初めまして我がチーム
2030年4月7日
日昇列島連邦‐神無川管理郡‐横波場市
神無川管理郡 神無川郡立横波場高校
日向 夏
「行ってきまーす!!」
私は意気揚々と自宅を出る。
最寄り駅までは、すべて下り坂である。
本来自転車で駆け下りたいが、行きはよいよいで、帰りはすべて登坂となるのだ。
なので徒歩通学である。トホホ。
まったりと歩いてゆくと、春らしい桜の花が散っていることに気づく。
この一帯は昔の新興住宅街だったこともあり、桜並木になっている箇所があるのだ。
シーズンになると写真を撮りに来る人もいるくらいだ。
そこをしばらくすぎると下級河川がせせらいでいる。
車道を挟んでの山の木々は、春風に揺れて心地よい音を奏でている。
そんなこんなあって、最寄り駅まで20分くらいだった。
朝の満員電車に揺られてもまれて10数分。
学校の寄り駅についた。私は押し出されるように、ホームへ飛び出る。
「ふう。」と一息をついて、水筒の麦茶を一口。
香ばしさと甘みで気持ちをリフレッシュさせる。
改札を出て学校までの道のりを思い出しながら、歩いてゆく。
しばらく歩くと同じ制服を見つけられた。ここまでくればもう安心だった。
ここでもきつい坂道を上る。ちょっとした山の上に目的の場所はある。
コンクリートの門を抜ける。
校舎は所々鉄筋がはがれていたり、古さは感じる。
豆腐に例えられそうな建物だが、どこか落ち着く雰囲気を持っていた。
ここがこれから私が通う「郡立横波場高等学校」だ。
昇降口を抜け、教室のある二階を目指す。
教室ではすでにお友達グループでのおしゃべりが盛んだった。
席に着くと、「なっちゃんおはよ!」と朗らかな声。
私を呼んだのは、「佐藤 錦」だった。
この高校初の友人で、戦車が大好きないわゆるオタクだった。
私がスクールバックに着けている戦車のストラップを見て話しかけてきたのがきっかけだった。
気さくで、彼女とはとても長く話せるし話題が尽きない。
彼女は文系少女の外観の通り、運動は苦手で戦車道も未経験だという。
が、昨年見た
―第62回戦車道全国高校生大会決勝戦黒森峰女学園対プラウダ高校―
に感動し、高校から戦車道をすると決めていたらしい。
予鈴が鳴る。
担任が教壇に立ち、挨拶をしたのち一限のホームルームが始まる。
入学式から日が経ち、学校生活が本格始動し始めたこの頃。
選択科目の案内があった。
教壇に立つは、明らかにまったりと話しそうなおばあちゃん先生。
旧朱雀皇国出身のこの教師は、教えることは上手いのだろうが、その話し方が「ある意味」苦手だ。
優しい声で、抑揚は少なく子どもを寝かしつけるように話すのだ。
担当は国語全般なのだが、すでに何人の生徒が眠りについたかわからない。
上品な身なりも相まって、「眠らせ姫」というあだ名がすでについている。
「はい。最前列の皆さんこれを配ってね」
厚紙で作られた手作り感満載のパンフレットが配られる。
教師の説明が始まる。
「えー。こちらの表紙は美術部員さんたちがこのパンフレットに向けて作成したもので・・・」
「まず、1ページ目ですが、こちらは目次となっております。」
「2ページ目は選択科目の意義についてです。これは皆さんが将来社会に出た時に・・・」
「では4ページ目の広報部の説明です。」
「本校は、新聞広報活動が有名です。こちらの活動科目は人数制限が・・・」
この調子で、しばらく退屈な音読が始まる。
実際何人かは眠りこけているし、私も睡魔と戦い始めていた。
だが、戦車道の説明が始まり、私は何とか目を覚ますことができた。
「えー また今年より戦車道に力を入れることになりました」
「パンフレットにも記載がありますが、特典が・・・」
「本校では戦車道は、女子のみとなっておりますので注意してください」
どうやら戦車道は1科目で2科目分の選択単位になるそうだ。だいぶ優遇措置であることは理解できた。
だが、私にとってはどうでもよいことだった。
たとえ優遇されていなくとも、戦車道を選択することに変わりはないのだから。
私と同じく、戦車道に興味がある者がいないか周囲を見渡してみた。
だが、紹介する順番が遅かったのもあってか、皆夢の中だった。
