トップアイドル兼ジムリーダー兼限界オタクのリリィ推してまいります! 作:水代
ガラルで一番の有名人は?
と聞かれると恐らく誰もが『ローズ社長』と答えるだろう。
『マクロコスモス』社長ローズは坑道採掘を仕事とする小企業から一代でガラルの全土に事業を広げるガラル地方最大の大企業へと成長させ、同時にガラル地方を飛躍的に発展させたガラル地方を代表する偉人である。
同時にガラル地方ポケモンリーグ委員長も務めており、現在のチャンピオンを推薦したのも彼ならば、現在のガラルにおけるポケモンバトル人気の秘訣たるダイマックスバンドをマグノリア博士と共同で開発したのも彼である。
まあ実際にはローズ社長本人が白衣着て研究したわけでなく、社長としてマクロコスモス社で研究を推し進めただけであってローズ社長が開発したというのも変な話ではあるのだが。
とは言えこのガラルで企業と言えばマクロコスモス社であり、マクロコスモス社と言えばローズ社長だからマクロコスモス社の功績がイコールでそのままローズ社長の功績であると、そんなイメージが定着してしまっているのだが。
実際問題ガラルにおいて他に企業が無いわけではないのだが、マクロコスモス社とそれ以外の格差というのは圧倒的かつ絶対的なものがあり、実質このガラルという地方を差配しているのはマクロコスモス社……引いてはローズ社長であるとすら言って過言ではない。
マクロコスモスは大本は採掘事業を専門とする会社だったが、今や多くの企業を傘下として巨大複合グループを形成している。
そのためあらゆる分野においてその事業の手は伸びており、軽く名を挙げるだけでも『テレビマクロ』『マクロコスモス・レールウェイズ』『マクロコスモス・エアラインズ』『マクロコスモス・エネルギー』『マクロコスモス・テクノロジー』『マクロコスモス・ネットワーク』『マクロコスモス・コンストラクション』『マクロコスモス・ライフ』『マクロコスモス・バンク』『マクロコスモス生命』などガラルの街中を歩いていれば誰もが一度は目にするような名前があちらこちらにあり、その存在感は決して無視することなどできない
因みに私が所属するアイドル事務所も『テレビマクロ』の系列であり、私もまたある意味でマクロコスモスの社員と言える……のかもしれない。
『テレビマクロ』はマクロコスモスの放映部門の会社だ。
そこにいるのはガラル中から集められた選りすぐりのスタッフたちであり、同時に番組作成にかけることのできる資金というのも他の企業とは桁が違う。
だからこそ多くのヒット番組を生み出している『テレビマクロ』は、同時に大本のマクロコスモス……というかローズ社長の意向もあって『ポケモンバトル』に関連する番組が多い。
ローズ社長のポケモンリーグ委員長という立場のお陰でどこよりも選りすぐった情報を、どこよりも早く発信できるのだから、ポケモンバトルに湧く現在のガラルにおいて『テレビマクロ』はお茶の間において不動の地位を築いていると言っても良い。
そしてそんな『テレビマクロ』のゴールデンタイムに一週間で四本ほどレギュラー番組を持っている*1のが私となる。
多いのか少ないのか分かりづらいかもしれないが、私の次に多い人で週三本、そこから飛んで週一本が団子状に続く。分かりやすく言えばこのガラルで最もレギュラー番組を持っている芸能人ということだ。
* * *
今までのガラルのテレビ事情は基本的に『ポケモンバトル』が強すぎた。
五年ほど前、まだ私がアイドルデビューしたばかりの年のチャンピオンカップ決勝『キバナVSダンデ』のライブ放送など視聴率83.8%である。
実際にスタジアムに来ていた人間もいることを考えればその人気というものは飛び抜けたものがある。
