ゴジラvsシンデレラガールズ   作:キシ

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〈エピソード15:地球を取り戻す日〉

〈2041年12月4日、13時56分〉

 

 ゴジラが最終戦線ニューフロンティアを突破してから少し後の事、Gフォースの全戦力とゴジラがぶつかっていたその時刻に、彼女はマンションの屋上からはるか遠く東京方面を見つめていた。

「ママ、どうしたの?」

 

 今年で5歳になる男の子が、母の背中の裾を引く。 ゴジラとの最終決戦はGフォース側が今のところ優勢、しかしANEBが投与されるまでの一切油断の許されない戦いは熾烈を極め、国中の人々が不安に怯えていた。

 だが、この戦いにまだ参加していない最後のピースとなる人物がここに居る事を、まだ誰も知らない。

 

「少し出かけてくるから、いい子で待っててね」

 

「どこにいくの?」

 

「友達に会いに行くの、約束してたからね……みんなには内緒だよ?」

 

 口元に人差し指を当てて微笑むと、彼女はポケットから取り出した宝物を握りしめ、その名を叫んだ。 一筋の閃光が、最後の戦場へと駆ける──。

 

 

 

〈13時21分〉

 

 時は僅かに遡り、ニューフロンティア壊滅後の東京・旧新宿跡地。 黒き怪獣王は、悠然と歩みを進めていた。 あれほどの戦いをくぐり抜けてなお健在であり、デストロイアとモスラによって傷つけられたはずの肉体には、ただ一つの欠損すら認められない。

 これが怪獣王、全生態系の頂点に座す覇王の姿。 この地球上においてもはやゴジラを脅かす個など存在し得ない……唯一、知性という武器を持つ人間を置いては。

 

「本当に行くんだな? 美世」

 

『こんな時まで何言ってるの、“この子”には私が必要なのよ、アンタよりこの子に詳しいんだからね?』

 

「…………私を置いて行くなよ」

 

『当たり前でしょ……じゃあもう時間だから、しっかりね』

 

「……うん」

 

 G対策センターからGフォース基地へと繋がる渡り廊下を足早に歩きながら、晶葉は美世との通話を切った。 美世は轟天号に整備班の班長として乗り込む、晶葉がそれを止めようとするのは私情だ、しかし轟天号の本作戦での役割はゴジラの体に穴を開けANEB投与の傷口を作ること、文字通りゴジラへの突貫が主になる。 最も重要で、最も危険な任務に付き合おうとする美世を止めたくなるのは必定、晶葉も理屈の上では分かっていても本心では家族を死地に送るような真似はしたくない。

 けれど時間切れだ、轟天号は飛び立つ。 晶葉に出来る事は確実にANEBを打ち込み一刻も早くこの戦いを終わらせる事だけだ。

 晶葉が長い渡り廊下を抜けると着いたのはGフォース基地の5階、無人機操縦ルーム。 目当ての無人メーサーヘリはもちろん、無人メーサータンク、スーパーXIIの操縦も一手に担う。 既に無人機隊の隊員達がそれぞれの座席に座りスタンバイしている中、晶葉もANEB搭載メーサーヘリの操縦席につく。 部屋に設置されたいくつものモニターと放送で随時状況が知らされるが、晶葉はマキノからも個別に状況説明と指示を受ける。

 

「それにしてもよく許可して貰えたわね?」

 

「私がメーサーヘリの操縦を任される事か? まあな、そもそもメーサーヘリの遠隔操作を可能にするプロジェクトは私と泉の主導だったし、私にもこれくらいの特権はあるだろ! ハハハ!」

 

「要するに実績を盾にわがままを通したのね……まあいいわ、メーサーヘリ部隊は既に出てるけど、あなたは指示があるまで待機よ」

 

 メーサーヘリを無人化した事で、長い訓練期間も戦死のリスクもなくなり、誰でも簡単に操縦できるようになった。 無人のため救助活動などは出来なくなったが、操作方法さえ理解出来れば晶葉でも十分に扱える。

 

『スターファルコン、テイクオフ。 続けて轟天号、発進用意』

 

「……死なないでくれよ、美世」

 

『轟天号、テイクオフ。 続けてヴァルチャーワン、ヴァルチャーツー、発進用意』

 

 放送で轟天号の発進を知らされる、極東Gフォースが誇る全戦力を投入した決戦、その作戦最終段階がついに始まった。

 

 

 

《13時29分》

 

 ゴジラ、G対策センターへ向けて杉並区跡地を通過中。 対G大型地雷起動、攻撃と同時に地面を陥没させゴジラを膝下まで埋め、足止めに成功する。

 ガルーダ、続けてスターファルコン現着、ゴジラへの攻撃を開始。 東京湾にて待機中の艦隊より誘導ミサイル弾攻撃開始、ゴジラ背部に命中するも怯むのみで目立った効果はなし。 周囲の廃ビルに仕掛けた爆弾を起動、ビルを倒壊させゴジラの頭上より圧迫を狙う、成功。

 しかしゴジラはすぐさま体外放射により瓦礫の山を退け、背部熱線でガルーダとスターファルコンを狙撃。 両機、これを回避。

 ランドモゲラー現着、穴から脱出しようとするゴジラを地下から急襲、先端ドリルでふくらはぎを損傷させ機動力を奪い、即離脱。 地上へと這い出しレーザー砲による攻撃を開始。 スターファルコンと合流後、合体シーケンスに移行。

 

 ヴァルチャー2機、現着──。

 

「大尉! スターファルコンとランドモゲラーが合体します!」

 

 上空に待機しながら夢のような光景に興奮を隠せないヴァルチャーツー、大和亜季が報告すると、ヴァルチャーワンの木場真奈美も思わず口笛を吹く。

 

「驚いたな、本当に合体してロボットになるのか」

 

 高い推進力と高性能バランサーを備えた航空機スターファルコンが下半身、強力な武装を持つ陸戦機ランドモゲラーが上半身となる事で対G航空機動兵器、MOGERAが完成する。

 

 MOGERA (=Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type)

 

 史上空前、全世界のGフォースでも他に類を見ない変形合体するメカの初陣に誰もが歓声を上げていた、もちろん、こんな突飛なアイデアを実現させてしまったのはあの天才・池袋晶葉を置いて他にはいない。

 

「モビルオペレーションゴジラ……えっと?」

 

「エキスパート何とかだったな、長いから忘れてしまったが噂によれば基礎設計した池袋博士が「モグラっぽいからモゲラだな!」と言って聞かなかったのを何とかそれっぽい名前の頭文字に収めたという話だ」

