嘆きのバンパイア   作:朱音色

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第二話『最古の吸血鬼』

 

 

 

 ーーー4年。

 

 あの空間で神様と出逢い、俺がこの世界に転生してから、早くもそれ程の月日が経とうとしていた。

 転生……と言っても、転生前と同じく17歳からという形ではなく、始まりは赤ん坊の状態からだった。

 まあそれが当然と言えば当然なんだが、赤ん坊と言えど俺の意識はちゃんとあった為、当初は自制の効かない自らの身体に色々と苦労したものだ。

 そんな赤子時代を過ごし、おそらく一般的な赤ん坊よりも発達が早かった俺は、早い段階で立って歩く事も、ある程度の言語を発音する事も出来ていた。

 ……言語と言えば、この世界も俺のいた世界と大体同じ世界観であり、俺が生まれた国は日本で、使ってる言語も前と殆ど変わらない日本語だった。それ故に、言語に関しては発音さえ出来ていれば、理解し、話す事はそこまで難しくなかった。

 

 今の俺の年齢は3歳で、あと一週間もすれば4歳になる。

 

 家族含め、周りからは少し優秀な子供として認識されている俺だが、特に何事もなくここまで過ごせている……とは思う。

 

 

「ーーーあら、こんな所にいたのね。ご飯になるから凪染も一緒に行きましょ」

「うん、おかあさん」

 

 

 突然襖を開けて部屋に入ってきた女性ーーー俺の今世の母親が、夕飯の知らせと共にまだ幼い俺を迎えに来た。言葉から察するに、多分相当探してくれたんだろう。

 

 ーーー黒咲 凪染(くろさき なじみ)

 

 それが今の俺の名前だ。

 最初名前を知った時は、前世と同じ名前で驚きもしたが、おそらくあの神様なりの配慮なんだろうと何処か納得した自分もいた。

 黒咲家。

 などと呼ばれている俺の家は、元々日本における有名な御家の一つだったらしい。

 それこそ数十年前まではここら一帯でそれなりに地位もあったらしいが、今はただ只広い和風の屋敷と庭が残ってるだけで、他は一般家庭と特に変わりない。

 ……まあ偶に、よくわからない黒スーツの大人達が出入りしている事もあるから、まだ何かしらで交流は残っているのかもしれないが。

 まだ幼い俺には、それを知る由もない。

 

 

「ほら、凪染」

 

 

 少し考え事をしていたせいか、いつもより足取りが遅かった俺に対し、母さんは微笑み掛けながら手を差し伸べ、俺の小さい手を握る。

 3歳児にとっては、広く、そして長い廊下。

 そんな廊下を、母さんに手を引かれながら歩き、父さんや妹の待つ居間へと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ーーー夢を、見ていた。

 

 

 

 あの生と死の狭間で見た、情景の出来事。

 俺はこの世界に転生してからというもの、頻繁にあの場面を夢として見るようになっていた。

 身体を切り裂かれた少女を抱え、天を仰ぐように涙を流すもう一人の少女の姿。

 いつ見ても、あまり気持ちの良いものではない。

 この夢を見る度に、助けたいという気持ちと"焦り"が自然と出てきてしまう。

 

 ……結局のところ、俺は神様からあの子達の事について何も聞かなかった為、あの少女達に関しての手掛かりが何もなく、助けようにもどう行動すればいいか分からなかった。

 少女達が来ている服から、おそらく中国かそれに準ずる場所にいる事は推測出来るが、何処で、そして何より"何時"起こる出来事なのかが分からない。

 黒髪の少女は見た目から7〜8歳だと思うが、果たして今の俺と同年代なのか、それとも違うのか。

 上の年齢であれば、もしかしたらもう事が済んでいる後かもしれないし、仮にもうすぐ起こる出来事だったとしても、今の俺はただの4()()()だ。出来る事は、必然と限られてくる。

 

 

「……結局、ただの人間の俺じゃ、あの2人を助けるなんて無理な話だったのかな」

 

 

 ふと、俺はそんな言葉を漏らした。

 神様が言うには、あの少女達も"妖怪"という存在らしいし、7〜8歳と言ってもただの人間(おれ)なんかよりも身体能力的にはかなり上のはずだ。

 そんな少女達ですらあんな残酷な結末を迎えてしまうのに、俺なんかが介入したところであの結末を防げるのか……?

