『美しい』
あの時見た画面の向こうの光景に対し、私が幼心ながら感じたモノを改めて言葉にするなら、こうなるだろう。
「機動戦士ガンダム」及びその系列作品のプラモデル、略してガンプラを特殊な技術で動かし戦い、その技術の優劣を競い合う一世を風靡した本気の遊び。瞬く間に世界中へ波及したGPDは時にいち遊戯コンテンツでは収まりきらない騒動さえも呼びながら、全世界のガンプラビルダー、ファイター達を熱狂させた。
しかし栄枯盛衰、どんな世界的大流行でもいつかは終わりの時が、時代の移り変わりがやって来る。GPDに参入する上で唯一必要な覚悟……「GPDで機体が受けたダメージは現実のガンプラにも反映される」。この要素を完全に克服した新たなコンテンツの誕生と共に、その日は突然目の前に現れた。
最新鋭のフルダイブ式VRゲーム技術と、GPD従来のガンプラを読み込み再現する技術の融合によって仮想世界でのより臨場感溢れるガンプラバトルを楽しめる新しい世界。
GBNとGPDの明確な違いはやはり、「ガンプラが壊れない」という一点に尽きるだろう。これによって今まで己のガンプラを戦わせその果てに破損してしまう瞬間を恐れたビルダー達がこぞって参入するようになり、またGPDをプレイしながらもこの結果に少なからず怖気を抱いていたプレイヤー達もまた、GPDからGBNへと移って行った。
結果訪れたのはGPDの衰退、各地の店舗からGPDが撤去され、あの「名人」や名だたる世界級プレイヤーでさえ「時代は変わった」「私の役割は終わった」と引退を宣言、GPDの表舞台から姿を消していき、ついに大会は地方のホビーショップー等でしか開催されなくなった。
私の父は熱狂的なGPDファンだった。プレイする方じゃなくて見る方。第3回世界大会から最後の大会まで全ての試合を映像記録に収め、また直接目に出来なかった第1、第2回大会の映像の訳の分からないツテで手に入れてくる程のガチだ。家にはGPDに関わる映像が父の愛の分だけ溢れかえっていて、幼い私はよく見せられていた。父はその中でも3代目の熱狂的なファンだったようで私にも幾度となくその勇士を語っていたが…その頃には私は既に、とある世界大会常連のファイターに心酔していた。
「不死鳥」、自らのガンプラにその名を付けたイタリア代表の伊達男。彼の駆る左右非対称の歪なウイングガンダムの改造機に、いつしか私は何度も何度も映像を見返す程に魅入られていた。初めて彼の姿を見た映像は第7回大会だったが、後から彼のウイングガンダムが幾度ものバトルを経て修復と改修を重ね、刻々と変化していったものだと知って更に不死鳥へ傾倒していった。
前置きが長すぎるな…率直に言おう、私は彼の勇士がGPDと共に、時代の流れに呑まれて忘れられる事が我慢ならない。GBNにも彼の姿を刻み付けたままでいさせたい。その為にも私は───。
「ねぇ父さん、RGゼロEWドライツバークセットが欲しいんだけど、買って?」
『えっ?』
「ねぇ父さん、ガンプラの塗装教えて」
『うん?』
「ねぇねぇ父さん、パーツのスクラッチ教えて。」
『あ、うん。』
「ねぇ父さん────。」
『アッハイ』
使えるものは形振り構わず何でも使った。主に父の財布と技術。時には自分なりに媚びを売ってお高めのガンプラを仕入れさせ、時には半ば恐喝するように塗装やスクラッチの技術についての教えを
かくして私はGBNにて彼の勇姿を思い出させる為、彼の面影を想起させるウイングガンダムの改造機でGBNの頂点を引きずり下ろすべくガンプラの製作に没頭していった。
そして────。
まる1年掛かった。当然だろう、どんなに優秀なレクチャーを受けて、どんなに才能があったとしても一機目から最高のガンプラを目指そうなんてそう上手くいく事じゃ無い。結局慣れが必要になるのは当たり前で……
