フォースAVALONによる亡霊討伐戦から、およそ1週間の時が経った。
GBNは今日も相変わらず賑わって、まるで永久に変わることなど無いかのように幻視する程だ。
そんな電脳世界の中心、セントラル・ディメンション中央ロビーを1人の男が歩き回っていた。
「おーい、μやーい」
男の名はオズマ、かつて一世を風靡したGPDの頃からガンプラに親愛を抱くダイバーである。
オズマは現在、約束を交わした相手…μを探し回っていた。前約束の段階では「中央ロビーの支柱ベンチに座って待つ」と言っていたのに、約束の時間になっても肝心のμは何処にもいないのである。
「ったく、何処行きやがったアイツ…まさか約束すっぽかすようなタチでもねぇだろうに…」
一通り中央ロビーを探し終え、それでも見つからない探し人にオズマは深いため息を零す。普段からくたびれたようなビジュアルのダイバールックも相まって、哀愁漂う背中が人々の視線と同情を誘う。
「仕方ねぇ、もう一度メールを…」
「もし、其処な御仁。斯様に深刻げな嘆息なぞ吐いて、もしや何か困り事か?」
突如掛けられた声に振り向くオズマ。
そこに居たのは長い紫髪をポニーテールに纏め、こう…なんというか、表現に困る…そう、機動武闘伝Gガンダムに登場するファイティングスーツから肩パーツを取り外した様な……つまり首と手指だけ抜かれた黒の全身タイツだ。加えてそこに白系の羽織───ガンダム00に登場するミスター・ブシドーが着ていた陣羽織の色違い───を羽織っている、という何とも個性的なダイバールックの女性。
腰には鞘に収められた刀が帯刀してあり、また古風な物言いが何処と無く侍を彷彿とさせる。
そんな彼女から声を掛けられたオズマ、流石の珍しい風体に一瞬たじろぐも姿勢を正し受け答える。
大人はこんな事ではどうじないのだ。
「んお…?…まぁそんなとこだな。あぁそうだ、この辺で黒い兎のパーカー来た奴見掛けなかったか?」
「ふむ…それならばつい先刻方、新作ぱふぇとやらの広告に釣られかふぇぶーすへ行くのを見たな。」
「はぁ…?何だそりゃ…仕方ねぇ、迎え行くか。…あー、ありがとよお嬢さん。この礼はまた何れ。」
「良い、早う行ってやれ。」
情報提供をしてくれた女性に礼と共に軽く手を振って背を向けカフェブースへと小走り気味に歩く。
幸いにもセントラル・ディメンションのカフェテリアブースは中央ロビーからそう遠く無い為にそこまで時間は掛からないものの…やはり手間ではある。
そうこうしているうちにカフェテリアへ到着し、ぐるりと一通り店内を見回すと……居た、新作パフェに釣られて約束をすっぽかした黒兎が1匹。
「これが…新作……」(ジュルリ…)
その顔のなんとだらしない事か。バーチャルだと言うのに涎を垂らし生唾を飲み込み、スプーン片手にさあ何処から食べ進めようかと思案する。
再三言うがこの黒兎、自分から取り付けた約束をすっぽかして新作パフェを食べに来ている。
「はぁー…おいμ、お前場所変えるなら事前の連絡くらいって何だこれデッケェなおい。」
呆れ気味に言い近付くオズマの目を最初に奪ったのは、パフェであった。テーブルに置かれているとはいえ、今立っている筈のオズマの鼻先程まで…高さにしておよそ90cmに届くか否か、といったところである。流石はGBN、なんでもありだ。
しかしこれを頼んだ当人はといえば……
「ん。オズマどうしたの?パフェは私のだから、そんな羨ましそうに見たってあげないよ?」
この有様である。
「いったい何処をどう見たら俺のこれが羨ましそうな顔に見えるんだ、呆れてるんだよ。」
再度大きな溜息を零すと気を取り直してμの座るテーブルの反対側に置かれた椅子に腰掛け頬杖をつく。オズマから見てμの顔は巨大パフェに遮られて黒兎耳パーカーの端っこぐらいしか見えていない。
「…色々送ってくれてありがとよ。どうやって俺ん家を特定したのかとか中身の事とか聞きたい事は山ほどあるが敢えて聞かん。…だがまぁ、助かった。」
「ん、本当に些細な支援だから。」
「正直一番聞きたいのはそこなんだがな……まぁいい、んでだ。あの手紙の内容からして、こうやってログインしてる以上……
ふと、パフェを食べ進めるμの手が止まった。
あからさまに視線が泳ぎオズマから目線を逸らす。…嫌な予感がした。そしてそれは予感なんて言えない程の短い間しか与えずに確信へと変わり───、
