※前回、第三十話の後書きにティアフォニアの情報を解禁しました。気になる方はどうぞ。
「目覚めろッ、レグルスッ!!」
オズマの叫び、それに応えるような挙動で紅い悪魔は自らの胴部に爪を差し込み、フレーム部分を掴んで強引に変形させる。それはかつてGPDで猛威を振るった紅い悪魔が機体に仕込んでいた機構であり、GBNにおいては彼自身の意思で封印され、代わりに必殺技がギミックとして再現していたモノ。
1つ、また1つと機体のロックが解かれていく。その度に機体はガクンと大きな振動を見せ───、
『ふふッ……ふふふッ…!嗚呼、待っていたわ。それでこそ紅い悪魔ッ、この私の傍に立ち得る者ッ!さあレメゲトンッ、久しぶりの
現行のガンダムフレームには存在しない、ミキシングとスクラッチで組まれたオリジナルの頭部が鳴動し、エクシアダークマターを彷彿とさせる独特なツインアイが輝き、マスクパーツが震える。
そしてその直後、『変身』が始まる。
バックパックから伸びる2本の腕が関節を外すようにしてそのリーチを大きく伸ばし、先端の爪が赤熱する。脚部の関節部もまた歪な挙動を見せ、人体の膝にあたる部分のフレームがせり出し変形して、人型ならざる獣特有の逆関節型へと変貌する。
更なる変貌はこの直後、頭部の顎にあたる部分が大きく下へ展開、悪魔がその大顎を開くかのような形相を見せると、開かれた穴から過剰熱量を蒸気として放出、躯体の奥でエイハブリアクターが駆動する音が、まるで悪魔の叫びが如く響きそして……
覆面が外れた。
つい先程までツインアイだった顔はマスクパーツによって偽装された仮の顔であり、その真体は
六つ眼の化物であった。
完遂された変身、先程までは4本腕ながらも辛うじて人型らしい面影を残していたその躯体は、
白く凶悪なシルエットへと変貌していた。
『ふっふふ、待たせましたわね、オズマ』
「構わねェよ、これで準備完了だ。」
相対するは二柱の悪魔。
紅と白の二つは互いに姿勢を屈め躯体に力を込めて、そして……同時に大地を蹴って飛び出した。
互いが互いの頭部を狙って拳を振るい、同時に直撃して怯む。間も無く全く同じ挙動で復帰し、続けてボディーブローを見舞い受けて互いに後退る。
レグルスとレメゲトン、対を成す2機の悪魔が互いの躯体を殴り、突き、引き裂いて……
およそMS同士の戦いとは思えないような光景が、μ達がいる屋敷の庭に、そしてセントラルディメンション中央ロビーに映し出されていた────。
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『ん、ぎぎ…相変わらず、しぶとい…ッ!』
「ッたりめェよ…ォラァッ!!」
レグルスが、自身に馬乗りになるような姿勢でマウントを取ったレメゲトンの腕を掴み、勢いそのまま一気に押し返して突き飛ばす。挽回されたレメゲトンは背から荒野に落下するも、時間にして1秒程度しか間を空けずに、強引に跳躍して起き上がった。
お互いに推進剤はとっくに底をついて人間くさい挙動でしか動けず、レグルスもその躯体を起こすと先程レメゲトンからもぎ取った腕を投げ捨てる。
二柱の悪魔の激突は激戦の様相を呈し、一向に終局を迎えない激闘はやがて泥沼と化して……結局のところ、戦いは30分にも渡って続けられた。
全く互角と言って相違無いその戦局はしかし、開始25分を越えたあたりから徐々に傾いて、ついに終わりの時を迎える。
『はぁッ…、はぁッ、…これ、でえッ!!』
「コイツ、でェ…終いだァァッ!!」
紅と白の二柱の悪魔が同時に腕を伸ばし、剛爪を繰り出す。両者の腕は正面から衝突し、爪が弾かれ微かにズレて……
敗者となった紅き悪魔の躯体がレメゲトンへ寄り掛かるように倒れ、その機能を完全に停止させた。
白き悪魔はたった1本残された腕を天高く突き上げ、勝利の雄叫びとも取れる唸りを天に響かせる。
長い激戦の中で4本の腕の内3本を失った上に頭部が深く抉れ、凄惨な状態のティアフォニアの愛機レメゲトンはしかし、見事勝ちを掴み取って見せた。
─────Battle Ended─────、
