ダンジョンにすっごい研究者が現れた   作:緑黄色野菜

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終わりを始める

 アルテミス・ファミリアのホーム、アルテミスの私室。そこは綺麗に整理されていた。

 元が潔癖の気がある神ではある。なので、元々汚れている部屋でもないし、そもそも部屋が狭いのでものを多く置ける部屋でもない。だが、それにしたって、この部屋は整然としすぎていた。

 トッド・ノートは主のいない部屋を、静かに睥睨していた。無断で入ったことは、悪いとは思う。が、それは主神が眷族を裏切ったのだからお互い様だ、と自分を納得させた。

 アルテミスがいないのは分かっていた。暫く「ヘスティアの所に泊まってくる」と言い残して出て行ったから。今までも、ままそういう事はあった。今にして思えば、この時のためだったのだろう。今日という日の嘘を、もっともらしくするために。

 そう、嘘だ。確認したわけではないが、彼女がヘスティア・ファミリアのホームにいない事は分かっている。

 これといった特徴のない部屋。狭い部屋をさらに狭くしている、窓際のデスクには、一枚だけ紙が置いてあった。トッドはそちらに近づいていく。外から漏れる明かりはか細く、紙面を確認するには少々頼りない。デスク脇に置いてある、魔石灯をつけて照らした。

 紙には簡素にこう書かれている。『捜さないでください。どうか黙って姿を消す私を許さないでほしい。後のことはヘスティアに頼ってください』とだけ。

 これだけ。本当に、たったのこれだけだ。

 トッドはデスクの、ちょうど紙がある部分に手を置いた。そして、拳を握る。紙はあっけなく、本当にたやすく、ぐしゃぐしゃに丸められて、ただのゴミになる。

 何年だろうか。十年は経っていないと思う。しかし、それに近い年月はあった。それだけの時間の答えが、たったこれだけの言葉。

 

「知っていた」

 

 トッドはつぶやいた。

 

「いつか、終わりが来る事は」

 

 何をどう表現すればいいのか。全く分からない。だから、言葉を吐き出しながら、歯ぎしりするしかない。

 知っていた。確かにその通りだ。終わりが来ることは。だが、これだけか? 十年も苦楽をともにした報いが、たった数行書き込まれ、捨てるように置かれたこの紙だけ?

 許されるのならば、絶叫でもしていただろう。思い切り叫び、罵倒をしたっていいかもしれない。なじってやるのだ。そして、自分がしたことがどういうことか、はっきりと分からせてやる。

 だが、今はその時ではない。

 まだ分からせなければならない事はあるのだ。取り返しはつくのだと。非難も、罵倒も、何もかも。そんなものは、すべて失敗したときでいい。

 苛立ちを表に出す。当たり散らすほど物は置いていないため、書き置きを破ってくずかごにたたき込む。

 トッドは足早に、それこそ目の前にあるものはテーブルだろうが扉だろうが蹴倒すような勢いで歩き始めた。歩幅も広い。多少急いだところで何がどう変わるわけでもないが、それでも彼は急かされるように足を動かした。

 向かった先は、ロキ・ファミリアだった。

 実のところ、アルテミス・ファミリアと探索系ファミリアとの関係は、あまり深くない。生産系ファミリアや、商業系ファミリアとは、切っても切れない縁があるのだが。理由は簡単で、そもそもトッドに直接依頼できるほど経済力を持ったファミリアはさほど多くなかった。

 関係が深く、強力な冒険者を抱えているファミリア。この中で選別し、さらに交渉に応じてくれそうな所となると、ロキ・ファミリアが一番だった。

 ロキ・ファミリアの門の前に立ち、門番に声をかける。

 

「すまないが」

「…………? ああ、トッドさんですか」

 

 彼らは、ちょうど門を閉じようとしている所だった。ギリギリのタイミングだ。急かされるままに足を動かしたのは間違いではなかったのか、と密かに思う。

 

「緊急冒険者依頼(クエスト)だ。ロキ様に話を通してもらいたい」

「あ、いや、でも……」

 

