トップアイドル兼ジムリーダー兼限界オタクのリリィ推してまいります!   作:水代

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それは運命のであイでした

 

 

 私の両親は携帯獣(ポケモン)学の研究者だった。

 若い頃にはあのマグノリア博士の研究所で働いていたこともあったらしいが、そこから独立して二人で研究者としての道を歩み始めた。

 当時からすでに恋人だった二人は独立を期に結婚を果たし、やがて私が生まれた。

 だが生まれたばかりの私の体は欠陥だらけであり、両親共にスパイクタウンへ引っ越すことに。

 それから数年の間、母は私を育てるために研究を休み、その間父だけが働いていた。

 

 ポケモンの研究と言われると研究所で白衣を着て……というのを想像するかもしれないが、うちの両親の場合フィールドワークが多く、父もまたガラル中を飛び回っては月に一度帰って来るか来ないかと言った生活だった。

 

 故に私の記憶の中の父親の姿というのはどこかぼんやりとしていた。

 

 ただ覚えているのはまさ二歳だったか三歳の頃、家に帰ってきた父が私に渡した()()()()()()()

 

 一体それが何なのか分からず興味を示す私に父はこう言った。

 

 ―――それはリリィへのプレゼントだ。キミの弟か妹がそこに居るんだ。だから大切にしてあげてね。

 

 それはルミナスメイズの森で父がフィールドワーク中に見つけた放置された卵だった。

 果たしてその卵がどうしてそこに放置されていたのかは父にも分からない。

 親に捨てられたのか、それとも親が()()()()()()()()()()のか。

 ただ父はその卵を拾い、そして私に与えた。

 

 その体質のせいでろくに太陽の下で遊べなかった娘へ、友達を与えたかったのかもしれない。

 

 或いはたった一人、育児を任せてしまっている妻に、娘の遊び相手を用意して負担を軽くしてやれると思ったのかもしれない。

 

 今となっては分からないのだ。

 

 だって。

 

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 * * *

 

 

 正直言ってキバナは強かった。

 何だかんだ言っても、ガラル最強ジムリーダーの名は伊達ではない。

 まさかの展開、序盤で最強のエースを失いながら、それでも2-0である。

 だがそれ故にキバナに勝った意味は大きい。

 そして何よりもラッキーだったのは。

 ネズさんがアラベスクスタジアムのジムリーダーポプラさんと当たって負けたことだ。

 

 ジムリーダーというのは当然ながら専門とするタイプというものがある。

 キバナが『ドラゴン』タイプを専門とするように、ネズさんが『あく』タイプを専門とするように。

 だがそのタイプしか使ってはならない、と言うわけではない。

 それを言うとキバナなどパーティの三割は専門タイプ以外のポケモンで占められている。

 だが当然ながら専門タイプ以外のほうが多い、なんてことはあり得ない。それをすると専門タイプのジムリーダーと言えなくなってしまう。

 別に絶対にやってはいけないというルールがあるわけではないがそれでもそれはジムリーダーとしての尊厳の話であり、同時に暗黙の了解と言える。

 

 で、ある以上は純粋なトレーナーとしての実力とは別に『タイプ相性』の問題というのはどうしても出てくる。

 

 例えばガラル最強のジムリーダーであるキバナだが、『こおり』タイプを専門とするジムリーダーメロンさんには何年も負け続けている。それ以外の相手に勝ち続けているからこそ最強であり続けているが、それでもタイプ相性の差というのはどうしても大きい。

 

 ネズさんの専門タイプ『あく』は、ポプラさんの専門タイプ『フェアリー』とはかなり相性が悪い。

 相手からの攻撃は全て『抜群』になってしまうのに、相手への攻撃は全て『半減』になってしまうのだ。

 そして何よりもネズさんのトレーナーとしての強みが高齢であり何十年とトレーナーとしての経験を積み重ねてきたポプラさん相手だと発揮しきれないというのもある。

 

 それでも勝利することもあるあたりがさすがネズさんと言ったところだが、どうやら今回は上手くはいかなかったらしく、ポプラさんが勝ち上がっていた。

 

 私が最も負ける確率が高いと踏んでいたのはキバナとネズさんの二人だけであり、その二人がすでに一回戦で落ちたとなれば残るジムリーダーとの戦いは比較的勝算の高いものであり。

 

 準決勝でこちらの弱点をつける『かくとう』タイプのジムリーダーをポプラさんが降し、そのポプラさんを決勝戦で破って……そして私はついにたどり着く。

 

 

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 決勝、ではなく、最終戦。

 

