「美しいお姉様に近寄る汚らしい
『『『ぎゃあぁァァァッッ!!?』』』
ハードコア・ディメンション・ヴァルガにて、ならず者の徒党に対し暴虐の限りを尽くす者あり。
双頭の龍から姿を変えて人の形をとったMS…ガンダムエピオンの改造機と思しき機体は、手に携えた超出力の大型ビームソードを振るって近寄る者を斬る。近寄らない者も此方から行って斬る。
それは戦いとか、殲滅とかそんな言葉よりも正しく『暴れる』と言った方がお似合いな有様だった。
「────なぁにこれぇ。」
1人取り残されたブリランテの中で、μは唖然としていた。それもそのはず、気付けば己を狙っていた敵機も纏めて、目の前の機体が薙ぎ払っているのだ。
そもそも彼女は何者なのか?
言っていた事の内容から察するにμの事を「お姉様」と呼んでいたようだが…全く身に覚えが無い。
そもそもμのリアルは一人っ子で、妹は勿論姉や兄弟もいない。何よりリアルでお姉様なんて呼んでくる相手を知らない。となれば自然とこのGBNでの関係性に絞られてくるのだが…やはりGBNにも全くそんな関係性の相手はいない。互いに名を知り合っている程知り合っている仲の相手等、オズマか以前参加したバトルロワイヤルの出場者ぐらいだ。勿論その中にもお姉様なんて呼ぶ知り合いはいない。
「…いや、本当に誰?」
謎は深まるばかり。
状況を考察しつつも、おこぼれ狙いで時折湧いて出る敵機をファングで蜂の巣にしながら、余裕が出てくればまた考察へと思考を戻す。だがしかし、それでもこの謎は解けそうに無い。本人に直接聞いてみる他に無いだろう。そうこうしているうちに、彼女の大暴れにも一段落が着きそうになっていた。
「まったく、しぶとい塵虫達…私の、お姉様への愛に灼かれて、一息で塵に返してあげましょう。」
その言葉と同時、彼女の乗る機体がビームソードを上段に構える。直後そこから放たれている、ただでさえ膨大なビーム粒子の出力が数倍に跳ね上がる。
「っ…!あの出鱈目な出力…まさか必殺技…!?」
そう、必殺技。
GBNに用意されたダイバー達の切り札。
その形はダイバー達のプレイスタイル、心、その他諸々…様々な要素から生み出されるのだと言う。
彼女の必殺技はあまりにも巨大な、ダブルオーライザーが放つライザーソードにも匹敵する真紅のビームソードを形作る。そしてそれを、溢れんばかりの狂喜の絶叫と共に、大上段から振り下ろした。
「
「────ふぇっ!?」
乱入者の巨大ビームソードが前方の敵を悉く灼き尽くす。人知れず、μの顔がボッと真っ赤に染まる。
ハードコア・ディメンション・ヴァルガに、天を衝く光の柱が1本立てられた。あまりにも膨大過ぎる熱量に、近場の残された敵機が灼かれて行くのが見える。…ついでに周囲にいる無関係のダイバーも巻き込んで大惨事を起こしている。…あ、今走ってきた鉄血製のモビルワーカーが巻き込まれて燃え尽きた。…いや、何でヴァルガで鉄血モビルワーカー?
必死に他の事を考えて気を紛らわせようとするμであったが、その顔は耳まで真っ赤に染まり戻らない。
それもその筈、μはつい今しがた、突然「愛の告白」を受けたのだ。しかも同姓(と思しき人物)に。
告白等された事も無い、何なら誰かに異性としての好意を抱いた事すら無い、こと色恋沙汰については何処までも初心で純粋なμにとって、知らない相手からの強烈な愛は刺激が強過ぎたのだろうか。
「ふぅ…お姉様ご無事ですか?安心して下さい、お姉様に近寄る塵虫共は全て始末しましたから。」
「そ、そう…えっと、貴女の名前は…?」
「えっ…?…あ、ああ!そうでした!あの時はまだ正確な名前も伝えられていませんでしたね!」
通信機越しに一瞬絶望に染まったかのような声が聞こえた気がしたが、きっと気の所為だろう。
先程まではそこそこ修羅場であった為に確認する暇が無かったが、改めて画面に移る彼女の姿を見る。
犬耳の生えた黒パーカーに、黒の軽装…
見るものが見ればすぐ解るかも知れないが、彼女のダイバールックはμのそれと酷似していた。
相違点といえば、μより少し大人びた顔立ち、2つに纏め肩に降ろしたロングの黒髪。あとは兎耳では無く犬耳である、という程度だろう。何なら首から下のコーディネートは寸分違わず全く同じである。
それだけでもμにとっては軽く怖気を感じる事態ではあるが…ここで犬耳の彼女が爆弾を投下した。
「ふふふ…私、ズィーベンと申しまして、お姉様の
「ひぅ……」
なにこの子こわい。
初対面で愛の告白をされたと思ったら既に結婚してる扱いになってた。どういう事なの。
