『ーーーうぅ…あぁぁああぁぁぁああッ!!!!』
……泣いている。
年齢的には7〜8歳くらいの女の子だろうか……?そんな女の子が、天を仰ぐ様に声を上げ、涙を流している。
その女の子の腕の中では、更に幼い女の子が、
一面に咲く花畑の中にいる二人の女の子の周りは、赤い血で染まっている。
そんな二人を見て、俺の心は酷く痛んだ。
あまりにも残酷な状況。
深い悲しみを露わにする黒髪の女の子。
そして、それを見て
一体何故、こんな事になっているのか。
ーーーそして、何故俺は
◇◇◇
俺の名前は
市立高校に通う高校2年生であり、
飛び抜けて勉強が出来たわけでもなく、運動面も美術面もそつなくこなせていた。
至って平凡な、何処にでもいる普通の人間。
これから先、大学に進学、或いは就職して人としての人生を只只全うしていく。
今思えば、あの変わり映えのしない日常に、俺は何処か冷めていたのかもしれない。
ーーーそんな俺に、ある種の転機が訪れた。
ある日、とある用事で銀行に向かった俺は、不運にも銀行強盗と遭遇してしまった。
彼らは銀行内にいた俺達を人質に、銃を突き付け、銀行員から多額の金を要求する。
その時は俺含め、銀行内にいた誰もが、嵐が過ぎ去るのを待つように身を縮めて見守っていた。
そんな時、丁度俺の隣にいた女の子が何を思ったのか、涙を流しながら手に持っていた玩具を、おそらくリーダー格であろう男に投げつけた。……おそらく、一緒にいた母親を助けようとした、子供ながらの抵抗だったのだろう。
当然その男の気に触り、真っ直ぐこちらに近付いてくる。
俺とは反対側にいた女性ーーーおそらく母親が、女の子を抱きしめ、リーダー格の男に許しを乞うように謝る。
しかし、リーダー格の男はその言葉に聞く耳を持たず、手に持つ銃を親子に向けた。
ーーーこの親子は、殺される。
そう思った瞬間、俺は無意識に銃を持つ男の腕に蹴りを入れた。
男は銃を手放し、一瞬怯んだ隙をついて今度は男の胴体に蹴りを放つ。
特に武術の心得があった訳では無いが、この時は自分でも驚くくらいに綺麗に胴体に決まり、リーダー格の男は後方に大きく吹き飛んだ。
「……やってしまった」
急に冷静さを取り戻し、そう口にした瞬間には既に遅かった。
リーダー格の男が吹き飛ばされた瞬間、既に銃を構えていた他の仲間に、腹部を撃たれたのだ。
今まで味わった事のない衝撃で、俺はその場に倒れる。
徐々に感じる激しい痛みと、出血により辺り一面に広がる血。辛うじて意識はあったものの、とても立ち上がれそうにない。
俺が蹲っている間、リーダー格の男は自身の銃を拾い、倒れ伏す俺の頭に銃を突きつけた。
「ーーーやってくれたな。ーーーー。ーーーーー」
……他にも何か言ってた気がするが、辛うじて聞こえたのはその言葉だった。
意識が朦朧としてきて、先程の親子が何か言ってる気がするが、もう殆ど聞こえない。
自身の死を悟りつつも、リーダー格の男が銃を放つ前に、俺は意識を手放した。
◇◇◇
ーーーそして気付いたら、この情景を目にしていた。
感覚としては、夢を見ているような気分だ。
声を発そうにも、目の前の女の子には通じないし、近寄ろうにも近づけない。
結局俺はどうなったのか。
今見ているコレは何なのか。
色々と疑問は尽きないが、まともな状況じゃないのは確かだ。
「ーーーほう。唯の人間が、別の世界を覗くか。確かにこれはイレギュラーだな」
「ッ!?」
突然声がしたかと思えば、俺のいた場所の風景が変わる。
丘に広がる花畑から一転、真っ白な世界が広がる場所に変わっていた。先程いた女の子達も、何処にもいない。
声のした方に視線を向けると、そこには着物をはだけさせ、右側だけ引き締まった身体を見せている銀髪の青年がいた。
「誰…ですか?」
「オレはお前達が言うところの、"神"に値する存在だ。そしてここは、生と死の狭間に位置する場所。今回のようなイレギュラーを対処する為にある場所だ」
「神……!?それにえっと、生と死……てことはやはり、俺はあの後死んだんですか?」
「まあ、そういう事になるな」