 

「ほぉー、確かにモグラっぽいでありますな」

 

 などと2人が噂をするものだから、晶葉と何とかそれっぽい名前をこじつけたマキノはその頃揃ってくしゃみをしていた。

 続いてメーサーヘリ部隊、並びにメーサータンク部隊現着、戦場には総戦力が揃いつつあった。 戦況の悪化を察したゴジラはより一層炎を滾らせ活性化すると、両腕を地面に付き四足獣のように穴を抜け出そうとする。

 

「大尉、ゴジラが!」

 

「待て、今動けば我々が巻き込まれるぞ、見ていろ」

 

 MOGERAは素早くゴジラの正面へ移動すると両腕を開放し、内部に備えたスパイラルグレネードミサイルを構える。 スパイラルグレネードミサイルはその名の通り、弾頭部分が高速回転する削岩ドリルとなっておりロケット推進と合わせた突貫力でゴジラの皮膚を貫通、内部まで爆発のダメージを与える事が出来る。

 片腕に6発の計12発、突貫力のみで比べるなら爆薬を一切使わないフルメタルミサイルの方が遥かに強力ではあるものの、威力の差は歴然である。

 

「スパイラルグレネードミサイル、スタンバイ、目標はゴジラ頭頂部!」

 

「スパイラルグレネードミサイル、スタンバイオーケー!」

 

「ファイア!」

 

 集中砲火に晒されながらも穴から脱しつつあったゴジラの頭部にスパイラルグレネードミサイルが命中、脳天に突き刺さり爆裂すると頭部の半分を吹き飛ばした。

 頭部を失おうがオルガナイザーG1を持つゴジラは死なない、しかし、再生が始まるが脳を損傷したことで一瞬だけゴジラの動きが止まった。 絶好の好機を逃すまいと、MOGERAはさらなる一手を打つ。

 

「プラズマメーサーキャノン展開! ファイア!」

 

 MOGERAの胸部が開き巨大なパラボラアンテナが迫り出すと、メーサー砲の実に数十倍もの威力を誇るプラズマメーサーを放つ。 ゴジラの体が爆風で浮き上がった所を、MOGERAの後方から降り注ぐミサイルの雨がゴジラをさらに迎撃する、轟天号だ。

 

「轟天号現着……ん、ゴジラに動きが!」

 

 脳を損傷し思考力を失ったはずのゴジラの背鰭の炎が、本能的に紫色に変色した。 瞬く間に傷を癒したゴジラは、プラズマメーサーキャノンの冷却に時間をかけるMOGERAへ熱線攻撃を仕掛ける。 しかしMOGERAの全身に施されたダイヤモンドミラーコーティングがゴジラの熱線を拡散しダメージを軽減した。 ニューフロンティアのように平面ではないため完全な反射は出来ないが、それでも紫の熱線数発までなら真正面から受けても耐えられる強靭な装甲。

 さらに太腿、肩関節などに施されたブルーダイヤモンドミラーコーティングは、通常のダイヤモンドミラーコーティングを数段上回る反射力を持つ。 技術と予算の問題で局部にしか装備できなかったが、MOGERAの耐久力は光学バリアを持たないながら他の機動兵器と比べるまでもなく強固であった。

 

「やつめ……」

 

 しかしゴジラを相手にしてこれ程に優位な状況にありながら、その様子を見つめる晶葉の表情は険しいものだった。 上陸してからここまでニューフロンティア内で熱線を数度反射し、紫の第二戦闘態勢に数度変貌、赤の第三戦闘態勢を引き出す事にも成功し、モスラ、デストロイアとの死闘を繰り広げ、これだけの波状攻撃を仕掛けているにも関わらずゴジラはまだ紫色になれるだけの余力を残している。 これだけは完全に予想外の展開だった。

 

(不死身とも言える肉体を持つのは認める、しかしエネルギーが無限であるはずが無いんだ……あの体のどこにそれだけのエネルギーを秘めていられる……?)

 

 北海道においてすぐにゴジラが撤退したのはエネルギー切れが原因だと考えられていた、しかし今はどうだ? エネルギー切れどころか再生力も大幅に低下しているように見えない。

 ANEB投与は成功するのか、そもそもANEBが本当に通用するのか、あの体のどこにそれだけのエネルギーを発生させ蓄える機能があるのか……ここに来て大きな壁にぶち当たった気がしてならず、晶葉は両拳を握りしめた。

 

「……いや……諦めてたまるか……奴にANEBをぶち込む、考えるのはその後でいい……!」

 

 迷いを振り切り、操縦桿に手を伸ばす。 思い返してみれば怪獣についてなんて何もかも分からない事だらけだ、アンギラスですら生態についてまだまだ不明な点を多く残したまま出現しなくなってから数年、絶滅と認定された。

 

(何もゴジラだけじゃない、たった一つの分からない事にいつまでも悩んでいられるほど人生は長くないんだ……!)

 

 怪獣、怪獣、怪獣……思えばこれまでの30年間、いったいどれだけの怪獣がこの世に溢れ出し、その内のどれだけを人類が解明できただろうか? たかだか30年、虫一匹の生態だって多くを解き明かすまでに何十年もかかる。

 そうだ、世の中には分からない事がまだまだ多すぎる。 人類がこの世界を知るにはまだまだ時間が足りない。 だから取り戻さなくてはならない、未来を、この地球を。

 

「……全く、好奇心ってやつは抑えきれないな」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもないさ…………終わらせよう、私達の手でこの30年に及ぶ怪獣時代に終止符を打つんだ……ANEB搭載メーサーヘリ、発進!」

 

 一縷の望みを乗せて、メーサーヘリが飛び立つ。

 

 

 

 同時にゴジラ防衛戦も佳境に入っていた、第二戦闘態勢へと姿を変えたゴジラは怒れる猛獣の如く落とし穴を這い出し、MOGERAへと襲いかかった。 しかしMOGERAは全長100mを超える巨大でありながら機動力にも長ける、地上では足部のキャタピラによる高速移動を行い、スターファルコンの推進力で空へと回避、打ち落とそうとするゴジラも各方面からの猛攻撃に晒されMOGERAへと照準を合わせる事が出来ない。

 よく見ると、背鰭の炎が弱まっている。 第二戦闘態勢を保つのも限界といった様子だ。 MOGERAとガルーダがゴジラの周囲を旋回しながら翻弄し、轟天号はANEBメーサーヘリの到着を待ちながら全火力をゴジラにぶつけていた。

