ゴジラvsシンデレラガールズ   作:キシ

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〈エピソード2:自由研究〉

〈2020年3月15日、20時13分〉

 

 岐阜県、とある山沿いの道路を走る一台のミニバンが、中央線を大きくはみ出すほどにその車体を左右に振りながら、法定速度を超えて暴走していた。

 その後ろを崖下から追いかけるのは、大きなヒレと長い首、そして黒い斑点模様がびっしりと並んだ赤い体が特徴的な怪獣、恐龍チタノザウルスだ。

 

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 

 この命の瀬戸際で繰り広げられる地獄のカーチェイスに挑む......もとい、巻き込まれた原田美世が、1秒前に通った道がチタノザウルスの左手の一振で崩壊するのをミラー越しに確認して絶叫する。

 彼女をこんな事態に巻き込んだのは、やたらに仰々しい機材を設置した後部座席で、呑気にハイタッチを交わす2人の少女。

 

「実験は大成功ね、さすが天才を名乗るだけのことはあるわ」

 

「ふふん、もちろん私は天才だが、マキノの怪獣に関する情報と、ネット仲間がプログラムを完成させてくれたおかげだ! 感謝するぞ!」

 

「ふふ、イズミにもそう伝えておくわ」

 

 美世のいとこであり自称天才発明家の池袋晶葉と、どこで道を間違えたのか晶葉の狂った実験をサポートする八神マキノ(と、静岡にいるらしい彼女のネット仲間)が行っていた「研究」に付き合わされたのが運の尽きだった。

 

「ねえぇ!!なんでそんなに呑気なの!?」

 

 チタノザウルスが手を振り払うと、またしてもサイドミラー越しに道路が倒壊するのが見える。比較的大人しい怪獣らしいがとてもそうは思えない。今はまだギリギリその攻撃範囲から逃れているが、いつ捕まるかわかったものでは無い、しかも走りなれていない夜中の道路をただのミニバンで暴走するなど、いくら運転に自信のある美世でもそれだけで命懸けだ。

 

「おっと! おいおい、結構デリケートなんだから安全運転で……」

 

「安全運転なんかしてたら死ぬでしょ!!」

 

「正論ね」

 

 迫る右腕、倒壊する道路、チタノザウルスの象にも似た鳴き声がさらに美世の恐怖心を煽り立てる。

 

「いやぁぁぁぁぁ!!死にたくなぁぁぁぁぁい!!!!」

 

 事の発端は数時間前、晶葉の突拍子もない一言から全てが始まった。

 

 

 

〈同日、16時26分〉

 

「美世、自由研究に付き合ってくれ」

 

 今日は3月にしては暖かいな〜、などと晴れやかな気分で洗車しているところに、相変わらず小さな身の丈に合わない白衣を着た晶葉がやってきてそう言った。

  こんな時期に自由研究なんて宿題があるのか聞いてみたら、どうやら全く関係なく趣味でやりたいことがあり、そのために車を出して欲しいとの事で、こんな日曜の夕方になるまで部屋にこもって発明に精を出していたらしい。

 

「また変な機械作ったの?」

 

「変な機械など一度も作った覚えはない! とは言え少々大掛かりなマシンでな、この車でなら丁度いいだろう」

 

 そう言いながら洗車中のミニバンの後部座席を覗き込む、恐らく機材を置くスペースを探しているのだろう。

 

「うむ、これなら大丈夫そうだな、準備を整えておくから洗車が終わったらこの車を出してくれ」

 

 そう言って一方的に約束を取り付けて、晶葉は家に戻って行った。晶葉は恐らく「自由研究という名のロクでもない実験をするからこの車に乗せて欲しい」という意図を示したつもりなのだろうが、一言も言ってないしこちらも了承してない。

 美世は慣れたような、諦めたような溜め息を吐いた。

 

 

 2人は親戚で、元々東京に住んでいた池袋一家があの事件で家を失い、石川県にあるこの家に移り住んできた。

 ゴジラ襲来……それは9年前、正しくは8年と4ヶ月前に、東京を火の海と化し、怪獣時代と呼ばれる現代の訪れを告げた最悪の怪獣災害。

 今日までに全世界で確認された怪獣の数はもはや300を超え、ここ日本においても、怪獣の出現はすでに地震や台風と言った自然災害のひとつのように認識されており、国民にとってもある種身近なものとなっていた。

