ダイヤのA トルネード   作:イマムー

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見学

「なぁ親父!魔球教えてくれよ!魔球!」

 

「はぁ?急にどうした息子よ?」

 

「勝ちたい奴がいるんだ!だから魔球教えてくれ!」

 

「ん~唯でさえお前の投げ方は痛めやすいからな……投げ方を変える気はないんだろ?」

 

「それは絶対変えねぇ!」

 

「そうなると……そうだ!とっておきの”ストレート”を教えてやるよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 目の前に広がる立派なグラウンド。照明有り、ゲージ有、そんでもって土は黒土。中学のグラウンドなんか比べるのもおこがましいほど立派だ。それにマシンとか打撃ネットとかも充実してるし、なによりも部員数が多い。

 一緒に見学している沢村栄純(軽い自己紹介だけ済ませた)も忙しなく顔を動かしている。

 その様子を微笑ましく高島が見ている事に気付き、沢村がハッとした。

 

「どう?これが我が校が誇るグラウンド設備よ!あっちには雨天練習場もあるし……ウチの部員の半数は寮で生活しているわ!」

 

 雨天練習場に寮とか…ホントになんでも揃ってんな。

 

「別にときめいてなかんかねーぞ!ちょっと驚いただけだ!第一こんな金掛けなくても野球はできんだよ!」

 

 なんか負け犬の遠吠えに聞こえなくもないけど、おおむねその意見は賛成だな。

 

「どーせ選手だってうまい奴ばっか集めてんだろ?だったら強くて当たり前じゃねーか……てゆーかこーゆー何でもそろったエリート集団には死んでも負けたくねぇ」

 

 言っているうちにテンションが上がったのか沢村が燃えてる。雑草魂ってやつか…

 

「確かに君の言う通り……ウチの部員の約半数は他県出身者……所謂野球留学というやつだわ」

 

 メガネさんが言い切った。あまりに堂々としたその物言いに沢村も若干たじろいた。

 

「地元の選手が出場できない。選手の能力にしか関心がない……野球留学については批判も多いみたいだけど、私はそうは思わない――現在の高校野球のレベルは日本が世界一と言われているわ。プロ選手だって次々とメジャーに挑戦している時代よ。”誰よりも野球が上手くなりたい!”その一年だけでわずか15歳の少年が親元を離れ、より厳しい環境を己の能力を磨き鍛え上げる。私はね……そういう覚悟と向上心を持った選手たちを心の底から尊敬しているわ」

 

 覚悟……か。

 確かにグラウンドに満ちている緊張感は半端ない。一人一人がレギュラーをめざし真剣そのものだ。普通の高校じゃ普段の練習からこの雰囲気は出せない。

 メガネさんの言葉に感心しているとグラウンドに怒声が響いた。

 

「オラァ 川上ーー!何じゃその腑抜けた球は!!俺をなめてんのか?こんなんじゃ練習にもならんやろーが!もっと生きた球投げんかい!こんぐらいでバテやがって、そんなんだからベンチにも入れんのじゃ!」

「ハァ…ハァ…すいません……」

 

 声のした方を見ると偉く立派なお腹をした人がいた。

 

「やる気がねーなら田舎に帰れこのドアホ!テメーぐらいの投手ならウチにはゴロゴロいるんだからよ!!」

「やる気はあります……」

「だったらさっさと投げろや!」

 

 ヒェェェ~ これぞ体育会系ってか。俺こういうの嫌いなんだけどなー。

 

「あの子のバッティングは見ておいた方がいいわ……高校通算42本を誇る怪物、東 清国。一応今年のドラフト候補生よ!」

 

 え?あのお腹で?

 とか思ってると目の覚めるようなエグいスイングで、綺麗な流し打ちをしやがった。プロ注目は伊達じゃない。

 ちょっとあの人相手に投げてみたいな……

 

「あの~……メガネさん?」

 

 名前なんだっけ?