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「フゥ、久々に良い汗を流しましたわ…」
「痛ゥ…フィードバック、結構キツいな……」
時は少し経過して、白亜の屋敷グラズヘイム。
観戦を終えて出された紅茶やら茶菓子やらを堪能するμ達がいるテラスに、オズマとティアの2人がそれぞれ幾星霜ぶりかの本気に思い思いの言葉を洩らしつつ、連れ立って帰って来た。
「おかえり、オズマ。…見つかったんだね。」
「────応、まあな。」
それだけ。
μとオズマが交わした言葉はたったそれだけ。それだけで考えが通じ合う程度にはお互いを信頼する仲なのだと、その光景を見て理解したティアフォニアは一団の後ろ、執事達の隣で1人静かに微笑む。
そして暫しの会話を経て……μがティアフォニアへと向き直ると、改まったように口を開く。
「あ、あの…オズマの事、有難うございました。……私達の言葉だけじゃ、オズマの目を覚まさせる事は、出来なかった…と思うから……、」
「────ッフフ、構いませんわ。この男とは曲りなりにも腐れ縁、いつまでもウジウジと腐って
「辛辣だな……いやまぁ事実だけどよ…」
「ふふっ……改めて、有難うございました。すぐにお返しとかは、出来ませんけど……この借りは、いつか必ず返します。それじゃあこれで────、」
「あら、何を言ってますの?もちろん貴女達も全員、これから1人ずつやるんですのよ。」
「え」「えっ」
「Zzz…」
「貴女達全員、1人残らずッ!今日ここで、この私が直々に鍛え直して差し上げますわッッ!!」
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「あぁぁぁ…うぅぅぅ……」
「ああ、お姉様…なんという……」
「ダメだなこりゃ……」
「んん……は、ふ…」
オズマとティアフォニアの激突からおよそ2時間が経った頃。中央ロビーにてGloriaの面々とティアフォニア達が地獄の特訓を終えて対面していた。
ズィーベンは天才肌故の飲み込みの速さからか比較的余力を残して及第点を獲得したものの、
μは及第点こそ獲得しつつもボロボロに、
ヒバリに至っては及第点を獲得するよりも早くそのドMっぷりにティアフォニアの方が音を上げ、”コレはもう何かするより思いのままにさせた方が良いだろう”という事で結論が付けられ終了となった。
なお当のヒバリは、何故か若干頬を赤らめ何処か肌がツヤツヤしているようにも見える……、
「フフッ、そこの変態ドM侍は手に負えませんが…また行き詰まる事があれば、いつでも頼ってくれて良いんですのよ?これでもオズマよりも早くGPDに参入した先輩としてェへぶッ!!?」
先輩風を吹かせドヤ顔をキメるティアフォニアの頬に、何やら白い塊が勢い良く撃ち込まれた。
何事かと、派手に吹っ飛んだティアフォニアを他所にオズマが白い塊を見ると…どうやらそれは白い手袋だったらしい。随分と物騒な威力だが、察するにそれは「決闘」を意味するものだろうか……
……等と考えていると、手袋がシュートされた方向から威勢の良い女性の声が聞こえてきた。続けて先程まで倒れていたティアフォニアが、声に応じるように立ち上がって其方を睨み付ける。
「漸く見つけましたわよ、ティア…ッ!」
「相変わらずの殺人手袋ですわね、アリア…」
赤みがかったブロンドを白リボンでツインテールにした髪に、ティアフォニアとは対照的な紅い瞳が映える、傍らに執事と思しき男を従えた美少女。
決してハイランカーという訳では無いが、その話題性の強さから彼女の事を全く知らないと言う歴戦のダイバーはそこまで多くは無いだろう。
アリア・ファリド、
その名の通り、鉄血のオルフェンズに登場するマクギリス・ファリドの生き様を敬愛し、自らもガンダムバエルを駆って
「今日こそは、カイエルの名をアグニカ・カイエルの元に返上して貰いますわよ、ティア。」
「フフンッ、そちらこそ。いい加減に私のやり方を認めさせてあげますわ、アリア。」
偶然だろうか、一対になっているような見た目をした2人のお嬢様はどうやら犬猿の仲らしい。