 

「駆動系よく見て! いつ揺れるか分からないんだから工具箱は逐一閉める!」

 

 轟天号のエンジンルームで計器をチェックしながら班長の美世が指示を飛ばす、戦っているのは兵士たちだけではない、彼らの戦いを支える者あってこそだ。 支え合い、考え、戦う、この30年間は確かに人を強くした。

 

『光学バリア展開! 対ショック姿勢!』

 

「全員作業やめ! 対ショック備えて!」

 

 姿勢を低くし、各々柱や手すり、固定されたテーブルの足などにしがみつく。 直後、轟天号は激しく揺れ資料が宙を舞う。 ゴジラの熱線を光学バリアで防いだようだが外の様子は整備班には分からない、とにかく轟天号に異常が無いかだけを気にかける。

 

「異常チェック最優先! 艦長に報告します!」

 

 その頃外では、ゴジラが熱線をなぎ払い轟天号、ガルーダ、MOGERAを同時に狙い撃っていた。

 なんとか全機被弾は回避したものの主戦力全ての攻撃が一瞬停止した事によりゴジラにはメーサーヘリ部隊を撃墜する隙が与えられた、普段のゴジラにとってメーサーヘリ、メーサータンクの攻撃は意に留める事も無い小さな攻撃であるが、こうも数が多くては無視できない。 ゴジラは背鰭にエネルギーを溜め放射状に熱線をバラ撒こうとするが……。

 

「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 ゴジラの頭上から機をうかがっていたヴァルチャー2機が猛スピードで降下し、ゴジラとすれ違いざまに足の超振動カッターで両目を切り裂く。 ヴァルチャーは地面すれすれから再び高度を上げ、ガルーダと合流して一緒にゴジラの周囲を旋回する。

 突然視界を奪われたゴジラは動転し熱線を中断、目はものの数秒で再生したものの主力3機が体勢を整えるまでの時間稼ぎには十分な時間であった。

 

『よくやってくれたヴァルチャー隊!』

 

 ガルーダからの通信に、真奈美と亜季がモニター越しに親指を立て合う。

 

「これよりヴァルチャーはガルーダと行動を共にさせてもらう」

 

『ラジャー、頼りにしている』

 

 再び始まるゴジラへの集中砲火、見るからにゴジラの体力は削れているが、これ以上の消耗戦になればこちらが耐えられない。 ガルーダのメーサーキャノンに合わせガルーダがレールガンで追撃し少しずつダメージを与えていくが、いくら攻撃しても効いている感触はなく、ゴジラの腕の骨剣から伸びる熱線の鞭を躱すのも一苦労だ。

 さらにここに来て最悪の事実が判明する、ランディングしたMOGERAが放ったスパイラルグレネードミサイルがゴジラの皮膚を突き破れず爆散、ゴジラは既にスパイラルグレネードミサイルの威力を学習しそれに耐える構造へと体を変異させていたのだ。

 

「くっ! 虎の子の兵器が……!」

 

「大尉、先程からゴジラの様子がおかしいように思えます!」

 

「あぁ……驚いたな、ゴジラは既に……!」

 

 先程まで総戦力の集中砲火に怯み、一応のダメージを受けていたはずのゴジラだが、いつの間にかどれ程の攻撃を受けようがお構い無しにG対策センター方面へと歩みを進めていた。 適応したのはスパイラルグレネードミサイルだけではない、この戦闘においてゴジラが受けた全ての攻撃に対してだ。

 学習し、進化する。 およそ生物として究極とも言えるレベルの環境適応能力。 消耗戦どころか防衛戦にすらなっていない、既にゴジラの力はGフォースの総戦力を上回りつつあった。

 

「バケモノが!」

 

 ヴァルチャー2機が同時に仕掛け、またゴジラの両目を狙って超振動カッターを突きつけようとするが、ゴジラは目を硬質の幕のようなもので閉じると超振動カッターを弾き返しその刃をへし折った。

 

「冗談だろ!!」

 

 掴みかかろうと迫るゴジラの手のひらを躱し、レールガンを打ち込みながらヴァルチャーが距離を取る。 たったの1回だ、ゴジラに武器が通用するのは最初の1回きり。

 正面に立ち塞がるMOGERAのプラズマメーサーキャノンにはさすがに後ずさるものの、その威力を上回るほどの突進を仕掛けMOGERAににじり寄ると骨剣を振りかざしてプラズマメーサーキャノン砲を破壊、MOGERAは急いで離脱しようとするがゴジラは既に熱線の発射態勢に入っていた。

 

『Gセンター! 光学バリアを!!』

 

 食い止めようと顔に向けて攻撃を繰り返すがゴジラは止まらない、プラズマメーサーキャノン砲の損傷により砲門を閉じることのできないMOGERAは弱点を晒したまま逃げ惑うがもはや手遅れだ、G対策センター本部を背にしたMOGERAのパイロットが最後に本部にそう告げると、紫の熱線が胴体を貫きMOGERAは爆散、熱線は真っ直ぐにG対策センターへと迫る。

 MOGERAからの指示により一手早く光学バリアを展開し直撃を避けたG対策センターではあるが、ゴジラは熱線を止めない。 このまま本丸を破壊しようと言うのだろうか。

 

『突撃ィィーー!!』

 

 しかし、ゴジラの右肩を轟天号のドリルが貫きゴジラが転倒する。 欠損部分をすぐさま再生し立ち上がるゴジラ、ANEBを打ち込める最後のチャンスだった轟天号のドリルにも適応されてしまうと誰もが焦りを見せたその時、轟天号から全機へ朗報が告げられる。

 

『轟天号はこれよりゴジラの胸部に向けて特攻を仕掛ける! 全機、本艦とANEBメーサーヘリを援護せよ! 行けるな、池袋博士!』

 

『はい!』

 

 ついに、晶葉の操縦するANEBメーサーヘリが到着していたのだ。 立ち直ったゴジラに対して轟天号は真正面に構え、その背後にメーサーヘリが身を隠す。

 2度の頭部再生は相当なエネルギーを使うのか、ゴジラは弱々しく赤い炎を背鰭に纏っている。 チャンスは今しかない。 まるで実感の湧かない苦しい戦いであったが、ゴジラは確実に体力をすり減らしていた。

無駄ではなかったのだ、これまでの抵抗の全てが、何一つ無駄ではなかった。

 ドリルを回転させ突進する轟天号に対して、ゴジラは口にエネルギーを蓄えようとするが、息切れを起こしたかのようにエネルギーが消失し口を閉じる。 威嚇なのか、掠れきった咆哮だけが響く、ゴジラに抵抗する力は残っていない。 轟天号のドリルが、深々とゴジラの胸に突き刺さり皮膚を貫き肉を抉った。

