ダンジョンにすっごい研究者が現れた   作:緑黄色野菜

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大戦争遊戯・上

 地上のどこかで世界を揺るがす騒ぎが起ろうと、街のどこかで悲喜こもごもの抽選会が行われようと、オラリオは変わらない。昨日のことは昨日のこととして、今日を面白おかしく生きていた。この切り替えの早さが、神が地上を楽しむ秘訣なのかもしれない。

 昨日がよくとも悪くともそれはそれ、今日と明日のことだ。過ぎた事は思い悩まない。神とはなんとも現金なものだ。

 

(ま、ボクがそれを言えた義理じゃないけどね)

 

 ふふん、と鼻を鳴らしながら、ヘスティアは楽しげに会場を散策していた。

 その日も、神の宴が開催されていた。此度はアポロン・ファミリア主催の、かなり大きな宴会だ。規模に比例して、参加する神の数も多い。実際、オラリオにいるほとんど全ての神が参加しているのではないかとすら思える数だった。

 

(この前三百万ヴァリスも散財しちゃったからねえ。たくさんご飯持って帰らないと!)

 

 先日行われた、アルテミス・ファミリア主催の抽選会。それにヘスティア・ファミリアも参加して、大戦果を得ていた。まあ、その分というか何というか、とにかくしっぺ返しは家計にダイレクトで入ってきたのだが。

 ヘスティア・ファミリアは小規模ファミリアだ。何せホームすら廃墟である。当たり前に、三百万ヴァリスは大金だった。というか、ほぼ全財産だ。不要な品を売ってまで用意した、文字通りの全力である。

 まあ、その甲斐はあったので文句もない。なにせシザウロス0.5(トッド命名)を二本も手に入れられたのだ。

 最初は(主に家計を握っている)リリルカが一本は売ろうと提案したが。ヘスティア・ファミリアはちょうどその手前で、団員が幾人か増えていた。そのため、シザウロス0.5が彼らに使ってもらうことになった。リリルカは家計簿を眺めながらちょっと涙していた。

 というわけで、ヘスティア・ファミリアは現在正真正銘の無一文。現在は団員も頑張ってダンジョンに潜り日銭を稼いでいる頃だろう。

 かわいい子供たちが頑張っている。それなのに自分が頑張らないわけにはいかない。というわけで、ヘスティアは宴に潜り込み、恥を忍んで食料を選んではタッパーに詰め込む作業をしているのだが。

 

(……なんだかおかしいな)

 

 周囲を警戒し(一応恥じてはいるのだ)、見回していると。なんだかどの神も楽しそうだ。いや、宴なのだから楽しそうである事に何も問題もないのだが。何というか、そう、色が違うとでも言えばいいのか。皆が皆、ニヤニヤしている。

 

(というか、ボクの方を見ているよう……)

 

 なんだか、視線が絡みついてきている気がする。これは、食料をくすねているから目が気になる、というだけではない気がした。

 むー、とうなりながら、タッパーに詰める合間に、口の中にも食べ物を詰め込む。どうにも気になって仕方がない。

 

「やあ、ヘスティア」

 

 と、声をかけてきたのはアルテミスだった。

 今日の彼女は、普段着の戦闘衣ではなかった。おそらくトッドが用意したのだろう、青が基調のドレスを着ている。おそらく髪色に合わせたのだろうが、その姿はとてつもなく似合っていた。

 

「や、アルテミス」

「うん。……というか、何をしているんだい?」

「子供たちの為に食糧確保さ!」

「そこまで……」

 

 なぜだか、恐ろしく哀れんだ目で見られたが。そんなものは気にしない。気にしないのがヘスティア・ファミリアのルールだ。

 

「お金がないなら抽選会になんて参加しなければよかったのに……」

「成果があったからいいんだい」

「まあ、ヘスティア・ファミリアの問題ではあるけども……」

 

 彼女は眉を下げて、困ったようにしている。

 神友の彼女であるが、今日ばかりはそこに構っていられない。すぐさま次の料理に移ろうとして、ふと彼女は振り返った。

 

「ところでアルテミス。なんだかボクがかなり注目を浴びてる気がするんだけど……」

「本日は我がアポロン・ファミリアの宴によくぞ参加してくれた!」

 