犠牲になったガンプラ、併せて14個
HGACウイングガンダム、9個
HGXGウイングガンダムゼロ、5個
当然これらの犠牲になったガンプラ達は無駄にせず、パーツ毎に仕分けて予備パーツとして丁重に保管されている。それだけの対価を(主に父が)支払ってようやく、私の「翼」は日の目を見た。
ガンダムウイング・ゼロ・ブリランテ
ウイングゼロをベースに、EW版ゼロカスタムとウイングガンダム、加えて「彼」への最大限のリスペクトを込めて、ミキシングとスクラッチで「不死鳥」の肩を再現した左右非対称の両肩を合わせて組み上げたガンプラだ。名のブリランテはイタリア語で「鮮やか」という意味があり、その名の通りゼロブリランテのカラーリングはウイングガンダムのソレを光沢やらメタリック塗装やらで、ベースをそのままにより鮮やかに、より鮮明な色に仕上げた。また同時に、このガンプラで宙を翔ける「鮮烈」な姿を見せ付けてやるという決意も込めてみた。うん、我ながら悪くないセンスだ。
という訳で、私は最後の仕上げに取り掛かる事にした。
「父さん、お願いがあるんだけど───。」
『家庭用ダイバーギアを買って欲しい、かい?』
「っ!え、え?父さん大丈夫?無茶頼み過ぎたせいでニュータイプに目覚めた?」
『人は無茶振りされてもニュータイプには目覚めないよ?…ずっと作ってただろう?ガンプラ。最初に「おねだり」されてから…もう1年かな。何度も僕の映像記録を見返して、最初僕が教えたきり、それ以降はずっと1人でやってたね。』
「うわ…何でもお見通し的なのはちょっと…」
最初から全部知っててあの
『手厳しいなぁ……出来たんだね?自分だけのガンプラが。だからGBNを始めたい、ってところかな。』
「…うん、今までのお願いよりずっと、おねだりじゃ済まないくらい高いのは解ってる。働い」
『良いよ、僕が全部出す。何なら返さなくても良い…というかもう買ってあるんだよね。』
わぁ何この父やっぱりニュータイプだ。幾らウチが一般家庭より少し裕福な部類とはいえ、流石に家庭用ダイバーギアをいずれ使うから予め買っておくなんてえぐい買い物出来ないって。絶対未来予知してるって。…まぁ都合は良いし父さんが許してくれるなら遠慮なく使うんだけども。今度ちゃんと親孝行しないといけないな。
『ただし、バトルのアーカイブとかは出来るだけ見せて欲しいな。週2戦ぐらいは見たい、出来れば色んなスタイルの、有名な人とか強い人が良い』
前言撤回、やっぱただのバトルウォッチジャンキーだわこの人。いずれ親孝行はするけど遠慮はしちゃダメな部類だ。やっぱり搾り取れるだけ搾り取ろう。うん、それがいい。
「……ありがとう、父さん。」
ダメだな、素直に言うとすげぇ恥ずかしい。一言だけ残すと私は父に背を向けて自室に引っ込んだ。少し頭冷やして落ち着いたら保管場所を聞いてダイバーギアを部屋に持ってこよう。
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「────よし、暫く離れなくて良いように支度も済んだし…始めよう。」
部屋に運び入れた家庭用ダイバーギアの電源を起動し、ヘッドセットを被り、この日の為に買わせたゲーミングチェアに全身を預ける。GBNはフルダイブ形式のゲームだ、長時間やるなら身体を気遣うに越した事は無い。
最新機器特有の、電子音にも似た駆動音が耳に届く。ふわり、と浮かぶような錯覚が優しく全身を包み込んで、電子の海へ飛び込んで行く。ギアに設置されたウイングガンダムに機体を読み込む電子線が走る光がツインアイに光を灯らせるような錯覚をもたらしそして……
『Welcome to GBN !!』
世界中の人々を魅了してやまないGBNが今、新たなダイバーをその世界へと迎え入れた。
はじまりのはじまり。0話的なやつ。