 苦痛に悶えながらも轟天号を両腕で掴もうとするが側面に展開された光学バリアによって防がれ、その右腕をガルーダが、左腕をヴァルチャーが攻撃し引き剥がそうとする。

 だがゴジラも必死の抵抗を見せる、万力のごとく両側から締め付けられては轟天号も脱出できない。 メーサーヘリとメーサータンク部隊も駆けつけゴジラの両腕へと火力を集中させるがまだ足りない、このままでは万事休すかと思われたその時、救いの手は海から差し伸べられた。 全身が超合金で出来たフルメタルミサイルが東京湾の艦隊から発射され、ゴジラの二の腕に突き刺さったのだ。

 スパイラルグレネードミサイルを上回る貫通力のフルメタルミサイルをここまで温存したのは、偶然ではあるが僥倖だった。 ゴジラはまだフルメタルミサイルの威力を知らなかった。

 

『全速後退!! 道を開けろ!!』

 

 轟天号はゴジラの懐を脱し、ゴジラは苦しそうに項垂れながらも胸の傷を癒していく。 だが、その再生速度は見るからに遅く柔らかい肉を顕にしたままANEBミサイルの照準に捉えられる。

 

「注射の時間だ、ゴジラ!!」

 

 晶葉の捨て台詞と共に放たれたANEB弾は見事にゴジラの胸部に突き刺さり、ANEBを体内に注入していく。 弾頭ごと再生するゴジラの体内に取り込まれはしたものの、ANEBは問題なく全て投与された。

 

「ゴジラの体内温度、急激に低下! 晶葉! ANEBは効いているわ!」

 

「あぁ……あぁ!! やった! やったぞ!!」

 

 遠隔操作ルームに歓声と拍手が巻き起こる。 メーサーヘリ部隊の皆が晶葉の活躍を賞賛し、晶葉は思わずマキノに飛びつき緊張から解放された喜びの涙を流す。

 監視モニターに映し出されたゴジラは動きを停止し、とうとう地上では1度も途絶える事のなかった背鰭の炎が完全に鎮火していた。

 基礎代謝機能の働きを賄う核エネルギーを生成できなくなってはゴジラは直に死に至る、ついに、ついに30年に及ぶゴジラと人類の戦いは幕を閉じる──。

 

 

 

 

 ──そう、誰もが思った。

 

「もう、晶葉……いい加減離れ…………え……?」

 

 マキノが近場のテーブルに置いたタブレットの画面には、ゴジラのバイタルが表示されている、晶葉をなだめながらもチェックを続けていたマキノは、一瞬何が起こったのか分からず頭が真っ白になった。

 ついさっき確かに低下していたはずのゴジラの体温が、信じられないほどのスピードで跳ね上がっていくのだ。

 

「晶葉……モニターを……」

 何事かと思い晶葉がモニターを見た時、彼女もまた頭が真っ白になった。 さっきまで部屋全体を包んでいたムードは一気に冷えきり、冷たい空気に対して高まる心音と共に体は熱を帯び汗を滲ませる。

 既にゴジラの体温は第三戦闘態勢のそれに近い数値まで上昇し、監視モニターには余りの高熱に耐えきれず融解する街並みと、全身に炎を纏うゴジラの姿が映し出されている。

 

「なんだ……アレは……」

 

 晶葉は絶望の色に染った顔で、その姿を呆然と見つめる。 赤い赤い炎がゴジラの全身を包む、それは第三戦闘態勢の様相とも違う、いままでに見た事のないゴジラの姿。 背鰭にしか灯る事のなかった炎が、ゴジラの体を全て包み込み、まるで生ける炎が如く動き出す。

 天を仰ぐゴジラ、その上空1000m付近には、直径数キロメートルにも及ぶ巨大な光のリングが形成されていた。

 

「ディフュージョンリング……?」

 

 見覚えがある、2年前にアメリカで行われた対ゴジラ総力戦「オペレーション・サンダーボルト」で米国軍を壊滅に追いやったゴジラの奥の手、上空に展開したリングとその内側に生成された特殊な力場に熱線を撃ち込むことで地上に向けて無数の熱線の雨を降らせるゴジラの奥の手だ。

 だが、こんな大きさではなかった、アメリカで見せたそれはせいぜい直径500m程度だったはず。

 

「嘘だろ……逃げろ!!」

 

 晶葉の叫びは戦場へは届かない。 焦り残された火力を注ぐGフォースの総攻撃もものともせず、ゴジラはディフュージョンリングへと熱線を撃つ。 赤い熱線だ、炎の化身と化したゴジラの熱線は、第三戦闘態勢のそれよりもなお赤くリング内のフィールドに吸収され、熱線の雨となって地上を焼き滅ぼす。

 頭上からの攻撃でメーサーヘリとメーサータンク部隊が瞬く間に壊滅、MOGERAの残骸もダイヤモンドミラーコーティングを瞬時に溶かされ完全消滅、頭上に光学バリアを展開しながら逃げ回るガルーダと、ガルーダを傘にヴァルチャーも逃れようとしていたが、直撃した熱線はたったの一撃で光学バリアを突き破りガルーダは撃墜、避けようとしたヴァルチャーはまだ形を残していた廃ビルに突っ込み機能を停止させた。

「うわああぁぁぁあぁぁ!!」

 

「ぐっっ、ぐはあぁあ!!」

 

 亜季と真奈美は落下の衝撃により気絶、残った轟天号も全速力で射程圏外へと逃れようとしていたが、虚しくも意味を成さぬ光学バリアごと艦橋を撃ち抜かれて墜落。

 周りの敵を排除したゴジラは東京湾方面へと振り向き、遠方射撃を行っていた艦隊全てをピンポイントに熱線で撃ち抜き、ついにGフォースは全滅した。

 

「美世!!!!」

 

「落ち着いてっ! 晶葉!!」

 

「美世がッ!! 美世が乗っていたんだッッ!! 轟天には美世がァ!! うぁああああぁあぁああぁあぁぁぁ!!!!」

 

 泣き叫び暴れる晶葉をマキノが羽交い締めにするが、とても食い止められない、見かねた他のGフォース隊員も加わり無理やり晶葉を押さえ込んだ。

 抵抗できなくなった晶葉は冷静さを取り戻すと、子供のように泣き出す。 体を離したGフォース隊員たちも力なく床に座り込み、あるものは頭を抱え塞ぎ込み、あるものはやり場のない怒りに震えていた。