 当然人類も黙ってやられるだけではない、国連が怪獣の観測・調査・討伐を目的としたG対策センターとその軍事組織Gフォースを発足し、人類は怪獣に対する抵抗力を得た。

 ゴジラ襲来後も幾度となく襲われた東京──怪獣は大都市や発電所のような人類の繁栄を象徴する場所を積極的に狙う習性を持つという説がある──は既に都市としての機能を果たせなくなっており、首都を大阪に移して以降、G対策センターとGフォースの極東本部を構える軍事都市となっている。

 

 

 

「なにこれ?」

 

 それからしばらくして、晶葉の指示に従ってミニバンのトランクに次々と謎の機械を積んでいくと、謎のダイヤルやらメーターがいくつも並ぶ大きなひとつのマシンが組み上がった。

  一見バラバラだったはずの機械同士がいつどうやってこうも上手いこと組み合わさったのか、組むのを手伝っていた美世にもよく分からなかったが、それはいつもの事なので深く考えることはしない。

 

「この部分が元ビデオデッキ、これが元ラジオ、これが元レコーダーで、これは何だ? わからん」

 

「自分で拾ってきたんでしょ……?」

 

 ここ半年ずっと粗大ゴミを拾ってくるのを見ていたが、まさかこうして合体するとは流石の美世にも予想外だ。

 というのも、普段は簡単なロボットや自作PC、妙な発明品に留まっている晶葉にしては、ここまで大掛かりなマシンを作るのは珍しいからで、思えばこの時点でもう少し詳しく追求すべきだった。

 

「よし、じゃあ出発だ! まずは岐阜にいる協力者を拾いに行くぞ!」

 

「はいはい、まードライブならいくらでも付き合うけどね」

 

 ……と、軽い口を叩いていたのだが、よく考えてみれば美世はこの時“機械の正体”を聞かされていなかった。構成するパーツが何だったのかだけを説明して、晶葉はこれが“怪獣探知機”である事は秘匿していたのだ。

 

 怪獣探知機……つまり、これが怪獣を探しに行くドライブである事を美世が知るのは、まだ数時間後の話。

 

 

 

〈19時50分〉

 

 岐阜県で晶葉の協力者・八神マキノと合流後、近くのファミレスで夕食を済ませた後にやってきたのは、ある山奥にある寂れた観光施設跡地。 文字が掠れて読めない看板の脇を抜けて、土産物や食事処が存在していたのであろう、木造の大きめな建物が残されている駐車場に車を停める。

 

「どうだ?」

 

「そうね……近そうではあるかしら」

 

 八神マキノ、知的で落ち着いた雰囲気の高校二年生。情報収集が趣味らしく、晶葉とはネットで知り合ってから晶葉の欲しがる情報を提供しており、こうして会うのも初めてではないとのことだ。

 

(たまに一人でどこか行ってたけど、まさか岐阜とはね)

 

 晶葉は窓から体を乗り出して例の粗大ゴミ合体マシンと線で繋がれたレーダーのようなものを掲げ、マキノはノートPCとマシンのメーターを見ている。 部外者である美世から見ても何かを探っている様子なのは分かったが、それが何なのかはまだ理解できていない。

 というより、晶葉がこうして楽しそうにしているなら理解できなくてもいいと思っていた。

  今でこそこの通りだが、こちらへ引っ越してきた当初は酷いものだった。5歳の頃にゴジラに家を焼かれ、炎上し崩壊する東京を見てきたショックは相当に耐え難いものだったのだろう、最初の半年間は口も聞いてくれないどころか、部屋に閉じこもったままで顔を見ることも叶わなかった。

 ようやく心を開いてくれた晶葉が最初に見せたものは、そこら辺にあったおもちゃを適当にくっつけただけの「発明品」で、美世は弟と晶葉の3人でよく遊んでいた。

 成長すると電子回路を独学で学び取り入れ、本格的な発明品になっていき、やがて美世の理解を超えた複雑な機械作りへと変化し、今ではここまで大掛かりで複雑なモノまで作り出して……。

 振り回される苦労はあるけど、それが楽しくて、嬉しくて、こんな時代だからこそ前を向いて生きている晶葉に、いつの間にか自分の方が救われていたんだと、今なら分かる。

 

(なんて、本人はそんなこと思ってないんだろうけど)

 

 シートに深く腰掛けバックミラー越しに後部座席を覗き、聞こえない程度に鼻を鳴らす。

 するとピピッ、ピピッと機械から何らかの反応を示しているのであろう信号音が鳴る。

 

「晶葉、反応キャッチしたわ」

 