「以上が選択科目の紹介でございました。この後、それぞれ担任から説明を受けてもらいます」
「パンフレットに記載された場所へ向かってくださいね」
ようやく説明が終わり、睡魔と戦う必要がなくなったのだった。
「なつ!一緒に戦車道見に行こうよ!」
錦が私を誘う。
「いいよ!一緒に倉庫にいこう!」
私はそう言って彼女の手を取って、小走りで教室を出た。
校庭の隅にある倉庫についた。
隣には戦車格納庫が併設されている。
机やホワイトボード、プロジェクターや冷蔵庫、テレビなどの家電が設置されており、作戦会議室だろうなと推測できた。
そこにはすでに何人かの生徒が集まっていた。
「結構人集まっているね」
錦が意外そうに言った。
「でも先輩たちはまだ来ていないのかな」
とキョロキョロしていた。
「後から来るんじゃないかな」
私は当てずっぽうに言う。
それぞれ仲良しグループが集団を作っておしゃべりしているようだった。
が、昨年の大会に参加していた人たちは見当たらなかった。
みんなが集まっている方へ行き、着席する。
そこにはお茶菓子や飲み物が用意されていた。
みんな自由に飲食しているようだった。
私たちもお菓子をつまみ、戦車トークを始めた時だった。
数人がこちらへ歩み寄ってきた。
「初めまして、3年の私は西木 恋。」
「こんな見た目でも生徒会長なのよ。」
高い身長と人のよさそうな顔、黒髪と絵に描いたような生徒会長が話しかけてきたのだった。
私たちも自己紹介をする。
西木会長は高校入学から戦車道をしており、2年生時代から隊長だという。
この会長の代で、昨年ベスト4入りを果たしているすごい人だった。
「それでね。」と西木会長が隣の人物に手を向ける。
「わたしは3年、書記の沢蟹 朱音っていうの。」
「よろしくね。」
優しさと母性の権化のような人だった。
以外にも、戦車道は中学からのベテランだった。
長らく砲手を務めており、「経験からくる正確な射撃でベスト4入りが果たせた」と西木会長は語る。
沢蟹さんは「過言だよー。」と照れ隠しはしているが、その声には自信を感じる。
3人目は自分から名乗り出た。
「鮎辺 彩子。私は生徒会ではないよ。3年生だけどね。」とにこやかにいう。
見た目で人を判断すると、クラスのムードメーカー・人気者的な見た目だった。
ほんとかどうかはを知らないが。
操縦手を務めているとのことだった。
戦車道を始めたのは昨年だというが天才的なところがあるようで、操縦をすぐ習得し隊長の意のままに戦車を動かしてきたという。
この仲良し3人組は、私たちに挨拶を済ませると椅子に座って待つように言った。
「これより、我が校の戦車道担任教師を紹介します」
「各員着席して待機してください」
西木隊長が号令をかける。
ここでも先輩はあの3人だけだった。
しかし統率が取れていないのか、着席するもののお喋りは続く。
「元気のよいことね。ではこれから挨拶を始めてしまいますね」
舞台に現れたのは、近野学宮昭子先生。
「こんの がくのみや あきこ」通称近野先生。
詰まることろ、あの国語の先生だった。
あの穏やかな先生が戦車道の担任であったことは皆驚きであったようで、急に静かになった。
「えー。みなさん、今年からの担任の近野でございます。」
これから始まり、長い長い挨拶が始まる。
気づくと、学年を超えうとうとし始めていた。
携帯電話を弄りだす者も出始めていた。
「とまあ、かったるい話は抜きにして」
とここで話が止まった。これこれ30分だ。
「私は戦車が大好きでございます」
「皆さんには好きに戦車道を楽しんでいただきたいと思います」
「それもあって、私からああしろ、こうしろと口を出すことは基本しません」
「みんな自由に楽しい戦車道人生を楽しんでください」
「でも、毎日でも見に来ます」
感情を表あまり出さない近野先生らしくない、はしゃぎっぷりだった。
遠くからでも目が輝いているのがわかるほどだった。
一礼をして、先生が舞台から降りると西木隊長が入れ替わる。
「ではみんな自己紹介がてらチームを作ってくれ」
「3~5人くらいでかまわないから」
