トップアイドル兼ジムリーダー兼限界オタクのリリィ推してまいります! 作:水代
うちの子は可愛い。いやそんなことは当然とばかりにみんな知っているはず、知っているよね?もしかしたら知らない人がいるかもしれない、ということはつまりまだまだ私たちの認知度が足りていないということ。私の目指すところが私の可愛い家族たちを世界一の輝ける場所に立たせることだというのならばつまりこれはまだ私の努力が足りないという証左であると言える。だがすでにアイドルとしてはガラルでもトップでありポケモントレーナーとしてもノーマルタイプジムのジムリーダーというガラル有数の実力者として知られ、そんな私の最愛のポケモンたちを知らないなどという人間がまさかこのガラルにいるなどというはずが無いとは思うのだが、けれどそれは所詮はこのガラルという一つの地方でだけの話であり、カントージョウトなどよりは広大な面積を誇るガラル地方ではあってもけれど結局それは数多くある地方の中の一つ、というだけに過ぎず、ダイマックスという一つの大きなトピックを持ってしてその知名度は徐々に広まりつつあるとは言えその世界から見れば一地方でしかないガラルで有名になったからと言ってまだまだ慢心できるような話ではない、というか慢心どころか私の目指す場所を考えればまだこれは世界へ躍進するためのスタート地点としか言えないのではないだろうか。だって私の家族、私の最愛のポケモンたちは世界で一番可愛いと私は確信しているし、私は絶対視しているし、私が認めているのだから私の可愛いポケモンたちがたかが一つの地方で有名になったからと言ってまだまだ、としか言いようがないことは絶対的に明らかな事実ではある。勿論だからと言ってガラル地方で私を、というか私の可愛い可愛い可愛いとても可愛いポケモンたちを好きだと言ってくれるファンの皆を下に置いているわけではないのだが、それでもまだ足りないと思ってしまうのが最愛の家族であるこの子たちを思う私の親心とでもいうべきもので、つまり何が言いたいのかというとどこまで行っても私の願いに終わりはなく、つまり私の可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い素晴らしく可愛らしいポケモンたちは世界で一番可愛い……あれ?
―――まあいいや。
これから語るのはたった一日限りの『夢』である。
私の愛らしく、愛おしく、そして何よりも優しい家族たちが私にくれた『夢』だ。
だから本当はその思い出は私の中だけに仕舞っておきたいのだけれども
それでも私が何よりも大切なのは私の家族だから。
だから、あの子たちの優しさと愛らしさを皆に知ってもらうために。
少しだけ、語らせていただきたい。
あの『夢』の時間のことを。
* * *
自慢になるが、私ことリリィは寝起きが良い。
だいたい就寝から7時間きっちりで目が覚めて、眠気を引きずらずにすぐに意識がはっきりとする。
簡単に言えば寝ぼける、という経験をしたことが無い。
だが毎朝目が覚めてもすぐにはベッドから出ない。普通の人はここで二度寝を始めるらしいが、私が始めるのは『寝たフリ』だ。
一度起きると意識がしゃんとするのでもう眠気は無いのだが、毎朝これが習慣になってしまっている。
ゆさゆさ
掛布団からはみ出た肩に触れた手に揺さぶられる。
「―――」
声が聞こえる。多分起きて、とかそんな感じのことを言っているのだと思う。
「ん……まだあと五分だけ」
別に本気でそう言っているわけではないのだが。
「…………」
仕方ないなあ、とでも言いたげな嘆息。
となると、この感じは多分『彼』だろう。
『彼女』ならばもっとにこにこと笑っているはずだ……目を閉じているので分からないが。
「―――」
ゆさゆさ
再び揺さぶられる。
ダメだぞ、起きないと。とでも言いたげな声。
「起きろ、主。いくら休日だからと言って自堕落はダメだぞ」
ほら、まるでそんなことを言っているかのような声が聞こえて……。
「アイツがすでに朝食を用意まで済ませているんだ、早く起きて支度をしろ」
…………。
……………………。
…………………………………………え?
