〈幕間:狂いだす歯車〉
──パパ、ママ、どこ?
風の音と雨の音で、誰の声も聞こえない。 雷鳴が響く、冷たい、寒い、怖い、びゅうびゅうと風が吹く度に、何かが崩れる音がする。
遠くに何か見える、あれは何? あれは嵐の王、黄金の三つ首、黄金の翼、けれどあんなものはただの虚飾、自分の事を地球の王様だなんて勘違いしているだけの、ニセモノ。
けれど誰もニセモノの王様を咎めることは出来ない、あれは乱暴で、我儘で、その上誰よりも強くて、誰にも止められないから。
助けて、助けて、死にたくないよ。
パパはどこ?ママはどこ?会いたい、ひとりにしないで、寂しい、おいていかないで。
叫んでも声は帰ってこない、私の声はどこにも届かない。 雨と風に流されて、雷の音に掻き消されて、小さな音は行き場がない。
……雨に流されて赤い水が流れてきた、ここは瓦礫とコンクリートで出来た狭い狭いテントの中、私は動けない、抜け出せない。
赤い水が私の服を染めていく、赤い水は大きなコンクリートの瓦礫の下から漏れている。 これは何? これは血、分かってる、分かってるんだよ、でも、私は信じたくなかった。
信じたくない、なんて全然ロジカルじゃないけど、そう思いたかったの、だって、だって。
──あの瓦礫の下にいるのは、パパなんだから。
私は壊れたお人形、色んな人達の手を渡って、誰も私を見て笑顔を見せてくれないの。
気がついた時には、私は児童養護施設に預けられていた、生まれ故郷のアメリカに戻ることも出来ず、身寄りのない私には他の選択肢はない。
帰りたい、私をアメリカに返して、パパとママに会いたい。
そんなワガママは思っていても口にしなかった、私には口がないもの。 喋れないの、心の病だから。
みんな笑顔で話しかけてきた。 私とおんなじ身寄りを失った子供たちと、優しい先生。 でも、いい。 私には本があるから。
知識が私を慰めてくれるから、あなた達はいらない。 だって知らないでしょ? 私は天才なの。 怪獣だって、パパとママの仇だって、私の頭脳で全て殺してみせる。
だから話しかけないで、邪魔だよ。
……あなたは誰? 初めて見る人。 G対策センター? 知ってる、パパとママもそこにいた。
ねえ、私を連れて行って、あなたは私と同じ目をしてる。 そんな嘘の笑顔なんて見せたって無駄なんだから、あなたの瞳の奥には深い深い暗闇が見えるもの、私には分かる。
「ぅ……あ……」
声が……出た?
…………アハッ、アハハハハハハ!! おかしい! 本当におかしいね! 私と同じ真っ暗闇な瞳をしたあなたに、私は希望を見出してしまうなんて! 心の病気なんて、嘘っぱちね!
あぁ、伝えなくちゃ、私の思いを、私を連れて行ってって。 せっかく声を取り戻したんだから、私の言葉を伝えるのはこの人だけだって神様からの思し召しなんだ! 神様なんていないけどね!
「わたしの、ママに、なって」
面を食らったような顔をして、私を見つめ返す。 そう、あなたは私のママになってよ。 私をもう一度、狂った世界へと連れ出して。
「……君は?」
「し、き」
「しき?」
「一ノ瀬志希、だよ、ママ」
〈幕間:狂いだす歯車〉 ー完ー