トップアイドル兼ジムリーダー兼限界オタクのリリィ推してまいります! 作:水代
基本的に私は白と黒の二色を好んで身に着けている。
私自身、髪が真っ白なせいもあるがそれ以上に私の可愛いポケモンたちとお揃いだからだ。
私の可愛い可愛いポケモンたちも自分たちとお揃いであることを喜んでくれるのだが、その時の喜びかたがまた彼と彼女で違っていて、彼女はとても素直にニコニコ嬉しそうな笑みを浮かべて喜んでくれるし時々抱き着いてくれる……これがまた柔らかくて良い匂いがしてとても幸せで、ってそうじゃなくて、とにかく彼女の愛情表現はとてもストレートなのだ。だが彼のほうは照れ屋なのか特に反応を見せない……ように見せかけて実はちらちらとこちらを見てはこっそり嬉しそうにしているのを私は知っててその反応がまた普段のクールな彼とのギャップがあって可愛くて可愛くて可愛くて……とにかく可愛いのだ!
まあそれはおいておいて。
私は私自身の身だしなみにはいつだって気を付けている。
それは私がアイドルだから、とか全く関係無く私の可愛いポケモンたちの隣を歩くにあたって、私自身がだらしない姿やみっともない姿を見せて『あんなみっともないやつがあのポケモンたちのトレーナーなんだ』なんて他人に思われて私の可愛いポケモンたちの評価を落としたりすることなど絶対に許されないからだ。正直そんなことになったら私は死にたくなる。
そしてそれ以上に私の可愛い可愛い可愛いポケモンたちが私以上に私の身だしなみに気を付けてくれるから。
だからつい家の中ではだらしない姿をしてしまう、そうしたら私の大好きな家族が私の世話を焼こうとするから。そんな彼らのことが大好きで、そんな彼らがしてくれることが嬉しくて、そんな彼らについ甘えてしまうのだ。
髪を梳く。
白く艶めいた髪は生まれついてのものではあるが、ガラルにおいて珍しい色らしい。
色の薄いブロンドやアッシュブロンドはそれなりにいるものの純粋な白というのはいっそ病的だ。
けれど私からすればそれは生まれついてのもので、別に好きでも嫌いでも無い、これが私なのだという認識ではあったが、私の家族は私のこの髪の色を気に入ってくれている。だから今の私はこの色が好きだ。
一時期腰まで届くくらいまで伸ばしていたのだが、それが鬱陶しくてショートヘアになるまで切ろうとしたら事務所に大反対されたし、私の可愛いポケモンたちに泣かれかけたのでセミロングくらいで妥協し、それでもまだ長いので黒い大きなリボンで括ってポニーテールにする。
それから長い前髪を持ちあげるように黒いリボン付きのカチューシャをつけて、最後に鏡の前で服装に変なところは無いかをチェック。
この時に私の家族も一緒にやってきて三人……というか一人と二匹でじっと鏡とのにらめっこ。
特に問題無し、と両脇の彼らを見やり彼らからもオッケーが出ると良しと一つ頷き。
「いこっか」
そんな私の言葉に彼らも頷く。
いよいよ今日からジムチャレンジの開催だ。
* * *
Q.いよいよジムチャレンジ開催ですが今の心境は?
A.ドキドキですね、不安でいっぱいで……けど楽しみなのもあります。
Q.ずばり自信のほどは?
A.私は他の人たちほどの下地が無いですから、でも推薦状をもらえた以上はチャンスはあると思っています。
Q.ずばり目標のほどは?
A.私のポケモンの可愛さをガラルの全ての人に知って欲しいですね!