 ヘスティアの言葉は、全てを告げる事はできなかった。その前に、壇上に上がったアポロンが声を上げたのだ。

 壇上では、むやみやたらに華美な服を着たアポロンが、ポーズまで決めている。見方を変えればアホともとれる様子をぼんやりと見ていると、急に彼の指が、びしっとヘスティアを指した。

 

「唐突だが我がアポロン・ファミリアはヘスティア・ファミリアに対して戦争遊戯を申し込む!」

「…………」

 

 ぼんやりと彼を眺めながらも、タッパーに食べ物を詰め込む手だけは止めずにいると。なんだか訳の分からない事を言われた。

 

「……はぁ? 急に何を言い出すんだい、アポロン。言っておくけどボクはそんなもの受けないぜ。今うちは大変なんだか……」

「な、なんだってー」

 

 ヘスティアの言葉はまたも遮られた。

 言ったのは、隣に立っているアルテミスだった。彼女は誰からもわかりやすく棒読みで、言葉を続けた。

 

「それでは私のアルテミス・ファミリアはヘスティア・ファミリアに味方するぞー」

「ちょっ、アルテミス!? いきなり何を言い出すのさ!」

「ならば俺のファミリアはアポロン・ファミリアに味方する!」

「!?」

 

 また別の神が叫んだ言葉に、ヘスティアはぎょっとした。

 彼女らの言葉に同調するようにして、会場の神という神らがヘスティアに、アポロンに味方すると宣言を始めた。当事者であるヘスティアを置き去りにして。

 極めつけは、

 

「ドチビは気に入らんけど、アルテミスには借りがあるからな! うちのロキ・ファミリアはヘスティア陣営に入るで!」

「じゃあフレイヤ・ファミリアはアポロン陣営かしら? そうじゃないと面白くないものね」

 

 オラリオ二大陣営とも言えるロキとフレイヤが、そんなことを言い始めた。

 

「!?!?!?」

 

 ヘスティアは混乱の局地にあった。

 なぜこんなことになっているのか。というか、これは一体どういう状況下のか。何一つとして分からない。大口を開けて、タッパーをテーブルの上に落とした。

 彼女が混乱した状態でも、話は進んでいく。というか最初から無視して進められていく。会場、日取り、対戦方法。あらゆるものが、ヘスティアの耳に入ってはそのまま抜けていった。

 あらかた決まったところで、アポロンは壇上に上がったままふっと笑って。そして、一枚の看板を取り出した。『ドッキリ大成功』

 

「はっ、はああああぁぁぁぁ~!?」

 

 ヘスティアが絶叫を上げる。と、会場がどっと笑いに包まれた。

 

「なんだこれ、なんだこれなんだこれ! というかアルテミス、君までグルなのかい!?」

「ごめんね、ヘスティア」

 

 アルテミスはやや眉を下げて、困ったように言った。が、許されない。今回ばかりは、そんなかわいい仕草で許される事ではない。

 

「酷いや! 神友だと思ってたのにひっかけるなんて! でもよかったよ……。戦争遊戯なんてしないんだね」

「いや、それはするが」

「!?」

 

 きっぱりと言うアポロンに、再びヘスティアはぎょっとして。

 

「本当は、ベル・クラネルがほしかったのだがな。彼をかけて戦争遊戯をしようと思ったら……」

「さすがにそれは許容できないよ」

「と、姉上に叱られてしまってな。仕方なく戦争遊戯だけすることにした」

「そこにボクの意思がないだろう!?」

「はっはっはっ。大勢さえ決まってしまえばそんなものはいらん」

 

 再度『ドッキリ大成功』の看板が掲げられると、神たちは一斉にわっと騒ぎ出して。

 

「ああああぁぁぁ、もおおおぉぉぉぉ!!」

 

 がしがしと頭をかきむしって地団駄を踏むヘスティアだが、当然のごとく彼女に決定権などないのだった。

 なお、その姿は、周囲の神々には大受けだった。

 

 

 

 乾いた風が頬を撫でる。

 荒野には、砂塵が吹き荒れていた。それでも軽く撫でる程度しか感じないのは、人が多いからだろう。先頭に立っている自分ですら、その程度しか感じないのだ。人の波にのまれている者たちからしたら、それこそ風が吹いている事すら感じないだろう。

 大戦争遊戯、アポロン陣営総大将、オッタル。それが今の彼の肩書きだった。

 大層なものだとは思う。が、自分以外に総大将を受けられる器がある人間がいないのも、また事実だった。それを認めて、彼は大斧剣・紅皇主(イフリート)を地面に刺し、その柄に手をついて立っている。

