「たーくん!頭撫でて!」
「はいよ」
ジャジャジャジャーン。
「ふあぁ……これは正しく……我を快楽へと堕とす魔性の手……ふへへ……」
「それでいいや、もっと溶けろ溶けろー」
ジャジャジャジャーン。
「えへへ……たーくん、大好きだよ!」
「おう、俺も大好きだぜ?」
ジャジャジャジャン、ジャジャジャジャン、ジャジャジャジャン、ジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャジャジャ。
「たーくん……」
「……あこ……」
ジャーン! ジャーン、ジャジャンジャンジャンジャン。
「うっせぇ! 結婚行進曲弾くな!」
「うるさいのはそっちだよ。人の家でイチャイチャして……」
「しょー兄、やっぱりギター上手だね!」
「うん、あこちゃん、ありがとう。ありがとうなんだけどね? 」
目の前で見せつけてくれる中学生カップル二人に、お灸を据えるという意味で、大音量の結婚行進曲をかき鳴らす。今回はいつもの青いエレキではなく、アコースティックギターだ。
あこちゃんはいい。良くも悪くも純粋無垢。ただひたすらにかっこいいに憧れる少し中二病の女の子。この子の笑顔を見てしまうと、ついつい許してしまおうかと考えてしまう自分が居る。
ただし龍樹。君はダメだ。
君は自分のした行動によって何が起こるのか、それをきちんと理解出来る人間だ。なのにどうだ。君たち、僕が居なかったら確実にちゅーしてたよね? と言うか、なんで二人がベットに座って、僕が地べたに座ってるのさ。
だから、弾いた。後悔は、しないのが正しいのだろう。
「で? カバーアレンジのギターをちょっと弾いてくれって話でしょ? 今回はどこのバンドの?」
「あぁ、Afterglowに『butter-fly』。ぶっちゃけ泣きながら作った」
そう言って雑に紙の束を僕に投げつける。パサり、と床に落ちたそれを眺めると、それはそれは事細かに注釈が書かれたスコア。
この程度書かないと、僕では青葉さんと美竹さんのツインギターに、表現で惨敗してしまう。
それを理解した上での、龍樹の『大きなお世話』だった。
「あいあい……今更だけどさ、何個も何個もアレンジして大変じゃないの?」
「つってもなー。アレンジするのって作曲の良い練習にもなるし、そこまで苦じゃないからな」
「たーくんやっぱり凄い……あこは作曲の仕方とか全然だもん……」
この龍樹……我らが『Knockers』のリーダーは、知り合いのガールズバンド五組のカバー楽曲のアレンジを行い、提供している。
正直、中学生レベルの技術ではないが……龍樹ならできる。
間違いなく現時点でプロレレベルの作曲スキルを持ち合わせ、頭脳的にも僕たちの誰よりも良い。高校のテストで負けたのは流石に堪えた。
「で、だ……多分その通りに弾けばお前ならモカさんと蘭さんのことを再現はできる」
「……ま、技術的にはね」
立ち上がってアコギをスタンドに置き、いつものエレキを手に取る。
最近、こうして僕のギターの『何か』を知りたいのか、びっしりと文字が書き込まれた様々なスコアを渡してくる。
恐らく、もう既に龍樹は確証を得ているのだろう。だから、これは既に確認の段階。
僕のおかしさを、『改めて』理解しようとしている。
「んじゃ、練習しとくよ……一週間ちょうだい」
「あいよ。んじゃ、今日は帰るな」
「えっ?」
スコアを眺めながらギターのチューニングをする。
僕が練習モードに入ったことを確認した龍樹は、あこちゃんを引き連れて帰ろうとするが……その本人が固まってしまったのでそうは行かなくなった。
意外そうな、驚いたような表情。コロコロ表情が変化する彼女は見ていて飽きない。
「しょー兄って、もっとすぐできるようになると……」
ぴくり、と頬が引き攣る感覚。
ぴしり、と龍樹が固まる雰囲気。
こてん、とあこちゃんが首を傾げる音。
三者三様。感情が一致している人は誰一人として居なかった。
「あこちゃん……僕だって人間だからね。練習しなきゃできないよ。日菜さんだって練習するでしょ?」
「うん……でも、しょー兄凄いから……」
「凄いものには、凄い理由があるんだよ」
泣きたくなる事実だ。こんな純粋な子の理想を裏切っている自分の不甲斐なさに。
だけど、僕はどれだけ練習しても、どれだけ上達しても、どれだけ時間を掛けても。
才能のあるやつや、天才には勝てない。
陽、夢、戸山さん、花園さん、美竹さん、青葉さん、紗夜さん、日菜さん、瀬田さん。
誰にも、僕は本来勝てない。彼女らが持ち上げているだけ。幻想を見ているだけ。師と仰いでいるだけ。褒めてくれるだけ。
ただ、他の全てを投げ捨てたから。
勝てているように見えるだけだ。
それ以外は、何も無いから。
「……お前のギターは凄い。それは事実だ」
「凄いだけだよ。中身が無い」
「……こう見えても、その中身を何とか魅せようとしてるんだけどなぁ……俺じゃ力不足だった。本当にごめん」
「……君のせいじゃない」
唯一、僕という人間を理解し掛けている彼は頭を下げる。
もし、悪い人は誰か? と聞かれたら、それは間違いなく僕で。
彼が、彼こそが本当に凄い人。仮初の凄さしかない僕と違って。いや、僕は仮初ですら凄くない。
才能も、カリスマも、人情も、体型も、精神も。
きちんと備わっている、彼等の方が凄い。
僕なんて、できそこないなんだから、さっさと投げ捨てればいいのに。
僕より何倍も何倍もできる彼等彼女等、僕を大切にしテくれる先輩達に触レ合う度ニ、そんナ、クロい黒ィ感情が、kaRaだの仲をウメ尽くしてYぅく。
「……俺は、お前のギターの音が欲しい。お前のギターが良い……それだけ努力したお前が、報われない……そんな事があっていいはずがない」
SAW良い切るカレは、ドコマデモいい人。
ボグドは血がって。
いい日と。
すごい火と。
根魂。
Neたmaしい。
ね、玉、しい。
──妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい羨ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい悔しい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
「とうっ!」
ぽかり、と頭を叩かれる。世界が綺麗に見える。
目の前には、好ましい男と、その恋人が一人。
……龍樹は、困ったような笑顔を、あこちゃんは、少し怯えたような表情をしていた。
「ったく……急に真っ暗になるな……ストレスでも溜まってたか?」
「……まぁ、最近上手くいってないからね」
嫌な汗に全身が塗れている。
嫌な気分に世界が塗れている。
優しい人に、僕は触れている。
──もう少し、周りに目を向けてみようか。
そんなできっこないことを考え、鼻で笑う。
「……大丈夫だ。お前なら。俺が嘘言ったことないだろ?」
「……僕は嘘だらけだけどね」
背中を向ける。かき鳴らす。自分の無機物を。
ただの手段としてしか見てくれない、酷い男のものになってしまった、悲しい青色を。
僕は弾く。
弾く。
それしか、出来ないから。
歪んだ視界の中じゃ、出来損ないの僕が、まともにギターを弾けるわけもなかった。
いつの間にか、龍樹とあこちゃんは、居なくなっていた。
──ごめんなさい、スコアの端に書かれた丸文字が、僕をもう一度堕とした。
ご閲覧ありがとうございます。ちなみに、この話の誤字は全部わざとです。豊国しないで下さい。
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それでは、また次回。