 どんどん悪い方へと思考が働く。

 それほどまでに、俺は()()()()()()

 

 今まで見ていた風景が徐々に変わり、辺り一体が暗くなっていく。

 

 おそらく、もうすぐ夢から覚めるんだろう。これも、いつも通りの事だった。

 

 

『ーーーただの人間?貴方、本当にそう思ってるの?』

 

「ーーーッ」

 

 

 意識が遠のいていく中、突如聞こえた声に思わず反応してしまう。

 辺りを見回ーーーそうにも、もう夢から覚めてしまうのか、身体が思うように動かない。

 視界も、徐々に閉ざされていく。

 

 

『ーーーもうすぐ目覚めてしまうのね。なら、一つだけ聞いて。起きたらすぐ、貴方の屋敷の外にある御蔵まで来てちょうだい。私は()()()、そこで待っているから』

 

 

 女性の……声。

 辛うじてそれだけ認識した俺だったが、そこで意識が途切れてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ーーーッ!」

 

 

 

 ガバッ、と、起きた瞬間に体を一気に起こした。

 辺りを見ると外はまだ暗く、隣には布団の中でぐっすりと眠っている母さんの姿があった。

 夢。

 例の少女達。

 突然聞こえた女性の声。

 夜中。

 母さん。

 まだイマイチ起ききれてないのか、頭の中が整理出来てない。

 

 ……昨日は俺の誕生日で、4歳になった日だった。

 朝から家族に祝われて、母さんや父さん、妹と共に一日を過ごし、夜には盛大にお祝いしてもらって、その後いつも通り母さんや妹と一緒に寝たはずだ。

 それで俺は度々見るあの夢を見て、いつも通り夢から覚めると思ったらーーーいきなり謎の女性の声が聞こえてきた。

 

 

「あんな事……初めてだったな」

 

 

 この世界に転生してから幾度となく見てきた夢だが、今回のように誰かの声が介入してきたのは初めてだった。

 夢の内容が内容なだけに、気の所為や偶々と言った言葉で済ませる事は出来ない。

 きっと、何か意味があってこのタイミングで姿ーーーいや、声を掛けてきたに違いない。

 ……そう言えば、なんか言ってた気がするな。

 

 

「"起きたらすぐ、屋敷の外にある御蔵まで"。……だったかな?」

 

 

 口に出して確認したところで、隣にいる母さんや妹を起こさないように、そっと部屋から抜け出す。

 部屋は屋敷の外側に面していて、障子を開けばすぐ外に出られる。

 靴を取りに行く時間も惜しいので、部屋の外にあったスリッパを履いて敷地内の隅にある蔵へと向かう。……後でスリッパの汚れは拭いとかなきゃな。

 

 ……しかし、御蔵か。

 

 黒咲家の敷地内には住居となるお屋敷と、広い庭、池、そして隅の方に少しばかり大きな蔵が存在している。

 何でもその蔵には、黒咲家が代々受け継いできた大事な品や、それこそ家宝とまで呼ばれるものまで眠っているそうだが、今現在、蔵に何が入っているのか知る者はいない。

 というのも、鍵自体は空いているはずなんだけど、()()()()()()開かないらしい。

 建て付けが悪いのか、鍵の部分が壊れているのか。

 それこそ、名家だった数十年前から開かなかったと言われていて、蔵の中に眠る霊的な何かの仕業じゃないか?とまで言われた程だったらしい。

 壊したりはしないのか?と母さんに聞いた事もあったが、中にあるものまで滅茶苦茶になる恐れがあって、なかなか手が付けられないのだと言う。

 そんな蔵に行ったところで何かあるのかと、かなり疑念が残るけど、取り敢えず蔵のある場所まで辿り着く。

 

 

「……え?」

 

 

 そこで俺が見たのは、今まで決して開く事のないものだとされていた蔵の扉が、僅かながらに開いているところだった。

 子供がーーー今の俺1人くらいなら入れそうなくらいに開いた巨大な扉。勿論、子供の俺ではこれ以上開ける事は出来ない。

 一応中に人がいないかも確認しつつ、俺は蔵の中に入る事にした。

 中はやはりというか、かなり埃っぽい。

 電灯らしきものも何もない為、入り口付近は外の光が僅かに差し込むくらいで、かなり暗かった。

 ーーーそう。()()()()()()