 普通ならば不快に思ってもおかしくない風に、心地よさを感じるのは。やはり自分は根っからの武人なのだろう、そうオッタルは思った。

 そして、これから起こる大戦に、心が躍るのも。

 

『俺が! ガネーシャである!』

 

 拡声器で拡大された、神ガネーシャの声が上がった。

 数百人だか数千人だか、参加者を単純に数えてもそれだけいる。その上、二つの陣営に分かれて、互いにかなりの距離を取っていた(初手大規模魔法での殲滅を防ぐためにこうなった)。それでも声が届くのは、ひとえにトッドがこの日のために作り上げた大型拡声器のおかげである。あの男は本当に何でも作るな、とオッタルは思った。

 

『今日は良き戦日和だ! 互いに思い残すところなく、全力で戦うように! なお、審判はこのガネーシャ・ファミリアが務めさせていただく!』

 

 一個人ではなく、ファミリアが、それも大手がまるごと審判を務めるという事実。これが、今回の戦争遊戯の規模を示していた。

 他にもディアンケヒト・ファミリアが救護班を務めていたりなどする。といっても、出番はそう多くあるまい。それぞれの陣営に、医療系ファミリアも組み込まれている。何かあれば、まず自陣営の救護班を頼りにする手はずだ。

 

『それでは、戦争遊戯(ウォーゲーム)を始める!』

 

 そこで、絶叫はいったん止まった。

 さしものガネーシャも、これだけの大戦争を前にして、興奮を隠しきれないのだろう。少ない言葉の端からでも、それを察することができた。

 

『勝負、開始ィ!』

 

 言葉と同時に、オッタルは大斧剣を引き抜いた。そして、天に向かって掲げる。

 

「細かい事などは言わん!」

 

 可能な限り声を張り上げて、言う。人数を考えれば、全員に届いているはずはないが、それでもいい。近くで、誰かがつばを飲んだのを感じた。

 

「ただ敵を倒し、おのおの勝利を主神に捧げるのだ! 総員、突撃!」

 

 わぁっ! その場の総員から、咆吼が上がった。そして、目の前の敵を叩きのめさんと進軍を開始する。

 敵側の進軍も、ほとんど同時だった。両者の進行速度を計算して、激突するであろう時刻を頭の中で計算する。

 が、その計算は、かなり早い段階で狂った。集団の中から一人が抜け出して、こちらに突撃してきたのだ。動きが特別速いわけではない。魔導力(エピセス)を装備していると仮定しても、レベルにして2か、せいぜいが3といった所だろう。白い髪を風がなびかせるままに揺らしながら。ナイフを持った小さな人影。

 彼は戦場の中央当たりに到達すると、その場に止まって大声を上げた。

 

「僕はヘスティア・ファミリア団長ベル・クラネル! アポロン陣営総大将、オッタルさんに一対一の決闘を申し込みます!」

 

 驚いたのは、アポロン陣営だけではなかった。ヘスティア陣営も、所々ざわめいているのが、遠目にも分かる。さすがに中枢までは、混乱している様子はなかったが。

 まだ大分離れているが、その少年――ベル・クラネルは、それでも分かるほど興奮していた。顔が紅潮して、呼吸も多い。冒険者がその程度走ったくらいで肩で息をする訳がないので、彼が落ち着きないのは興奮故だと一目で分かった。

 進軍速度が落ちる。と同時に、オッタルはただ一人だけ前に出た。まだ、戦闘が発生するほど距離はつめていない。それでも、声を張り上げれば届く程度に近づく。

 

「自分でも分かっているだろう。お前程度では相手にならない。それを分かった上で、俺に決闘を申し込むか」

「……! はい! 僕は、どうせ倒されるなら、最強がいい!」

 

 なるほど、とオッタルは思った。彼が神フレイヤのお気に入りである事は、近づいてくる途中で気がついていた。

 しかし、と思う。いい啖呵に覚悟だ。悪くない。本当に、心地がいいくらいまっすぐな意思だ。フレイヤが気に入るのも頷けた。

 

「いいだろう。その決闘、受けて立つ」

 

 わっ、と声が上がった。これは戦場だけではない。この光景を遠くから見ている神々も、同じような様子だろう。

 少年は一瞬顔に嘉悦を浮かべたが、すぐ表情を引き締めてナイフを構えた。その姿は、控えめに言っても様になっていない。元から何か心得があったわけではなく、本当に冒険者になってから武を修めた、技能が浅い者のそれだ。