「そ、そっかぁ…私は、μ。宜しくね…じゃあ、私今日はこの辺でもう帰るから…またね…」
「はい、ではまた。いつでも影ながら見守っていますから、何かあったら呼んで下さいね♡」
等と震える声で呟きながらも1歩、2歩と後退り…素早い動作でコンソールを開き離脱ボタンを押す。μは逃げるように、その場から去って行った───。
───────────────────────
GBNセントラル・ディメンション
中央ロビーにて。
μとズィーベンがヴァルガで奇妙な出会いを果たしてから既に3日が経っていた。世は年末、もう幾つか日を跨げば早くも新年という日頃である。
職種よっては仕事納めを済ませた人も出始め、こころなしかGBNも普段より賑わっている気がする。
そんな中央ロビーで、事は起きた。
「駄目、だってばぁ…っ!」
「離して下さいお姉様!お姉様の為に、今すぐにでもこの虫を駆除してしまわなければっ!!」
「だから、そういうのじゃ、無いから…!」
そこにいるのは2人の少女と1人の女性、そして仰向けに倒れる1人の男。
2人の少女は1人がもう片方を羽交い締めにして説得を続け、もう1人が拘束から脱出しようともがく。
女性は少し離れたところでオロオロと狼狽え、男はぴくぴくと四肢を震えさせ虫の息で動かない。
あまりにもあんまりな惨状に、周囲の視線は集まりちょっとした騒ぎに発展しつつあった。
「おい、大丈夫かよあれ」
「やだ、不倫…?修羅場…?」
「ガードフレーム呼ぶか…?」
この事態に至るには、暫し時を遡る────、
騒動が発生する数分前、μは少しぶりにオズマとの予定が合い若干うきうき気味の心持ちでGBNにログインしていた。待ち合わせは中央ロビー、いつもの場所で、という至っていつも通りの約束だ。
…そこに居合わせた面々を除けば。
「ふぅ…よし、オズマは…」
「おはようございます、お姉様♡」
「ひぅっ───!?」
μがログインした時真っ先に顔を合わせたのは、
この少女、どうやってかμのログインタイミングと場所を事前に把握し目の前で陣取っていたのだ。
突然の遭遇にμが慄いていると、後方から聞き慣れた声が近付いてくる事に気付き、希望に満ちた顔で振り返る。するとそこには────、
「オズマ良いだろう?なあ良いだろう?今日も死合おう!そしてもっと拙を痛めつけてくれ!」
「やらねぇよ!?お前これで3日連続だぞ離せこの!くっそ意味わからんくらい力強ぇ!?」
オズマが、知らない女に絡まれている。
2人の会話から察する。アレは面倒なタイプの人だ。どうやら予定の噛み合わなかった数日間、オズマも中々クセの強い人物と縁を持ったようだった。
「っ……?」
一瞬、μの胸の奥がチクリと痛む。
しかしその痛みの正体はμには解らず、胸に覚えた不可思議な違和感として、首を傾げるしかない。
奇妙な違和感は心の片隅に追いやって、オズマの元へ向かおうとする。そんな折、μは気付く───、
つい先程まで後ろにいたズィーベンがいない。
「────え?何処に…」
本日2度目の不可思議を体験した直後…
事件は起きた。
ズィーベンが、ヒバリと必死の攻防戦を展開しているオズマの眼前に現れ身を屈めそして────、
「私のお姉様を誑かす塵虫がッ!死ねッ!!」
「あ?誰…おごgrrrrぼげェ!?」
燃え滾る本物の殺意と共に、オズマの鳩尾へとその鋭い拳を高速でお見舞いしたのである。
ドンッ!という鈍い音がロビーに響き、人々の視線が集まる。オズマは呆気なくその場に倒れ撃沈、そうして尚もトドメを刺しに行こうとするズィーベンをμが必死で抑え込み、今へと至る。
この一団は暫くロビーで騒いだ後周囲の目線から逃れるように、主に物騒な犬耳少女を必死に押し留めていた兎耳少女が非常に申し訳無さそうな面持ちで4人纏めて移動させていったという────。
それから暫し、あの一団は何者なのか、何処のフォースだ、等と話題になるのだが…それはまた別の話。
皆様良いお年を────。
SpecialThanks!
二葉ベス様作、
「ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ」
より、彼女達の冒険(苦行?)の一幕より許可を得て燃やさせて頂きました。改めて感謝申し上げます。
今回から本格登場していくズィーベンちゃん、
あの「GBN総合掲示板」の青いカンテラ様が考案してくださった子です。草案当初からはだいぶやべー子に仕上がってしまいましたが、ここに感謝申し上げます。