「これで、よし…うん、完璧。」
陽の差し込む作業部屋で、1人の少女が今やるべき事を終えて、使っていた道具を机に置く。
ついに完成した、少女が最大の自信を持って頷き見るのは…六枚翼のウイングゼロ。
鮮やかなトリコロールに彩られた、稀有な左右非対称の肩鎧を有する少女の愛機。
ウイングゼロ・ブリランテ・SCが鎮座していた。
少女は早速と言わんばかりに愛機を丁重な手つきで抱えると、傍らにあるもう1つの机へと移動する。
そこに置かれた機械の台座に愛機を設置し…自らも椅子の前に座ってヘッドセットを被った。
そうして機械の電源を繋いで────、
『Welcome to GBN !!』
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GBNセントラル・ディメンション中央ロビー。
いつも通りダイバー達でごった返すその場所を、μは最近では珍しく1人で歩いていた。
「ううん…本当はオズマに見て貰いたかったんだけどなぁ…来れないものは仕方ないか……」
「───はっ、お姉様!!」
話によればオズマは急な用事でログイン出来なくなったとの事で、この日μは完全に1人なのだ。
本当ならば
だがμはここで、ソロでどうやって今回の改修成果を試すのか、という議題で1人困っていた。
というのも今回の改修、大多数戦に向けて施した強化である為に1人で行けるミッションでは、どうしても手応えに欠けてしまうのである。
ではどうすべきか…と1人首を傾げ思考を繰り返していると……突如、μの脳裏に電撃走る。
「そうだ、ヴァルガに行こう」
「お、お姉様!?あんな醜い猿山に行こうだなんて…害虫共が寄って来ないように、私がお姉様をしっかりお守りしないと…!」
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ハードコア・ディメンション・ヴァルガ
それは猿山、地獄の三丁目、蠱毒の壺、
チンパン達のラストリゾート────、
GBNにおいて様々な悪名を轟かせる、上級者向け特殊ディメンションに与えられた名である。
彼の地には1つ、他のディメンションと明確に異なる点が存在する。それこそが悪名の根幹であり、ヴァルガがハードコアたる所以なのだが────、
その日ヴァルガに、新たな機影が現れた。
転送ゲートを潜り抜け、コンマ一秒の隙すら与えず直角にカーブし真上へと飛ぶ。直後、転送ゲートから現れた獲物を狙ったリスキル狙いのダイバーによる狙撃の光が通過した。光には見向きもせず、それが
「鬱陶しいなぁ…まあ、これを想定してヴァルガに来てるんだから当たり前の話なんだけど」
μがぼやき、そして操縦桿を引き更に上へ昇る。
改造ジェガンの振るったサーベルが空を切り、位置を追うようにジェガンが上を見上げると…
白い光の中に、天使が羽ばたいていた。
その日はきっと、誰かが大火力砲撃でも行ったのだろう。ヴァルガの決して晴れない分厚い暗雲が切り裂かれ陽の光が差し込む。奇しくも天使はその光を浴びて白く美しく、煌めき輝いていた。
「さ、行くよブリランテ。貴方の新しい新しい力…私達だけの力、見せてあげようね。」
天使が今一度羽ばたく。陽の光に照らされた翼から、純白の羽が舞い散る。羽は舞い降り────、
「踊れ、フェザーファングッ!!」
そして、殲滅が始まった。
舞い散った羽が突如軌道を変えて飛び始め、天使を狙ったならず者共へと突き立てられていく。
瞬く間に蜂の巣にされたジェガンは機能を喪失して落下し…入れ替わるように現れたヤクト・ドーガのファンネルが放たれてからコンマ一秒程で破壊、そのまま続けて本体の風通しを良くし撃墜する。
その挙動は、普通では無かった。
オールレンジ兵器。
ファンネル、ビット、ドラグーン、ファング…ガンダムシリーズ作品において様々な名を持つその兵器は、総じて何かしらの能力、脳波、或いはAIによって空間を自由自在に飛び回り敵機へ様々な攻撃及び妨害行動を行う、作品の代表的な武装の1つだ。
そしてそれは勿論、GBNでも実装されている。
ただし現実の人間はニュータイプになれなければ脳量子波を操れたりもしないので、基本的にオールレンジ兵器の操作方法は2種類に分かれる。
1つは、AIによるオート操縦。
最もオーソドックスなオールレンジ兵器の運用方法で、サポートメカとして扱い相手の行動を制限する、己の手に無い武装として扱う方法。
もう1つは、完全手動操作。