Q.え、えっとそうではなく、ジムチャレンジの目標と言いますか……。
A.ポケモンバトルに関しては本気で門外漢だったので何とも、けどまあシュートシティにたどり着くくらいまではやってみせたいところですね。
Q.バッジは全て集めきって見せる、という自信ですね。これから三ヵ月頑張ってください。
A.ありがとうございます、ファンの皆さんのためにも精一杯頑張ります。
エンジンシティの中央、エンジンジムスタジアムにてガラル地方ジムチャレンジの開会式が行われる。
同時にこの日からガラル全土でジムチャレンジ期間に入るということだ。
この時期の熱狂はガラル全土を巻き込むせいか、地元選手がジムに挑戦する時は仕事を休んで見にいっても良い、なんて規則が本気で存在するのがこのガラルという土地だ。
その他にもこの期間中、ジムチャレンジャーは様々なサービスを提供されることになる。
例えばホテル等の宿泊施設を無料で借りることができたり、飲食店などで料金の割引が発生したり、アーマーガアタクシーの優先的な無料利用権などだ。
とてつも無い優遇ぶりだが、ガラルという地の事情を鑑みるとこれでも
というのもジムチャレンジャーは言うならばスターの卵だ。
かつてのダンデの登場の時のようにいつ何時新たなガラルスターが誕生するともしれない中でジムチャレンジャーたちは確かにその候補となり得るのだ。
故にジムチャレンジャーがガラル全土を巡ることはそのジムチャレンジャーたちの『ファン』もまたそれに追随することになる。
自分の推しのチャレンジャーが新たなガラルスターとして花開く瞬間を見逃すまいと多くの人たちがそれぞれ自分の推しのチャレンジャーの追っかけとなってガラル中を巡るのだから当然その時利用するのが上で言ったようなホテル等の『宿泊施設』、飲食店などの『食事処』、そして移動のための『アーマーガアタクシー』になる。
ジムチャレンジャー一人優遇したところでそのジムチャレンジャーのファンがその数倍、十数倍、数十倍となって利潤を上げてくれるのだから言うなればそれはジムチャレンジャーの『知名度』への対価のようなものなのだ*1。
まあそれはさておき。
毎年のことながら、ジムチャレンジ開催日のエンジンシティは多くの人で賑わう。
今年はどんなチャレンジャーがやってくるのか一目見ようと押し掛けるポケモンバトルのファンもいれば、開会式に集うジムリーダーたちを、或いはチャンピオンを見ようとやってくるファンもいる。
そんなごった返した街中をテレビカメラ引き連れて歩いているのだから非常に目立って仕方ない。
自慢ではなく、純然たる事実として私はこのガラルで一番人気の高いアイドルだから。
カメラを引き連れていることに視線を集め、そして私を見て二度驚く大衆の中をスタジアム向けて歩いていく。
中には私の行き先を見て何かの仕事だろうか、と考える人もいたようだがまさかこれから私がジムチャレンジに参加するとは思ってもいないようだった。まあ確かにこれまでそう言った様子を一度だって見せなかったのだから……そもそも今年になって急に思いついたことなのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
そうして目立ちながら歩いているといつの間にか私たちの後ろをとんでも無い数の人々がついてきて通行の邪魔になっていたのでテレビクルーの人たちが解散を働きかけていた。
街中を歩いていると良くあることだ、有名税とでも言うべきか。
けれど邪険にすることは無い。彼ら、或いは彼女たちは私を……何より私の可愛いポケモンたちを慕って集まって来てくれる人たちなのだから。
だからなるべくならファンの声には応えたいとは思っている。
だがジムチャレンジの開会式の時間というものがあるので余り長く時間は取れない。
ジムチャレンジへの参加申込自体は昨日の時点で終わっているので余裕が無いわけではないが、さすがにこの数を一人一人相手にしていられるほどの時間があるわけでも無く、仕方なく手を振って愛想を撒きながらその場を立ち去る。
ファンとて撮影中に強引に入って来るようなことも無いのでそれで満足して去っていく人もいれば、まだついてくる人もいる。まあ確かに数こそ多いが、他のジムチャレンジャーにも多かれ少なかれそういう人たちがいるのも事実なのでそこまで問題にはならないだろうと思う。
エンジンスタジアムに近づくに連れて大衆の数は多くなっていく。
その中に私が引き連れてきた多くの人たちが混ざっても目立たないくらいに多くの人がこのジムチャレンジというガラルの一大興行に惹かれてやってきている。
私はアイドルという輝きでもってガラルのポケモンバトル一色の環境を塗り替えてきた。
今ではアイドルという『華』は決してポケモンバトルにも劣らないものになっているがこの光景を見ればそれでもポケモンバトルという『華』がいかに多くの人に愛されているのかを思い知らされる。
やはり必要だ。
私が私の願いを叶えるために……一度は外したポケモンバトルという選択肢は最早必須であると実感した。
