トップアイドル兼ジムリーダー兼限界オタクのリリィ推してまいります! 作:水代
イエッサン(オスのすがた)
頭の ツノで 相手の 気持ちを 感じとる。 オスは 従者の ように 主のそばで 世話を焼く。
ツノで 近くの 生き物の 気持ちを 感じとる。 ポジティブな 感情が 力の 源。
うちの子は可愛い。
うちの子はとても可愛い!
まずなんと言ってもあのしゅっとした線の細いスマートなフォルム。そして凛々しい眼差し。私の傍で常に私のことを守ってくれている思いやりと頼もしさ。触れた時の柔らかくも少し硬い毛の触感はずっと触っていても飽きが来ない、むしろずっと触っていたい、永遠にもふり続けていたいくらいだ。私がそうしてスキンシップをすれば少し恥ずかしそうに照れてしまうそんなところが普段のクールさとのギャップで可愛すぎてホント溜まらない。黒い部分の毛は硬さがありながらもしなやかで触れていると手のひらがくすぐったくなるし、白い部分の毛はそれとは対称的にふわふわと綿毛のように柔らかく触っていると至上の触感が手のひらを伝ってくる。特に首元の毛は最高の一言に尽きるのだが、首元を触られるのはくすぐったいらしく、そんなところもまた可愛いのだ。彼女とは違い一緒に寝ようとすると嫌がるのだが、私が寂しそうにすると困ったような表情をして、私がお願いすると諦めたような表情でやれやれと言った様子で一緒に寝てくれる。そうして私が眠るまでとんとん、とまるで子供をあやすように私の手を握って指先を叩いてくる。何とも面倒見が良くて、けれど本人はそんな面倒見の良さを指摘すると恥ずかしそうにしてしまって、ぷい、と顔を背けてしまうのだが顔が赤くなってしまっているのがありありと分かってすごくすごく可愛い。私が起きている時はいつだって私の傍に控えて何かと世話を焼いてくれるし、それに対してありがとうって言ったら当然ですって言わんばかりにドヤ顔するのも可愛い。というかすごい可愛い。
そうやってずっとずっと昔から私を支えてくれたそんな片割れの彼を私は愛している。
そしてそれ以上に可愛く思っている!
ていうか可愛い!
とても可愛い!
可愛すぎて寧ろもう尊い!
* * *
イエッサン(メスのすがた)
高い 知能を もつ ポケモン。 仲間同士で ツノを 寄せあい 情報 交換を する。
感謝の 気持ちを 集めるため 人や ポケモンに よくつくす。 メスは 子守りを 得意とするよ。
うちの子は可愛い。
うちの子はとても可愛い!
まず何と言ってもあの丸みを帯びたフォルム。そして優し気な眼差し。私の些細な心の揺れすら敏感に感じ取ってきゅっと手を取ってくれた瞬間の暖かさ。抱きしめた時のふわふわとした毛皮の柔らかさはもうずっと触っていても飽きないし、私がそうしてスキンシップをすれば嬉しそうに抱きしめ返してくれるのとかもう本当に可愛すぎて溜まらない。黒い部分の毛はもふもふしておりとても暖かく触り心地抜群なのだが、白い部分の毛はさらさらとしており少し短く手の中で透いて流れていくような触感が少しくすぐったくなる。夜寝る時だって一緒のベッドで抱きしめて眠ればその夜は至福の眠りが約束されるし、朝目が覚めた瞬間から目の前のうちの子が優し気な笑みを見せてくれるだけで幸せに浸れる。しかも夜寝ている間に私の寝相が悪ければこっそり『サイコキネシス』で元の位置に戻してくれるし、その際に私が起きたりしないように細心の注意を払ってくれる心遣い。ご飯を食べている時にいつの間にかそっと私の手元にお茶を置いてくれたり、お風呂に入っていればそっと着換えを置いて行ってくれる。仕事で疲れている時だってお疲れ様と言わんばかりの満面の笑みを見れば疲れなんて吹き飛んでいってしまうし、辛い時があった時は寄り添って一緒に悲しんでくれる。
そうやってずっとずっと昔から私を支えてくれたそんな片割れの彼女を私は愛している。
そしてそれ以上に可愛く思っている!
ていうか可愛い!
とても可愛い!
可愛すぎて寧ろもう尊い!