……死んだとは思っていたものの、改めて言われると徐々に実感が湧いてくる。
まあ半分、自業自得な部分もあるけど。
「じゃあ俺はこれから、あの世とかに連れていかれるんですか?」
「……本来ならば、死んだ者はそうなるんだが、お前の場合は少し特殊でな」
「……特殊?」
「ーーー視えていたんだろう?異形の者を」
……ッ、そうか。神様だから、そういう事もわかるのか。
そう、俺は生まれつき
ーーーそれが、社会に溶け込む、人間を模した
誰にも視えず、誰も気付く事がない。
ただ当たり前のように、人間社会のあらゆる所に溶け込んでいる化け物達の姿を、俺は死ぬあの日まで視認出来ていた。
「お前が視えていたのは、"妖怪"と呼ばれる存在だ。彼らは普通の人間に気付かれないよう、自身の身体を人間の姿に変える事で、社会に溶け込んでいた。中には悪行を働く妖怪も存在し、不可解な事故や事件の大半がそういう輩の仕業だ」
「妖怪……」
「……しかし普通の人間は、そういう奴らの存在に気付く事無く一生を終える。いや、
「……なるほど。でも別に、困った事は特にありませんでしたよ?所詮視えてただけだったので」
もちろん小さい頃は、そういう輩を見て驚いたし泣いたりもした。親や友達に伝えても、子供の戯言程度にしか聞かれなかったからな。
「その"視える"事が問題なのだ。幸いにも運良くお前はこれまで何事もなく過ごせたが、妖怪の存在を知る者、視える者がいると奴らに知れれば、絶妙なバランスで保たれているあの世界にどのような影響を及ぼすか計り知れない。最悪、世界そのものが維持できなくなる程の崩壊現象が起きてしまう。それだけは神として阻止しなければならない」
「……つまり俺が死んだのは」
「ああ。お前はこちら側の判断で、命を落としたのだ」
……ここまで聞いていて冷静でいられる自分に、ちょっと驚いている。
もう既に事が起きた後だからか、それとも自分でも何となく納得しているからなのか。
不思議と怒りの感情は湧いてこない。どちらかと言えば、腑に落ちた感覚だ。
「……意外と冷静だな」
「まあ、自分でもわからないですけどね。それで俺はどうなるんですか?」
「お前はこれから、数ある別の世界の中の一つに転生してもらう。命を落としたのはこちらの不手際と勝手な判断であり、この場合、このままあの世に送る事も出来ないからな」
別の世界……か。
そういえば目の前の神様がここに現れた時、そんなような言葉を口にしていたな。
「一つ聞きたいんですが、俺がこの白い世界に来る前に見たアレは何だったんですか?」
「……あれも本来、人間が見る事の出来ない、別の世界で起こりうる出来事を体験できる現象だ。この生と死の狭間の空間だからこそ出来る、特殊な現象でな」
「……じゃあアレは、別の世界で起こりうる本当の出来事なんですね?」
俺の問いに、無言で頷く神様。
本当の出来事……それを聞いて、俺の頭は再び、あの女の子の事で埋め尽くされた。
ーーー何があったのか。あの後どうなったのか。
俺が見たのは、ほんの一場面だけだ。
けど俺の心を揺さぶるには、十分過ぎる程の情景だった。
俺はあの子の事を何も知らないし、所詮は赤の他人。
それでも、あの悲しみの感情に囚われた黒髪の女の子を、俺はーーー。
「ーーー助けたい、か?」
ッ!?心を読まれてーーー。
「神だからな。それくらいの事は出来るさ。ーーーお前が望むなら、お前が転生する世界の行き先を、お前が見たあの情景の世界にしてやってもいい。勿論、お前次第であの少女達の運命も変えられるだろう」
「ッ!本当ですか!?」
「ああ。……しかし、良いのか?お前の言う通り、所詮は赤の他人。それにあの娘達がいる世界は、お前のいた世界よりも更に過酷な世界だ。同様に妖怪が人間社会に溶け込みつつも、その大半が人間の存在を良く思っていない者達ばかり。認知し、される事で世界のバランスが崩れる様な事はないが、下手に関われば再び命を落とすぞ?」
「……そうやって忠告してくれるって事は、あの女の子達はその"妖怪"って存在なんですね?」
「…………」
……沈黙は肯定、だよな?