「えっ!?」
がば、と思わず上半身を勢いよく起こす。
同時にこちらを見下ろす
「……え、いや……ちょっと待って」
黒い髪は几帳面な性格を反映するかのように綺麗に切り揃え、整えてあって、その両側にまるでツインテールを逆さにしたかのような……角のような少し変色した灰色がかった髪が逆立っている。
襟元を立てた真っ白なシャツの上からまるで燕尾服のような黒の上着を着ており、下に目を向ければパリッと糊の効いた皺一つ無いズボンに同色の靴。
呆れたような、困ったようなその顔は端整で、男性アイドルと言われても何の違和感も無い。
見覚えのないはずの、けれどどこか既視感のあるその姿。
知らないはずなのに、けれど自然と口が動く。
誰? とそう声が出るより先に。
「アルフィー?」
疑問形ながら、最愛の家族の片割れの名前が飛び出したことに自分自身に驚愕する。
だがそんな私の驚きに最愛の家族の名を問われた少年は何故そんなことを今更聞くのか、と言わんばかりに首を傾げ。
「主、熱でもあるのか?」
差し出した手のひらが私の額に触れる。
体調は何の問題も無いのだから熱があるわけも無く、不可思議とばかりに首を捻る少年だったが、同時に私はそんな彼が自身の最愛の家族の片割れなのだと理解する。
まだ頭は混乱しているが、心が……十年以上共に過ごしてきた家族であると認めていた。
例え姿形が変わったとしても、私が私の最愛の家族を見失うはずがないだろ、と心が叫んでいて。
だからこそ、すっとその事実が胸の中に入ってきた。
自身の最愛の家族が『人間』のように変じてしまっているという事実を。
それは余りにも大きすぎる変化で。
だから。
だから私は。
「これはこれで全然ありね……寧ろ私の中での解釈と完全に一致です、本当にありがとうございます」
取り合えず朝一から最愛の家族の片割れが尊すぎたので拝むことにした。
* * *
「リリィちゃん、おはよう。ご飯できてるよ」
一目見た瞬間に思考が全て消し飛んだ。
ただ一歩、目の前でほほ笑む彼女へ寄って。
それからその両手を掴む。
そっと胸の前に掴んだ両手を持ち上げて。
「結婚してください」
何も考えずに飛びだしたのはそんな言葉だった。
いやだって仕方なくないだろうか?
自身の最愛の家族の片割れが人と同じ姿になっている、ということはもう片方も同じように、と考えたのがつい先ほどのこと。
そしてだとするならばどんな姿なのだろうと考えた時にいくつか頭の中に浮かび上がった姿。
そしていくつもの姿が浮かんでは消えていく中で、理想のような姿が描かれて。
そんな夢想を軽々と超えた圧倒的現実が目の前にあったのだ。
否最早現実ではないのだろう。
きっとここは天国だ。だって天使がそこにいるのだから。
アルフィーと同じ黒っぽい髪に、灰色がかって色の変わったツインテール。
いつも楽しそうにニコニコと笑みを浮かべていたその表情は自身の知る彼女そのままであり、けれど同時に美しいと言うよりは可愛らしいと表現すべきその容姿がさらにその笑みを引き立たせていた。
そしてアルフィーがどこか執事を連想させるような服装だったのに対して彼女はまさに『メイド』だった。愛らしいフリルのついた白と黒のエプロンドレスを改造したようなその姿はまさに天使としか形容できない。
完璧だった。
二人ともかっこかわい過ぎてもう尊みが深すぎる。
しかも二人ともその顔立ちが良く似ているし、服装に一貫性があるので並んでいると非常に絵になる。
我が家のリビングが芸術のワンシーンへと一瞬で変貌してしまうほどに尊い姿に、思わず拝みたくなってくる。
何だろう本当にここは現実なのだろうか。
私はいつの間にか天国へ迷い込んだじゃないだろうか?
だとするならやっぱりこの二人は天使なのだろう。
この二人に囲まれながら朝食を食べる?
