「ちょっと待て銀時」
銀時が妙の顎を摘まむように持ち上げ、キスでもするのではないかと言う距離まで顔を近づけていると、九兵衛が銀時の手を掴み、どこか涙目の様子で声をかけた。
「…………銀時、け、結婚の約束をして早々に浮気か?」
「おいおい、涙目だなんてらしくないじゃねーか、お前はもっと強いやつだと思ってたぜ九兵衛、だが、その反応も俺好みで好きだ。お前のことは絶対に手放したりしねえ」
────やべーよー!! くせーよー!! 少女漫画の主人公でもここまで露骨じゃねーよー!! というか普通泣くだろ!? 結婚の約束をしていきなり目の前で浮気宣言とかジャンプの主人公にあるまじき姿なんだけど!? というか九兵衛に対する苛めでしかないよね? 俺なら泣く自信しかねーわ。
銀時は自分の口からでた言葉に内心吐き気がする思いであったが、銀時の体は止まってくれない。
「あの、銀さん……手を離して貰っても……」
(それでこいつはこいつでなんでこんなしおらしい反応!? 大魔王より大魔王らしい殺害予告でもだしそうなのになんでこんな初な反応!?)
「俺はまだ返事を聞いてないぜ。俺とお妙と、九兵衛、三人で挙式をあげようじゃねーの」
「ちょ、ちょっと……」
そう、顔を近づけて妙に囁く。
妙の顔はどんどんと赤くなり、目が回っているようであった。
(普通に考えりゃ殺害一択でしかないよね? 目の前で結婚を宣言してんのに更に自分に求婚してくるとか悪意しかないよね? 俺なら殺す以外の選択肢しかねえんだけど)
「た、妙ちゃんと一緒に結婚式挙げれるメリットを考えれば……」
(お前はお前でなんで勝手に懐柔されそうになってんの? それはメリットなの? お前はそれでいいの? )
「僕にメリットしかないな」
「それでいいのかおめぇえええ!!」
「あいたぁ!!」
銀時はあんまりにも事態が混沌しすぎていたため、思わずツッコミをいれてしまった。
というかピンク色の雰囲気もクソもなかった。
「……………………あり、動いたぞ」
何故か銀時の体が動いた。
銀時は、何がトリガーで動いたかはさっぱり分からないものの、動いたならこの混沌とした状況をなんとか治めるしかないと動きだす。
────まず第一に、この口が勝手にほざいた言葉を撤回しねーと。
「す、すまねえお妙……こ、これはあれだ。結婚するにあたって嫌なことは必ずあるという試練でな、お前で九兵衛を試させてもらったんだすまねえ」
そう銀時が言うと、お妙はどこか残念そうに、ため息を吐き、どこか恥ずかし気な表情で文句を言う。
「も、もう銀さんったら冗談にしてはタチが悪いですよ。思わずドキドキしちゃったじゃないですか」
そう言ってお妙は頬に手をあて、顔を赤らめると、若干怒り顔だが、なんとか怒りも、ピンク色の雰囲気も沈静化してくれたようであった。
「ぼ、僕は分かっていたぞ。流石にそんな悪ふざけにひっかかる僕じゃない」
「嘘つけぇ! 涙目だったじゃねぇか! むしろ二兎を追って両取りしようとしてたよね? 一番欲深いのは九兵衛くんだよね?」
そう言って責任の全てを九兵衛にひっかぶせようとしている辺り、この男完全にクズである。
だが、内心は戻ってきた体の主導権に安堵しており、この場をなんとかできそうだと思っていた。
銀時は妙の方に体を向け、頭を掻きながらすまねえと手を上げた。
「いやーすまねえな、お前を出汁にしちまってよーおらぁ嫁さん一筋だから浮気なんてしな…………ぐべらぁあああああ」
「それはそれとして私を利用したのは腹が立ちますので本気で一発殴らせてください」
