〈断章:黙示録〉
2036年・ナイジェリア──4度目のキングギドラ襲来、北極海に落下後ユーラシア大陸からアフリカ大陸までを横断していたキングギドラは、ナイジェリアを通過する際に待ち伏せていたゴジラと対面する。
当時対応に当たっていたGフォースアフリカ連合軍はキングギドラとゴジラの両者に対抗する術もなく壊滅、近隣国の難民を受け入れていたナイジェリア国内だけでも1000万人を超える死傷者を出し、スーパーセルの中心で巻き起こっていたであろうゴジラとキングギドラの戦いは目撃者もおらず、その様子は記録として残されていない。
2036年2月23日9時52分(現地時間)、その日はキングギドラ接近に伴う気候変動により空は厚い雲に覆われ、近づくにつれて突風と雷と豪雨も強まっていった。
まだ住民の避難も完了していないアフリカ屈指の大都市の中、ゴジラは静かにキングギドラの到来を待ち受けていた。
背鰭から吹き出す炎とゴジラの体温により打ち付ける雨は蒸気となり、熱帯を生み出す。
静止していたゴジラは僅かに顔を上げて、炎の出力を高める。 奴が来た、真っ直ぐに向かってきている。
雷雲の中に閃光が走り、フラッシュバックに影が映る。 三本首と巨大な両翼。
ゴジラが咆哮すると、建物の窓ガラスがガタガタと音を立てて震えた。 手加減はしない、出し惜しみもしない、この一撃で落とせるならば落とす。 炎は紫に発光し、その熱に耐えきれず傍にある建物が融解する。
次の瞬間、大爆発と見まごう衝撃と爆音が街を駆け抜けると、熱は一筋の熱線となり雲を突き破った。
ゴジラの放つ渾身の一撃はしかし、押し戻されて突き破った雲からこちらへ帰ってくる。 金色の雷撃が熱線とぶつかり合い力で勝っているのだ、光線の撃ち合いなら単純に威力の高い方が競り勝つ。
キングギドラの三本首から伸びる雷光線は混ざり合いひとつの巨大な束となってゴジラに迫っていた。
ゴジラは足を地面に踏みしめ体を固定すると、さらに威力を増幅して迎え撃つ、僅かに逆転した、だがそれも束の間の事だ。 キングギドラの雷撃もまたそれを上回る力で熱線を押し返し、ついに力負けしたゴジラが光線を受けて数百メートルも引きずるように吹き飛ばされ地面に横たわった。
まだだ、この程度軽傷にもならんとばかりにすぐさま体を起こすと、キングギドラは既に1km程離れた位置に降り立ち6つの瞳でゴジラを睨みつけていた。
威嚇し合い、牽制する両者。 雷鳴轟く嵐の中で交わされる探り合いの時間は、不思議なことに静かにさえ思えた。 暴風雨さえも忘れるほどの緊張感が街全体に張り詰めているようだ。
逃げ遅れた住人たちも固唾を呑んで両者を見つめる、これから繰り広げられる戦いの目撃者は、一人として生きてその様子を伝えられる事は出来なかったが。
しかし誰もが思ったであろう、これが、これこそが世界の終末であると。
ゴジラが咆哮し、大地を揺るがしながら駆け出す。 一歩ごとにビルのガラスが砕け、道路は沈み、街が壊れてゆく。
キングギドラは左右の首から光線を撃ちゴジラの胴体を捉えるがゴジラは微塵も怯まない。 効いていない訳では無い、ただ押す強さよりもゴジラの歩みの方が勝っているだけだ、要するに怪獣王は痩せ我慢をしながらキングギドラに猛突進している。
接近は正しい、遠距離戦ではキングギドラに分があるが腕力ではゴジラが勝る。
当然、キングギドラもそれは理解している。 この戦場は全てキングギドラの領域だ、中央の首が天に嘶くと、頭上の雲に金色の光が数度明滅し、次の瞬間ゴジラに向かって雷が走った。
キングギドラは再度天を仰ぐと、さらに数発の落雷がゴジラに襲いかかる。
皮膚が砕け、背鰭が砕け、なおも猛進するゴジラは隙を晒す中央の首目掛けて熱線を撃つが、キングギドラは光線を止めると三本の首からバリアを展開し熱線を湾曲させ明後日の方向へといなす。
キングギドラの貼るバリアは、モスラのそれとは原理が大きく違う。
モスラのバリアが攻撃を弾く強固な「盾」であるのに対し、キングギドラのバリアは空間を湾曲させる事であらゆる干渉を跳ね除ける特殊な力場を生成するものだ。