「よーし……向こうだ、あの山の奥だな!」

 

 晶葉が山の山頂にレーダーを向けると、信号はピピピピピと連続した早い音に変わる、マキノは車を発進する準備を美世に促し、再びノートPCに目を向ける。

 

「なに? どうしたの?」

 

「怪獣を見つけました」

 

「……えっ?」

 

 マキノの静かな一言はエンジンをかける音と重なって若干聞こえづらかったが、それでも確かに“怪獣を見つけた”と聞き取れた。

 あんぐりと口を開けたまま固まる美世を見て、マキノは頭に「?」を浮かべながら晶葉に問う。

 

「……ねえ、美世さんに何も説明していないの?」

 

 まさか、といった様子でマキノが恐る恐る尋ねると、晶葉はあっけらかんとした口調でこう言いきった。

 

「当たり前だろ、説明したら車を出して貰えなくなるからな」

 

「ちょ、どういう……わっ!?」

 

 暗闇の中、山奥から象の鳴き声に似た遠吠えが聞こえ、全員ビクリと肩をすくめる。

 続いて、土砂が崩れる音、木々がなぎ倒される音、地面が揺さぶられる音が連続して聞こえ始めた。

 

「この反応と鳴き声は間違いなくチタノザウルス、この辺りの山中にずっと潜伏してたのね」

 

「うむ、狙い通りの怪獣を狙い通り探知できたな」

 

「ちょっと! これなにしてんの今!?」

 

「ふふ、これぞ新発明「怪獣みつけーるくん1号」だ! いいか、怪獣というのはそれぞれ種類ごとに異なる電磁波を発しているんだ、これはその電磁波と怪獣の体温を探知し識別することでどんな怪獣がどこに潜んでいるかを発見できる! 今回はチタノザウルスがここに……」

 

「待って、レーダーを見て、こちらに近づいてきているわ」

 

「ん? 何故だ、チタノザウルスは怪獣の中でも特に温厚で滅多に人を襲うことは無いんじゃなかったか?」

 

「それでも空腹で気が立っていたりすれば暴れるし、肉食だから人間だって襲うわ。 言っておくけど、怪我人も含めてこれまでに50万人以上の被害者が出ているのよ?」

 

「なるほど、ということはつまり……」

 

「つまり逃げなきゃ死ぬってことでしょ!!」

 

 美世がアクセルを踏み込むと、頭を強打した晶葉の唸り声が聞こえたが、そんな事を気にしている余裕は無い。

 地響きを伴う足音に車体が揺れる、どれほどの距離を保っているのかは確認のしようがないが、とにかく逃げなければ。

 

 こうして美世は真っ暗闇の山道を怪獣に追われながら駆け抜ける、命懸けのデスレースに興じることとなった。

 

 

 

〈20時18分〉

 

「美世さん、この先S字カーブになってるから気をつけて!」

 

「うおおおお!? 今チタノザウルスと目が合った! 合ったか? 暗くてよく分からんな!」

 

「晶葉うるさい! 舌噛むよ!」

 

 最低限の減速、まだチタノザウルスからは逃げられそうなスピードをギリギリ出しながらS字カーブに入る、大きく車体を振ると、また晶葉の悲痛な声が聞こえた。

 カーブするということはチタノザウルスとの距離を縮める事になる上に、一瞬だがチタノザウルスの目の前に出るという事でもある、つまりその攻撃を真正面から受けやすくなる危険性がある。

 

(減速は最低限、カーブを曲がれる限界速度! ああもう、お尻が重たい!)

 

「今だ! 2人ともチタノザウルスの方を見るなよ!」

 

 そう言って晶葉はメガホン型のメカを取り出しスイッチを押すと、指向性の強烈な光が瞬いてチタノザウルスの目を眩ませた。

 カーブでチタノザウルスの眼前に出るこのタイミングを待っていた甲斐あって効果は抜群だ。

 

「どうだ! これぞフラッシュくん3号だ!」

 

「もっかい曲がるよ!」

 

「うおおおおお!!」

 

 急速な左方向へのカーブ、窓から体を乗り出していた晶葉が遠心力で引っ張られるのを、マキノが片手間に引き寄せて事なきを得る。

 

「窓閉めておきなさい」

 

 晶葉は素直に窓を閉めて、改めてシートベルトを装着する。

 フラッシュくん3号の光は対怪獣用の凄まじい光量を浴びせる、チタノザウルスはもう正確にはこっちを追ってこられないはず……と油断した矢先、先程までよりも激しく大きな崩落音が響く。