「………………もう殴ってるよね? え、これカウントに入ってないの? まだ殴るの? 今の手加減なの? お前な、ゴリラの手加減でも人間様には致命傷なん────」
「あら、なにか言いましたか?」
「………………いえ、なんでもないです」
銀時は鼻血を流しながら地に堕ちた。
何度同じ過ちを繰り返すのか、一応自分が悪いと自覚している辺りなおタチが悪いのが銀時である。
「……はあ、まったく、銀さんらしいですね。九ちゃん、これから苦労するでしょうけどこの男はこんな人ですからちゃんと受けれいれてあげなさい」
「優しいな妙ちゃんは、でも、ちゃんとそこら辺は理解しているつもりだよ」
「優しいの? 人の顔を血まみれにする女は優しいの? これならクリリンと結婚する前の人造人間18号でも優しいよ? 未来のトランクスくんも笑顔でバーニングアタックだよ?」
「いや、それトランクス完全にキレてるだろ…………だが銀時にはこれくらいしないとすぐふらふらとどこかに行ってしまうだろうからちょうどいい」
「嫌だよ俺、こんなドメスティックバイオレンスな家庭、家庭内ヒエラルキー最下位じゃねえか」
「安心しろ、ベジータと一緒で最初から最下位だ」
「もっと旦那とベジータを大事にしてぇ!」
ああ見えて子供は大事にするし、奥さんも大事であり、家族を守るためにはプライドを捨てれる男であるベジータは、今の銀時に比べれば遥かに上等な男であろう。
そうして、事態が鎮静化してきた頃合い、妙はパンと手をたたき、九兵衛へと詰め寄る。
「それで? 九ちゃんって男の人が苦手だったのに銀さんに触れるようになった理由と、本気で好きになった話が私聞きたいな」
「お、お妙ちゃん……そ、その、その話は少し恥ずかしいというか……」
「何言ってるのよ、もう散々恥ずかしいことしたんでしょ? 今さらじゃない」
「おいおい、デリカシーもクソもねーよこの女恥ずかしいこと聞いちゃうつもりだよ、恥ずかしこともしたことない女が恥ずかしいこと聞いちゃうつもりだよ」
「そう言えばまだ一発入れてませんでしたね────ふんっ!」
「おぼらぁあああああああああ!!!」
学ばない男である。
だが、銀時も、どうやって九兵衛を口説き落とし、どうやって男に触れるようにしたのかは皆目見当がつかず、気になってはいたことであった。
彼は大人しく耳を澄ますことにし、九兵衛の言葉を待った。
九兵衛は、嬉しそうに遠い目をして、語った。
「そうだな、あれは、僕がたまたま歌舞伎町に行く理由があってね、それで夜中に銀時と偶然道端で出会って無理やり居酒屋に飲みに誘われたんだ」
「まあ、銀さんったら無理やり酔わして九ちゃんを手籠めにしたのね」
「いや、銀時はお酒を進めてこなかったよ妙ちゃん、たまには一緒に飲もうと言われてね、それで僕にはお茶でもなんでもいいと無理に進めなかったんだ」
「あら、紳士、銀さんにもそんなところがあったのね無理やり誘った割に」
「おいおい銀さんはいつだって紳士だろうが、知らねーの? 歌舞伎町ナンバーワン紳士賞毎年一位だよ?」
「歌舞伎町ナンバーワンちゃらんぽらん賞殿堂入りが何を言いますか」
「うるせえやい! こちとら女口説くときくらい紳士だよ! でもあっちの方は豪傑です!」
「きいとらんわ!! 話が脱線するからだまってろ!」
話が大いに脱線しかけているが、妙が銀時を黙らせ、九兵衛に話を催促すると、九兵衛は話の続きをし始めた。
「ああ、それでね、銀時が酔いつぶれかけている時に、店の客が暴れ始めてな」
「なるほど、それで九ちゃんを守ってくれた銀さんに惚れたのね」