「────忘れてた。」
ゴンッ
カフェテリアに鈍い音が響いた。
μの一言でオズマの頬杖を支える腕の力が抜け、顔面をテーブルに強打した痛ましい音だ。
GBN内には痛覚をフィードバックするモードが実装されており、その設定をデフォルトから弄らない者や臨場感を満喫しようとする者達はよくこの機能をバトル時等に常用するという。
かくいうオズマのそういった臨場感を楽しめる人種なのだが…よもやこんな場面で顔面への痛みを味わう羽目になるとは思いもしなかった事だろう。
オズマは突然のダメージから復旧すると未だに痛む鼻先を抑え、視線を逸らしたままのμへ言葉を返す。
「痛ぅ…おま、お前どうすんだよ…今から募るにしたって飛び入りじゃ見つかるかわからんぞ…?」
「んん…じゃあ、無双ミッションとか、どう?」
つい先程まで気まずそうにしていたμだが、ふと何かを思い出したように視線を戻し切り出す。
無双ミッション、それは予め設定した難易度に合わせた数、性能の敵MS/MAをひたすら撃破し続けるという、単純明快なミッションスタイルである。
ストーリーを追想するようなミッションや、作品に合わせた同系列の敵を撃破する連戦ミッション等、多数の敵と戦うミッションは数多存在するが、この無双ミッションはそれ等のように特殊なギミックやステージ変更等が一切無い、まさにシンプルの極みとも言うべきミッションだ。
そしてそれは、かつてまだ己の愛情を拗らせる前のμがEASYモードでのソロ攻略を果たし、鮮烈なデビューを飾る切っ掛けになったミッションでもある。
そしてそれは亡霊事件当時μを捜索していたオズマもμ関連情報として目を通した話なのだが───、
「無双ミッション、ねぇ…だがそりゃ改修前の機体でも充分な戦果を上げてたんだろう?お披露目とするミッションにはちょっと役不足じゃねぇか?」
「うん。だから今回は前にもやったEASYモードじゃなくて、HARDモードをやろうかなって」
無双ミッションHARDモード。
当然ではあるが、それはかつてμが攻略したEASYモードとは一線を画す難易度の無双ミッション。
例えば、前回μが選んだ無双ミッションは
「新機動戦記ガンダムW」をステージモデルとしたミッションであった為にひたすらリーオーまたはエアリーズを狩るミッションであったが、HARDモードでは大幅に異なり…主要な出現エネミーの大幅増加、またビルゴやトーラスの追加、更には撃破数の節目毎にトールギス、ヴァイエイト、メルクリウス、そして最後にはガンダムエピオンが追加で出現するものとなっている。
最早言わずもがなではあるが、無双ミッションはEASYとHARDで雲泥の差が存在するミッションだ。
そんなミッションを新機体のお披露目として提案するμだが、それはつまり以前のようにソロで無双ミッションを攻略すると暗に示して───、
「お前…流石にそれは無茶が過ぎるんじゃ…」
「うん、だからオズマ。一緒にやろ?」
「そうそう、だから別のに───は?」
───はいなかった。
ナチュラルに共同戦線を持ち掛けられたオズマは思わず間の抜けた声を上げ、直後周囲の視線を気にして声を潜め、ついでに身を低く屈める。
「え、お前そんなキャラだっけ?」
「…知らない仲でも無いし、折角居るなら活用すべきかなって。それにオズマの新型も気になるから。」
「ははぁ…お前もしかしなくても気兼ねなく甘えられそうな相手には全力で頼っていくタイプだな?」
俗に言う内弁慶というやつである。
考えてみればそうなのだ。μから贈られて来た品々から察するに、彼女がいい所の出なのはまず間違い無い。となれば自機やあんな数の高級品を集める為にわざわざバイトをするか?答えは否である。
本当に彼女にとってあの贈り物は、些細なものなのだ。つまりμは製作はともかく、機材やガンプラを購入する為の調達資金は親しい相手…おそらくは家族に全力で甘えて賄っているのだろう。
そうして今この時…正確にはオズマがμにお節介を焼くことを決めたその瞬間から、オズマはμにとって、「甘えても良い相手」という認識になったのだ。
ここまで考察を終えるとオズマはそっと顔も名も知らぬμの家族へ黙祷を捧げると、この非情な考察結果を心の奥底へ厳重に封印する事を決めた。
「はぁー…仕方ねぇなぁ。だがまぁ、これも自分でお節介が招いた結果か…解った、付き合うよ。」