 屈強なる兵士たちの心さえも砕き、ゴジラはただ歩む。 G対策センターへと向けて、最後のトドメを刺しに。

 

「三鷹、武蔵野を通過し小金井に侵入……本部まで残り4キロもない……もう……どうしようも無いの……?」

 

『……G対策センター、並びにGフォース施設内にいる全員に通告、これより本部は最終防衛機能を作動させる、放送を聴いている全てのものは速やかに地下通路を使って脱出せよ、繰り返す、速やかに脱出せよ、これは命令である』

 

 G対策センター長官が避難勧告を発令する。 最終防衛機能、ニューフロンティアが地下からせり上がり施設前方を守るが、もはやゴジラ相手には時間稼ぎにしかならないだろう。

 対ゴジラ最終決戦、オペレーション・スターライトは失敗に終わった、極東G対策センターは敗北し、世界はまたゴジラの恐怖に怯え続ける。 意気消沈している暇はない、今はただ敗北を認めて生き延びる事が最優先だ。

 

「行こう……マキノ……」

 

 震える膝を支え、晶葉が立ち上がる。 Gフォース隊員も避難を始めている中、晶葉とマキノも部屋を出て地下へ向かおうとした時、ゴジラはニューフロンティアの向こうに見えたGフォース基地へと狙いを定め熱線の発射態勢に入っていた。

 

「マズイわ……Gフォース基地が射線上に入ってる!! みんな、渡り廊下でGセンターに逃げて!!」

 

 タブレットでその事実を確認したマキノが叫び、それを聞き付けた隊員たちが大急ぎで渡り廊下を走る。 晶葉とマキノも渡り廊下へと向かうが、晶葉の足元がおぼつかない。 すると、それを見たGフォース隊員の1人が晶葉を抱える。

 

「バカ! 私に構うな!」

 

「あなたが生き延びなければ意味が無いんです!」

 

「っ……!」

 

 抱えられたまま渡り廊下を抜けようとしていた頃、ゴジラはニューフロンティアもろともGフォース基地を破壊するために熱線を吐き出す。 せめてもの抵抗にと光学バリアを全力展開するがものの数秒で突破され、熱線を受けたニューフロンティアは反射する間もなく真っ赤に熱せられてゆく、やがて最終防衛機能さえも無情に撃ち貫きGフォース基地を直撃すると、凄まじい爆発と共に発した衝撃が渡り廊下を倒壊させた。

 

「ああっ!!」

 

 揺れに足を取られたマキノが崩れゆく床と共に落下しかけるが、間一髪のところでそばに居た隊員がその手を掴み、駆けつけた他の隊員の手も借りてマキノを引き上げる。

 渡り廊下口からは炎上し見るも無惨に破壊し尽くされたGフォース基地が見えた、もう何もかも終わりだ、一切の抵抗力を失い、晶葉はただ叫ぶ事しかできない。

 

「また……またお前は命を奪うのか……どうしてなんだゴジラッ!! 私たちがお前に何をした!! お前はどうしてっ、そうまでして私たちを殺そうとするんだ!! ゴジラァァーー!!」

 

 赤く溶けたニューフロンティアの向こうに紅蓮纏いしゴジラの姿が見え、晶葉は声の限り怒りをぶつけた。 しかしそんな怒りすら踏み躙るように、ゴジラはG対策センターに狙いをすまし、再び熱線の発射態勢に入る。

 

(あぁ……ここまでか……)

 

 ──思えば、あの日からゴジラの事を考えない時はなかった。 2011年11月3日、当時5歳だった晶葉は幼稚園にいた、先生たちがニュースを見ていた、巨大不明生物が倒されたと言うニュース。

 幼い晶葉にはニュースの内容は分からなかった、ただ、すぐに雰囲気が変わったのは分かった、原因は東京湾に突如現れた巨大不明生物二号。

 総勢600万人もの死傷者を出したゴジラによる放射熱線攻撃、怪獣時代の幕開けとなった大事件により、世界は変わり、晶葉の人生も変わった。

 生まれ故郷を追われた晶葉にとって、ゴジラへの復讐こそが生きる意味になった、再起するチャンスを与えてくれたのは従姉妹の原田美世、彼女のおかげで晶葉は立ち上がり、今日この日まで辿り着けた。

 本当に姉のように大切に思える人だった、この大切さと、美世が自分にしてくれた事を、どうして志希にしてやれなかったのか……この一年間、ずっと後悔しながらもただ前を向いて進んできたのに……待ち受けていた結末はこんなものだと言うのか。

 

 ゴジラ、ゴジラ、ゴジラ……。

 

「世界はお前を選んだんだな……クソくらえだ、バカめ」

 

 呪いの言葉を吐き捨てて、晶葉はゆっくりと目を閉じる。 恐怖がないわけではない、だがどうしてだろうか、嫌になるほど心穏やかな気分だ。 どうしようもない死の絶望を受け入れて、赤い光の中に──。

 

 

 

 ──キィィィィィン……ドドォォッ!!

 

 

「…………?」

 

 熱線が来ない、いや、それより今聞こえた音はなんだ? 戦闘機が超音速で飛ぶ音に似ている……それが一気に近づいてきて、次には爆発音のような音が聞こえた。

 晶葉がゆっくりと目を開けると、そこには信じ難い光景があった。 ニューフロンティアの風穴から覗くゴジラが、地面に横たわっているではないか。

 

「なっ……何が起きたっ!?」

 

「分からないわ……けど、何かが高速で飛んできて……ゴジラに激突したような……?」

 

 晶葉が目を閉じていた時、ソレはゴジラにドロップキックを決め熱線を中断、聞こえていた爆発音のような音の正体はゴジラが転倒した音であり、張本人である飛行物体はゆっくりと地面に降り立つとゴジラに向かってファイティングポーズを構えた。

 ゴジラとニューフロンティアの間に割って入るその影は、銀と赤と黄色の極彩色に彩られた人型の巨大生物……否、誰もが忘れていた、ヒーローの背中。

 

「ジェット……ジャガーだと!?」

 

“みんな、遅れてごめん”

 

「なっ……!? これは、テレパシーか!? ジェットジャガーから!?」

 

 晶葉たちの脳内に直接語り掛けてくる女性の声、その主がジェットジャガーである事は他に考えようが無い。 ジェットジャガーは立ち上がるゴジラと距離を保ちつつ、晶葉たちG対策センターに残る全ての人達にテレパシーを送っていた。

 

“でも今だったんだ、今この時じゃないとダメだって、モスラが教えてくれた”

 

「モスラ……!?」

 

“みんな、希望を失わないでくれ、ゴジラはもう限界なんだ、体に入り込んだ毒を排除しようとして最後の抵抗を見せて暴走しているだけに過ぎない! もう間もなくゴジラは完全に停止する、それまで私が……ジェットジャガーが必ず守る!”

