?」

 

「はい、ですからもし……」

 

「うん! もし由愛ちゃんに危機が迫った時には必ず駆けつけるよ!」

 

 もし街に危機が迫った時は変身して戦って欲しいと、そういうつもりだった由愛はパチクリと目を見開いた。

 

「そしてまた由愛ちゃんに会いに行く、大丈夫! どこにいたってアタシが守るから!」

 

 思いがけない言葉に由愛は顔を真っ赤にして、スケッチブックに隠れる。

 

(光ちゃんったらなんて大胆……! これで男の子だったら完全に告白だわ……!)

 

「あれ? そのスケッチブック……アタシに見せてくれたのと違うやつ?」

 

「う、うん……あの……これ……!」

 

 パラパラと顔を覆ったままページをめくっていく、そこには色とりどりの水彩画で描かれた沢山の風景画や、人物画が並んでいた。

 

「綺麗な絵も見たいって言うから……こっちは、趣味で描いてる絵で……その……どうですか……?」

 

 光はまじまじと絵を眺めて、うーんと唸る。

 

「……うん! っっっごく、いい絵だよ!」

 

 光は由愛と目を合わせて、ニッコリと笑顔を見せながらそう答えた。

 

 

 

 正義のヒーロー、ジェットジャガー。 その後、人々の前には何度かこのヒーローが現れた。

 だがこれ以降、光と由愛が再会することはなかった、二人の約束が果たされるのは、いつの日か……。

 

 

 

 

 

〈エピソード7:ボクらのヒーロー!〉 一完一

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