* * *
子供の頃、スクールで自分の将来について考えさせられたことがある。
まあどこのスクールでだって良くあるやつである。
クラスの男子の大半がポケモントレーナーと答えた。
このガラル地方において現在ポケモントレーナーは花形の職、多くの人の憧れと言える。
何事においてもエンターテイメント性を求められるガラルでは、ポケモンバトルにも『華』を求められるのだが、近年導入されたばかりの『ダイマックス』なる過去からあったポケモンの巨大化現象を意図的に引き起こす『ダイマックスバンド』の開発によってポケモンバトルはとてつもない巨大ポケモン同士が激しくぶつかり合うまさに手に汗握る白熱した激闘となった。
とは言え、だ。
ポケモンバトルとはポケモン同士の戦い。
つまり傷つけ合いである。
残念ながら私は私の可愛いポケモンたちをそんなところへ連れて行く気などさらさら無かったし、私の可愛いポケモンたちに傷一つ付くようなことがあれば絶叫してしまうだろうこと請け合いだった。
とは言えポケモンバトルを否定するつもりは無い。
テレビで見ていれば分かる。
ポケモントレーナーとはポケモンの痛みを自らの痛みと同じく考えられる人間たちであり、それでありながら傷つけあうことを覚悟している人間たちだ。
少なくとも目の前で騒ぐクラスの男子たちのようなただカッコいいから、ただ憧れたから、だけでやっていけるような職ではない。
私は相手を傷つける覚悟も無ければ、私自身も、私のポケモンも傷つけられる覚悟は無い。
だから私はポケモントレーナーには憧れない。
では将来一体何をやりたいのか。
考えてみた時、それは酷くシンプルであり、けれどとても難しいことだった。
私のポケモンたちは可愛い。
私のポケモンたちはとても可愛い。
寧ろもう世界で一番可愛いんじゃないかと思ってるくらいだ。
というかもう、とかきっと、とかそんな言葉すら必要無く世界で一番可愛いのだ。
そんな世界一可愛い私のポケモンたちを世界に知らしめることは『おや』である私の義務ではないだろうか? 否、義務である(反語)。
だから私のやること、やりたいことは決まっているのだ。
私の目標、私の将来、私の未来、それは。
世界一可愛い私のポケモンたちを世界一輝ける場所に連れて行くこと。
だがそこで私はいつも首を傾げる。
―――世界一輝ける場所とは一体どこなのだろう。
例えば先ほど否定はしたがポケモントレーナーとしての道。
その先に続いているのは地方チャンピオンへの道だ。
地方のトレーナーたち全員の頂点たるチャンピオン。
確かにそれはポケモンの輝ける場所と言えるかもしれない。
だが、だ。
チャンピオンと言えど、所詮は『地方』チャンピオンなのだ。
この世界にはいくつもの地方があって、地方の数だけ『地方』チャンピオンはいる。
果たしてその中の一人になれたとして私はそれを『世界一輝ける場所』として認められるだろうか。
世間はそれを『世界一輝ける場所』として認めてくれるだろうか?
否だ。
否、否、否。
ならば『世界一強い』トレーナーになればどうだろう。
チャンピオンの中のチャンピオン。真のチャンピオン。世界最強。
確かにそれは数多くの人たちに見てもらえる輝ける場所だろうし、何だったら歴史にだって名を残せるかもしれない。
だがそれでは『不足』なのだ。
この世界はポケモンバトルだけで成り立っているのではない。
この世界における人の社会は『ポケモン』の存在で成り立っていてもポケモンバトルに興味の無い人間だって多くいるのだ。
だから世界一強いトレーナーになったところで『多く』の人を魅せることはできても、『全て』の人を魅せることは不可能だ。
その選択肢は妥協だ。
世界で一番輝ける場所に立つとは即ち、誰もが振り返って視線を集めるような、そんな光景を生み出すこと。
だから例え世界一強いトレーナーを目指し、なれたとしてそれでもまだ足りない。
そもそもポケモンバトルという選択肢を拒否した以上、他の道を探すべきだ。もし再びポケモンバトルという選択肢が浮かびあがる時は、それはこれから決める道に手詰まりを感じた時だけだろう。
とは言えだ。
誰もが……そう、手始めにこの『ガラル全ての人』の視線を集めることができるものとは一体何だろう。
物事には順序というものがある。
いきなり世界全ての人に私の可愛いポケモンたちを認知してもらおうとしても難しいことはまだ子供の私だって分かっているのだ。
まずはこのガラルの人々に私のポケモンたちの可愛さを知ってもらう。
そう……ガラルの人々に。
キーワードは『ガラル』だ。
このガラルという地方の特色を考えれば選択肢というのはおのずと絞られてくる。
ガラルと言えばエンターテイメントだ。
今人々を熱狂させているポケモンバトルに熱狂する人々を見れば分かる。
迫力があって、魅力があって、熱がある。
ガラルというのは元々そういう物を求めている地方なのだ。