 

 

「何だ……これ」

 

 

 おそらく、蔵の中央に位置する場所。

 そこには、妖しい光を放つ歪な形の剣が突き刺さっていた。

 今の俺よりも大きく、その妖しく輝く光が蔵の中央部分を明るく照らしている。

 妖しくも……美しさすら感じるその刀身に、一目見て()()()()()()()()

 俺はまるで吸い寄せられるように、その剣に近付く。

 ……すると。

 

 

〈ーーーその剣に触れて 〉

 

 

 ふと、そんな声が聞こえたような気がした。

 俺は言われるがままに、目の前にある剣の刀身に触れーーー。

 

 

 気付いたら、紅と黒が入り混じったような、不思議な空間の中にいた。

 ……どうでも良いけど、なんか俺、こんなようなところに来てばかりだな。

 とはいえ、今回は理由がはっきりしている。

 あの歪な形の剣。そして、あの顔も分からない女性の仕業だろう。

 手にはいつの間にか、今の俺に合ったサイズになってる例の剣が握られていた。

 ……こうして手にする事で、不思議と力強い()()()感じるのがわかる。まるで剣そのものが、俺に力を与えているかの様なーーー。

 

 

「ーーー凄いでしょ?その剣は覇錠剣[ヴァンフィニオン]。私の"血"で創った吸血鬼(バンパイア)専用の妖剣よ」

 

 

 ッ、この声はーーー。

 俺はすぐ様、突然声のした方に振り向いた。

 

 ……紅い。

 紅玉(ルビー)のように紅く美しい髪。

 血よりも深く、そして突き刺すような鋭い目付きの中で輝く紅い瞳。

 おそらく、昔の俺よりも少し上くらいの女性が、その瞳からは感じられない穏やかな表情でそこにいた。

 

 

「……貴方が、夢の中で俺に声を掛けてきた女性……ですか?」

 

「そうよ。ーーー私の名前はアリュシア。言っとくけど、敬語は要らないから。素の貴方ーーー家族にさえ本性を隠している貴方の事は、ある程度知っているつもりだから」

 

「ッ!?……どういう事、だ?」

 

「見ていたのよ。()()()()()()()()()()()、ずっとね。こうして直接話すには、貴方本人から接触してこない限り無理だったけど」

 

 

 ……見ていた?

 何故?何時から?ずっとという事は、俺が転生者だって事も知ってる……って事なのか?

 

 

「アリュシア……は、何者なんだ?何故俺をずっと見ていたんだ?」

 

「何者、ね。貴方もある程度察しているとは思うけど、私は吸血鬼(バンパイア)なの。"力の大妖"なんて呼ばれる程、戦闘に関して妖の中じゃトップクラスの力を持つ妖怪よ」

 

 

 ……バンパイア。っていうと、十字架が苦手とか、人間の血を吸うとかいうあの?

 

 

「……私はこれでも、()()()()()()()()()()()でね。自分で言うのもあれだけど、バンパイアの中でも特別だったと思うわ。力も、能力も、何もかも他の同族(バンパイア)を凌駕していた」

 

「最古の……バンパイア」

 

「そう。特別な力を持った私の周りには、多くの同族(バンパイア)が集まった。私と戦い、この特別な力を我が物にしようとする輩達が、ね。……けど私はそんな輩も、私自身が持つこの力も、あまり好きではなかった。バンパイアとしては異端だったと思うけどね。ーーーだから私は自ら創ったその剣の中で、永遠に眠ろうと私は自らを剣の中に封印した。これでも私、不死だったから自分でも死ねなくてね」

 

「つまりここは、剣の中……アリュシアが封印されている空間って事か」

 

 

 最古……って事は、それこそ何百、何千年も前のバンパイアって事になるのか。

 見た目が20代前半くらいに見えるのは、その年代で封印されてからそのままだからか?或いは妖は老化が遅く、見た目に反して年齢はーーーいや、これ以上はやめておこう。

 

 

「見ていた、ていうのは?」

 

「剣に封印されているって言っても、剣と波長が合う吸血鬼(バンパイア)が近くに居れば、意識だけでもその人物の中に入る事が出来るのよ。最も、私がその剣の中に入ってからそんな事が出来たのは、貴方が初めてだけど」

