「デートしましょう!」
「……は?」
思わず困惑。
いつも通りの帰り道。段々暖かくなってきましたねと話題を振ってみたら、帰ってきたセリフがそれだ。
いきなりこの人は何言ってんだ、と思っても仕方ないだろう。
「だって、男女が知り合ってから半年も経つのに、デートのひとつもしないっておかしいでしょう!」
「いや……普通しないんじゃ」
彼女との付き合いは、実はもう半年位。中学三年生の時にスタジオミュージシャンになった時に知り合った。
それから、良き先輩とダメ後輩としてよく一緒に仕事をしたりしてきた訳だが……休日に二人で遊びに行く、と言った事は確かにしていない。
そんな関係でもないだろう。僕ら二人は。ってか、なっちゃダメでしょ。
「でも、ほっといたら翔さん死にますよね?」
「いやぁ……流石に死にませんよ」
「言い切れます?」
「…………」
断言出来るわけない。
一週間前に、実際にぶっ倒れた僕が何を言っても説得力の欠片も無い。
最近、あの件を引き合いに出して何かと引っ付いてこられる。絶対それまでより一緒にいる時間長くなってる。
流石に昼休みまで一緒は、他の男子生徒に刺されそう。
「という訳で、次の土曜日デートしましょう!」
「なにが、『という訳』なんですか」
ゴリ押し。
両手を胸の前でグッと握り締めて、力説されても困る。
何より、土曜日はバンド練習がある。流石に今更休むなど言えない。
「あ、バンド練習は日曜日にするって龍樹さんから許可取ってます!」
「何やってくれてるんですか麻弥さん」
ゴリ押しがすぎる。少しずつ外堀埋められてる。圧がすごい。
と言うか、龍樹は何許可出してるのさ。普通ノーって言うでしょ。なんで僕の予定君が決めてるのさ。いや今までも君に決めてもらってるようなものだったけどさ。
落ち着け、何とかして断れ。一アイドルが何処の馬の骨とも知らない男とデートなど、させる訳には行かない。
これ以上パスパレに悪影響を出す訳には行かない。
「……そんなに、ジブンとのデートいやッスか?」
「………」
卑怯だ。この人、卑怯すぎる。
現役アイドルがしょんぼりとした表情で寂しそうな声色を出してきたら、本当にダメだと思う。
犯罪でしょこれ。僕が断ったら逆に男に刺されるし、女にも刺される。
最低男とか言われちゃうやつ。流石にそんなこと言われたくない。
「……はぁ……分かりましたよ。行きましょう行きましょう」
「……!」
本当に卑怯だ。そんな笑顔見せられたら、もう文句の一言も出てこない。
流石現役偶像。男のツボを抑えている。
「フへへ……良かった……」
本当に汚れててごめんなさい。
裏も表もない、安心した笑顔。そんなもの見せられると、自分の汚さ黒さが浮き彫りになって嫌になる。
こんな感じで素直になりたかった。もう手遅れなのだが。
「……で? どこに行くとか決めてるんですか?」
「……えっと……江戸川楽器店とかどうっすか?」
「麻弥さん、僕でもそれは悪手って分かりますよ……?」
男女二人、高校生。
で、楽器店巡りは不味いだろう。如何に僕らがバンドマンだからって、片方機材オタクだからって。
もう少しいい場所がある筈だ。知らないけど。
「うーん……でも他にいいデートスポットなんて……あるんですかね?」
「そもそも、デートってなんですかね?」
今をときめく高校生二人。デートってなんだ? と言う初歩の初歩から分からない。
今まで恋人が居た訳でもない僕。可愛いのに恋人居なかった麻弥さん。
詰んでるよね、これ。
「……どうしますよこれ」
「……誰かに聞きます?」
二人して立ち止まり、腕を組んで考える。
デートについて聞くと言っても、僕らの周りでカップルは一組、龍樹あこちゃんのみ。
中学生に『デートについて教えて』なんて、言えるはずもない……し、言いたくもない。
デートに詳しい人が居れば万事解決だが……そんな人いるのだろうか?