「そう言うと思った。ありがとうオズマ。」
オズマが大きな溜息と共に抵抗を諦め今後も甘え倒される事実を受け入れると、μはいつの間にか食べ終えた巨大パフェの器を傍らに退けて微笑んだ。
可愛い。
「あいあい、……なら早速だな。受付行ってミッション受けて、そのまま格納庫行っとくか。」
μの食べ終わりを確認するなり席を立ってカフェテリアブースから出ようとするオズマ。前払いでBCを支払っていたμもそれに続き店を出たのだった───、
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GBN内共通エリア、格納庫────、
ダイバー達がログイン時にスキャンした各々のガンプラは、この格納庫にて144倍…即ち原寸大に拡大され、まるで「本物のガンダム」のように見る事が出来る。GBNを始めた者達は、まずこの情景に圧倒されるのが慣例になっていると言っていいだろう。
そしてそこにダイバーが2人…μとオズマである。
2人はお互いに改修した新機体を、まずはその立ち姿のお披露目という形で見せ合う事に決め、連れ立ってこの格納庫へと立ち入っていた。
「コイツが新しい…あー、ブリランテだったか?」
「うん。オズマのレグルスも、良いね。」
2人で見上げる先に有るのは、2機の並んだMS。
1つは、天使。
現在は待機状態である為に大仰に展開した姿はまだ見れないが、これまでのウイングゼロブリランテのバックパックを一新し、EW版ウイングゼロの
その姿はまだオズマの想像の域を出ていないものの、これが空を羽ばたけば、その姿は正しくファンタジー作品に登場する
また現在はまだオズマの知る所では無いが、この六枚翼はμ独自の三重塗装によりあらゆるビーム攻撃への圧倒的な耐性を持った堅牢な鎧と化している。
更にはこの翼、まだ幾つも隠されたギミックがあるのだが…何れにせよその機構はこの後のお披露目本番…無双ミッションの場にて明らかになる事だろう。
また1つは、悪魔。
元より真紅のカラーリングと獣じみたデザインから悪魔らしさを醸し出し、異名にも悪魔の名を戴いていたガンダムバルバトスレグルスであったが、
脚部をバルバトスルプスレクスのものに変更、加えてガンダムレギルスから流用していた腕の肘部に、アームドアーマーVNやゴッドフィンガーの機構を参考に建造したスライド装着型の大型クローを増設、新たなオリジナル格闘武装を獲得させている。
そして最大の変化は背中。
かつてはガンダムバエルのウイングスラスターを4機使用していたがこれらを完全に一新、μから贈られてきたカレトヴルッフを紅基調のカラーリングに染め上げ、改造したフライトユニットとそこから接続した自在アームに併せ六基装備し、更にユニット底部にエールストライカーのブースターを二基増設する形で更なる加速力を得ている。また更に言うならば六基のカレトヴルッフのうち二基はブースター用に固定改造を施して加速特化の武装へと変貌させた。
新たなレグルスの姿はより悪魔らしく完成度を高め、異常とも言うべき加速力への執着はもし本物であれば
格納庫に並んだ二機のガンプラ。
片や青をあしらった鮮やかな天使、
ウイングガンダムゼロ・ブリランテ・
片や真紅に染まった獰猛なる悪魔、
ガンダムバルバトスレグルス・
奇しくも紆余曲折の末に手を取り合った2人の亡霊は天使と悪魔、対となる姿を象り並び立った。
新たな姿、新たな力を魅せる為に。
新しい一歩を踏み出すべく、2人は各々の愛機へと乗り込み、そして射出カタパルトへ移動する。
「お待たせ、ブリランテ…さぁ行こう、ここからが私達の、正真正銘、本当の始まりだよ───、」
「随分長いこと待たせたなぁレグルス、もう今までの急拵えじゃねぇ…あの時と同じように、いいやそれ以上だ。もう一度…翔け抜けてやろうぜ…!」
2種の光が瞳に宿り、2人の亡霊が同時にその口角を吊り上げ、応えてカタパルトがその射出口を開く。
「ウイングガンダムゼロ・ブリランテ
「ガンダムバルバトスレグルス
「行くよ────ッ!!」
「征くぜェ────ッ!!」
2つの翼は今、
ここからが本当の始まり。
作者の巣周辺が記録的な大雪により、時間を大幅に削られる為今後投稿が遅くなるかと思われます。どうあっても雪が溶ける頃には必ず復活しますので、どうかご容赦頂ければ幸いです…