ガンダムビルドダイバーズ:Ricorda   作:麻婆炒飯

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「青いカンテラ」様の「GBN総合掲示板」シリーズでμちゃんの題材を取り上げて頂きました。感謝…
宣言通り筆がトランザムした為普段より若干早めの初投稿です。


[第十一話]陸との邂逅、軋む心

GBN内汎用フリーバトルエリア

人の多い休日の昼下がりに青空の下でぶつかり合う…否、一方的に滅多打ちにされる機影と、それを一切の容赦なく敢行する無慈悲な影があった。

 

『ぐ、うぅぅぅ…っ!』

 

「やっぱり…源流のGPDを知ろうともしないで始めた奴の実力はたかが知れてる…立ちなよ、こんな程度で動けなくなるなんて情けない。」

 

『嫌だ…嫌だよ…こんなの…』

 

武器すら使わず殴打のみで打ちのめされ、尚も立ち上がるよう促されているガンプラはEGガンダム───最低限の処理のみ施されたほぼ素組みのガンプラ。十中八九、何処かのガンダムベースで貸し出されているガンプラだろう───となれば必然と、その操縦者は正真正銘の初心者であると解る。その初心者を容赦なく打ちのめしているのは、ウイングガンダムをベースにした改造機…μのブリランテだ。

 

μが「GPDの亡霊」として辻斬り行為を行なうようになってから実に3ヶ月、リアルでは各地で雪が降り、年末恒例の聖夜も近付いて来ていた。

ここまで迷走に迷走を繰り返したμの憎悪の対象はいつしかGPDを軽視する者達だけではなくなり、ついにGPDの事を名前だけぼんやりとしか知らないような初心者へも向けられるようになっていた。

心を折られEGガンダムを動かす気力すらも失った初心者の足元に立ったブリランテが、とうとう背中から黒いカレトヴルッフを抜き放つ。

日光の白が不思議とカレトヴルッフの黒に映え、紅く光るツインアイがルーキーの心を粉々に砕く。

最早彼は抗う心すらも残されていなかった。

 

「終わりにしよっか。バイバイ、ごめんね」

 

片腕をもぎ取られ物言わなくなったEGガンダムへ、黒い刃が振り下ろされる──────その刹那、

 

ブリランテのコックピットに警報が鳴り響く。

μは咄嗟にスラスターをふかしてブリランテを後方に飛び退かせ、直後その足場を数発の緑光が灼いた。

 

「邪魔者…誰───ッ!」

 

彼方より接近してくる白い機影。両肩に備えた2基のGNドライヴから翠の粒子光を放つガンプラ。

ダブルオーガンダム───各個の好みによって様々な派閥を形成しているガンダムオタク達の中でも上位に立つ無類の人気を誇る作品、機動戦士ガンダム00。その2ndシーズンにおいて主人公が新たに乗り換えるMS───をベースにあらゆるカスタムを施し独自のシステムまで搭載したガンプラ。

このGBNにおいて今や知らぬ者はいない、

「今最もチャンプに近い男」が駆るガンプラ。

ダブルオースカイメビウス。彼の有志連合戦において一次二次共に多大な伝説を残した機体の改修型が、今にも力尽きてしまいそうなEGガンダムを庇うように、ブリランテとの間に割って入った。

直後、それに応えるようにEGガンダムが彼方へ逃げていく。この乱入者に何か言われたのだろう。

 

「ッ…「ビルドダイバーズのリク」…ッ!」

 

μはコックピット内で歯噛みする。操縦桿を握る手の力が一層強くなり、視線に怒りを滲ませる。

そんなμに向けて、通信機から声が響く。

 

『何で、どうしてこんな酷い事をするんだ!』

 

「邪魔をしないで、貴方には関係無い。」

 