 門番の一人が口ごもる。

 それも仕方ないだろう。今日はもう閉店しようという時刻だ。これを無視して、依頼を通そうと言うのだ。難色を示すのも仕方がない。

 悩む門番に、しかしもう一人の門番が言った。

 

「さすがにアルテミス・ファミリアを門前払いはまずいって……。話だけでも上に通さないと」

「う……そうだな。少々お待ちいただいてよろしいですか?」

「かまわない」

 

 待つこと十数分。どうやら確認は取れたようで、門を通された。

 案内された先は、ロキ・ファミリアの神室だった。話の内容はまだ分からないという事で、一番防諜に適した場所が選ばれたのだろう。入り口に立って警戒しているのはガレスとベートの幹部という徹底っぷりだった。

 扉をくぐる。と、そこにいたのは、ロキとフィンだった。ロキは正面の執務机に座っており、その脇にフィンが立っている。

 入って扉が閉められると、まずトッドは頭を下げた。

 

「突然の面会に応じていただき、感謝します」

「ええねんええねんそういうお堅いのは。急ぎの用事なんやろ?」

「ええ。単刀直入に言います。我が主神、アルテミスが出奔しました。おそらくはそのまま消滅する気です。アルテミス様を追いかけて止め、その原因を先んじて排除するために戦力がほしい。そのために協力していただきたい」

「んん?」

 

 ロキは疑問符を浮かべていた。椅子に片足を乗せて、その上にさらに肘を立てるという非常にはしたない恰好だが。脇にいるフィンが、非難げに彼女を見ていた。

 

「出奔ってどういう事や。それに消滅? 訳が分からんわ」

「今のアルテミス様は、アルテミス様であってアルテミス様ではない、というのはご存じでしょうか」

「いいや……ああでも、何か神威が変やなーとは思っとったけど。……もしかして、かなりヤバい状態だったん?」

「はい。かなりヤバい状態で自分を保っていました」

「無理してまでロキに合わせようとしなくていいんだよ」

 

 苦笑しながら、これはフィン。

 

「で、うちらの力がほしい……か。ぶっちゃけ聞くけど、どんだけ危険なん? いくらアルテミス・ファミリアの依頼でも子供に命かけさせるような事はさせられへんで」

()()()の情報が正しければ、戦力的には第一級冒険者が一人いればおつりがきます。ですが、その手前でどれだけ障害があるかが、はかりきれません。その上、今回は速度が勝負です。遅ければ、アルテミス様が送還されてしまいかねませんので」

「戦力そのものより速度がほしいから、うちを頼った、か。まあええやろ。納得しといたるわ。それでやけど……」

 

 うひひひひひ、とロキはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。と、同時に、すぱぁん、と音がする。フィンがロキの頭を叩いた音だ。

 うなりながら頭を抱えるロキを無視して、フィンが続ける。

 

「報酬はどれだけだい? 言っておくが、安くはないよ。話を聞く限りじゃ、うちの上位陣を複数ほしいのだろう? 第一級冒険者多数を扱うならなおさらね」

「二本でどうでしょうか?」

「?」

 

 言われて、フィンは首をかしげた。その様子を無視して、トッドは続けた。

 

「そちらの幹部である二名に、まだ宝剣(シザウロス)が行き渡ってないのは確認しています。その二本を作ります。それが報酬でどうでしょうか」

「何やってんだロキ早く行くぞォ!」

「そうじゃそうじゃ! クエストなどとっとと終わらせねばのお!」

 

 言ったのは。

 扉を叩き付けるように開けた、ベートとガレスだった。

 まさか外で聞き耳をたてていたという訳もないだろうが、それでも話は聞こえていたらしい。彼らは部屋に割り込んでくると、ぽかんとするトッドを通り過ぎて、ロキに詰め寄り始めた。

 

「だいたいおかしいんだよあのクソアマゾネス姉妹に宝剣(シザウロス)があって俺にないのがよお!」

「くっ! なんであのときグーを出してしまったんじゃ……! しかしそれももう終わりだ! ついに専用宝剣(シザウロス)を得るときが来た!」

「待って! ちょお待ってや!」

 