いくら払えばそんなこの世の物とは思えない至上の贅沢が許されるのだろうか。
考えて、考えて、考えて。
「二人を取り囲む空気になりたい」
胸がきゅんきゅんし過ぎて苦しいので、もう一度拝んだ。
* * *
ところで本当に今更だが、なんで二人は人間と同じ姿になっているのだろうか。
いや、全然良いのだけれど、寧ろそれが良いのだけれども。
アルフィーはかっこ可愛いし、ソフィーは可愛いに可愛いが重なってもう無敵だし、強いて言うならきゅんきゅんと高鳴りっぱなしの私の心臓が持たない可能性が高いという事実だけれども、この尊さに浸ったままキュン死できるならそれはもう寧ろご褒美なんじゃないかと思わなくも無いわけで、だとするならやっぱりそれは問題でもなんでもないのではないかとも思う。
朝食を終えて一息吐く。
アイドルとしての仕事のある日ならばもうとっくにマクロテレビへ急いで向かわなければならない時間だが、ジムリーダー就任に際して仕事量の調整をしたお陰か週に一回くらいはこうして休日を楽しむ余裕もできた。
とは言え時間ばかりあってもやることが無ければ持て余してしまうのが休日というもの。
周りに聞いてみたが、テレビ関係者の人たちはいつも忙しいので偶の休日は家でゴロゴロしているのが最高だと言っていたが、私が家でゴロゴロすると私の家族たちがダラしないと言わんばかりに可愛いおててでテシテシとしてくるので……それはそれで身悶えしてしまうくらいに愛らしい姿なのだが、怒らせてしまうのも本位ではないし、何より世界一可愛い私の家族たちの『おや』として情けない姿は見せられないのでだらけるという案は却下である。
じゃあ他に誰か、とジム関係の人たち……つまりトレーナーに聞いてみれば休みの日はポケモンたちと特訓したり、野良バトルしたりとかしているらしい。
だが折角トレーナーとしての日が休みなのに私の可愛い家族を突き合わせるなど申し訳ない。それに私の手持ちのポケモンも私が休みの日は庭で遊んだり日向ぼっこしたりと自由にのびのび過ごしているのであの子たちの邪魔をするのも気が引ける。
少し考えてみたがどうにも出かける気にならない。
「そうね、偶には良いでしょう」
呟き、キッチンの戸棚の上段から取り出すのはガラルでも有名な老舗の紅茶店の茶葉だ。
少し前にアイドル業で取材に行った時に包んでもらったのだが、中々ゆっくりとくつろげる時間が無くて戸棚に仕舞われたままになっていたのだ。
後はそう……お茶請けに何かお菓子でも作ろうかしら。
時間はたっぷりあるのだ。
一時期時間に追われるような生活をしていたことがあった身としては、そういう時間の使い方も『贅沢』ではないだろうか。
なんて考えていると食卓の上に置きっぱなしにしていたスマホロトムが鳴る。
―――また急ぎの仕事でも入ったかしら。
なんてテレビ関係の仕事をしていると時々あった事態に想像しながらスマホを取れば。
「あら、マリィちゃんからね」
昔馴染みの少女からのポケLine連絡。内容は今日はネズさんもマリィちゃんも時間があるので良かったら家に来ないか、とのこと。
「ああ、それならネズさんとマリィちゃんにも少し持って行きましょうか」
チャンピオンカップが終わってから一度挨拶に行って以降、時々時間を作っては顔を出すようにはしているが、私もネズさんも忙しい身、中々ゆっくりと話をする機会も無い。
しかも私と二人の空き時間が重なるなんて滅多にあることではないのだから、この機会を逃せば次は果たしていつになるやら。
「ふふ……なら少し凝った物でも作りましょうか」
昼過ぎに伺う、との返信をマリィちゃんへと返すとキッチンにかけてあるエプロンを身に着けて製菓のための器具を取り出していく。
「あれ、リリィちゃん……何か作るの? 手伝うよ」
―――え?
「ふふ……リリィちゃんと一緒に料理するの、久しぶりな気がする。何だか嬉しいな」
―――え、え、え??
「あれ? リリィちゃん、手が止まってるよ? どうしたの?」
―――え、え、え、え、え???
* * *
「それ以上は(尊さで)私が死ぬわ!」
かかっていた掛布団を跳ね飛ばす勢いで体を起こす。
同時にそこがいつもに自分の部屋のベッドの上であることに気づき。
「イェ?」
「イェ~」
そこに見慣れたいつもの私の家族の姿を認める。
「あれ……? 二人ともなんで私の部屋に……」
頭がふらつく。
どうにも思考がぼんやりとして纏まらない。
こんな感覚初めてなのだが、もしかしてこれが『寝ぼける』ということなのだろうか。
「イェー?」
大丈夫? と言わんばかりにソフィーがそっと私の背中を擦ってくれる。
まだぼんやりとした頭だったが、しばらくそうしていると徐々に明瞭になっていく。
そうして。
「あ」
唐突に思い出す。
先ほどまで見ていた『夢』の話と。
―――なんとなく言ってることは分かるんだけどね。ちゃんとアナタたちと話してみたいって、そう思う時もあるのよ。
昨日の夜にふと呟いた自分の言葉を。
「もしかして……さっきまでの夢って」
「イェ……」
「イェ?」
視線を上げればすっと目を逸らすアルフィーと、なあに? と言わんばかりに笑みを浮かべるソフィー。
そんな二人の態度に『ああ、やっぱり』と納得してしまった。
だから。
「ありがとう、二人とも」
そんな私の言葉に。
「イェー♪」
「イェ~♪」
二人が笑みを浮かべた。
今年のエイプリルフールネタということで。
ツイッターで『ドルオタリリィ×擬人化』と『つづきからはじめる×モブキャラだって意地がある×ドルオタリリィクロス』のどっちが良い? って気紛れにアンケート取ったらドルオタ擬人化だったので書いてみた。