少しだけ大人びた、それでいて未だに微かな少年らしさを残す声。聞こえてきたその声に対しμは深く息を吐き、務めて冷静さを保ちつつ答える。

実際、ビルドダイバーズのリクは「狩り」の対象者では無い。以前GBN関連雑誌のインタビューを受けた回を読んで知った事だが、彼はGPDからの参入組でこそないもののある時故あってGPDをプレイする機会があったのだという。そこで以前の愛機ダブルオーダイバーエースは勝利を収めたものの再起不能一歩手前と言えるレベルの傷を負い、そして後継として生まれたのがダブルオースカイなのだとか。

そして同記事の中で、彼は決してGPDを悪く言わなかった。むしろその良さ、GBNとの違いも認めてくれた。なら彼を狙う理由は何処にも無い。

だと言うのに、

 

「はぁ…何でわざわざ割り込んでまで邪魔をしたの?アレは、私が狙った相手だったのに。」

 

『相手って…彼は初心者じゃないか!あれじゃバトルの相手じゃなくて、初心者狩りだ!』

 

「初心者でも世界ランカーでも関係無い。私はただ、GPDを蔑ろにする奴を1人残らず潰すだけ。」

 

『そんな…そんな事…!』

 

『待って、リク…』

 

聞こえてくる声が変わった。

…透き通った少女の声だ。…だが凡その想像はつく。「ビルドダイバーズのリク」と常日頃から同行している少女…と言えば思い当たるのは1人しかいない。

第二次有志連合戦において最も重要なキーパーソンとなった存在にして、世界最初の電子生命体として、政府が初めて公式に認めた新しい命。

「始まりのELダイバー」サラ。

今やビルドダイバーズに保護され現実(リアル)の身体を得たらしいが…ソレが、ここでμに向けて言葉を発した。

 

『貴女は、本当にそれを望んでいるの?』

 

「ッ───!!」

 

『ガンプラが、哀しんでる。』

 

「ッ─────れ…」

 

『貴女が苦しんでるって…』

 

「─────まれ…」

 

『その子が、貴女を止めてって…』

 

『黙れぇェェェッ!!』

 

『ッ!サラ!』

 

μの激昴、それと同時にブリランテがバスターライフルを片手に構え撃ち放つ。1つの線に収束された極光が伸び、咄嗟の操作で飛び退いたダブルオースカイメビウスの居た箇所を爆風と共に打ち砕く。

そのままブリランテは腰からビームソードを2本抜いて発振させ、身に備えられた数多くのスラスターを全て最大出力で燃焼させて高速で突貫する。

ダブルオースカイメビウスが対応するようにバスターソードを抜き、受け止める形で競り合いへ移行すると今度はμの方から通信機で言葉を投げ掛けた。

 

「貴方達に何が分かるっていうの!?今もGBN(自分の好き)を全力で楽しめてる貴方達に、何がッ!!」

 

『ッ───君は…』

 

「幸せな貴方達には分からない…GPD(私の好き)が廃れていくのをただ指をくわえて見てる事しか出来なかった人間(わたし)の気持ちなんか、分かるはずが無いッ!!」

 

『でも……それでも───ッ!!』

 

「ッ!?ぐぅッ…」

 

一閃、ダブルオースカイメビウスの膂力に押し負け、ブリランテの手から2本のビームソードが弾かれ機体が押し退けられる。何とかスラスター制御で転倒だけは避けたものの、既にμの思考回路は何時になく、強烈な動揺を覚えていた。

 

『それでも、誰かの好きを否定して良い訳じゃ無い!…俺だって思うよ。もしあの時…サラが消えそうな時、何も出来なかったら…きっと、どうしようもなく辛くて、哀しくて…壊れそうになる。』

 

「ッ…何を───、」

 

『でも、だからって皆の好きを否定したくない。幾ら僕の好きが皆の好きと相反するものだったとしても、なんとかして、共存できる道を探したい!』

 

「そんな、事───、」

 

そんな事できるわけが無い。

そんなの戯言だ、中身の伴わない夢想だ。

だってそれが叶うなら、私のやってきた事は、私がブリランテに無理強いしてきた事は─────、

 

