「ううん……うーん…」
某日、とある家庭のリビング。
テーブルにデバイスを置いて、画面と睨めっこをしながらしきりに頭を悩ませる1人の少女がいた。
少女の名は、
彼女が住まう地域においては、所謂
そんな美優が睨むのは、携帯型ダイバーギア。
一大人気コンテンツ、GBNへのログインに必要であったり、その他諸々の関連コンテンツへのアクセスもこれ1つで行えるという多機能端末だ。
美優は、GBNプレイヤー…ダイバーである。
彼の電脳世界においては自身の本名を軽く文字った記号「
ガンダムウイングゼロブリランテSCを駆る、新進気鋭のダイバーとしてその名を馳せている。
しかしひょんな事から、思いもよらぬ難題にぶつかり悩む羽目になってしまったのであった。
そうして今も睨めっこを続ける彼女に、後ろから努めて穏やかに言葉を投げ掛ける者が1人、
「こっちに降りて来て考え事とは珍しいね、美優。僕が聞いて力になれそうな事なら聞くよ?」
「あ…父さん。今日はお休みなんだ。…うん、GBNの事でちょっとね。昨日フォース組んだんだけど…」
美優の父、
いつも仕事で忙しそうにしている、美優にとっての唯一の家族。とある企業の代表を務め、今の有栖川家の富と名声を彼一代のみで築き上げた大人物であり、娘の美優にガンプラ製作やバトルの技術、ガンダム系統作品への知識を仕込んだ張本人である。
ここまででは聞こえが悪いかも知れないが、これでもかつては読書か部屋の窓から外を眺める事ぐらいしか趣味を持っていなかった美優にバーチャルとはいえ歩き回る自由と活力を与えた人物でもある。
そんな父は美優にGBNのノウハウを教えて以降も、その雰囲気を察して相談に乗ってくれていた。
美優としては、頭が上がらない思いだった。美優にとっては唯一心を許し、我儘を言える人だ。
テーブルを挟んで向かいの椅子に座った頼れる父の問い掛けに美優は安堵の息を吐き、ポツポツと新たに湧いて出た悩みを語り始めた────。
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時は1日程遡る。
美優───μが仲間達と共に、新たなフォース
「
早速手続きを済ませ、宛てがわれたデフォルトの基本フォースネストへと向かったのだが────、
「部屋が…狭い…っ!」
その部屋はμのお気に召さなかった。
元よりフォースネストとは、主にフォースの活動やバトルにおける会議等を行う拠点として提供される部屋である。故に…10人や20人も要する大規模フォースであれば基本フォースネストもそれなりの広さにはなるものの、μ達Gloriaは総勢4人の小規模フォースであり、宛てがわれるフォースネストも勿論最小規模の、8人も入れば狭苦しく感じそうな部屋だ。
本来4人ならばそれで充分なのだが…
μは、美優は生粋のお嬢様である。
だからこそ、美優自身がどんなに広い器を持っていようと、(自分にとって)狭苦しい小部屋に押し込められる事だけは納得がいかなかったのだ。
つまりはμの普段は見せない我儘が爆発した訳だが…この発言に真っ先に頭を抱えたのはオズマだった。
「おいおい…どうすんだよ、まだフォース組んだばっかなんだし、共有BCなんてほとんど無いだろ。」
「うぐっ……」
「だから、な?今は一旦あきらめオグファッ」
「お姉様に不敬ですね?刺しますよ、オズマ」
「もう…刺してる…っつうのォ……」
オズマがμを諌め、ズィーベンがオズマを刺し、ヒバリは1人その場に立ったまま居眠りを決め込む。
そんな寸劇を他所に、μは考える。
どうする、どうすればこの狭苦しいフォースネストから1秒でも早く理想の部屋に乗り換えられる?
各々BCから共有財産を工面する?
ダメだ、私とオズマだけで済むならばはともかく、ズィーベンやヒバリにそんな要求はできない。
コツコツとクエストをこなしてBCを貯める?
これもダメだ、あまりにも時間がかかり過ぎる。
ならばPKにでも走ってBC強奪して回るか?