 

「っ……! 晶葉……っ!!」

 

「あぁ……! 誰かは知らないが今はなんでもいい! 頼むジェットジャガー!」

 

 これまで数度、日本各地に姿を見せた謎のヒーロージェットジャガー、古い特撮ドラマの設定と同じく体長40mほどだったはずだが見るからに大きく、ゴジラと比較すると100mほどはある。

 一体なぜこの瞬間に現れたのか、モスラとの関係性も分からないが、今は追求している暇はない。 晶葉はジェットジャガーを信じ、“ある物”を探しに自身の研究室へと駆けて行った。

 

 

 

 その頃、焦土と化した杉並区を一台のGフォース装甲トラックが走っていた。 瓦礫の山を乗り越え辿り着いた先には、墜落し機能停止に陥ったヴァルチャー2機が横たわっている。

 

『聞こえますかヴァルチャーパイロット! 応答してください!』

気を失っていた真奈美が誰かからの通信に起こされ目を覚ます。

 

「うっ……! こちらヴァルチャーワン、木場大尉だ……!」

 

『ヴァルチャーツー大和少尉であります……!』

 

『コクピットハッチを開けてください、すぐに応急処置を! ヴァルチャーも修復します!』

 

 通信機を片手にそう伝えると、声の主は次に部下に指示を出し十数名の整備員達が各々真奈美と亜季の手当とヴァルチャーのチェックを始める。

「状況は……?」

 

 手当を受けながら、真奈美は通信機を手にしていたリーダーと思われる女性に尋ねた。 まだ少しボヤけはするが意識は回復した、手足も動く。

 

「既にゴジラはGフォース基地を破壊、ですがジェットジャガーが加勢し持ちこたえています」

 

「ジェットジャガーだって……?」

 

「今動けるのはヴァルチャーだけです、行けますか?」

 

 両手の指を動かし痺れもない事を確認すると、真奈美は右拳を左手のひらに突きつけて言った。

 

「もちろんだ」

 

「ヴァルチャー再起動確認! 動けます!」

 

「さっすが晶葉が作っただけあって頑丈ね、撤収!」

 

「晶葉? 待ってくれ、あなたは……?」

 

「ん? 私は可愛い妹に振り回されてばかりの、ただの苦労人よ」

 

 そう言って彼女は、原田美世は笑った。 轟天号撃墜の際、運良くメインエンジンルームは攻撃を避けた、それでも原田班の何人かは死亡してしまったが、美世を筆頭に生き残った残りのメンバーが轟天号から装甲トラックで脱出できた。

 この事をまだ晶葉やマキノは知らない、戦況は衛生カメラで把握しジェットジャガーを援護できないかといくつか見回って何とか動けそうだったのがこのヴァルチャーのみだったために、こうして駆けつけたのだ。

 

「なるほど……現場は混沌としている、だが私たちの仕事は変わらない」

 

『でありますな、我らの底力、見せてやりましょう大尉!』

 

 映像をチェックしながら戦況を確認する、全身が炎に包まれたゴジラに巨大なジェットジャガー、壊滅したGフォース基地となんとか無事なG対策センター本部、これだけ分かればやることは一つ。

 

「ジェットジャガーを援護しゴジラを倒す!」

 

『ラジャー!』

 

 再び、ヴァルチャーが空を駆けた。

 

 

 

 瀕死の状態にあって、ゴジラの動きは機敏だった。 いや、もはやなりふり構っていられないと言うべきか。 掴みかかるゴジラの手に指を絡ませ取っ組み合いに持ち込むが、力ではジェットジャガーの方が劣っている。

 

「ならばァァ! 柔よく剛を制す!」

 

 ゴジラの両腕を勢いよく外側に開き、ガラ空きになった胸元に目からビームを撃ち込む、怯んで手を離した所でさらに胸への逆水平。

 通用している、轟天号に大穴を空けられANEBを投与された影響か、胸部の再生は完全ではなく大きな傷跡として残っていた、ここがゴジラのウィークポイントだ。

 

「ジャガァァァ!! ロケットパァァーーーンチ!!」

 

 勢いよく発射されたロケットパンチがゴジラの胸を捉えその体を押し返す。 間髪入れず駆け寄り腕を戻すとさらにドロップキックの追撃、ゴジラをさらに後退させたがジェットジャガーが体勢を立て直す暇もなくゴジラは地面に倒れたジェットジャガーを踏みつけた。

 

「うわぁああぁぁあぁぁ!!! ぐっ!! ジャガァァ……ビィーーム!!」

 

 ゴジラが熱線の構えを取る、だが負けじと拳を突き出したジェットジャガーは一手早く光線を撃ちスタンプを解くと素早く転がって立ち上がるが、ダメージを受けすぎて足元がおぼつかない。

 

「まだ、まだだ……! ヒーローは負けな……ぐあぁぁ!!」

 

 ゴジラは左腕を振り下ろし骨剣でジェットジャガーの胸を切り裂くと、大きな斬裂痕を残してジェットジャガーが倒れた。

 ジェットジャガーの受けた傷は変身者には届かない、しかしその痛みは感じる。 想像を絶する痛みに苦しみのたうち回るが、ゴジラもそれ以上の攻撃を仕掛けてこなかった、限界なのはどちらも同じだ。

 

「こんなもの……っ子供を産んだ時の痛みに比べればァァ!!」

 

 苦痛に耐えながらジェットジャガーがまた立ち上がる、それを睨みつけるゴジラも動けない。 その時、ゴジラの背中を衝撃が襲った。 ヴァルチャーのレールガンだ、蚊が刺す程にしか感じなかったヴァルチャーの攻撃も今となってはゴジラの気を引くには十分な威力である。 ヴァルチャーはゴジラの横をすり抜けると、ジェットジャガーの後方まで下がり振り直る。

 

「おりゃあぁぁぁ!!」

 

 さらに、体勢を崩しかけたゴジラの隙を見逃さず、ジェットジャガーのアッパーが炸裂した。

 

「軍曹! トルネードマニューバ!」

 