『だから、君も────ッ!』

 

「う…るさい…うるさい、煩い煩い煩い煩いッ!」

 

思考回路が灼き切れた。

何も考えたくない、何も認めたくない。

偶然が重なって起きた色調のほんのちょっとした不具合(バグ)が、μの感情を読み取り流させる涙を血のように赤く染めて、誰にも知られず苦痛を表現する。

ブリランテの手を背に回してカレトヴルッフを2本手に取り駆け出す。そこには最早戦術も信念も何も無い、子供が駄々を捏ねるかのような悪足掻き。

それでも、暴れずにはいられなかった。

 

『ッ…この…わからず屋ァ───ッ!!』

 

リクの激昂。それに呼応するようにダブルオースカイメビウスが赤く輝き、そしてスカイドライヴユニットからこれまでとは比較にならない規模の粒子が放出され…絶大な光の奔流を創り出す。

 

ハイヤーザンスカイフェイズ。

リクのダブルオースカイメビウス、引いてはその原型であるダブルオースカイが発現した必殺技───ダイバーランクCから獲得が可能になる、GBNの代名詞とも言うべき多種多様な特殊技能───。

 

光の奔流に押し出されるようにブリランテの躯体が後退する。幾度も公開アーカイブにて確認したそれを間近で見た事により、即座に危険と判断して距離を取る。こうなればもう、格闘戦での勝利は限りなく不可能に近いに近いと言って良いだろう。

唯一勝ちの目があるとすれば───、

 

「ッ───最大出力充填…!」

 

普段使いしていたバスターライフルと、もう1つ背中にマウントしていたバスターライフルを両手に───本来ウイングゼロに装備されているバスターライフルは二丁であり、それ等を連結させる事で絶大な破壊力を発揮する───構え、反動に備え後方に作用するスラスターを全開まで展開する。

 

一方光の奔流に手を差し入れたダブルオースカイメビウスが取り出したモノは…弓矢。

ハイパースカイシューティング───ダブルオースカイメビウスがまだ、メビウスの名を得ていない頃から使用しているロングライフルを必殺技によって極大威力の射撃兵器へと変質させたモノ───

を手に取り構え、砲撃威力での勝負に応じる。

 

 

「私の前から、消えろぉォォォ────ッッ!!」

 

『もう、止まれェェェ───ッッ!!』

 

 

同時に放たれた2つの極光が真正面から衝突し、耳をつんざく破壊音と共に周囲が眩い閃光に包まれる。

その衝撃たるや、ディメンション全体に伝搬し辺りを巻き込んだ凄まじい突風を呼んだ程だという…

 

やがて、音も光も全てが収まると───、

 

つい先程まで平原だったそこには草木ひとつ存在せず、抉れた大地が破壊の余波を容易に想像させる。そこに佇む2機のガンプラ、その惨状は……

 

片やダブルオースカイメビウス。爆風と最大解放の影響で必殺技は解除され、大量の砂埃を浴びて灰汚れてこそいるものの、その損傷は最低限に留まる。

 

片やウイングゼロブリランテ。砂埃が晴れて見えた姿は……激突の余波で両腕ごとバスターライフルを喪い、エネルギーを使い果たして力無く膝を着く。

 

完敗だった。

圧倒的な力量差を見せ付けられ、怒りに身を任せて大見得を切った後からは想像も付かないような決定的敗北。『HAZARD』の画面表示が赤く染まったコックピット全体を囲むように表示され、アラートがけたたましく鳴り響く中で、μはただ1人、操縦桿するその手から離して茫然自失の風体で俯いていた。

 

「違う…違うの…こんな、こんな事…私…私、は…」

 

誰もその視界に入ってない、といった様子で1人呟き続けるμ。そしてその音声を拾い届ける通信機からの音声を聞いて、掛ける言葉も見付からずその場に立ち尽くすリク。勝負は終わっても、その結果として訪れた空気感は完全に状況の進行を遮っていた。