そういうと隊長は仲良し3人と会話を始めた。
「と、いってもなあ」
私は思わずつぶやく。
「それらしい人を探すしかないかな?」
錦はあたりを見回しているが、そもそも仲良しグループが出来上がっているので、入る隙がなかった。
「初めまして。私は日向 夏。よろしくね」
私はおしゃべりをしていた2人に話しかけた。
それぞれ
「甲斐路 凛」 戦車道未経験
「新高 清香」中学戦車道経験あり 通信手
だということであった。
相手のことを知るために、戦車道を中心におしゃべりをする。
経験未経験問わず、うきうきしているようだった。
「どんな戦車に乗るのかなあ!?」
甲斐路が携帯で様々な戦車を調べては、こちらに見せてくる。
錦はそれにノリノリでうんちくを語る。
新高は通信の大事さを語っている。
さらには過去に通信傍受にあったときの対処について、楽しげに話していた。
すると西木隊長が「だいたいチームは決まったな!」
「これからはチーム単位で戦車を操縦したり、行動してもらうことが増える」
「みんな仲良くしてこそ、いざというときの行動がとれる!」
「コミュニケーションは欠かさずにな!」
と号令をかける。
続けて、「これからみんなに使ってもらう戦車を紹介する!」
と声を張り上げる。
これに呼応して、私も含め盛り上がる。
「はずだったのだがな」
ここにきて隊長のテンションが急に下がる。
「実は昨年チームが分裂してしまい、強力な戦車はすべて離反した奴らに持っていかれてしまったんだ」と隊長はしょぼくれている。
通りで昨年の大会に出場していた選手や先輩が、会長たちを除き、いないと思ったのだ。
「戦車は一両もないんですか?」錦が泣きそうな声で聞く。
「あるにはある。あるにはあるんだ」と隊長は答える。
「雑魚戦車しかないってことですか?」と誰かが叫ぶ。
これを聞いた錦はちょっとむっとした表情になった。
私含め、確かに戦車好きにはキツイ台詞だ。
だけど現実はそうなのだろうなと私は感じた。
西木隊長もわずかにうなずく。
「それならやめちゃおっかな・・・」
どこかでそんな声が聞こえた。
周囲も同様と落胆の声であふれている。
私は怒りというか悔しさというかなんとも言えない感情で満たされた。
「まってください!!」
これでもかってほどの勇気を振り絞って声を張り上げた。
「戦車道は戦車の性能だけではありません!」
「あの大洗女学園も戦車の性能は決して優れているものばかりではないです!」
「それでも夏大会で優勝を果たしています!」
「それは努力と知恵を出し惜しまなかった結果です」
「戦車があるなら戦いようはあります!まずは戦ってみませんか!」
私は恥ずかしさで中断しないよう一気に叫んだ。
「そのとおりね」と拍手をしたのは近野先生だった。
「大洗さんのように廃校がかかっているわけでもないのだし、まずは戦車道とは何か、戦車のはどのような魅力があるのかを知ってからでも遅くはないはずよ」
「だから皆さん、不貞腐れないで。まずは今ある戦車に挨拶をしなきゃね」
「挨拶もなしに投げ出すのは、戦車に失礼だわ」
先生の口調は穏やかであることに変わりはなかったが、語気は強かった。
「そうだ!そうだよ!諦めたら試合終了だって先生も言ってたし!」
と何故かバスケットボールを持ったスポコン風少女も言う。
徐々に場の空気が盛り上がり、少し好戦的な流れになった。
「離反組を倒して戦車を返してもらいましょうよ!」
この流れを活かすため、私は叫ぶ!
そうだそうだと周りも各々が語り始めた。
「よしわかった!」
隊長が声を張り上げる。
「何としても戦車を返してもらおう!そして夏の大会に出て戦車道を楽しもう!」
腕を高く上げ士気を上げる。
「オー!!!!!」その場にいた全員が腕を上げ決意する。
「では格納庫に案内するからついてきてね」と沢蟹さんが案内を開始した。
私、いやその場にいた全員がこれから苦楽を共にする戦車に合うことを楽しみにしていた。
わくわくが止まらなかった。
この瞬間はいつも好きだ。
倉庫から格納庫へつながる扉がゆっくりと開かれる。
よろしくね我がチーム。初めまして我が戦車!
第一話初めまして我がチーム おわり