 

「高島よ」

 

 ああそうだった。心の中でずっとメガネさんとか呼んでたから忘れてた。

 

「かぁ~~全然手ごたえあらへん!こっちまでヘタになってまうわ!お前もう代われ!」

「……え…」

「誰かそいつつまみだせ!段ボールにつめて田舎に送り返したれや!」

 

 お、丁度いいな。

 

「高島さん俺が代わりに……」

「あんな体でプロに行って!?マジでありえねぇ!絶対止めた方がいいって!」

 

 俺の言葉は沢村の暴挙によってかき消された。

 こいつ急にどうしたんだよ……

 

「見てみろよあの腹!オッサンじゃねーか!」

 

 周囲の雰囲気が凍りついた。もしかして触れちゃいけない部分だった?

 

「どう見ても40過ぎだろ!本当に高校生かよ!」

「だ、誰だコラァ~~~。さっきから俺のチャームポイントを笑うとんのはぁ~~」

 

 ちゃ、チャームポインとは無理があるだろ。つーか止めとけよ沢村。

 

「はっはっはっ。チャームポイントって…どうみてもそれ短所だから!」

 

 あ~止めさしちまった。何か今堪忍袋の緒が切れた音が聞こえてきたぞ。先輩たちもめっちゃ焦ってるし。沢村はそろそろ笑うのやめろ。

 

「どけぇコラァ!」

 

 うわ~こっちきたー。

 

「ちょっ東君!沢村君も早く謝って!」

 

 さすがの高島さんも焦った声を上げる。誰か止めてくれ!

 

「フン、何が野球留学だ……覚悟や向上心は立派かもしれねーけどよ、ここじゃあ力のある奴が何言っても許されんのかよ!練習に付き合ってくれた仲間を罵倒し、挙句の果てには田舎に帰れだと?たとえ世間が認めても……俺は絶対に認めねぇ……たった一人じゃ野球はできねぇんだ。名門と呼ばれるこの学校じゃそんな大切なことも忘れてんのかよ」

 

 へ~…コイツ面白いじゃん。ただの暑苦しい奴かと思ってたけどいい度胸してるぜ。

 

「……ね東く……この……わか…」

 

 なにやら高島さんが東さんに耳打ちしている。

 

「せっかくの機会だからこの子相手に本物のバッティングを見せてあげてくれる?」

「ああ、俺は別にかまわねーぜ!ただし……このガキが泣きを入れるまでマウンドからおろさねーけどなぁ」

 

 これは絶好のチャンスだ!

 

「ちょっと待った」

「ん?」

「あ?」

「俺も投げたいっす」

「そうね……東君いいかしら?」

「そこのガキが投げた後に同じ事言えるなら相手してやるぜ!」

「ちょっと待てよ!俺は別にこんな奴の胸なんて借りたかねーぞ!」

 

 沢村余計な事言うんじゃねぇ!

 

「あ゛~~なんじゃ~~」

「沢村君!ここは野球のグラウンドなの……言いたいことがあるならプレーでみせてもらえる?」

 

 メガネさん良い事言った!

 

「はぁ!?」

「ほら!二人とも早く着替えて♪」

「へへっ……おもしろそーっスね!礼ちゃんそいつらの球俺が受けてもいい?」

「……え?」

 

 誰?てかメガネさんを名前呼びとかこの人何者だ?

 

「コラァ御幸!!一年がでしゃばるんじゃねぇ!!」

「ははは、すいません!けど東さん最近天狗気味だし、若者とプレーしでもして初心を取り戻した方が良いかと思って……」

 

 うわー。二つ上の先輩相手にここまで言えるってすごいなこのグラサン。相当な実力者ってことかな。

 

「誰が天狗じゃコラァーーーー!!上等やないか御幸ーーーー!!」

 

 

 まぁ勝負できるなら何でもいいか……

 

 

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