まるで漫画のライバル関係にある2人がやるように睨み合うと、2人とその執事達は連れ立って廊下の方向へと歩いて行き、見えなくなってしまった。
「────ま、表立って喧嘩出来る奴が出来るくらいにはアイツも持ち直したって事かね。」
オズマはそう言うと、ボロボロのμを背負い直してフォースネストへ転移すべく画面を開き操作する。
しかしその結果は─────、
[System Error]
「────は?」
今まで見た事の無い現象だった。
GBNは、その史上最高性能とも言える優秀なUIと、定期的なメンテナンスと非公式のデバッカー達の優秀さに裏打ちされたシステム面の強靭さを誇る。
ミッションや細かいポイントの不具合こそ多々あれど、外部からの干渉以外で、根幹たるメインシステムが不具合を発生させた事はほとんど無いのだ。
それが突然、メインに関わる移動機能にエラーを吐き出した。曲りなりにもGPDからGBNへ長く関わったオズマにとって、それは驚きのものであった。
驚愕はそれだけに留まらない。
直後、セントラル・ディメンション中央ロビーに次々とダイバー達が転送され、その誰もが驚き狼狽えている。程無くして中央ロビーが人でごった返す程に大勢のダイバー達が集められ────、
『GBNのサービスに深刻な障害が発生しました。これより順次ログアウトを行い、緊急メンテナンスを実施致します。プレイヤーの皆様には大変ご迷惑をお掛けいたしますが、ご理解とご協力の程、よろしくお願い致します。』
中央ロビーのメインコンソールパネルにメッセージが表示され、続けて全く同じ内容の音声アナウンスがGBN全域に響き渡る。突然の出来事に騒ぎ出すダイバー達であったが、それも順次行われる強制ログアウト措置によって次第に静寂を取り戻し、そしてズィーベンやヒバリ、オズマや背負われたμもまた、強制ログアウトによって電子の海へ溶け消え、現実へと引き戻されて行くのだった────。
[情報解禁]ガンダムレメゲトン
ガンダムダンタリオンのフレームに、ガンダムハルートを元に改造を加えた頭部、バエルの肩、マルコシアスの胴、アスタロトの腰、ルプスレクスの腕と脚を纏い、それぞれ腕脚のフレームを逆向きにも曲がるような改造を施し、またそれぞれに球状関節を追加する事で更なる柔軟性を追求したガンプラ。バックパックにはスクラッチした専用のパーツが装備されており、各種ガンダムフレームや72柱の悪魔をモデルに組み上げたパックを装備する事で様々な状況に対応する。
基本装備はバルバトスルプスレクスの上半身をフレームごと改造して背負い、ヴァルキュリアバスターソードを2本装備した近接格闘特化の「バルバトス・ページ」。
他には防御偏重の「グシオン・ページ」や物理射撃型の「フラウロス·ページ」、高機動格闘型の「バエル・ページ」にビーム砲撃偏重の「サブナック・ページ」等々、様々なバックパックが存在する。
またバックパックそれぞれがガンダムフレームの上半身を用いて製作されている為、レメゲトンと結合する事で互いのエイハヴリアクターがシンクロ、基本性能のみでツインリアクターの2倍の出力を誇る「クアドラブル・リアクター」を稼働させる。その出力値は、本来ツインでも姿勢制御程度にしか使用できないリアクターのみで最低限の航行を可能とする程である。
ガンダムレメゲトンの柔軟な関節機構を応用し、逆関節等の変身によって不規則な機動を可能とする形態。
この状態では常に阿頼耶識リミッターが解除され、顎のロックが外れて口が開かれたような姿になり、口腔部をクアドラブル・リアクターの過剰な回転熱を排熱する機構として作用させる他、物理的な牙としても活用できる。
余談
ガンダムレメゲトンの頭部はバルバトスをベースに、ガンダムハルートのフェイスパーツを掛け合わせ、その上からエクシアダークマターのフェイスマスクを被せる形で構成されている。マスクでツインアイに偽装された頭部はマスクが外れるとその内側から隠された六つの眼を顕にし、正しく「悪魔」の風貌を人々に見せ付ける仕様となっている。
全ては製作者であるティアフォニアの趣味で取り入れられた演出である。