「少尉であります!!」

 

 2機のヴァルチャーが並んで、正面を切ってゴジラに突撃しながらレールガンの連射を浴びせる。 ギリギリまで接近したヴァルチャーは、残ったもう一本の超振動カッターでゴジラの両目を切り裂きながら離脱、さらにジェットジャガーがジャガービームでさらに攻撃を加えた。

 

「ヒュウ! トルネードマニューバジェットジャガースペシャルだ!」

 

 しかし高熱を纏うゴジラに触れた事で特殊合金のカッターは融解し、2人は接続部を切り離す。 残ったのは両腕のレールガンのみ、弾数ももう余裕はない。 ジェットジャガーの変身時間も残り少ない、そして、ゴジラの命も。

 決着の時は来た、正真正銘、最後の瞬間。 ゴジラは持てる全ての力を尽くしてエネルギーを口に溜める、かつてないほどのエネルギーの収束、無限とも思われた命の灯火もこの一撃を持って燃え尽きるだろう、立ち塞がる最後の敵を討ち滅ぼすため、決死の熱線が放たれようとしていた。

 

(私もろともG対策センターを狙うつもりか!!)

 

「そうはさせるかぁぁぁ!!」

 

 ゴジラに熱線を撃たせるより早く、ジェットジャガーがゴジラの下顎を押し上げて狙いを上へと逸らす。 次の瞬間、爆発とも思える凄まじい衝撃波と共に深紅の熱線が空へと駆け上っていった。

「う、うおぉおぉぉぉ!!!!」

 

 熱線を照射し続けたままゴジラ顔を下ろそうとし、ジェットジャガーがそれを食い止める。 ヴァルチャーは両サイドからゴジラの顔面目掛けてレールガンを連射し支援するが効いているのかも分からない。

「ぐぅぅ!! ああぁアァァァァアアァァ!!!!」

 

 こちらの身まで焼き尽くすほどの高熱に耐えながらゴジラを抑えるが、まだ熱線は止まらない。

 このままでは押し負ける──そんな最終局面の最中、G対策センターでは晶葉が自室から持ってきた超・拡声爆音メガホン「バクオンくん1号」を構えて渡り廊下口に立っていた。

 

「読んだことあるぞ、ジェットジャガーは声援を力に変えるとな、ならば」

 

 すぅ〜……と息を吸い込むと、周りにいたマキノや隊員たちは嫌な予感がして咄嗟に耳を塞ぎ、晶葉が声の限り叫んだ。

 

「頑張れぇぇぇぇ!!!! ジェットジャガァァァァ!!!!」

 

 それだけ言うと、よし、と満足気に晶葉は腰に手を当ててゴジラに組み付くジェットジャガーを見守る。

 

「あなた、まさかわざわざそれを取りに行ったの……?」

 

「あぁ、懐かしのフラッシュくん3号の兄弟機だぞ!」

 

「フラッシュって……あぁ、全く……」

 

 その名を聞いてマキノは呆れ返って苦笑いした。 フラッシュくん3号、忘れもしないあの自由研究でチタノザウルスの目を眩ませたメガホンを改造して作った強力ライトだ。 まさか普通に改造した爆音メガホンも一緒に作っていて、しかも今も手元に残ってるなんて思いもしなかったが。

 

「何も変わってないのね、アナタは」

 

 呆れ返ってため息しか出てこない、けど、それでいい。 “頑張れジェットジャガー”、たったそれだけの言葉が、力になる。

 

「そうだ……私は……私が……!!」

 

 挫けそうになっていた心に再び勇気が宿る、全身全霊を込めたゴジラの攻撃、それを受け止められる全身全霊の勇気。 最後に勝つのがヒーローだ。

 

「私がジェットジャガー!! 南条光だァァァァーーーー!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 一体どれほどの時間、熱線を吐き続けたのか。 絶望的とも思えた攻防戦、しかし勝敗は既に定まった。 残された全てのエネルギー、天地を焦がす程の熱線を吐き尽くし……ついにゴジラの動きが止まった。

 全身に纏っていた炎が消失し、後に残るのは真っ黒な岩のようになって動かなくなったゴジラの体のみ。 黒く、なおも黒く、文字通り消し炭になったゴジラはピクリとも動かず、天を仰いでいる。

 

「大尉、ゴジラが……」

 

「あぁ…………ゴジラが、崩れてゆく……」

 

 ピシッ、とゴジラの全身に亀裂が走り、ボロボロと体が崩れていく。

 皮膚だけではない、肉も骨も、まるで燃え尽きた炭のように黒い塊となって地面に落ち、尾が、腕が、背鰭が、そして首が……全身がバラバラに砕け散る。

 

 ──ANEBを毒とみなし抗体を作ろうとしたゴジラだが、オルガナイザーG1含む全身の機能の働きを担う核エネルギーそのものが消されるのでは上手くいかない。 ならばと肉体ごとANEBを焼き付くそうとした結果、代謝機能が崩れ自らの放つ炎と体温を調節できず芯まで焼き切れてしまい、灰と化すまで燃え続けた……それが、怪獣王ゴジラの最期である──。

 

 戦いの終わりを見届けたジェットジャガーは光の粒子となって消失、ヴァルチャーは、G対策センターへと帰投した。 後に残るのはゴジラだったものの残骸と、見る影もなく崩壊した東京。

 かつて人の時代が終わったこの地で、また、ひとつの時代が終わろうとしていた。

 

 

 

 2041年12月4日14時30分、オペレーション・スターライト作戦終了──ゴジラ、討伐。

 

 

 

 

 

 数時間後、無事に帰還した美世と再開した晶葉とマキノの3人はG対策センターの屋上から戦いの跡を見つめていた。 まだ全てが終わった訳では無い、旧東京市街地は炎上し自衛隊協力のもと今も消火活動が行われている。

 ニューフロンティアはその役目を終えて再び地中へと潜り、ゴジラの残した爪痕がここからでもハッキリと見えていた。 今後極東G対策センターはどうなるのか? ゴジラの遺体はどう処理するのか? 残されたのは問題の山だ。

 

「なんか言うことないの? 晶葉」

 

 美世がそう訪ねると、晶葉はふぅと小さく息を吐いて、口を開く。

 

「無いさ、今見えているものが全てだ……私たちは勝った、けどゴジラに奪われたものはまた増えた、この東京が復興する日なんて遠い未来の話になるだろう」

 

「けれど不可能ではなくなった、そうではなくて?」

 

