今日も左手で飯を食う   作:ツム太郎

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世界の流れを壊し、崩れる。


怨念

幸福

 

[転送ファイル確認 code:織斑 一夏 code:白式]

 

「………」

 

 

 

 

 

[対象ファイルをコピーします …残り36秒]

 

「………」

 

 

 

 

 

[コピーが完了しました 端末を取り出して下さい]

 

「………」

 

 

 

 

 

真っ暗な職員室、そこに岡山太一はいた。

眼に光は無く虚ろで、まるで誰かに操られているかのようだ。

たった一つ、「彼女」の形見である少女を助けるために。

それで許されると本気で思い込んで、だ。

 

「…できた」

 

まるで機械のように無機質な動きでメモリースティックを取り出すと、彼はそのまま職員室を出ようとする。

今の時刻は夜の0時、生徒たちの消灯時間はとうに過ぎ、職員たちも寝てしまっているはずの時間だ。

そんな時間に、彼はそこに居たのだ。

 

「…早く、シャルロットに…」

 

たった一つの贖罪のために、一歩間違えれば極刑になりかねない。

それはそうだろう、彼が盗もうとしたのは世界でたった一人の人物の詳細なデータ、及び彼が使用するISの機密事項なのだ。

DNAは運よく部屋に落ちてたアイツの髪の毛で良かったが、それ以外はデータを盗む以外に知る方法が無かった。

 

(これで…償える…エレン…僕は…)

 

「ふふ…えへへ…」

 

気味の悪い笑みを浮かべて、いつものように松葉杖を使ってゆっくりと歩みを進める。

このまま部屋に戻り、デュノアに渡せば完了だ。

これでエレンを救うことになる、やっと彼女を助けられる。

未来永劫そんなことは無い筈なのに、彼はそう思って笑みを浮かべる。

歪みきった感情、それを胸に抱いて意気揚々と。

 

 

 

扉を開け、頭だけを出して周りを確認する。

右も左もあるのは闇のみ。

すなわち、自分以外にこの廊下を通る者はいないことになる。

行くなら今だ。

 

「………」

 

無言で、ゆっくりと外に出る。

監視カメラや指紋など、後で調べれば痕跡など山ほど残るのだろう。

しかし、岡山はそんなこと気にしてなどいない。

身分、職業、経歴。

今更何を守るというのだ、そんなものはない。

この場を成功さえすれば、後はどうなろうと知ったことではないのだ。

 

そんな調子で数十分歩き続け、ようやく中間地点あたりまでたどり着いた。

あと半分、歩ききれば終わりだ。

 

そんな時だ。

 

 

 

「…そこにいるのは誰だ…岡山?」

 

 

 

月明かりが射し、自室へ向かう道に織斑千冬が見えた。

彼女は岡山を見るとそのまま歩を進め、それが本当に彼であることを確認した。

 

「やはり岡山か…どうしたんだ? 何か必要なら連絡をくれればなんでも用意する。 こんな時間にこんな所にまで…」

 

「…ただの散歩…です…。 そんな…時…まで…貴方に言わないと…いけないんですか?」

 

「っ…すまない、そんなつもりはなかったんだ。 ただ、こんな暗闇に一人で歩いたら何が起きるか分からない。 だから…」

 

「…そうですね…気を…つけます。 では…」

 

いつも以上に機械的な冷たい返答をして、岡山は彼女の横を通り過ぎようとした。

しかし彼女は何か思いつめたような顔をして彼の道を塞ぐ。

 

「…まだ、何か…?」

 

「い、いや…何でもないんだ…。 …岡山、もう一度聞きたい。 お前は、本当に散歩でここにいたんだな?」

 

「…はい。 もう、いいですね?」

 

「…分かった…気を付けてくれ、岡山」

 

「………」

 

最後、岡山は彼女に返事をせずにまた歩き始めた。

織斑千冬も、もう何も言わずに彼を見送る。

ゆっくりと、ノロノロと歩く彼を悲しげに見ながら、彼女は彼とは逆の方向に歩みを進めた。

 

 

 

向った先は職員室だった。

部屋に着いた彼女は、自分のパソコンを立ち上げて様子を確認した。

 

「………」

 

そして想像していた事が現実のものであったと確信し、力なく椅子に座ってしまった。

一人の生徒と、その者が使うISのデータが写された痕跡があったのだ。

 