妙は少女のように、はしゃぎながらそう聞くと、九兵衛は首を横に振り否定する。
九兵衛はにこりと微笑み、
「いや、僕は暴れていたお客さんのアックマンにアクマイト光線を受けてしまってな、気絶してしまったんだ」
「なんでアクマイト光線!? なんでしがない居酒屋にアックマンがいるんだよ!? それと俺欠片もお前を守れてないんかい!! どうやって俺に惚れたんだ!! あとその微笑みは何の微笑み!? 嘲笑!?」
「そ、それで九ちゃんはどうなったの!?」
「うん、目覚めたら男嫌いの中に閉まっていた想いが爆発してね、自覚したら銀時の事が好きで仕方なくなっていた。僕は酔いつぶれかけていた銀時をホテルに連れて行き、期待して銀時を抱きしめていると、銀時が襲い掛かってきて、そうして朝を迎えていた」
(なんか俺の想像していた過程と違うんですけどぉ!! いや、襲い掛かったことは予想通りだけど過程が全然予想外なんですけど!! 九兵衛に誘われてたんですけど!! あと銀さん良いところ欠片もないんだけどぉ!! ただ性欲に負けた情けねえやつなんだけどぉ!!)
だが、銀時は内心こんな良い女に迫られたら我慢できる気しねえと、思っているので襲い掛かったのはあり得るな……とは思う。
いや、それよりももっと注目するべき点があった。
(明らかに九兵衛の男嫌いが治ったのと俺を好きになった理由ってそのアクマイト光線だろうがぁ!! 明らかになんか作用してんだろうが!!)
間違いなくそれが原因であり、このおかしな事態を起こしているのはそいつのせいであろう。
もしかしたら自分の体が勝手に動いたのもそのせいかもしれねえと銀時は思うも、九兵衛に肉体的に迫られて断れる理由が思いつかなかったのでそれは一旦保留にした。
「銀さん……」
お妙は九兵衛の言葉に察しがついたのか、殺意の波動のようなものを漂わせ、拳を握る。
それにいつになく真剣な顔で銀時も頷く。
「……ああ、分かってるよ、許せねえな。あいつは好きでもねえ相手に初物を散らしやがったんだ。許しちゃいけねえよ」
「いや、九ちゃんが銀さんの事を好きなのは本当の事ですよ?」
「ああ、許せねえよな、無理やり俺見てえのを好きさせるなんて……え? なんて?」
お妙の発言に、銀時は真剣だった顔を崩し、いつもの間の抜けた顔をした。
正直ありえない言葉を聞いた気がしたのだ。
「ですから九ちゃん、実は銀さんの顔写真を定期入れに入れるくらいには銀さんのこと、元々好きでしたよ? ほら」
お妙は九兵衛の懐から神速のすり技術で定期入れを引っこ抜くと、そこにお妙の顔写真の裏に入った銀時の顔写真をピラと見せる。
それに、銀時はなんとも言えない顔になった。
こう、学校であいつお前の事好きなんだぜとかいうガキ大将のようないたたまれなさを感じてしまう。
やはり九兵衛は顔を真っ赤にして妙をポカポカと叩いていた。
「ちょ、妙ちゃん!! それは内緒だろう!!」
「結婚するんだから今さらでしょ九ちゃん」
「だからってバラすことはないだろう!!」
「そんなことより!」
九兵衛の意見をガン無視し、銀時に向き直る妙が殺意の波動を復活させ拳を握る。
「そんなことよりって僕には大事な事なんだが!」
「そんなことより銀さん、九ちゃんに銀さんと手をつなぐ勇気も、触れるほどに男の人嫌いを克服できているはずもなかったはずです」
「……えっと、つまり?」
「つまり九ちゃんの心を好き勝手弄繰り回しやがったクソったれを血祭りにあげるんじゃあ!!!」
お妙は地面を拳で粉砕した。
もうこいつ一人でいいんじゃねーの? と銀時は呆れた。