そして私が知らしめたいものを考えれば……。
その瞬間、私の脳裏に閃いた一つの言葉。
それを閃いた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けた。
これだ。
これしかない。
最早そう思えてならない。
否、否、否。
最早それこそが絶対の答えだと確信していた。
そう。
「先生、私……アイドルになります!」
確信と共に席を蹴っ飛ばすような勢いで立ち上がり、そう叫んでいた。
先生がぽかんとした顔で硬直し、かけていたメガネがずれて落ちた。
* * *
自慢では無いが私は可愛い。
容姿という面では十人が十人振り向くだろう自信があるし、自負がある。
勿論それとて私の可愛い最愛のポケモンたちと比べれば劣る程度の物としても、その可愛い可愛い私のポケモンたちの隣に私が並ぶことで私の可愛い可愛い可愛いポケモンたちを貶めることのないようあの子たちと出会ってから自分を磨くことを欠かしたことは一度とて無い。
人という括りの中で見るならば私の容姿を売りとすることは十分に可能だろう、と判断。
だが私が売りたいのは私ごとき程度の低い存在じゃないのだ。
最かわでベリーベリーキュートでもう同じ空気を吸うだけで幸福の余り浄化されそうになれる可愛いという概念を具現化したような私のポケモンたちにこそ輝く世界に立って欲しいであって、私はそのオマケというか『おや』として同伴したいだけなのだ。だが世界一可愛い究極キュートな私のポケモンたちの中に私のような異物が混ざることを忌避するファン心理のようなものもあって……。
傍にいたい、一緒にいたい、共にありたい。そう思う『おや』としての気持ちと。
ただ尊さに浸っていたい、その尊さを穢すようなことをしたくない、可愛いという言葉を超越したその中に私ごときが割って入って良いわけがない。そう思うファン心理がせめぎ合ったりするのだ。
とは言えアイドルをするのに私抜きというのも難しいだろうというのも分っている。
ポケモン単体で売る方法も無くはないが、可愛い可愛い私のポケモンたちは私の家族であって、私は『おや』であり私の家族をペット扱いする気もなければ身売りさせる気も無いからだ。
私の超絶可愛いポケモンたちならば単独で人気を勝ち取ることも可能だろうが、私の最愛の家族が世界一可愛いことは確定しているので、私の目の届かぬところでよからぬことを考える人間が居ないとも限らない。
そういう意味では私に注目を集めれば私の家族は安全なのかもしれないが、それはそれで本末転倒でしかないだろうというジレンマ。
なのでその間の意見として私と私の最愛のポケモンでグループを組むというところに落ち着いた。
…………。
……うへへ。
……あっ、しまった。慣れないアイドル衣装に気恥ずかしそうにする彼も、可愛い衣装に嬉しそうにする彼女も可愛すぎて思わず愛が噴き出した。
こほん、それはさておき。
私たちは当然のように売れた。
まあ私の可愛いポケモンたちが人気にならないはずも無い。
うちの子たちは可愛いからね!
うちの子可愛いからね!!!
ガラルにおいてアイドルという職業はこれまでやや下火だった。
というかダイマックスを取り入れたポケモンバトルの熱狂に、それ以外のエンターテイメント全般が下火だったのだ。
アイドル業界も閑古鳥が鳴く……と言うわけではないのだが、仕事の大半がポケモンバトルの試合前のちょっとした公演だったり、ポケモンバトルの実況だったり、なんというかポケモンバトルのおまけみたいな要素にされつつあった。
何せ現在のガラルにおける就学前の子供を対象としたなりたい職業を人気順に並べると男女共に一位がポケモントレーナーであるというのだから、末期感が酷い。
因みに女子の二位はアナウンサー。理由は有名ポケモントレーナーと結婚できる可能性が比較的高いから。そして三位にトレーナースタッフ(ポケモンリーグのスタッフや各ジムのスタッフ)と来て、四位でようやくアイドルが入る。
ほんの数年前まで人気一位と二位を行き来していたはずのアイドルという花形職業は今やポケモントレーナーという大きな大きな火に完全に呑まれてしまっていた。
そんな中で私と私の可愛いポケモンたちは低迷中のアイドル業界を突き抜け一気にトップアイドルへと躍り出るとそのままの勢いでガンガンアピールを続け、少しずつ、少しずつアイドルという職業の地位を高めていった。
今のガラルはポケモンバトル一色だ。
故に仕事もポケモンバトルに関連したものが多い。
その中でも私と私の可愛いポケモンたちは懸命になってアピールし続けた。
その結果として私がアイドルデビューして五年。
私が十六歳になった時。
私はガラルにおいてチャンピオンダンデと人気を二分する存在となっていた。
尚、ミズシロのガバプロットによりジムリーダー就任まで話が進まなかった時はタイトルから何故か一単語消えます(