「織斑先生」

 

ふと、横から声が聞こえた。

同僚である山田 真耶である。

彼女はいつものような優しげ顔ではなく、真剣な表情を浮かべ織斑千冬を見ていた。

 

「…山田君か。 どうした、こんな時間に」

 

「織斑先生こそ…もう寝ないと、明日に響きますよ?」

 

「分かっている…だが…私は…」

 

対する織斑千冬は弱弱しく、何かに迷っている様子であった。

彼女が他人にこんな姿を見せることなどない…例外を除いて。

 

「…岡山さんのことですね?」

 

山田はそう言うと、持っていた携帯を手に持つ。

「暗部」に電話をしようとしているのだ。

 

「…止めるべきです。 外部に織斑君の情報を渡すことが、どれだけ危険か…」

 

「分かっている。 しかし、彼は…」

 

「貴方が岡山さんに負い目を感じているのは分かっています…でも、それとこれとは別問題です。 これは織斑君だけじゃなくって…全世界に関わることなんですよ!」

 

必死に織斑千冬を説得しようとするが、当の彼女には響いていない。

むしろ、そのことに関してはまるで心配していないようだ。

 

「…そのことなら問題ない。 …見てくれ」

 

「何を言って…。 っ、これは…」

 

彼女の言われるままに画面を見ると、山田は彼女が何を言いたかったのか理解した。

そこには、確かに「織斑一夏」と「白式」のデータを抜き取られた記録はあったが、そのデータは本来のモノとはまるで違っていたのだ。

 

「ダミー…ですか」

 

「あぁ、この学園は情報の宝庫だ。 ソレが詰まった宝箱に…鍵を掛けないバカはいない。 本物は別の所にある」

 

「では、岡山さんは偽物を持って行った…ということですか」

 

「…予感はしていたんだ。 デュノアは他の生徒たちから、岡山のことをこと細やかに聞き出していたからな…。 何かしら因縁があるか…利用するかのどちらかだと思って注意していた」

 

「………」

 

「ISの実習の時、時々外を掃除する岡山が見える時があった…。 その時のデュノアの顔はいつもの純粋なものではなかった。 ドス黒く、歪んだ顔をして…猛獣のような目をして彼を見ていたんだ…データを取った後、岡山に何も仕掛けないとは思えない」

 

「そんなことが…」

 

「あぁ、しかもさっきの岡山の様子…明らかにおかしかった。 操られているような…そんな感じがした」

 

織斑千冬はゆっくりと立ち上がり、職員室を出ようとする。

山田はそんな彼女を追うように出て、真っ暗な道を歩く。

 

「今からどこに?」

 

「…岡山の所だ。 彼の足ならちょうど今部屋に着いた頃だろう」

 

「…分かりました、私も着いていきます。 必要なときは…」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

そんなことを話しながら、彼女たちは急いで物置倉庫に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「あ、おかえり。 …ちゃんと持ってきてくれたんだね、太一さん」

 

自室に戻ると、部屋の隅でデュノアが座っていた。

そんな彼女をかつての恋人と重ねてしまい、また岡山は気が沈んでしまう。

しかし、対するデュノアはそんなことはお構いなしにと彼に近づき、持ってきた戦利品を強引に奪った。

 

「あ…」

 

「うん、これで完了だね。 ありがとう」

 

彼女は嬉しそうにニッコリと笑った。

奪ったメモリースティックを両手に持ち、愛おしそうに眺めた後に制服のポケットにしまった。

 

「こ、これから…どうするん…ですか?」

 

「え? 決まっているよ、帰るんだ。 欲しいものは手に入ったし、こんな所に居る必要なんてもう無いもん」

 

キッパリとそう答えた。

そんな彼女を見て、岡山はもう何も言えなくなってしまった。

声も、顔も、何もかもエレンと似ている彼女と話すこと自体、彼にとっては耐えられない事であった。

 

(もう話すこともない、やることはやったんだ。 エレンへの償いは出来た…やっと…)

 

そう思いながら、彼は勝手に出ていくであろうデュノアから目を放し、近くにある布団の上に寝転んだ。

もしかしてこの場でデュノアに殺されてしまうのか。

殺されなかったとしても、恐らく翌日には学園側からの尋問が待っている。

そういったことをまともに考えず、瞳を閉じた。

歪んだ幸福感を胸に、彼は眠りに着く。

 