 

「………?」

 

 

 剣と波長が合う、吸血鬼(バンパイア)

 

 

「いや……俺はバンパイアじゃないぞ?バンパイアどころか妖でもない、歴とした人間だ」

 

「……その様子じゃ、やっぱり気が付いてなかったのね。確かに貴方は人間よ。でも、その身体の中には、僅かではあるけど吸血鬼(バンパイア)の血が流れているわ。恐らく、先祖の誰かがバンパイアだったか、バンパイアの血を注入されたんでしょうね」

 

「ッ!バンパイアの血が、俺の中に?」

 

「そう。ーーー"半妖"。今の貴方は、そんな所かしら。おそらく貴方の両親のどちらかも、バンパイアの血は受け継いでいるでしょうけど、その妖力は眠ったままだから、人間と殆ど何も変わらないでしょうね。貴方は生まれながらにその力が徐々に目覚めつつあり、つい先程やっと、私の声が届く領域(レベル)まで力が目覚めたから、こうして私と話せているのよ」

 

 

 ……可能性があるとしたら、黒咲家の血筋だろうな。

 まだ詳しい事は殆ど聞けてないから何とも言えないけど、特別な家系だったのは確かだし、この剣が蔵にあったのも、つまりそう言う事なんだろう。

 

 

「……しかし貴方も、不思議な人ね」

 

「……その様子だと、俺が何者なのかも知っているのか?」

 

「ええ。悪いけど、意識に入り込んだ時記憶も一緒に探ったからね。ーーー見ず知らずの女の子を助ける為に、この世界に転生してきた"水原 凪染"君?」

 

 

 ……前世の俺の名前。やはり、俺の正体を知った上での接触か。

 

 

「正直、最初は信じられなかったわ。そんな赤の他人の為に転生してきたと言う貴方の本質に。けど、間近で見てきてそんな考えは吹き飛んだわ。貴方、四六時中心の何処かであの女の子の事ばかり考えているんだもの。その助けたいって気持ちが本当なのは、直に感じたわ」

 

「……気持ちは嬉しいけど、恥ずかしいからやめてくれ」

 

「ふふ、そう言わないで。これでも貴方の事、気に入ってるのよ?ーーーだからこそ、今の貴方の悩みは理解してるし、こうして直に会ってまで協力したいとも思っているんだから」

 

「……協力?」

 

「ええ。貴方は妖怪である彼女達を助ける"力"が欲しいんでしょ?……確かに貴方の身体にはバンパイアの血が流れていて、妖力も日に日に高まっているわ。けど、いくら力が付いても、それを使いこなせなければ意味がない。でも私なら、貴方の中に眠るバンパイアの力を引き出し、使いこなせるようにする事が出来る。勿論、貴方次第だけどね」

 

 

 そう口にしたアリュシアは、妖艶な雰囲気を醸し出しながら、俺に手を差し伸ばしてきた。

 アリュシアの"提案"に乗るのであればこの手を取れ、と言う事だろう。

 

 アリュシアの言う事が本当であれば、俺の中にも妖と対等に渡り合える力がある、という事だ。

 それも、おそらく妖の中で最も戦闘に秀でた種族である、バンパイアの血が。

 ……アリュシアの事は、正直分からない事だらけだ。

 突然現れたと思ったら、"気に入った"なんて理由で俺に協力しようとしてくれている。

 不安、は勿論ある。

 けど、この手を取らなければ、おそらく俺は彼女達を助ける事なんて出来ない。例えこの身に力があっても、アリュシアの言う通り使えなきゃ意味がないんだ。

 

 

「ーーー俺は、彼女達を助ける為にも、俺の中にある力を使いこなしたい。だからよろしく頼む、アリュシア」

 

「ふふ。私は一切遠慮はしないから、覚悟してね」

 

 

 アリュシアの手を取る俺に対し、アリュシアは笑みを浮かべ、そう答える。

 

 ーーーこうして俺とアリュシアの、妖力を使いこなす為の修行の日々が始まった。

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

原作終わったのが何年も前なので、一話が思った以上にUAが伸びてて驚いてます。
月音達が出る原作開始までどのくらい掛かるか分かりませんが、気長にお待ちください。
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