「だな……ゴジラとの戦いは終わっても怪獣との戦いは終わらない、けどいつか必ず終わりは来る、どんなに暗い道の先にも、走り続ければ光は差す、私たちはただいつかたどり着けるはずの場所に向かって進むだけだ……いつかの未来にたどり着く日までな」

 

 今こうしている瞬間にも、世界各地で怪獣災害は発生している。 しかし世界は大きく変わった、たった一頭の怪獣の死が、世界にそれほどの影響を与えている。

 

「みなさーん! 手を貸してくださーい!」

 

 昇降口から大石泉が手を振って呼びかけている、晶葉は手を振り返して歩き出し、2人もそれに続く。

 

「さあ仕事だ、行くぞ!」

 

 いつの日か泣いて心を閉ざしていた少女の背中が、今は誰よりも頼もしく、誇らしい。 美世とマキノは静かに笑い、どこまでも晶葉について行くと心に誓い合うのだった。

 

 

 

 ──G対策センター、M研究所

 

 モスラの巫女たちが集まる学習部屋の隣、管理者用のデスクに座る1人の女性がいた。 モスラの巫女たちは“先輩管理者”の女性が見てくれている、彼女は、この部屋で1人待っていた。

 優しい瞳の下にある泣きぼくろを掻いて再会を待ちわびる彼女はしかし、もしかしたら現れないかも……と少し寂しげにため息を吐く。

 

“もし由愛ちゃんに危機が迫った時には必ず駆けつけるよ!”

 

「…………」

 

“そしてまた由愛ちゃんに会いに行く、大丈夫! どこにいたってアタシが守るから!”

 

「光さん……」

 

 あの日以来、未だ果たされていない再会の約束……いいや、約束は果たされている。 光が誓ったのは“守る”という約束、それは確かに今駆けつけるという形で果たされたのだ。

 会いに来てくれないかもしれない……そう、諦めかけていたその時、部屋の扉が開いた。

 顔を上げると彼女が立っていた、見るからに背の高くなった彼女の顔は大人びていて、けれどもあの頃の面影を残す。

 

「約束……守りに来たよ、由愛ちゃん」

 

「……うん……ありがとう、光さん……本当に……ありがとう……」

 

 ぽろぽろと零れる涙を拭い、笑顔で光を迎え入れる。 会いたいと思わなかった時は無い、ずっとこの日を待っていた。

 

「由愛ちゃん、背伸びた?」

 

「少しだけね、でも……背、抜かれちゃいましたね」

 

 そう言って笑う由愛の元に光が歩み寄り、ジェットジャガーのフィギュアを差し出した、その胸には大きな切り傷が残っており、よく見ると至る所が傷だらけになっている。

 ラドンを倒したあの日から、光は幾度となく怪獣と戦い続け、宝物のジェットジャガーにはその勲章が刻まれていった。 それでも、宝物であることに変わりはない。

 

「本当はもう変身できなくなってたんだ、けどモスラが……ゴジラに倒された後モスラの力がまたジェットジャガーに宿った、最後の力を振り絞って、私に戦えと言ったんだ」

 

「そうだったんですね……ふふっ、どうしてだろう、私にはもうモスラの声も聞こえなくて、未来も分からないのに、あなたが来るって思ってたんです……ただの予感、ううん、望みだったけど、叶ってよかった」

 

「えへへ……それとこれ、由愛ちゃんにあげるよ」

 

「え……ジェットジャガーを……? どうして?」

 

「私の大切な宝物だから、持っていて欲しい、またしばらく会えなくなるかもしれないけど、それを私だと思って大切にしてくれると嬉しいな」

 

 由愛はジェットジャガーを受け取り、大事に抱きしめた。

 

「ありがとう、一生の宝物にします」

 

 ずっと昔の、決して忘れはしない2人の約束は、こうして果たされた。 大人になってもそこに居るのは絵が大好きな心優しい少女と、ヒーローが大好きな勇気ある少女の姿。

 変わったものと、変わらないもの。 日が暮れても2人は語り明かし、また会おうねと手を振った。

 

 ひとつの物語は終わり、また新たな物語が始まる。 それぞれの明日へと向けて、かつて少女だった者たちはまた歩き出す。

 

 

 

 

 

 そして、物語は最後のページへ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈2060年4月26日、17時31分〉

 

 ゴジラ討伐から19年、あれからと言うもの怪獣の出現頻度は目に見えて少なくなっていった。 怪獣の起源とは、なぜ怪獣は現れたのか、ゴジラの死が怪獣達にいかなる影響を与えたのか。

 何もかもが分からぬままではあるが、ただ一つ、怪獣時代は確実に終末へと向かっている事だけは確かだ。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……あぐっ!!」

 

 青いワンピース姿の少女が廃墟を駆ける、なんども躓いては転びそうになるのを耐えて少女は瓦礫の影に隠れた。 耳をつんざく獰猛な鳴き声を上げながら、奴は空から少女を狙っている。

 

「お母さん……! お父さん……!!」

 

 震えながら涙を流し、息をじっと殺しているうちに、奴の鳴き声も羽ばたきも聞こえなくなった。 しばらくしてもやはり音は聞こえてこない、少女は恐る恐る顔を出すと……。

 

ギャァァォォオ!!

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

 甲高い鳴き声が至近距離で響く。 黒緑色の金属質の皮膚と不気味な赤い目、腕はなく細長い首と翼を持った翼竜セルヴァムが少女に食いかかろうとしていた。

 死を覚悟する暇もなく怯え叫ぶ少女、しかしその時、小型メーサー銃の光弾がセルヴァムの胴を撃ち、セルヴァムは息絶えた。

 

「大丈夫!?」

 

 少女を助けたのもまた、若い女性であった。 白を基調としたゆとりのある、どこか民族的な意匠が施されているようにも見える服装で、背中には堂々とアコースティックギターを背負い、その手には格好とは不釣り合いなメーサー銃が握られていた。

 

「はい……大丈夫です……」

 

「あなた、橘ありすちゃん?」

 

「え、どうして私の名前を……?」

 

「この先にある難民キャンプで、あなたとはぐれたとお父さんとお母さんから聞いて探しに来たんです、さあ、行きましょう」

 

 ありすの手を引き立ち上がらせると、服に着いていた汚れやホコリを払って、彼女はありすを先導し歩き出した。

 

「あ、あの! あなたは?」

 

「私? 私は愛と平和(ラブ&ピース)の旅人、有浦柑奈だよ♪」

 

 

 

 

〈エピソード15:地球を取り戻す日〉 ー完ー

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