(救えた…救えたんだ…エレン…エレン…エレン…)

 

そうやって、彼は現実から目を放した。

 

 

 

 

 

「荷造りはもう出来ているし、もう忘れたものは無いかな…よし。 それじゃあ…行こっか、太一さん」

 

 

 

 

 

しかし、またも彼は自分の望む結末を迎えられなかった。

彼女は突然ISを起動させると、寝そべる岡山を掴みあげたのだ。

 

「ッ!? な、なんで…何してるんです…か…!?」

 

「何って…決まってるでしょ? 貴方は私と一緒にここを出るんだよ」

 

「な、んで…!?」

 

彼は必死に体をくねらせて拘束を解こうとするが、一般男性をはるかに下回る力でISの力を超えることなどできる筈がない。

デュノアは暴れる彼を気にも留めず、壁を銃で砕いて外に出た。

 

「なんでって…言わないと分からないのかなぁ…。 お前はこれから私のモノになるんだ。 それで、目の前で父様に汚される私を見続けろ。 再現してあげるよ、母さんがどんなことをされたのか…全部ね…アハは」

 

「そん…な…」

 

「なに、もしかしてこのまま出てってくれるとか思ってた? アハは…そんなワケないでしょ、どこまで幸せな頭してるの?」

 

「いや…だ…はなせ…」

 

「放すわけないよ、一生縛り付けてやるからね。 お前はもう、私のモノだ。 人じゃない…腐った醜い…道具以下のゴミなんだ…きひひ」

 

人のものとは思えない笑い声を聞いて、岡山は暴れる気力を無くして震えた。

目の前にいる人間が、人外の化け物に見えて仕方がなかった。

 

「はなぜ…はなじで…」

 

「…うるさいなぁ、黙ってよ弱虫」

 

そう言ってデュノアは彼を掴んでいた手の力を強める。

万力のような剛力で締め上げられ、呼吸すらもままならなくなってしまった。

 

「ぎぃ…はぁあ゛…はな゛しでぇ…はな゛しでぇ…」

 

「あぁ、もうっ! なんでそんなに嫌がるの!? 私と一緒に居れるんだよ!? 母さんの…エレンの娘の私と! 一緒に居れるだけで幸せじゃないの!!?」

 

我慢できなくなったのか、デュノアは声を荒げて岡山を怒鳴った。

それに乗じて手の力も強くなり、彼の体から骨の軋む音がしだした。

 

「ぎゃあぁ…! はなじで…はなしでくだざい…! ごめんな゛ざい…はなじで…ごめんな゛ざい…あ゛ぁぁ!」

 

碌な思考も出来なくなり、自我が崩れ始めて意味不明な懺悔を呟きながら身を震わせる。

危険から身を遠ざけるための服従、謝罪。

それでも助かりたいと思う欲望。

そして、救えなかった恋人への思い。

その全てが入り混じり、もう正常な考えなど頭の何処にもなかった。

 

ガクガクと体を痙攣させ、白目をむいて、口からは唾液を垂らす。

そんな彼を見ても、デュノアは一向に歩みを止めない。

 

「…ここら辺からなら飛んでも良いかな…。 ………結局、貴方はずっと「母さん」なんだね…。 まぁいいか…これから先…母さんはもういない…」

 

「………」

 

そうつぶやくと、彼女は翼を広げて飛び立とうとする。

岡山はもう声を発する気力もなくなり、ダラリと体を下げて気絶してしまっている。

 

「まぁ、それなりに楽しかったかな。 バイバイ、IS学園」

 

そして全ての準備が完了し、彼女が飛び立とうとした…。

 

 

 

 

 

…その瞬間だ。

 

 

 

 

 

突然、デュノアの背中を正体不明の衝撃が襲い、彼女は飛ぶ姿勢を崩してしまった。

いきなりの事で対処しきれず、そのために急接近する「敵機」に気が付かなかった。

 

「なっ!?」

 

ソレは真っ直ぐにデュノアの下へ突き進み、そのまま岡山を奪い取った。

彼女は顔を歪ませてその正体を捉える。

 

「…こんばんは、織斑先生。 …ソレを渡してもらえませんか?」

 

「悪いな、貴様に岡山は渡さん…。 行くなら、一人で出ていけ」

 

弱り切った岡山を抱え、彼女にとって敵機である織斑千冬は武器を構えた。

 




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