 それはファイナルトーナメントを制覇したたった一人だけが挑戦できるガラル地方における最強を決めるための戦い。

 

 そう、立ち向かうはガラル最強のトレーナー。

 

 

 チャンピオン、ダンデである。

 

 

 * * *

 

 

 ―――フィールドワーク中に父が死んだ。

 

 報せを受けた母は泣いた。泣いて、泣いて、泣いて……そして折れた。

 優しい母だった。穏やかで、どこか気品があって、とても繊細で……何よりも父を愛していた。

 

 だから折れた。

 

 ぽっきりと、支えを失くしたようにあっさりと崩れて。

 夜、不意に胸騒ぎがして目を覚ました私が見たのは。

 

 ―――ゆらゆらと首に括られた縄で宙吊りになって揺れる母の姿だった。

 

 

 * * *

 

 

「やあ、リリィ君……だったかな。久しぶりだね」

「はい、ご無沙汰しております、チャンピオン」

 

 フィールドに立つ男、チャンピオンダンデと挨拶を交わす。

 当然ながら顔見知りである、だって何度もテレビで取材したこともあるし、バトルの実況にもマスコット枠で呼ばれたし、何だったらフィールドまで行って花束を渡したこともある。

 お互い分野こそ違えどこのガラル地方における有名人同士、プライベートでの関わりは皆無ではあっても仕事上での付き合いはそれなりにあったりする。

 

 とは言え、こういう形での(ポケモントレーナーとしての)付き合いは一切なかったのだが。

 

「何だか不思議だね、いつもテレビで見るキミが俺の目の前に……それもあのキバナすらをも倒して立っているというのは」

 

 キバナジムリーダーはチャンピオンダンデをライバル視しているのは周知の事実であり、同時にチャンピオンダンデもまたキバナジムリーダーをライバル視しているのも良く知られていた。

 それでも戦績だけ見ればとてもではないが『ライバル』なんて言えるような物では無いのだが。

 

「私は私のために、私の望みのためにここにいるのだから。その前に立ちふさがるならば誰であろうと容赦はしないわ、例えガラル最強のジムリーダーだろうと」

 

 そんな私に言葉にチャンピオンが苦笑した。

 

「はは……それは、オレでもかい?」

「当然」

 

 シンプル、かつ端的なその四文字にふっと、ダンデが笑みを浮かべ。

 

「ならばお見せしよう、チャンピオンタイムを!」

「このガラルで最も輝ける舞台で、私の望みの踏み台となりなさい、チャンピオン!」

 

 互いに手にしていたボールを投げた。

 

 

 * * *

 

 

 チャンピオンダンデはこのガラルで最強のポケモントレーナーである。

 ガラル地方チャンピオンである、ということはそういう意味であり。

 同時にこのガラルで最も不自由なトレーナーでもある。

 

 観客の目は常にチャンピオンを見ている。

 

 チャンピオンがチャンピオンであるが由縁を見ている。

 それを見るために観客はそこに居て、だからこそチャンピオンはチャンピオンであり続ける必要がある。

 

「ギルガルド!」

 

 多少の入れ替えはあっても、初手はギルガルド、そんなこと分かりきっていた。

 そしてこのギルガルドこそが最も厄介な相手であることも。

 

 『ゴースト』『はがね』タイプ。

 『ノーマル』『かくとう』タイプを無効化し、『エスパー』タイプを半減する。

 その上で納刀(シールドフォルム)時には鉄壁のような耐久力を誇り、抜刀(ブレードフォルム)時には最強クラスの火力を持つ。

 

 冗談抜きで私の天敵のようなポケモンである。

 

 もしこれが相手の手持ちの中にいていつ出てくるか分からない、という状況ならばギルガルド一体のためにかなり苦戦させられることは間違いない、が。

 

 その相手がチャンピオンダンデならばほぼ確実に先手で来る。

 

 チャンピオンの一番手は毎年そうだから、観客がそう望んでいるから。

 

 フルバトルにおけるダンデの初手でのギルガルド採用率は九割を超える。

 チャンピオンだからこそ、簡単にはパーティを組み替えられない。観客の期待する通りの『いつもの姿』であり続ける必要がある。

 

 だからこそ、そこに隙がある。

 

「行って……メタモン」

 

 『かわりもの』なメタモンがフィールドに飛び出すと同時に『へんしん』してそのままギルガルドへと変貌する。

 

 やられた、そんなダンデの苦々しい表情が見えた。

 

 

 * * *

 

 

 両親を失った私は独りになった。

 独りになって……全てどうでも良くなった。

 裏切られた気分だった。

 