僅か一時間にも満たない間の生放送だったが、合間のCM枠はいつものゴールデンタイムの十倍以上の値が飛び交ったというのだから恐ろしいものである。
ポケモンバトル関連の番組を作るだけで視聴率が上がるとなると他の放映社だってそれを作るのは当たり前で、そんな事情もあって去年までのガラルにおけるテレビ事情というのは『ポケモンバトル』が大半を占めていた。
どのチャンネルを見てもポケモンバトルばかり。
偶にニュース報道なども混ざるくらいで、アイドル向けのバラエティ番組の枠などほとんど無くて。
だから最初はバトルの試合実況から始めた。
マクロコスモス……というよりローズ委員長のコネを使ってプロトレーナーを解説に呼び、ポケモンバトルの
解説のプロは1人で良いとしても、その横に華を添えれば番組としての体裁が整う。その華として呼ばれたのが私の最初の仕事だった。
そんな私の初仕事から五年近い年月が経過して。
「La~♪ LaLaLa♪」
なんて小刻みな拍子を刻みながらマイクの前で歌ったのは今月末発売の通算十枚目となるシングルCDに収録される曲である。
十枚目と称した通り、私の……正確には私たちの歌はこれで十曲目となるが、すでに過去に発売したCDは通算五百万枚を超え、街頭TVにおいてもCMが宣伝され、店先にポスターと視聴MVが流れている。現在のガラルの街中で私の声を聴かない日は無いと言っていいレベルである。
デビューから五年、私たちが積み上げてきた物が花開いたと言って良い。
今ガラルで最も売れているアイドルとなった私と私の可愛いポケモンたち、自他共に認めるトップアイドルと言って良いだろう。
トップクラスのアイドルでも無く、正真正銘のアイドルたちの頂点。
それも他を突き放しての圧倒的頂点だ。
その人気はあの無敵のチャンピオンダンデに比肩し得るものとされており、実際昨年におけるチャンピオンカップ決勝と同じ時間にやっていた私の番組の視聴率にそれほど大きな差が無かったことからも証明されていると言っても良い。
かつて職業アンケートにおいて、ポケモントレーナーに後塵を拝していたアイドルという輝ける舞台は再び女の子の夢となった。
その火付け役となった私の知名度はかつてと比べることもできないほどに跳ね上がったし、その私の傍にいつでもいる私の可愛い可愛いポケモンたちの人気が出ないはずもなく。
私の可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いポケモンたちはついにガラルの大半の人間に認知され、愛されることとなったのだ。
―――だが、だ。
足りない、足りないのだ。
全然足りない、全く足りない、これっぽっちだってこの程度で満足なんてできるはずがない。
あのガラルのヒーロー、無敵のチャンピオンダンデに比する?
確かにチャンピオンダンデは凄まじい人気を誇る。
このガラルの有名人を人に聞けば大抵は『ローズ社長』と答えるだろう。
だがこのガラルの人気者を人に聞けば大抵が『チャンピオンダンデ』と答えるだろうほどにその人気ぶりは凄まじい。
私はたった五年でダンデがこのガラルで築き上げてきた一強状態を崩し、その人気を二分したのだから人に言わせれば十分過ぎる結果と言えるかもしれない。
……否だ。
人気を二分する?
何を言っているのだ。
私の可愛い可愛いポケモンたちがあのヒゲと同列だと??
舐めるな、ふざけるな、馬鹿にするな!
ダンデは確かに凄い。
無敵のチャンピオンとしてガラルのヒーローとして、ガラルにおいて大きな人気を誇っている。
だが、だ!
うちの子は世界一可愛い!
ガラルという一地方における人気を誇る程度で……しかも人気を半々に分けている現状程度で満足できるはずがない。
もっと、もっとだ!
もっと高みへ!
あるはずだ。
もっともっともっと輝ける場所が。
世界一の輝きが!