 ものすごい剣幕で、ロキに詰め寄る二人。トッドは置き去りにされたまま、ぽつんと立っていた。

 その様子に、フィンは困ったように眉をひそめながら。苦笑をそのままトッドに向けて、ため息ともとれる吐息を漏らしながらつぶやいた。

 

「まあ、こうなったら受けるしかないね。条件も申し分ないと言っていいし」

「なんかこう……すみません」

「いいよ、謝らなくて。……ちなみにだけど、うちに断られてたら、やっぱりフレイヤ・ファミリアに話を?」

「ええ。同じ条件で」

「なら優位を保つためにも、なおさら受けなきゃね」

 

 フィンと話をしながら、トッドはちらりとロキを見た。彼女は未だに、ベートとガレスの文句だか愚痴だかに付き合わされており、話ができる状態ではない。よほどの剣幕でまくし立てられ、今にも椅子から転げ落ちそうだった。

 視線をフィンに戻して、トッドは言った。

 

「こちらの輸送手段で連れて行けるのは、八名です。うち魔法使いを二名お願いします。後は、範囲防御手段を持つ者を三名」

「了解。すぐに準備させよう。久しぶりの大仕事だ」

 

 その後、フィンと細かい打ち合わせをして(ロキは結局話に混ざれなかった)ホームから出て行った。

 門をくぐる寸前、トッドは背後を振り返る。今まで静まる寸前だったロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』が、多少元気を取り戻した。そんな気がした。

 トッドはわずかな喧噪を感じながら、ロキ・ファミリアに出向いた足で、そのまま秘密の倉庫へと向かった。

 オラリオの北西、第七区の奥まった地。ここも細々とした商店が並んでおり、活気がないわけではないのだが。いかんせん他の地区より人気がない。冒険者をターゲットにした店が多いため、夜はなおさら人が少なかった。そのためか、一部区画はまるごと倉庫地帯にされており、あまり人が寄りつかない。治安も比較的悪いため、あまり人が好んで来るような場所ではなかった。つまりはそれだけ、隠し事をするには都合がいい場所という事でもある。

 彼は貸し付けの倉庫一つに入って、中を確認した。一応信用がおける場所を借りただけあって、荒らされた様子はない。ため込んでいた保存食なども何かが変わった形跡はない。そのほかについては……まあ、どうせ何があるのかも理解できる者はおるまい。

 トッドは保存食を()()に乗せると、起動した。そして南門の市壁へと向かう。

 

(何というか、つくづく南門とは縁があるな)

 

 特に何を感じたわけではないが、そんなことを考える。

 アイズとオッタルの決闘。オッタルの紅皇主(イフリート)機能試験。そして――そういえば、初めてアルテミスと出会ったのもこの近くだったような――古い記憶で、定かではないが。

 市壁の上には、八名がたむろっていた。どの顔も知ったものだ。ロキ、アイズ、レフィーヤ、リヴェリア、ティオネ、ティオナ、フィン、ベート。ガレスは人員から漏れたのか、それともロキ・ファミリアに何かあったときのための指導者なのか、居残り組にされたらしい。

 

「おいおい、なんだありゃあ!」

 

 ベートがこちらに向かって叫ぶ。

 トッドは()()ごと降りて、市壁の上に立つ彼らの前に着地した。

 

「な……なんやこりゃあ……」

 

 ロキが愕然としている。他のメンバーも、似たような面持ちだった。

 トッドは飛んでいたのだ。

 ()()――トッドは単純に飛行機と呼んでいる――の形状は、単純なものだった。細長い胴体に、操縦席が一つ、座席が三つ並んでいる。座席は菱形に配置されており、操縦席の他に中部座席が二つ、後部座席が一つという並びになっている。後部座席は、今は食料やテント、念のため換えの魔石を乗せているので乗ることはできない。胴体は細長く、翼は扇状でこれは開閉可能だ。今は他の二機は浮遊状態で待機させ、一機だけ翼を展開させ飛行状態にし、他の二機を曳航していた。