 

「ん? アイツまさか……お構い無しか!」

 

 視界を潰されてめちゃくちゃに暴れるチタノザウルスは、崖沿いにこちらを追っては来れなくなった代わりに、無闇矢鱈に前進しようとして崖をよじのぼり始め、揺れと土砂崩れが3人に襲いかかってきた。

 

「うぎゃぁぁぁぁああああ!! 悪化してるじゃないバカ!」

 

「いや、だがこの高さなら登りきれないはず! 目が回復して崖沿いを歩けるようになるまでに振り切ってしまえば安全なはずだ!」

 

 実際、晶葉の分析は当たっていた。チタノザウルスは崖は登れず結局視力が回復するまでこちらに追いつくことはなかった。

 だが依然として問題はある、現に今こうして崖の反対側まで土砂崩れを起こして攻撃を仕掛けてきている、向こうには攻撃手段がありこちらにはない、互いの条件はあまりにも不公平かつ理不尽なものだ。

 

「ああああああああぁぁぁ!!!! 絶対今石当たった!! 天井!! へこんでるコレ!!」

 

「マキノ! 今なにか反応があったぞ!」

 

「ええ、でもこれは怪獣じゃないわ! 飛行物体、やっと来た!」

 

 2人が何かを発見し騒ぐ一方、美世は崖から崩れ落ちるものを敏感に察知し回避を続けていた。だがチタノザウルスの破壊規模は予想よりも大きく、ついにその時は来た。

 

「ヤバッッ!!」

 

 前方に木が倒れてきたのを見て、美世は急ブレーキと同時にハンドルを大きく切る。

 判断は早かった、しかしそれ以上にスピードがありすぎた、横向きのまま倒木に車体後部を強く叩きつけてようやく止まることが出来たが、もはやここまでだ。

 

「がっ!! いっ、たあ……!」

 

 美世は激しく体を揺さぶられシートベルトに肋骨と肺を押さえつけられ、一瞬呼吸が止まる。

 しかしこのような事態の時、急ブレーキと停止を予測できている運転手が一番安全なものだ。 他の席に座っているものは、身構える暇もなく衝撃に晒される。

 後部座席を確認すると、リヤと左後部ドアの窓ガラスが全て吹き飛んでいる。ガラスが刺さったのか強く打ち付けたのか、晶葉とマキノは頭から血を流しながら気を失っていた。

 

「く……うぅ……!」

 

 呼吸を整えつつシートベルトを外し車の外に出ると、思った以上に自分がダメージを受けていたことに気づく。体もだが、停止した時に頭をゆさぶったのが何より不味かった。

 気づくとチタノザウルスは視力を取り戻したのか、崖で暴れるのをやめてこちらに近づくように足音を鳴らしていた。美世は構わず後部座席のドアを開け、2人のシートベルトを外す。

 

(逃げなきゃ……2人、担げるかな……どうすればいいんだろう……?)

 

 絶体絶命の状況に加え、クラッシュの衝撃ですでに正常な判断力を失っていた。思考は鈍く、目は霞み、立っていられるのがやっとの中で、それでも2人を救出しなければ、という思いだけが美世の体をなんとか動かしていた。

 

(やば……もう、近くに……)

 

チタノザウルスは既に目と鼻の先まで迫っていた。その眼光はハッキリと美世たちを捉え、今にも襲いかからんと気迫に満ちている。

 

「晶葉……起きて、逃げ、よう……!」

 

 しかし……もう限界だった、美世は晶葉の体を引きずり出そうとした所で、その上に倒れ込む。 指一本動かすのも辛い、意識が朦朧とする中で、チタノザウルスの甲高い咆哮に耳を塞ぐことも出来ず、美世はこれで最後かと目を閉じた。

 

(もう……)

 

 そしてチタノザウルスが右腕を振り上げたその時、暗闇を切り裂く閃光がその胴体に直撃し大きく体を押し返した。

 

(何か……光った……?)

