今日も左手で飯を食う   作:ツム太郎

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巡り巡って。


??

 

 

 あの硝煙が立ち込める瓦礫の中。死の淵で最後に見たのは息絶えた想い人であった。

 

 

 死んでいたというのに、彼の顔はどこまでも穏やかだったのを覚えている。

 まるで、自分を縛っていた鎖から解放されたかのような。

 眠るように、彼は息絶えていた。

 

 そんな彼を見て、私は決して手放したくないと思った。

 自分だけ遠くに行ってしまって、私を置いて行ってしまって。

 目の前にいるというのに、もう消えてしまった事実を認めたくなかった。

 

 もっと別の道があったのではないか?

 彼の弱さを受け入れ、それでもなお共にいられる道。

 そんなモノが、数少ない可能性の中であったのかもしれない。

 そう思うと、激しい後悔が自分を襲った。

 

 しかし、死に体となったその時に出来る事は無く。

 私は流す資格が無い涙を垂らしながら、最後まで彼を見ながら死んだ。

 

 

 

「……」

 

 

 

 戻る筈のない意識。

 しかし、ソレは記憶と共に新しく生じた。

 いや、戻ったというべきか。

 

 全てが頭の中に流れ込み、記憶が蘇ったのは「あの時」だった。

 特に面白くも無い素振りをしていた時、そして彼が初めて話しかけてきた時。

 幼稚園の頃、全ての始まりの時だ。

 

「……」

 

 隣には友であった少女。そして目の前には……彼。

 私は数秒の沈黙の後、すぐに理解した。

 理由は分からないが、「過去の自分」に戻ることが出来たのだと。

 

 いったいなぜこんなことが起きたのか?

 もしかして、彼をこの世界に連れ出した何者かによる仕業なのだろうか?

 少しだけ考えたが、すぐに考えるのを止めた。そんなことはどうでもいい。

 その時、私の中にあったのは激しいまでの喜びであった。

 

 決して悟られぬように、視線だけを彼に向ける。

 あの時と同じだ。他の子達に馴染めないのか、外で遊ぶ子供たちを見て座っている。

 五体満足。何も起きていない純粋な彼がいた。

 

「……くふっ」

 

 思わず笑みがこぼれてしまう。全力で彼の下へ駆けてしまいそうな程に。

 しかしダメだ。少なくとも彼の前でそんなことをしてはいけない。

 過去に私はどんな存在であった?

 彼が求めるのはどんな存在だ?

 そう思うと同時に、手に持つ玩具を見る。

 

「……」

 

 瞬間、ソレを地面に叩きつけたくなった。

 だが、必死に抑える。少なくとも彼の前で、おかしな所を見せてはならない。

 彼に合わせろ。彼と同じ視線で、彼と同じ世界を見ろ。

 そうでなければ、彼はまた遠くに行ってしまうぞ。

 そう思って衝動を抑えながら、私はゆっくりと玩具を床に置いた。

 

「……あ」

「ッ……!」

 

 その時、彼と目が合った。

 純粋な、子供の目をしている。

 その中に憎悪や、恐怖といった感情は見られない。

 恐らく、私と違って未来の記憶は無いのだろう。

 

「……」

 

 ちらり、と隣に座る少女を見る。

 彼女もあの時と同じ、つまらなそうに機械をいじっていた。

 演技のようには見えない。つまり、この場で記憶を持っているのは私だけであった。

 

「……ねぇ」

 

 彼に声を掛けられた。それだけだというのに、全身に電気が流れるような感覚を覚える。

 抑えられない。いやダメだ、彼を怖がらせるな。

 普通、普通の幼稚園児に徹しろ。

 

「なぁに?」

 

 間延びした、子供のような口調で返事をする。

 これで良いはずだ。可笑しなところは一切見せるな。

 

「あ、あの……何してたのかなぁって……」

「ヒーローごっこだよ。昨日テレビで見たんだぁ」

 

 満面の笑顔で返事をした。

 この手の玩具なら、この言い訳でなんとかなるだろう。

 

 前はここで彼を拒絶してしまったが、今回は決してそんなことはしない。

 絶対に放してなるものか。

 

「ねぇ、貴方は何してたの? えっと、お名前……」

「あ、太一だよ。岡山太一。僕はその……皆と一緒にいるのが苦手で……」

「そっかぁ……ねぇ、それなら一緒にお昼寝しようよ」

 

 そう言って、私はゆっくりと彼の手を取った。

 強くは握らない。優しく、優しく。

 大丈夫だ、今度は決して壊したりはしないから。

 

「えっ、で、でも……」

「良いの、貴方は今から一緒にお昼寝するの。ダメ?」

「う、ううん」

 

 少しだけ動揺したようだが、彼は快諾してくれた。

 優しい彼の事だ。少し不安そうな顔をしたら受け入れると思ったぞ。

 私はニコリと笑い、彼の手を取って近くにあった毛布の方へ歩く。

 その途中で、少女である束が信じられないモノを見るかのような目でこちらを見ていたが、構っている暇はない。

 私は彼をその場に寝かせ、連なる形で横になった。

 吐息がかかるくらいの、すぐ隣に。

 

「ね、ねぇ……」

「なぁに?」

「ちょっと、近くない……かな?」

 

 照れているのだろうか?

 彼は視線を横に逸らしながらそんなことを言ってきた。

 あぁ、本当に愛おしいなお前は。

 もうダメだ、抑えきれない。

 

「そんな事無いよ。ほら、こうやってギュッとすればあったかいんだから」

「わぷ……!?」

 

 彼の背中に手を回し、抱きしめる。

 彼の温もり、心臓の鼓動が感じられた。

 あの瓦礫の中で、どれだけ近くても感じられなかったモノを感じることが出来ている。

 そう思うと、彼を抱きしめる腕の力が強くなっていった。

 

「くふ……くふふ……」

「う……いた……い……」

 

 気付けば、彼が苦しそうに顔を歪ませている。

 あぁ、いけない。思わず力を入れ過ぎてしまったか。

 

 力を緩めて、決して彼を傷つけるな。

 安心しろ岡山。私はもう、お前を怖がらせたりはしないぞ。

 お前も本当は、ただ不安だったのだろう?

 頼れる人もいなくて、たった一人で傷ついて。

 

 私がずっと一緒にいよう。

 同じ小学校に行って、同じ中学校に行って、同じ高校に行って、同じ大学に行って。

 同じ道を、同じ目線で歩んで行こう。

 そのためなら、私は「普通」で在り続けよう。

 あくまでも、お前の前では。

 

 だから、お前ももう拒絶してくれるなよ。

 決して、離さないからな。

 

 お前は、私のものだ。

 




これにて、一応当初考えていた終わりとなります。
多くのご指摘、ご感想ありがとうございました。
複数の方からご指摘をいただいた通り、この話はプロット等を全く考えずに本能のまま書き殴った話でした。
数日前に最初から読んでみたのですが、話の内容や文法どころか原作の設定もガバガバでしたね……実に酷い。矛盾点も多いですし、素直に猛省です。
次からはしっかりとプロットから練っていきたいと思います。

では改めて、最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

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