 

そんな中、2人の間に無理やり割って入るように1つの機影が急速接近してくる。その正体は───、

 

『リク君サラ君、無事か!?』

 

『えっ…キョウヤさん!?』

 

『ついさっき、彼女…『GPDの亡霊』に襲われたという初心者を保護した人物から連絡を受けたんだ。それでリク君達がまだ彼女と戦っていると聞いて駆け付けたんだけど…既に終わっていたようだね。』

 

クジョウ・キョウヤ、

GBN世界ランキング不動の1位にして最強のフォースAVALONのフォースリーダー。そして…μにとっては目的を果たす為の最大の重要人物。

本来ならばこの機会を逃す手は無く、この場で全てにケリを付けておくべきだったのかもしれない。けれど茫然自失状態にある今のμに、そんな決断を下すだけの正常な判断力は残されていなかった。

 

「ッ────!!」

 

μはコックピット内で咄嗟にコンソールパネルを開き、設定欄から……緊急離脱───初心者狩りに遭遇したダイバー向けにせめてもの自衛手段として実装された、その場からノータイムでセントラル・ディメンションに強制帰還する機能───をタッチする。

 

直後ブリランテは強制帰還効果で電子の膜に包まれ、次の瞬間には格納庫へと消えていった……

 

『ッ!?緊急離脱…!?』

 

『ッ…リク君はここに。後は僕に任せて欲しい。』

 

『……いいえ、手伝わせて下さい。』

 

『……そうか…なら、手を貸してくれるかい?』

 

『ッ!はいっ!!』

 

今やGBNにおいてその名を知らぬ者のいない2人の英雄は、過去の亡霊を止める為、サラが言う「苦しんでいる」μを救う為に、セントラル・ディメンションへと移動して行った───。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

視点は電子の海から離れ、リアルへ。

セントラル・ディメンションに戻るなり、全てを無視して即座にログアウト操作を完了させたμは、

クジョウ・キョウヤやビルドダイバーズのリクとギリギリすれ違いになる形でリアルへと戻っていた。

μは意識を現実に戻して目を開けるなりヘッドセットを乱暴に外すと台座に置き直し、部屋の反対側に置かれたベッドへ飛び込み外からの干渉を拒絶する。

 

μの頭の中はぐちゃぐちゃだった。

分かり合える───リクに言われた言葉が何度も頭の中を飛び交い、自身の決意を嘲笑する。

出来るはずが無い。

そんな夢物語、叶うはずが無い。

GBNもGPDも、同じ界隈の人種を取り込む同タイプの娯楽である以上、片方が栄えれば片方は衰退する、これは決して変えられない運命なのだ。

 

けれど、けれども────

…認めて、しまった。

リクの言葉、そして示して見せた力に、何より自分自身が、「彼なら何とか出来るかも」だなんて思ってしまった。自ら決意を否定してしまった。

 

あれだけ決めたのに。

私の愛機(ブリランテ)にあれだけの事をしてしまったのに。もう、引き返せないのに。戻ろうとしてしまった。

 

「うっ…ぁ…うぅぅ……っ」

 

思い出を、失いたくない。

その一心でずっとやって来たのに…たったこれだけの事で、もう、μの心は揺らいでしまった。

 

「ごめん…なさい…ごめんなさいブリランテ…私…私は…貴方に、こんな…ぅ、ぅう…あぁ……っ」

 

頭まで深く布団を被って、誰にも聞かれないよう、静かに嗚咽を漏らす。自分の愛を傷付けてしまった罪悪感に押し潰されそうな心を、泣く事で何とか生かし保とうと、なけなしの自己防衛反応が働く。

 

 

その日は夜が明けるまで、

部屋には少女の嗚咽と自らの愛機に対する懺悔、時折GBNそのものに対する謝罪を呟く、悲壮な声が満たされ続けていた───。




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