その名の通り、オールレンジ端末1つ1つを個別に手で操り動かす操縦方法……なのだが、これがまた異様な程操作難度が高い。言うなれば某乱闘ゲームで、4人を全て異なる挙動で、まともなバトルを演じさせる。これを1人で操作するようなものである。
故にオールレンジ兵器の操作は専ら前者のオート操縦にて行われるのだが……μは違った。
操縦桿とは別のファング専用カスタマイズコントローラーを作り、手動に最も適した形を編み出した。
指一本につきファング1つ、計10機のファングに複雑怪奇な操作を乗せて自在に操る。
それは最早、「自動だが自動であるが故に穴がある」自動操縦を遥かに超える精度を叩き出し、
向かってくる敵の挙動1つ1つを予測し潰して、敵の手から反撃の芽を1つ残らず摘み取って見せる。
そしてファングによる包囲網の中にたった1つだけ、MS一機通れる程度の穴を開けてやれば────、
『そこだッ!貰ったァァァッ!!』
「ようこそ、バイバイ。」
『なっ─────!?』
まんまと引っかかり穴を抜けて突撃してくるイージスガンダムへ、ツインバスターライフルの光を浴びせ無惨な姿に、そして誘爆を以て塵に返してやる。
決して手は止めない。
今視界に入っている残りの4機は勿論だが、このヴァルガで気を抜くことは即ち死を意味する。
ファングを操り新たな包囲網を敷き、次に迫り来る獲物───レイダーガンダムを翼、手足、頭と連続で撃ち抜いてから、本体を蜂の巣にして地に墜す。
そして次。
作業のような手際ではあるが、μも次第に指の動きに慣れてきた。そうしたら次の段階は───、
『本体も…動かす……ッ!』
同じくカスタマイズコントローラーで作った足元のペダルを踏み、背後から迫って来たフォースインパルスの斬撃をアクロバット挙動で翻って避ける。
そのままバスタ ーライフルを構え、真上からフォースインパルスを呑み込み電子の海へと還した。
緊急動作用ペダル。
コントローラーのカスタマイズ機能で足元に2つ追加した操縦機能だ。右足でブースターをふかして飛び、左足で正面に向けてライフルを撃つ。
単純で使い勝手の悪い操作機能だが、ファングによる包囲戦略を主体に防御形態の耐久力を加味した今のブリランテであれば、不意打ち対策としては十二分な効果を発揮するだろう。μにとっては、遠距離支援として今の自分が出来る最大限の改修である。
だがそれも、1人では────、
『ヒャッハー!新鮮な獲物だァーッ!』
「ッ!もう新手…!」
時間を掛け過ぎた。μはコックピットの中で1人舌打ちする。ヴァルガでは一秒の遅れが命取りの原因になり、一瞬の判断ミスで簡単に詰んでしまう。
それ故のハードコア、それ故のヴァルガ。
前方に2機の敵を残したまま現れた新手。その数は30を優に超える。恐らくは徒党を組んでいるならず者集団だろう。まずは眼前の2機を処理しなければ、と再び包囲網でセイバーガンダムを蜂の巣に変え、フリーダムの背を取り風穴を空けて墜す。
そうして新たな敵に視点を移す頃には…既に敵の徒党から突出して来たブレイズザクファントム数機によって、不利な間合いを取られてしまっていた。
「くっ……ちっ…」
「お姉様!?っ…今参ります!」
μは操縦システムを通常状態に変更する。ファングをオート操作に切り替えてビームソードを抜き、間合いに入ってきたザクの内1機の胴に突き刺し抜いて、振り向き際にもう1機を袈裟懸けに斬り捨てる。
だがそうして体勢を立て直す頃には…
「ッ…!今のも含めて戦略…!?」
相手はただの徒党では無かった。
恐らくはフォースでも組んでいるのだろう、先程の突出して来た2機も所謂陽動であり、その2機に気を取られている間にμのブリランテは、ならず者集団の組んだ完全な包囲網に捕らわれてしまったのだ。
とても、まずい。
詰みだった。どう足掻いても、20機あまりの連携に単騎で挑むなど今のμの実力では到底不可能だ。
「っ……ごめん、ブリランテ…」
μは己の愛機に謝罪の言葉を述べると、降参を視野に入れた。幸いにもここはGBNだ。負けても機体が壊れる訳では無い。またミスを潰して挑めばいい…
そう考え武装解除しようとしたその時────、
『────お姉様ァァァァァッ!!』
声が響いた。
同時に包囲網の一角、ザクIII改とガナーザクウォーリアにそれぞれ実弾とビーム砲が撃ち込まれる。
背を取られた2機は呆気なく直撃、落とされる。
「え…な、何…?」
μは何事かと武装解除の手を止め攻撃が飛んできた方向を見遣る。そこに見えたのは────、
『今私が参りました!もう安心ですよっ!!』
鮮やかに彩られた、極彩色の双頭龍であった。
今日もヒント:夜間モード(3回目)
今年はあと1本投稿出来るかなと思います。