 そのちっぽけなものを頼りに、オッタルの前に立つ。それが並ならぬ事だというのは、自分の経験からも分かった。かつて、弱かった自分もそうしてきた。オッタルも対応するように、大斧剣を振り上げる。

 いつの間にか、両軍の進行は止まっていた。ただ、二人を見守るように、弧を描いて列をなしている。

 しばしの静寂。

 ベルが緊張しているのが分かる。彼は小さく体を揺らしながら、それでも攻め込んで来なかった。攻め込めないのだろう。いくら打ちかかろうとも、オッタルに叩きのめされるヴィジョンが見えるはずだ。だから、迂闊に攻め込めない。

 暫くそのままだったが。やがて彼は大きく息を吸うと、自分を鼓舞するように叫んだ。

 

「行きます!」

 

 走る。レベルを考えれば早い。が、オッタルに対抗しようと考えた場合、それは遅すぎた。

 彼のナイフが振るわれる。彼の得物を考えると、それは一歩分も遠いはずだったが。しかし、その間に銀色の閃きが現れる。オッタルは驚きながらも、それらを迎撃した。割れる音こそしなかったが、ガラスが砕け散るような光景で、刃は消え失せた。

 そういえば、と思い出す。ベル・クラネルは、第一級冒険者以外では数少ない、完品の宝剣(シザウロス)を持つ者だったか。トッドの作った武器を持つのならば、何を起こせても驚きはしない。

 続く二撃目。ベルの刃が翻って、本命の一撃を繰り出す。

 オッタルは刃の筋に合わせるようにして、大斧剣を振るった。今度、刃は増えなかった。代わりに刀身が銀を纏っている。

 一撃は、予想していたより重かった。が、彼には関係ない。力の差を考えれば、増えた威力など微々たるものだ。大斧剣は渾身の一撃をあっけなく粉砕し、ベルを吹き飛ばした。

 ベルの矮躯が転がる。地面を何度かバウンドして、やがて薄く煙を撒きながら止まった。

 気絶してもいいダメージだったはずだが。ベルは最後の力で、顔だけを上げた。まだ気絶すまいと堪える少年に、オッタルは声を届けた。

 

「いい一撃だった。そのまま鍛えて行くがいい」

「は……」

 

 言葉は、最後まで続かなかった。音を立てて、ベルの頭が落ちる。

 これで、戦争が再開されると思ったが。その前に、またもやオッタルの前に人が現れた。その男の動きに合わせるようにして、救護班がベルを回収していく。

 現れたのは、巨躯の男だった。それこそオッタルと同等の体格を持っている。その動きは力強い。まず間違いなく、第一級冒険者と見て間違いない。

 

(確か……)

 

 思い出す。

 ここ最近、オラリオより離れた地から、大勢の冒険者がやってきた。その中でも有力な者は、オッタルの記憶に残していた。

 浅黒い肌をした大男。()()()()()()()()()と言ったか。二つ名も同じで、雷光(アステリオス)だった。

 

「団長がやられた。敵は取る」

「お前には無理だ」

 

 前に出てきた男が、告げながら大剣を持ち上げる。その構えは、奇しくもオッタルと同じものだった。

 合図もなく。両者が同時に飛び込んだ。

 接触する剣と剣。大音量で、甲高い音が鳴り響いた。衝撃が戦場を揺らす。

 拮抗は一瞬だけだった。火花が散りきる頃には、アステリオスは片膝をついて、オッタルの大斧剣に耐えていた。状況こそつばぜり合いだが、その力の差は歴然だった。スタイルが同じだけに、はっきりする。この状況こそが、彼我の差だ。

 

「ぬぅん!」

 

 アステリオスが絶叫すると、なんとその大剣から炎が舞った。炎は周囲に巻き散らかし、熱圏を生み出し、それを推力にしてなんとかオッタルの膂力に対抗しようとする。

 

「なるほど、トッドが試作品のシザウロス0.5とやらを売りさばいているとは聞いたが。俺の紅皇主(イフリート)の試作品はお前に回ったか」

 

 だがそれも、憂慮するほどの事ではない。

 二回り足りないレベル。二回り足りない技量。二回り足りない経験。その中に、二回り足りない武器が追加されただけだ。スタイルが同じ以上、その差は決定的であり、絶望的だ。

