2030年4月
日昇列島連邦‐神無川管理郡‐横波場市
神無川管理郡 神無川郡立横波場高校
日向 夏
「総員整列!」
錦隊長の号令がかかる。
私たちは即座に一列横隊を組む。
この女子高校生とは思えない、兵隊のような素早い動きには訳がある。
私たちの住む「日昇列島連邦」は「大陸歴1985年」(以後大歴)まで、
東西で対立していたのだ。
東側 首都「陽都」を中心とする「日和」、正式名称「日和軍統治連邦体」
と
西側 首都「大都」を中心とする「朱雀皇国」
この二大勢力によって霧岡県(朱雀では郡)を中心に分断されていたのだ。
その戦いはそれはそれは呆れかえるほど昔から、戦争の理由さえ忘れ惰性的な報復合戦と化していた。
しかし、大歴1985年宇宙からの侵略によって東西統一がなされ現在に至っている。
そして、私たちの「日和」という国は軍事国家で軍事教育が施されていたのだ。
その時の名残が今も強く残っているのだ。
そんな時代遅れの産物が、空に恒星間宇宙艦隊が飛ぶような未来になっても残っている…
まあ、悪いことばかりではないのだが。
あれから2週間、基礎訓練を中心に徹底的叩き込まれ、今ではある程度技術に自信のついてきた頃だ。
シュバルツフラウへの車両返還要請はあっけない形で終わってしまったのだ。
元々旧型で整備を行き届いていなかったため、標的とされ溶かして鉄材にするしか価値のない状態になってしまった。
との連絡があったのだ。
また、当時の生徒の大半は中退か転校、残留していても戦車道はしていないとのことで、なんともやるせない。
唯一の成果はシュバルツフラウ側とのコネクションを持てたということだけだった。
公式大会まであと1月に迫ったある時、各隊長が召集された。
「いきなり済まないね」
西木隊長はそう言って資料を配り始めた。
「なんですかこれは?」
天そば隊の北原が問う
「今週末に練習試合が決定した」
「は?」
隊長の発言に一同はポカーンとしてこう返すので精一杯だった。
「相手はどこです」
私の問いに
「相手は皇立神王寺女学園だよ」
「皇立ってことは旧朱雀領ですか?」
「そうなるね。珍しいもんだよ」
「珍しいんですか?」
「そうさ。神王寺は今まで決して自分から申し出なんてしないし、プライドが高いので有名なんだ」
「そんなとこしているから、練習相手がいなくなったのかもしれないけど」
私と西木隊長はこう問答を続けた。
「強さはどうなんですか?」
かに玉の相沢が問う
「正直なところ、彼女らの試合を見る分には楽しいんだけど、実績は皆無だね」
「練習にはもってこいってことですかね」
相沢は一人で納得していたが、油断の表情はなかった。
「そうなるな。しかし今年隊長が変わったとかで、それがどう響くか気になるところだ」
「相手の戦力は?」
天そばの北原が書類を見ながら問う。
「昨年までは、3式中戦車Cと2式重戦車Dで構成されていたな」
「戦術は?」
私が聞くと
「基本的には劇的な単騎決戦、あるいはドラマチックな集団戦法だ」
「派手さばかり求めて、戦いになっていなかったな」
それからは情報収集、作戦パターンの立案などで少々忙しかった。
試合当日は全員の士気も高かった。
私たちの横波場高校も立場が低く、おいそれと練習試合を組むことができない。
初めての練習試合に興奮するのは当たり前と言えた。
会場は霧岡県にある日昇列島連邦最高峰の不動峰のふもとにある、不動峰陸軍演習場だ。
会場にはあちら側と同じく屋台が並んだりとお祭り騒ぎになっている。
参加者が試合開始のあいさつのため集合する。
私たちは旧日和陸軍風の「機甲師団被服」をイメージしたジャケットを着用している。
もちろん軍属感を出さないために、可愛くアレンジされている。
と言っても元々のデザインのため古臭さは拭えないのだが、「おばあちゃんのお下がり感」によってみんな気に入っているようだ。
今回の対戦相手は、昨年までは劇場衣装のようなものを着用していた記憶がある。