「……まあ、その通りだ。それを聞いても尚、あの娘達を助けたいと思うか?」
「寧ろそれを聞いて、安心しましたよ。……妖怪だって悪い奴らばかりじゃない。あの女の子のように、深い悲しみで涙を流す奴だっているんだ。それが分かったら、人間だろうと妖怪だろうと、俺は放っておけない」
……正直死ぬ前の俺は、こんな風に思うような人間ではなかったと思う。
死んで何らかの意識が変わったのか。或いはそれ程惹かれる何かが、あの女の子にあるのか。
「……わかった。そこまで言うなら、オレももう止めはしない」
そこまで口にして、神様は突如輝かしい光と共に現れた一冊の分厚い本を手に、もう片方の手をこちらに向ける。
「ある程度の補助は、予めしといてやる。但し、世界の流れを変えるような直接的な補助はオレも出来ない。あの娘達を助けられるかどうかは、あくまでお前の生き方次第だ」
「わかりました」
俺がそう告げると、神様は俺の認知しない言語を発し、淡い光に俺の身体は包み込まれる。
どこか心地良さを感じつつも、俺の意識は徐々に遠退いていった。
◇◇◇
「………良かったんですか?あのまま彼を行かせてしまって」
ーーー件の少年を例の世界へと飛ばした後。背後から近付く見知った女がそのように声を掛けてくる。
彼女は、神であるオレを
「仕方ないだろう。本人がその気だったのだ。オレとしても、もう少しまともな世界に送りたいと思っていたさ」
「……ふふ、本当にそうでしょうか?私には、面白いものを見つけたとばかりに、嬉々として送ったように見えたのですが?」
……相変わらず、彼女はこちらの考えを見透かしているかのように話す。顔には出てなかったはずなんだがな。
「……なに、少し興味が湧いただけだ。何せ異世界への転生など何時振りか分からないからな。彼が選んだ世界で、彼がどう動くのか。少しばかり気にするのも悪くはないだろう」
「そうですね。いくら貴方でも、
……そう。オレは数多く存在する世界の流れ、行く末を大体把握する事が出来る。だが、彼女の言う通り
彼の前に転生を行なったのは、もうかなり昔の事だ。それこそ、
あの者は既に転生した世界で亡くなっているが、あの者が介入した事により、俺の知る世界よりも僅かながらに世界の流れが変わった。
今回も、おそらくそうなる。それが彼の望みだからだ。
「ーーー世界の
「あの世界なら、おそらく大丈夫だろう。禁忌も世界によって大きく異なる。彼がどう世界に干渉しようと、禁忌を犯す事自体ありえない話だ」
彼女にそう告げたオレは、手にする書本を閉じ、その表紙を見る。
ーーーこれは、彼が転生した世界の事が記載
本にはその世界に適したタイトルが記され、膨大な数の書本が別の場所で厳重に保管されている。こうして自由に取り出せるのは、天界人の中でもこのオレだけだ。
この本のタイトルも、もしかしたら彼が介入する事で新しく書き換わるかもしれない。そう感じたオレは、目の前の本のタイトルを頭の中で読み上げた。
ーーー"ロザリオとバンパイア"。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今更ロザバン?って感じかもしれませんが、亞愛熱が再熱して勢いで書きました。
何もかも初めてですが、気長に投稿したいと思います。