 熱気が爆発する予兆を感じ、オッタルは瞬時に身を引いた。爆熱がオッタルがいた場所を、一瞬遅れて包み覆う。

 

「おおおォォォ!」

 

 炎熱の中から、雄叫びを上げてアステリオスが飛び出してきた。大剣には炎を纏っているが、オッタルの大斧剣、紅皇主(イフリート)に比べれば遙かに弱々しい。

 この後の事など考えない、捨て身の一撃だ。裂帛から、彼は攻撃をそう判断した。

 アステリオスはオッタルより弱くはあるが、そう加減して対処できる相手でもない。ならば、と、オッタルも紅皇主(イフリート)を起動した。熱量は絞り、大斧剣と推力にのみその力を纏わせて。

 今度の接触は、先ほどの比ではなかった。高熱と高熱がぶつかり合い、大規模な爆発が起きる。熱気と衝撃を肌身に感じながらも、オッタルは大斧剣を振り抜いた。剣に、一瞬何かが引っかかるような感触を感じる。しかし、それだけだ。後は木の葉でも舞い散らかすような勢いで、巨躯は吹き飛んでいった。

 

「……見事だった」

 

 ベルのように吹き飛ばされ、大の字で転がるアステリオス。大剣はさらに遠くへ吹き飛ばされ、大地につき立った。

 結果だけ見れば、たった二撃で敗北。それも、かすり傷一つ負わせられず。だがそれでも、オッタルは賞賛の言葉を投げた。彼がすでに気絶しており、声は届いていないのは分かっていたが。それでも言わずにはいられなかった。

 オッタルはそれ以上彼を見もせず、大斧剣を振るった。周囲を満たしていた、空気すら焼きそうな熱気は、紅皇主(イフリート)の力で空高くに散らされる。あっという間に空気は冷えて、勝負の熱があった場所に心地よいくらいの冷気が流れ込む。

 次は誰だ。そう言わんばかりの視線を、ヘスティア陣営に投げかける。もっとも、ここで出てくる者など一人しかいないだろうが。

 ヘスティア陣営が、左右に割れた。中央を、一人の人影がゆっくりと歩む。

 それは、小さな男だった。外見だけで言えば、幼さの残るベルよりなお頼りない。その小柄な影が自分の身長より高い槍を持つ姿は、何も知らない者から見たら滑稽にすら映っただろう。

 だが。

 それは間違いなく、オッタルと並びオラリオ最強と称される男だった。

 

「やあ、待たせたね」

「よく言う。一番槍を任せておいて」

「彼らたっての願いだったからね。無碍にする気にもなれなかったのさ」

 

 その男、フィンは軽い調子でそう言った。

 闇派閥残党との幾度もの戦闘と、人造迷宮クノッソス完全攻略の成果を持って、Lv.7へとランクアップしたその男。ロキ・ファミリア団長にして、仲間の力を自分一人に集める事ができる特殊な宝剣(シザウロス)の持ち主。

 すでに槍は起動しているのだろう。彼から、紅皇主(イフリート)を最大稼働した自分より大きな力を感じる。

 

「この状況は、お前の独壇場か」

「まさか全裏紋の槍(ルイーン)を最大限に稼働できる状況があるとは思わなかったよ。この槍が最大のパフォーマンスを発揮するには、申し訳ないが、ロキ・ファミリアは少しばかり小さすぎる」

「そうか……そうかもな。俺が全力を振るい、それでもなお足りない唯一の男よ」

「賞賛してくれるのはありがたいね」

「しかし、よかったのか? その力で俺と戦うより、お前の力を皆に分配した方が勝率も上がったろうに」

「その通りだけど、さすがに無粋な真似だろう? それに、僕も欲しくなってしまったんだ。都市最強という肩書きを」

「ふ……なるほど。最強の名、軽くはないぞ。取れるものならば取ってみるがいい」

「言われるまでもない。今日ここで、僕が君に勝って、僕こそが最強となる」

 

 にっと笑って、その小男が構える。それに対抗するよう、オッタルも紅皇主(イフリート)を構えた。先の二人に備えたそれより、数段油断なく、力を込めて。

 

「行くぞ、都市最強!」

「来るがいい、集団戦最強!」

 

 言葉と同時に。

 二つの最強が激突した。

 

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