「……あ、居た」
「……ジブンも、心当たりが」
「上原さん」
「リサさん!」
「「あー……」」
二人して別々の人物の名前を挙げる。どちらも納得。
上原さんは、Afterglowのベーシストにしてリーダー。恋愛やらなんやらに憧れている女子高生らしい女の子。
リサさんにしろ上原さんにしろ、まず間違いなく詳しいと言い切れる。
若干……若干不安要素もあるが、恐らく二人に聞いたら大丈夫だろう。
「それじゃ、僕は上原さんに聞いてみますね……流石に、女の子にデートプラン任せる訳にも行かないんですよね?」
「いや、そこを聞かれても……それに、ジブンが誘ったんで、ジブンがプラン立てるッスよ!」
「……誘っておいてノープランだったのは、誰ですかねー?」
「うぐっ……」
今度はこっちの番。ぐうの音も出ない正論を思い切り叩きつける。
あまり正論パンチを使いたくはないが、それでも言いたくなるほどのツッコミどころ。
麻弥さんは普段こそしっかり者だが、意外と抜けている所がある。
そこも可愛さに変わるあたり、用紙の良さと言うのは偉大だ。いや、これは流石に僕の思考回路が最低か。
「はぁ……まぁ、あんまりこーゆー事考えたことないですけど、何とかしてみます」
「すいません……」
しょぼんと肩を落とした麻弥さんの目線と、背を伸ばした僕の目線が同じ位になる。
相手が落ち込んだり、低いところに来ないと同じ目線にすら立てない。なんとも情けないが、背が低いと仕方ない。
仕方ないのが腹立つ。肉体的な問題は、自分の努力でどうしようもない点が。
「……うぅ……先輩らしいとこ見せたかったのに……」
「何言ってるんですか。麻弥さんは立派な先輩じゃないですか」
これは本心。半年前から何かと気にかけてくれたし、受験勉強についても仕事の合間に見てくれた。こっちに引っ越ししてからも、街の案内や校内の案内など、何かと世話してくれた。
尊敬してるし、信頼している。
本当に頭が上がらない。恩返ししたいとは思っているが、何か出来ることはあるのだろうか。
「……いい先輩なら、もっと頼って欲しいッスけどね……」
「? 何か言いました?」
「い、いえ! 何も言ってないッスよ!」
本当は聞こえていた。しかし、彼女の心は見ないふり。聞こえては行けないものだったし、見てはいけないものだった。
口から出てきてしまうほど、その気持ちは大きいのだろう。
だけど、見ないふり。
「? まぁ良いですけど……これ良いんですかね、現役アイドルとデートって……」
先程からずっと気にしていたことを口にする。
文〇砲なんて食らった日には、僕の人生が終わる気がする。ついでにパスパレも終わる気がする。事務所も終わるだろうなぁ。
「大丈夫ッス! パスパレって恋愛OKッスから!」
「いや待て待て待て」
文〇砲の危険は無くなったから問題無い! と言わんばかりの笑顔&ドヤ顔。確かに心配無いかもしれない(あっても言い訳ができる)けど、ファンに殺されるよね僕。
自分のせいで死ぬなら兎も角、他責で死にたくない。
「大丈夫ッス! ジブン好きな人居るって公言しましたから! 翔さんと一緒に歩いてても問題無いッス!」
「いやバカですか!?」
声を荒らげたのはいつ以来だろうか。思わず彼女の方向を向き、彼女の両肩に手を置く。
麻弥さんも僕に負けじと声を張る。もはや収集が付きそうにない。
「いやだって! 翔さんの事心配ですし! 見てないとすぐ死んでそうですし!」
「だからと言ってそこまでする必要ありますか!?」
「人の命が掛かってるんですよ!? そこまでしますよ!」
「なんで僕が死ぬ前提なんですか!」
「死ぬからですよ!」
「意味分かりませんよ!」
──この口喧嘩は、たまたま通りかかった陽によって仲裁されるまで続いた。
ご閲覧ありがとうございます。道の真ん中で大声出してるカップルって、ぶち転がしたくなりますよね。麻弥ちゃんならまぁ、はい、許しますけれども。最近病みしか書いてなかったから、なんか新鮮。
感想、評価、お気に入り登録等して頂けるとプッシュアップします。
それでは、また次回。