* * *
かつて私はポケモンバトルの道の先で得られる人気は完全ではないと言った。
確かにそうだ、例えばガラルチャンピオンダンデは凄まじい人気を誇るが、ガラル全土、全ての人がダンデを支持しているわけではない。まあだからと言って反しているわけでも無く。
ガラルに住んでいながらダンデに興味が無い、そんな人間は確かにいるのだ。ポケモンバトルという戦いの舞台に興味が持てない人間というのはどんな地方にだって一定数存在するのだ。
私のファンの中にだってそんな人間はいくらかいる。
それにダンデと私を天秤にかけて、私を選ぶファンも多くいる。
つまりダンデという無敵のチャンピオンの人気も完全ではない。
それを知っていたから私はポケモンバトルの道を選ぶことをしなかった。
完全ではない人気を得るために私の家族を傷つけることなど耐えられなかったからだ。
だがこうしてトップアイドルしてガラルの頂点に立ってみて分かったこともある。
ダンデと私を天秤にかけて、私を選ぶファンがいるように、私とダンデを天秤にかけてダンデを選ぶファンもいる。
ポケモンバトルに興味が持てず、ダンデというチャンピオンに興味を抱かないように、アイドルに興味が持てず、私と私の家族にも興味を抱かない。
そんな層が確かにいたのだ。
その事実に気づいた時、蒼褪めた。
だってそうだろう、私がこのまま私の可愛い家族たちとどれだけアイドルとして大成しようと絶対に私の可愛いポケモンたちを認めない人間が存在してしまうのだ。
許される話ではない。
私の可愛い可愛いポケモンたちの可愛さは世界を超えるのだ。
全ての人間を釘付けに、愛されなければ納得できるはずも無い。
世界で一番輝ける場所は今のままでは手に入らない。
その事実に頭を悩ませた。
このままアイドルを続けて良いのか、そんな疑問すら浮かび上がりマネージャー含め関係者をおおいに慌てさせてしまうくらいに。
悩んで、悩んで、けれど答えが出なくて。
苦しんだ。呻いた。藻掻いて。
そして。
一緒に頑張ろう、まるでそう言わんばかりにぐっと拳を握って私を励ましてくれたのは私の最愛の家族たちだった。
その瞬間、私は決意した。
この子たちのため、やれることは全てやるのだと。
…………。
…………………………。
………………………………………………。
「はぁ?! トレーナーになるぅぅぅぅ!?」
「うん、もう決めたから」
両の頬に手を当て絶叫するマネージャーに一つ頷くと机の上に一枚の紙を叩きつける。
「私の可愛い可愛い可愛い家族をもっともっともーっと輝かせるためにこれは必要不可欠と判断した。けれどアイドルとしての私たちも捨てる気はない。人気トレーナーと人気アイドル、この二つを両立させてこそもっと上を目指せると思った」
叩きつけたのは企画書だ。
アイドルからの突然のトレーナーへの転向なんてここまで私を育ててくれた『テレビマクロ』だって簡単に受け入れられるはずも無いし、そもそも私たちのファンを裏切るような真似は絶対にできない。
私の可愛い家族が万民に愛されるためにも、私の可愛い可愛い子たちを愛してくれているファンを捨てるようなことは絶対にしたくないのだ。
だがだ。
受け入れられないなら、受け入れられるように舞台を作ってやれば良いのだ。
私はアイドルだ。
ならばテレビの番組企画としてやりたいことをやってしまえば良いのだ。
売れない三流アイドルがやるならともかく、私たちがやるなら話題性は絶対にあると自負しているし、何よりテレビ映えだってする。
「アイドルのジムチャレンジ、私は行けると思ってる」
「う、ううーん、確かに売れるとは思うけど……勝てるの?」
不安そうにこちらを見つめるマネージャー。まあ無理はない、何せ私は今まで一度だってポケモンバトルというのをやってこなかった。私の家族が傷つく可能性を許容できず、徹底的に避け続けてきたのだ。
そんな私が果たして難関とされるこのガラル地方のジムチャレンジに挑戦し、勝てるのだろうか?
確かに実際バトルしてみてひたすらボコボコに負けるだけでは全く面白くないだろう。
何より私もだが私の可愛いポケモンたちだってすでに私とユニットで人気アイドルの一員として認識されているのだ。
そんなポケモンたちが一方的にやられ、傷つくような番組では炎上確定である。
だがだ。
「愚問ね」
少しばかり品は無いかもしれないが、はん、と鼻を鳴らして不敵に笑う。
「私が私の可愛い可愛い可愛い家族を傷つけることを許容するはずないでしょ」
そう、だから。
「勝てば良いのよ、それも完膚なきまでに」
そのための努力なら何だってしてやる。
私の可愛い可愛い家族のためならば、私にできないことなんてあるはずないのだから。