しかし今回は違った。
全員同じ服を着用していた。
恐らく新調したのだろう。
隊長あいさつに西木隊長が向かう。
相手も隊長が歩み寄る。
肩くらいまでのきれいな黒髪を揺らしながら、歩いてくる。
「お初お目にかかりますわ。わたくし神王寺戦車道倶楽部隊長、森原工宮孫娘佳織(モリハラ コウノミヤマゴムスメ カオリ)
ですわ。この立の練習試合お請けいただき感謝いたしますわ。」
絵に描いたようなお嬢様が挨拶をする。隊長もそれにこたえる。
「ねえ。」
友達の佐藤錦が私を突いた
「あの隊長、名前すっごい長いけど、近野先生みたいに略さないのかな?」
私たちの学校教師で、戦車道の顧問近野学宮昭子先生通称「近野先生」も朱雀出身だ。
「わかんないよ」
とごまかすしかなったのだが、
それはねと近野先生が解説してくれた。
「あの隊長さんは、森原という工業か技術に長けた人の孫娘の佳織さんという意味よ」
「私たちは敬意を払う場合や正式な場ではフルネームが基本なのよ」
「自分の出自や立場を明らかにする意味合いもあるわよ」
とのことだった。
皇族・華族による特権階級制度があった朱雀らしいことだ。
審判団によるルール確認がなされる。
「今回の練習試合は5VS5のフラッグ戦」
「ユニバーサルレギュレーションを採用します」
「双方よろしいですね」
両隊長がうなずく
今回こちらのフラッグ車は四式統合戦車だ。
「ではこれより試合を開始します」
「一同、礼!」
「「よろしくお願いします」」
行動開始地点に終結した戦車に搭乗する。
各車一斉に発動。
西木隊長車に続いた。
西木隊長の三式中戦車を中心とし横隊を組み平原を進撃する。
この不動峰演習場は、平原・丘陵地帯・森林地帯・一部の都市部で構成されている。
現在は平原地帯を突破し、丘陵地帯へ移動中である。
西木隊長は地形適応能力を生かして、待ち伏せ戦法だ。
実績のある隊長らしい堅実な作戦だ。
ここで、先行していた「からあげ隊」偵察部隊からの連絡が入った。
「敵戦車隊発見。小隊位置よりおよそ2㎞です。」
「おそらく2式重戦車と思われます」
「2式か。2式の機動力なら前線にいてもおかしくはないはずだが」
「各車両停車、砲撃準備」
当初の予定通りの位置で狙撃体制をとった。
その時だった。
丘陵から砲塔を出した2式重戦車から光体が飛翔する。
その砲弾は真っすぐと隊長車の三式へと吸い込まれる。
三式の正面装甲を一撃で貫通判定へと持っていく。
「三式中戦車行動不能!」
アナウンスが会場に響く。
誰も予想しなかった信頼のできる隊長車の即リタイアだった。
幸いにして、西木隊長より次の指揮権は私こと日向へ譲られたため混乱はなかった。
が、操縦手の甲斐路は疑問だったようだ。
「なんでなんな距離から当ててくるのさ!」
少々混乱気味だった。
「錦、解説頼める?」私は戦車オタクの錦に解説を頼む。
「簡単に解説します」
「2式重戦車の主砲は90ミリ55口径砲を搭載しています」
「簡易的なレーザーレンジファインダー、つまり正確に距離を割り出す装置を備えています。」
「加えて朱雀の戦車はとてつもない精度誇っています…」
「それを生かすことを覚えたか…」
私はつぶやく。
「応戦!その場にとどまらないで!」
私は指示を出す。
さすがに2㎞の距離では仮に命中したとしても、2式の頑強な砲塔は貫通できない。
「2式重戦車の天板は20ミリしかないですから、それを狙えれば…」
と言っても私たちの榴弾では効果がない。
しかし、それが可能なヤツがいた。
「かに玉隊の皆。榴弾で狙えます?」
「OKやってみまーす」
車長の相沢が答える。
「上田!距離割り出し急げ!」
「江田!榴弾装填急げ!」
「距離1850!照準良し!」
「ぅて!」
「ドオ」というひと際大きな砲撃音が響く。
一式高速歩兵戦車の200ミリ25口径砲弾がゆっくりと敵戦車の潜伏位置へと飛んで行く。
「3・2・1弾着今!」
相沢が叫ぶ。
200ミリ榴弾が2式重戦車の観測用キューポラへと直撃する。