後は私がこのポケモンバトルという『ステージ』でどれだけ輝けるか、私の可愛いポケモンたちを輝かせてあげられるか。
ここから試されるのは私と私の最愛のポケモンたちの力。
「望むところ」
ぽつりと呟く一言はけれど雑踏の賑わいに消えていく。
見上げたそこに広がるのは巨大なスタジアムだった。
* * *
ジムチャレンジの受付を済ませると受付がどうやら私を知っていたのか酷く驚いた顔をされたが、受付自体は無事に終了する。
そこでユニフォームを渡され隣の選手控室奥の更衣室でそれに着替える。
さすがに選手控室の中はジムチャレンジャーのみが入れる場所なのでテレビカメラは入れない。
とは言え開会式も近いので控室に残っているチャレンジャーも少ないのだが。
そうして着替えて受付のほうに戻るとテレビカメラが周囲の映像を取っていた。
偶にジムチャレンジャーを勝手に映すのはどうなのだろう、と言う声があるがとんでも無い見当違いな意見であると言える。
ガラルにおいてプロトレーナーとはエンターテイナーである。
派手派手しいバトルで人を惹きつけるキバナジムリーダーや、ダイマックスこそ無いにも関わらず圧倒的実力とライブパフォーマンスで人を惹きつけるネズジムリーダーなどが一番分かりやすい例だろう。
そしてチャンピオンとはガラル最強にして最高のパフォーマーでもある。
無敵のチャンピオンダンデは単純な実力が最強であることを除いても純粋なパフォーマー、エンターテイナーとしても一流だ。
チャンピオンダンデの象徴とも言えるリザードンとそれになぞらえたリザードンポーズなどその最たる物と言える。トレーナー志望の子供たちがこぞって真似をするリザードンポーズはまさにダンデの人気の証である。
ダンデと言えばこれだ! という特徴があるからこそ観客はダンデにそれを期待する。そしてダンデはそれに応え、その上で勝利を積み重ね続ける、だからこそダンデは無敵のチャンピオンで最高のエンターテイナーなのだ。
ガラルにおいてチャンピオンとは純粋な実力とは別にエンターテイメントを求められる。
勿論ジムリーダーと違って実力だけでもチャンピオンになることは可能だ。だがそれだけでは人気が出ない。人気の出ないチャンピオンにスポンサーは付かないし、スポンサーが付かないトレーナーはそれだけ不利を強いられる。
余り一般的なイメージではないが、トレーナーというのは金食い虫な職種なのだ。
そもそもポケモンの飼育費だけでかなりの値がする。
小さいポケモンを一匹二匹くらいならともかく、バトル専門とするパワフルでダイナミックなポケモンを六体、ないしそれ以上の数を育てようとすると食費だって馬鹿にできないし、バトルのための特訓をするための金も必要になる。
場所自体はワイルドエリアでも良い特訓になるだろうが、トレーナー自身の危険性も高いし、何よりそこで得られる経験は野生のポケモンとの戦いと偏った物になる。
ジムリーダーはこの辺ジムの運営費から補助されるので良いとしてもそのジムリーダーだってメジャーリーグ所属のジムはともかくマイナーリーグ所属のジムでは大きな差がある。
何よりバトルで使用する『持ち物』などは一般人の年収が吹き飛ぶレベルの大金だ。
スポンサーの居ないトレーナーというのはそういうバトルに必要な環境や道具を得るためにバトルとは関係の無いところで資金繰りを強いられることになる。当然その分特訓の時間は減るし質の良い訓練をする環境も無くなる。
野生のポケモンを相手にするポケモンレンジャーなどならともかく、鍛え上げたポケモン同士がぶつかるプロの世界において資金とはそれだけで一つの力になり得るのだ。
だからこそガラルのトレーナー……それもプロ志望のトレーナーはエンターテイナーであることを求められている、否、最早義務づけられているとすら言っても良い。
試合に多くの人を集め、スポンサー企業にとって利潤をもたらせるトレーナーになることはプロとして必須だ。であるからしてジムチャレンジャーというのはプロの卵であり、基本的にテレビなどに放映される立場にある。
少なくともジムチャレンジャーというのは言わばセミプロ的立場なのだからテレビに映りたくないなどいう人間は少なくともこのガラルにおいてプロトレーナーには絶対になれないのだ。
周囲を見渡せば私と同じようにユニフォームに身を包んだ選手が50人弱。
毎年の平均チャレンジャー数が44、5と言われるので今年は割と豊作の年だろうと言える。
つまりここにいる50人足らずの彼ら、彼女らが私のライバルということになる。
そうしてライバルたちを見まわしている間にリーグスタッフから集合の声があり。
―――開会式が、始まる。
因みに大よそのイメージ的に剣盾本編より三年くらい前の予定なんで、サイトウちゃんとかオニオン君とかいやお前らその年代だと絶対トレーナーデビューしたてだろってくらいの子は出てきません。
サイトウちゃん多分14前後くらいだと思ってるけど、オニオン君って何歳なんだろうね?
黎明の翼だったかでサイトウちゃん学生服来てたんだよね、だから中学生くらいなんだろうなって思うんだがオニオン君とか小さすぎて小学生にしか見えない(