どちらも魔法のような力ではあるが、科学的にある程度近しい事が再現可能であったモスラのバリアと違い、空間そのものを歪ませ物理法則を捻じ曲げてしまうキングギドラのバリアは正しく究極の防御手段である。
話を戻そう。 お構い無しに熱線を吐き出しつつ迫るゴジラに対して、キングギドラは両翼を広げてひと息に上空へと舞い上がった。 バリアによる湾曲を受けなくなった熱線はそのまま直進し、ビル群を撃ち貫く。
キングギドラは三つのビルに向けて引力光線を浴びせると、重力から解放されたビルが浮き上がりゴジラに激突する(この攻撃方法を仮にポルターガイストと名付ける)。
キングギドラは次々にビルや地盤を持ち上げてはゴジラに投げつけ大質量によってゴジラを押し潰そうとするが、ゴジラは熱線、背部拡散熱線、テールカッターと様々な熱線攻撃を使い分けながら持ち上げられたものを随時撃墜する。 最初こそ苦しめられたキングギドラの得意技も、今のゴジラにとっては恐るるに足らぬ。
引力光線vs熱線、この戦いが続く程に都市の景観は崩れ、土地という土地が消滅してゆく。
ポルターガイストは通用しないと分かるや、キングギドラはゴジラの真上へと移動する。 翼が黄金の光を纏うと、翼膜から放つ無数の雷撃が雨あられの如くゴジラに降り注ぎ一切の抵抗を許さずついにゴジラをダウンさせた。
蓄積したダメージと第二戦闘態勢の維持による激しい消耗が、ゴジラを地に伏せたのだ。
しかしキングギドラは攻撃の手を決して緩めなかった、その徹底した攻撃はどこまでもゴジラに対する恐れから来る行動だ。 この生物はどれだけの攻撃を浴びせたとしても「やりすぎ」なんて事は無い、死に絶えるまで攻撃し続けなければならないと言う慢心を捨て去ったからこそ出る行動であった。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね……そんな呪言すら聞こえてきそうな程の執拗な攻撃、そこには一遍の油断もない。
どうだ? まだか? まだ死なないのか? あと何分攻撃し続ければいい? 地面を見下ろしていると、爆煙の中に揺らめいていた紫色の光が一瞬だけ赤く色を変えた。
すると、雷撃を軽く掻き消す無数の赤い熱線が煙の中から突き出し、キングギドラは左首、両翼膜、二本の尻尾、胸、腹の二箇所を同時に貫かれ、そのままゴジラの上に墜落すると思われた次の瞬間、爆煙を切り裂くように振り抜かれたゴジラの尻尾がキングギドラの右横腹を捉え、キングギドラは真横に跳ね飛ばされた。
ゴジラは先ほどまでと同じように紫色の形態を保っている、あの時見えた赤い光は何だったのか、キングギドラはより一層警戒心を高めながら肉体を再生させる。
翼膜と胴体の穴はみるみるうちに塞がり、千切れ失われた尻尾と左首も新たに生え変わる。 オルガナイザーG1とも異なる未知の再生能力、その中枢となる機能が何たるかは未だ人類には解明できていない。
キングギドラは翼を支えにして立ち上がるが、既にゴジラは目の前にまで迫っていた。 腕の骨剣を胸に突き立てて押し出す、キングギドラを数十メートル後退させた所で骨剣を引きながらさらに斬撃を与え、すかさず熱線を浴びせた。
キングギドラは熱線に吹き飛ばされながらも光線を吐き反撃すると、両者ともダメージを受けて攻撃が止まった。
熱線が通用しないゴジラにしてみれば千載一遇のチャンスだったがダメージの蓄積はあるはずだ、ここで手をゆるめる訳には行かないと果敢に突進を繰り出すが、今度は引力光線が飛んでくる。
体の自由を奪われたゴジラは軽々と振り回されビル群に激突、キングギドラは一回転し、さながらジャイアントスイングの要領で次々にビルをなぎ倒しながらゴジラにダメージを与えていき、最後は遠方へと投げ飛ばした。
ゴジラの落下地点を確認し三本首が嘶くと、上空の雲から無数の雷がゴジラへと降り注ぎ、翼からも雷撃を繰り出す。 地上と空からの波状攻撃には、さしものゴジラも抵抗する術を持たない。 この距離では熱線が届く前にバリアによって防がれてしまうゴジラにとっては絶体絶命の状況だ。
ならば、熱線をキングギドラに向けて撃たなければいい。