論外。
「お姉様!もし資金が足りないと言うのでしたら、私がヴァルガに出向き軽く稼いで…!」
「ォオ…痛ってェ……」
「────大丈夫、私が何とかするから」
と…つい勢いに乗って皆の前で、果たす方法すらも決まっていない大見得を張ってしまったのだった。
μは引き返せない、ズィーベンやオズマ達なら謝れば笑って許してくれるだろう。だがそんな事、μの…否、有栖川 美優のプライドが許す訳が無かった。
こうして、μは予期せぬ窮地に立たされた。
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「──────っていう事があって……」
「……成程、そういう事か。」
視点は戻って有栖川邸リビング。
事の顛末を一通り語り終え大きな溜息を吐く美優を、父の燎は向かいに座ったまま聞き終え、そして静かに答えた。その言葉は普段の何処か抜けたような声音とは違い、意志力の強さを錯覚させる。
美優はその父の雰囲気を知っていた。
これは、何か大きな仕事を決心した時の声だ。美優がGBNをやろうとしている事を看破した時も、己の誤ちを明かした時も、この声音で応えていた。
「────父さん…?」
「美優、その拠点、僕が造っても良いかな?」
「………ふぇっ…?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
一瞬何を言ってるのか理解が及ばず、思考を状況へ追いつかせるのに数秒の時間を要してしまう。
だが思考回路が落ち着いても、今度は水が湧き出るかのように、次々と疑問が噴出した。
何故?いや、これはわかる。
父さんは所謂親バカの部類だ、娘である美優の為なら多少の無茶は笑って承諾してしまうし、なんならしっかりと無茶を成し遂げて来てしまう。
そんな父が、悩んでいる美優の悩みを聞いて、それを請け負うと言い出さない訳が無いのだ。
ではどうやって?これも解らなくは無い。
父さんの趣味はジオラマ作製だ。仕事の合間の暇な時間に手を出しては作り進め、物によっては数ヶ月かけて超巨大かつ精巧なジオラマを作り上げる。
家にはこのジオラマ作製専用の部屋もあるくらいで、また別の部屋には幾つかジオラマの精度を競うコンテストで何度か受賞経験がある事を示す賞状やトロフィーが安置されている程の腕前なのだ。
ならば、それは出来るのか?
…父さんならば、これも可能だろう。
父さんの仕事は、社会交流におけるあらゆる摩擦を解消する緩衝材となる仲介組織の代表だ。
風の噂によればその企業の発足はGBN登場前まで遡り、GPDの技術をGBNに応用する際に技術提供や共同開発を行うにあたって、その仲介役を務め大成功を収めさせた立役者の1人となったのだという。
そしてその企業は今もこの街、自治体、引いては国そのものにも何かしらのコネクションを有していて、裏表あらゆる世界の人間に顔が効く…らしい。
これ程までに人脈を持っているのならば、そして噂が本物ならば、父さんはこれから私達のフォースネストとなる大型ジオラマを組み上げ、GBN運営に掛け合い登録させる…のだろうか。この辺りは娘である美優自身にすらも全く以て解らない。
だが父さんが見せるこの自信、間違いなく本物だ。何かしらの手段を講じて、ジオラマをフォースネストとして通すのは確実だろう。そして父さんは絶対にミスをしない、というのも確定だ。
ならばその決心を断る方が失礼であるというもの。美優が聞くべきは、たった一言だけだろう。
「………本当に、良いの?」
「勿論。僕に二言は無いんだよ。」
「偶に二言出してるけどね。」
「うぐっ……また痛いところを突くなぁ…」
「……ありがとう、父さん。私の…私達のフォースネストの事、どうかよろしくお願いします。」
「うん、任されたよ。…さて、それじゃあ美優の仲間達について、もっと詳しい事を教えてくれるかい?折角作るんだから、他に無い最高を目指したいからね。その為にも、情報は多い方が良い。」
「っ…!長くなるけど、いい?」
「勿論、幾らでも教えておくれ」
美優は仲間達の事を話せる喜びから頬をほころばせ、そして長い物語を語り始める。
その日はそのまま、幾度か小休止や食事休憩をとりながらも冒険譚に花を咲かせ、夜が更けていくのも気にとめずに語り合い続ける。その姿はある意味似た者同士の親子のようであった────。
今回は場繋ぎ回なようなものなのでそこまで大きく話は進行しません。
次回、フォースネスト完成…!?