巨大な爆発と共に2式重戦車から白旗が上がる。
「よし!」
相沢の喜びが聞こえる。
私も思わずガッツポーズをとる。
これで残りは3式中戦車のみだ。
しかし
「注意してください。3式は2式よりも高性能な照準装置と砲安定装置を備えています」
「威力こそ控えめですが、強敵です」
「こちらからあげ隊、3式の本隊を捕捉」
「グリットG4」
「こちらの本隊へ向かって進行中」
「こちらでも敵捕捉」
「全車両一列横隊!」
「正面装甲を敵に向けつつ全速先進!」
互いに距離を詰めつつ砲撃戦が始まる。
驚異的な精度と速射で、こちらの二式・一式戦車に多数の命中弾を与えていた。
こちらの二式重戦車が3式を1両撃破するも、依然敵戦車は突っ込んでくる。
そしてついに混戦距離まで詰められてしまった。
「ぅてぇ!」
相沢の駆る一式の200ミリが火を噴く。
直撃した3式は前につんのめる用に停車する。
が
その脇を高速で別の3式。
つまり相手のフラッグ車がすり抜ける。
真っすぐこちらに突っ込んできた。
「まずい!車体こと砲塔向けて!」
急ぎ指示を出す。
一式の20ミリ対戦車機関砲による掃射もさすがに効かない。
二式が割り込むように私たちの盾になる動きを取った。
が、3式は現代艦砲のような速射を放つ。
きわめて正確に一式・二式重戦車の履帯を破壊し、そのまま回り込み二式の側面部を砲撃。
別の3式が一式へ攻撃!
一式も行動不能になり、残すは我々のみとなった。
「どこでもいい!4式の主砲なら3式のどこでも抜ける!」
思わず少々乱暴な指示を出す。
「発射!」
錦の掛け声とともに砲弾は相手の正面装甲ど真ん中へと突き刺さる。
が
その間に相手のフラッグ車がこちらの側面部へと回り込んでいた。
敵の発砲寸前
「そいやぁー!」
甲高いエンジン音を響かせ丘の上をはねてきた、リンドバーグ空挺偵察戦車
そう「からあげ隊」が相手の3式の車体前側面部に激突!
車体は大きくずれ、砲弾ははるか彼方へと消えていった。
リンドバーグは小さく、小回りも効くためいかに高速な3式の砲旋回といえど容易に追いつけない。
しかし、砲塔部の12.7ミリ機関銃ターレットが動く。
ダパパハ!
子気味良いレートで「からあげ隊」に向けて放った。
装甲を削りに削った空挺戦車であるリンドバーグの側背面には12.7ミリ弾と言えど致命傷だ。
ゴンカン
リンドバーグの砲塔部を始め各所に被弾。
そのまま白旗となる。
が
「からあげ隊」が作った時間とチャンスは、砲弾の装填を行うには十分だった。
3式も現代主力戦車並みの砲旋回で照準を合わせる。
バッ!
同時の発砲だった。
だが、3式の76ミリは4式の正面装甲に弾かれ宙を舞う。
こちらの100ミリ砲弾は3式の砲塔正面を突き刺さる。
ほんの一瞬の時を置いて、相手のフラッグ車から白旗が上がる。
「3式中戦車C型行動不能!」
「横波場高等学校の勝利!」
私たちの勝利を告げるアナウンスが響く。
私は緊張がほぐれ、「ハアアアー」と息を吐いた。
車内では歓喜の声が響いている。
集合地点に両チーム集結し、試合終了の礼を行う。
森原佳織隊長は西木隊長に挨拶をしたのち、私の方へとやってきた。
「お疲れ様でしたわ」
「とても良い試合でしたわ」
「あなたさえいなければ、わたくしたちの勝利でしたのにね」
見た目はすっごく悪役令嬢なのに、本物のご令嬢であることに違いはなかった。
しかしそれより、戦車乗りだった。
「こちらこそ!まるで決勝戦のような緊迫感でしたよ!」
笑顔で答える。
しかし、正直なところ私個人というよりメンバーの技量によるところが大きかった。
それに感謝しつつ、西木隊長より正式に部隊指揮官を任命される。
無事の練習試合に勝利し、各員に自信と士気が高まったところで、2週後の本大会に向けて備えることになった。
後日、西木隊長より第1回戦の対戦相手が決定したとの報が入った、
その名も「アセトニア連邦第3総合高等学校戦車道隊」…。