地べたに伏せながら、ゴジラは地面を這うように熱線を撃ち激しい爆発を伴いながら熱線がキングギドラの足元まで迫る。 キングギドラは下方向にバリアを展開するが、どういう事か熱線がキングギドラに届く前に照射を止めた。 すると、熱線によって舞い上がった土煙を真っ二つに裂きながら横一線のテールカッターが飛びかかり、キングギドラの三つ首を刎ねる。
熱線は囮だ、防ごうとして攻撃を止めた隙に、煙幕を利用してキングギドラに気づかれないようにテールカッターを繰り出したのだ。
キングギドラは真後ろに倒れ、首を再生し始めるがその間は隙だらけだ。 ゴジラは急接近しキングギドラを見下ろす位置まで来ると、真っ先に再生した中央の首を熱線でまた破壊し、ガラ空きになったキングギドラの胴体を全体重をかけて踏みつけた。
首の再生が始まる度に熱線で潰し、時には首根っこを掴んで引き千切り、さらには骨剣で切り裂きながらキングギドラの抵抗を阻む。
勝負あったかと思われたその時、キングギドラの翼が動きゴジラを包み込むと、凄まじい雷撃が至近距離でゴジラに襲いかかった。
慌てて後退しようとするが二本の尾と翼でゴジラの体を掴み、その炎で焼けるのも構わず雷撃を浴びせながらキングギドラは三つ首の再生を完了させ三本同時の光線でまたもやゴジラを吹き飛ばす。
まさに一進一退、互角の戦いだがやや有利なのはキングギドラの方か。
キングギドラは体勢を立て直して追撃を試みるが、その時己とゴジラの間を隔てるようにして、直径200mほどの見たことも無いリング状の力場が発生している事に気づく。
まさかゴジラの知らない攻撃があると言うのか? キングギドラは光線を撃ち込むと、なんと光線のエネルギーが全て打ち消され吸収されてしまった。
ディフュージョンリング……当時人類ですら知り得なかったゴジラの切り札。 熱線エネルギーを応用して作り出したリングの内側に、あらゆるエネルギーを吸収し拡散する特殊なフィールドを形成する技。
これは攻撃を無力化する盾であると同時に、ゴジラの熱線を強化する砲台でもある。
その危険性に勘づいたキングギドラは低空飛行で射程外に逃げる、あのリングの真正面に立ってはいけない、回り込まなくては。
しかしリングはゴジラの向きに連動してキングギドラを追尾した。 そして、リングにゴジラの熱線が照射されると、ディフュージョンリングによって増幅された熱線は無数に拡散し超広範囲を一度に焼き払う熱線のシャワーとなって飛び交う。
バリアによって急所への直撃を避けつつ旋回するが、これでは攻撃する隙がない。 さらに、キングギドラが旋回する事で熱線のシャワーは街を襲い、アフリカ最大の繁栄都市を跡形もなく壊していく。
このディフュージョンビームの360度水平放射によって都市は壊滅、街に取り残された全住民が焼き殺され、戦いの記録は嵐の中に消え去った。
このままでは耐えきれないと諦めたキングギドラは光を纏い天空へと飛び上がる。 引力光線の応用で、この能力を用いてキングギドラは地球の重力を軽々と振り切るのだ。
しかしゴジラも逃がしはしない、ディフュージョンビームの追撃は止まらず、拡散されていた熱線は集束し、一本の巨大な熱線となって積乱雲に大穴を開ける。
バリアによって熱線の直撃を免れながら、キングギドラは宇宙空間に辿り着くまで必死に逃げ、ついにはゴジラのエネルギー切れによって最後の攻防が終わった。
キングギドラの敗走、しかしゴジラが負ったダメージも、消耗した体力も大きすぎる、今Gフォースを相手にする余力はない。
上がりすぎた体温を雨で冷やしながら、ゴジラは戦闘態勢を解き、海を目指した。
次だ、次こそは。 ディフュージョンビームですら決着を付けられないのならば、最後の手段を使わざるを得ない。
結局、その次の戦いはゴジラの一方的な勝利であった。 ディメンションタイドの影響で異常進化の途中にあったギドラを一撃のもとに葬り、偽りの王が虚空に消えたのは後の記録の通りだ。
この戦いは人類の歴史に残されていない、残されたのは、惨劇の跡のみ。
終劇へと向かう前に書き記す、戦いの断片である。
〈断章:黙示録〉 ー完ー