 否、気分ではなく、裏切られたのだ。

 

 母は自ら選んだのだ。

 たった一人残された幼い娘よりも、先に逝ってしまった夫を選んだのだ。

 私にとって父は滅多に会わない人で、だからこそいつでも傍にいてくれた母こそが全てだった。

 その母に裏切られて、だからこそもうどうすれば良いのか分からなくなって、何もかもどうでも良くなった。

 

 ああ、そうだ。

 

 その日だ。

 

 そう、ちょうどその日だった。

 

 母が死んで、途方に暮れた私の耳に聞こえた軋むような音。

 

 不意に視線を向ければそれは開け放されたままの私の部屋から聞こえてきて。

 

 引き寄せられるように、そちらへと足を向けた私が見たのは。

 

 

 ―――卵から生まれた()()のポケモンだった。

 

 

『イェ?』

 

 不思議そうに私を見つめ。

 

 『イェ♪』

 

 嬉しそうに笑った。

 

 ああ、それはまさしく。

 

 ―――運命の出会いだった。

 

 

 * * *

 

 

 私ことリリィのトレーナーとしての最大の強みを言うならば、それは『技の出が早い』ということだ。

 ほとんど声も動作も必要としない指示は私の大切な家族たちの力に寄る物が大きいのだが、基本的に私の思考をダイレクトに伝えることができるため相手よりも数秒早く意図通りに動くことができる。

 これがどういうことなのかと言えば、大抵の場合相手よりも先に動いて攻撃を放てるということだ。

 

 『でんこうせっか』や『ふいうち』『かげうち』など同時に指示しても相手より先に攻撃できる『溜め』の短い技があるが、先に指示を出して動けるというのはそんな風に全ての技を相手より少しだけ先に放てるという大きなメリットがある。

 

 ギルガルドをメタモンが変身して倒すと、ギルガルドに変身したメタモンを次に繰り出されたドラパルトが『ふいうち』で倒し返す。

 ドラパルトはとにかく素早い動きをするポケモンであり、その上『ふいうち』のような素早く放てる技を持っているが、私のイエッサン(♀)の特性『サイコメイカー』によってフィールドを『サイコフィールド』へと塗り替えることによって相手の『ふいうち』をけん制すると共に、先出しの指示によって放った『ワイドフォース』がドラパルトを打ち果たす。

 『ワイドフォース』はスミレさんの紹介で向かったヨロイ島にある道場で教えてもらった技だが、『サイコフィールド』の時威力が大きく跳ね上がるという私のイエッサンのためにあるかのような実に強力な技であり、遠距離から放てることからも実に使い勝手の良い私のイエッサンの切り札でもある。

 

 だが次に出てきたバリコオルは登場早々に『ひかりのかべ』を張ってそのまま『バトンタッチ』していく。相当に訓練された動きであり、こちらが一撃見舞う間に相手は二度技を繰り出してそのままそそくさとチャンピオンの下へと戻って行った。

 イエッサンの『ワイドフォース』は『ひかりのかべ』に阻まれ、バリコオル相手には大したダメージを与えることはできていないだろう、そもそもタイプ相性が悪い。

 

 そうしてバリコオルと入れ替わるように出てきたのはオノノクスであり、出てくると同時に荒れ狂い、怒りのままに『げきりん』を放つ。

 当然『ワイドフォース』で迎え撃つが『ひかりのかべ』に阻まれてしまい、致命傷にならないままにイエッサンが『げきりん』で吹き飛ばされ『ひんし』になる。

 

 オノノクスは極めて闘争心、狂暴性の高いポケモンであり、その攻撃力は最強クラスになる。

 そんなオノノクスがドラゴンタイプ最強の技である『げきりん』を放てばその威力は想像を絶する。

 だが同時に一度放てばトレーナーの指示を全く受けないほどに暴れ回るため簡単には撃てない技なのだが。

 

 ―――私の手持ちが『ノーマル』タイプで染められていることにチャンピオンも気づいているということだろう。

 

 私の残り四体の中に『フェアリー』タイプが居れば一手か、二手番、丸々無駄にしてしまうリスキーな選択を簡単に切ってきたということはそれは無いとバレていると見て良い。

 所詮私のトレーナーとしての完成度は『ノーマルジム』で仕込まれたもの……つまり『ノーマル』タイプのポケモンに対するものばかりだ、それ以外のタイプが全く使えないということは無いが、素人の域を出ない。

 

 中々にピンチな状況である。

 

 で、あるが故に。

 

 私も早々に手札を切ることを決めた。

 

 




明日か明後日で最終話投稿します。
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