 トッドは自分が操縦する飛行機の翼を折りたたみながら、浮遊力を弱めていった。三機の飛行機が、ゆっくりとロキ・ファミリアの前に降り立つ。

 

「え? うそ? なに? うち夢でも見とるん?」

「……同じ夢なら俺も見てるぜ」

「まさかこんなものがあるとはね。つくづく驚かされるよ」

 

 着地した飛行機に、皆がおそるおそると近づいてくる。ティオナなどは比較的困惑が少なく、つんつんと飛行機をつついていた。アイズとレフィーヤは、トッドのめちゃくちゃな発明品には慣れているのだろう。そういう事もあるかというような調子で問いかけてくる。

 

「それ……なに……?」

「魔法、じゃありませんよ、ね?」

「飛行機――まあざっくり言えば、人が()()()()()()()()空を飛ぶための道具だ。動力は魔石で補ってて、操縦桿を介して上下左右に移動するから、本当にただの一般人でも飛ぶことはできる……まあ、魔力操作で安全弁を拵えるようにしてるから、扱いは魔法使い推奨だが」

 

 開発には苦労した、と過去を懐かしむ。

 発明そのものはさしたる労力ではなかった。それこそ使い手の調子まで見る必要がある神域金属(アダマント)ほどではない。所詮は浮力さえ発動させてしまえば、後は推力と方向転換だけの話だ。問題は、アルテミスに見つからないようにこれを作り上げる点だった。そのためにガネーシャ・ファミリアに話をつけ、彼らの飛行型モンスター教育に混ざるようにして試験を重ねた。仕舞うのもいちいち人気がない時間を選ばなければなからなかったため、念を入れて夜間に倉庫まで運ばなければならなかったし。

 

「ひゃっほーい!」

 

 と、いきなりロキが飛び上がって嘉悦に満ちた声を上げた。

 

「正真正銘うちが第一発見神や! こら自慢できるでぇー!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねるロキを注意する者もいない。周りも似たような反応ではあった。

 彼女はぜーはーとよだれを垂らさんばかりの勢いで、曳航用の紐を解くトッドに詰め寄りながら言った。

 

「なーなートッド。これいくら? いくらなん? うちに一番最初に売ってや」

「ロキ! うちにはもうそんな金はないぞ!」

 

 眉をひそめて言ったのは、リヴェリアだが。しかし彼女も、やはり飛行機から目は離せない様子だった。

 トッドは紐を解き終え、それを荷物を固定する紐の一つとして結び直したところで振り返る。

 

「事が終わった後は、二機は前金扱いでロキ・ファミリアに譲渡する。それでいいか?」

「マジで!? いょっしゃ! 言ってみるもんや! 六十億ヴァリス相当のクエストといい、ほんま気前がよくて最高や! トッド愛してるでー!」

 

 もはやぶっ壊れんばかりの勢いで喜ぶロキに。さすがにファミリアの仲間も半ば呆れの視線を向けていた。

 その場で踊っているロキをおいて、フィンがよってくる。少しばかり声を潜めて、

 

「うちからしたら文句の出ようもないけど、いいのかい? これだってしかるべき方法で売り出せば、相当な利益になるだろうに」

「かまやしないさ。元から放出しても惜しくないっていうのが一つ。それに、アルテミス様の安全には変えられない。ロキ・ファミリアだって、主神のピンチだったら何を置いても助けに向かうだろう?」

 

 フィンは答えなかった。それは、答えるまでもない問いだったからだろう。

 

「パイロットは、一機は慣れてる俺が務める。他のはリヴェリアとレフィーヤに任せたい。やってくれるか?」

「はい」

「任されよう」

 

 レフィーヤは勢いよく、リヴェリアはしずしずと首肯した。

 