 

 それはメーサー砲の光、先程晶葉とマキノが捉えた飛行物体の正体である14式メーサー攻撃機、通称メーサーヘリと呼ばれるGフォースの主力兵器が放ったものだった。

 二機のメーサーヘリによる集中攻撃を受け、チタノザウルスは転倒、大きな揺れが美世の体を浮かせるが、その手は無意識に晶葉の体を掴み離そうとしない。

 美世は、最初のメーサーの光を視界の端で感じたのを最後に気を失っていた。

 

 傷だらけの3人の真上で、メーサーヘリがホバリングする──。

 

 

 

〈翌日、14時28分〉

 

 目が覚めてから1分間、晶葉は一言も喋らずじっと白い天井を見つめながら、自分が置かれている状況を冷静に分析していた。

 

(助かったのか……)

 

 病院であることは分かった、呼吸器が付けられ、点滴を打たれ、心電図も取っている。なぜこうなったのかも凡そ理解したところで、眠気に襲われた晶葉はゆっくりと目を閉じた。

 

(いや……まだ確認することがある、美世とマキノを探さないと)

 

 生憎ベッドの周りはカーテンがかかっており、物音も聞こえないので他に人がいるか確認できない。手足の指を軽く動かし五体満足である事を確かめると、晶葉は呼吸器を外すために腕を動かした。

 

「いった!!」

 

 右腕に激痛が走り思わず声を上げ、左手で痛みのあった箇所を押さえる。左手は無事だが、右手は骨折しておりギプスがはめられていた。

 

「晶葉!」

 

 すると、左側のカーテンを勢いよく開きながら、美世が姿を現す。首にコルセットこそ巻いているが、特に目立った怪我もなくすでに歩けるようになっていた。

 その傍ら、窓際のベッドには、自分と同じ状況でマキノが眠っているのが見える。

 

「おお、美世……無事でよかっ」

 

 言い終わるのを待たず美世が駆け寄って、晶葉を優しく抱きしめる。美世のすすり泣く声と、頬を伝う涙の温かさを感じていると、晶葉も感極まってつられるように泣き出してしまう。

 

「よかった……っ!」

 

「……う、うぅぅ……!!」

 

 言いたいことはお互い沢山あった、ただ今は、こうしてお互いの無事を確認できたことが嬉しくて涙を流す。よかった、よかったと、何度も繰り返し口にしながら。

 

 

 

「スミマセンデシタ……車はG対策センターに入ってから出世払いで弁償します……!!」

 

 それから数時間後、美世は意識も安定する所まで回復した2人に延々と説教し、それが一通り終わったところで晶葉がベッド上で深々と土下座しながらそう言った。

 

「はあ?」

 

 また晶葉が思いつきでおかしなことを口走った、と美世は呆れた声を出す。だがそれは決して思いつきではなかった。

 

「私は本気だぞ! いつになるかは分からないが必ず弁償する、なぜなら私は将来G対策センターで数々の天才的発明を残す未来の天才科学者だからな!」

 

「G対策センターって、本気で言ってるの!?」

 

「当然だ! 私たちの作った怪獣探知機の性能は確かだった、あれを材料に私たちの才能をG対策センターに売り込む!」

 

「えっ?」

 

 ぐっと拳を握りながら、自信満々に宣言する。晶葉は本気だ。

 美世はもちろんのこと、そんな事聞いていなかったのかマキノまで目を丸くして固まっている、なにせ私「たち」と言われたのだ。

 

「いえ、私はそんなつもりは……」

 

「やってやる、やってやるぞ! ふははははーー!!」

 

 晶葉はここが病院であることも忘れ高笑いしながら拳を天に突き上げる。

 彼女は本気も本気で、それが自分の将来像だと掲げていた。これは最初の一歩、あの日見た絶望の景色から這い上がった少女の復讐......否、逆転のシナリオの始まりだ。

 

「待っていろゴジラ……お前を倒すのはこの天才・池袋晶葉だ! わはははは! いったあぁぁぁい!!」

 

 晶葉は泣き笑い目に涙を貯めながら、骨折した腕を抑えて再びベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

 G対策センター……G、すなわち「ゴジラ」。

 人類最大の敵、最強の怪獣の名を示すその記号は、単にゴジラを指す以外に怪獣を総称する記号でもあり、ゴジラが人類にとっての最大の転換期を迎えるきっかけとなった事に由来する。

 怪獣時代、人の時代が終わったとされる今、それでもなお怪獣に挑み奮闘する人々がいる。

 奪われた未来、奪われた大地、その全てを取り戻さんとする反逆の御旗。

 

 

 池袋晶葉、彼女がG対策センターでその才能を発揮する……かどうかは、また別の話。 今はまだ力を持たぬ姉妹の日常。

 

 

 

 

 

 これは、怪獣によって狂わされた世界を生き抜く少女たちの群像劇、その始まりの一幕。

 

 

 

〈エピソード2:自由研究〉 -完-

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