「乗組員はそっちに任せた方がいいだろう? 能力を把握してるのはそっちだから」

「そうだね。広域防御が可能なのは、アイズ、ティオネ、ティオナの三人だ。これを分けると……一番宝剣(シザウロス)に慣れているアイズがトッド班かな。リヴェリア班にはティオネ、レフィーヤ班にはティオナを配置して……」

「はい! 私は団長とがいいです!」

「言うと思ったよ……。という訳で、僕はリヴェリア班だ」

「せやったらうちはアイズたんと同じ班やな。突撃するならトッドがおるとこやろうし、いざという時判断する頭が二つあった方がええやろ」

「だね。余り物みたいで悪いけど、ベートはレフィーヤ班でいいかい?」

「どこだってかまわねえよ」

 

 とは言うものの、彼はアイズの方をちらちらと見ていた。隣の席になりたいのは傍目からでも分かったが、まあここでごねる事もできない。そんな様子だった。唯一宝剣(シザウロス)を持っていないため、ロキを除きこの中でも一番戦力になれないという自覚もあってだろう。

 

「レフィーヤとリヴェリアはこっちに来て。使い方を説明するから」

「わ、分かりました」

「承知した」

 

 リヴェリアは自然体だが、レフィーヤはどこか緊張している。どうにも空を飛ぶという行為に、不安を感じているようだった。

 トッドは緊張を解す意味も込めて、なんとか苦手な笑みを作って、肩をすくめて見せた。

 

「そんなに肩肘張らなくていいよ。魔力操作技能があれば、飛行機は直感的にでも動いてくれる。後は慣れの問題でしかない」

「そう言ってトッドさんが作った武器が慣れだけで使えた試しがないんですよ!」

 

 なぜだか憤慨したように、レフィーヤ。たしたしと膝まで叩いている。

 一通りの説明を終えて、全員が飛行機に乗った。三機の飛行機が同時に浮く。誰かが悲鳴だか歓声だかを上げるのが聞こえた。

 

「これには通信機も備え付けられてる。会話がしたかったらそれを使ってくれ」

『もう君の作ったものに驚く事はないと思ってたけど……こんな飛行機につけられるだけ小型移動式で、しかも全員同時に? まったく、どんな脳をしていたらこんなもの作れるのやら……』

 

 通信機ごしにフィンの声が聞こえてくる。他の声も混ざっているが、雑音に紛れてよくは聞こえない。

 

「じゃあ発進する。一号機、ウイング展開」

『二号機、ウイング展開』

『あ、えっと……! 三号機、ウイング展開します!』

 

 小さな駆動音を立てて、翼が展開される。これはただ風を掴むだけではなく、アイズの嵐碧宝(ラファエラ)の剣を応用して、空気を自在に掴む機能も果たしている。この感覚が、魔法使いが推奨される理由だ。これがあれば墜落しそうな時、ストールからの墜落を無視して復旧できる。まあ、元々浮遊しているので、その可能性も低くはあるが。

 

『おい、お前んとこの主神らには先行されてんだろうがよ。これで追いつけんのか?』

 

 乱暴な口調と、低い声はベートのものだろう。トッドは問題ない、と告げた。

 

「モンスターの飛行速度より、こちらの方がよっぽど早いよ。最初はパイロットの習熟のために控えめに飛行していくけど。あちらは到着に十日かかるとの見通しだ。それだけあれば必ず追いつく。追いつけるよう設計してある」

『へっ、ならかまわねえよ。とっととやっちまおうぜ』

『もー、ベート顔悪ーい』

『うるせえ、ほっとけバカゾネス。てか顔が悪いってどういう意味だコラ』

 

 人狼族らしく、凶暴さすら感じる声がスピーカー越しに届く。きっとその表情も、凶狼(ヴァルナガンド)の名に恥じぬものだろう。

 

「それじゃあ発進する。目標、エルソスの遺跡!」

『二号発進!』

『さ、三号同じく!』

 

 飛行機の後部から、高圧縮された風が吹き出る。全機が加速を始め、短時間で巡航速度まで加速を終えた。

 目指す(ひと)までは、まだ遠い。

 


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