「……そのねぼすけはまだ寝てんのな」
「起こせないもん」
機材の確認中。未だにぐーすか寝ている夢を見下すのは、キーボード、またはDJ担当灘 龍樹。
メンバー唯一の中学生にして、我らがKnockersのリーダー。
中学生がリーダー? と疑問に思う方も多いかもしれない。事実これまでに出会ってきたガールズバンド並びに関係者方には大変驚かれた。
理由は単純。一番しっかり者かつ、一番皆を見れて、さらに作詞作曲ができるから。
逆に言えば、中学生がリーダーをしなければならないほど他のメンツが不甲斐ない、とも言えなくない。
「演奏始めたら起きるっしょー!」
「起きた試しがあるか?」
「……二回に一回くらい」
能天気にドラムをバンバン叩いているのは、長浜 遥。見た目は金髪長身イケメンの陽キャ。なのに下ネタ一つで行動不能になるピュア男。更にはどヘタレかつ、奥手でビビりすぎて彼女が居た試しすらないファッション陽キャ。
という訳で、現在僕達Knockersは、CiRCLEのスタジオを借りて練習をしようと集まっていた。
メインボーカル、陽。
ギター、僕。
ドラム、遥。
キーボードorDJ、龍樹。
そして、夢。
以上の五人で、『Knockers』だ。
……さて、夢の担当は? と疑問に思った人間が居るかもしれない。
夢はメンバー内で唯一、担当楽器が日によって変わる男だ。
日毎に弾くことが出来る楽器がころころ変わり、ある日はベース、ある日はギター、またある日はキーボード、酷い時にはバイオリン、最悪なのはハーモニカやオカリナ等々。
どんな楽器でも並大抵の人間以上の精度で演奏することが出来る。その変わりに毎日十八時間の睡眠と、出来る楽器が日毎に変わる。
それが、良くも悪くもバンドの中心人物、夢という男だ。
「……ん……ギター」
「あ、起きた」
「ギターなー……翔、リードギターやってくれ。俺ベースやるわ……ベースボーカル苦手なんだけどなぁ」
ようやく目覚めた夢。未だに眠いのかこくりこくりと船を漕いでいるが、やりたい楽器だけは伝えてくれた。
そして、今日は考えられる中ではかなり良い部類の選択だったことに、陽以外が安堵する。
毎日楽器が変わるので、当然ながら僕を除く全員の担当楽器を調整する必要がある。
例えば、これは一番最良のパターンなのだが、夢がベースをやりたいと言ったら、陽がギターを持ってギタボ。それぞれが元の担当楽器をする事が出来るので、一番レベルの高い演奏ができる。
今日の場合は、ベースが居なくなるので陽がベースを弾く。もしドラムがやりたいと言ったら陽がベースで遥がリズムギター……と言った感じで、一応全員が担当楽器プラス何かの楽器を弾ける。
「まーまー、陽のベースは夢程じゃないけど安定感あるから」
「だね。夢のベースには勝てないけど」
「いいから弾け」
「お前らまじで殺すぞ!?」
上から、遥、僕、龍樹、陽だ。
とりあえず困ったら陽か遥を弄っておけばいい。これはKnockersの昔からのノリだ。
僕は、目立つ場所でギターが弾ければ正直何でもいいが……だからと言って無闇にメンバーの仲が悪くなるような事をする必要も無い。
合わせておけば、特に困ることは無いだろう。
「……ベース、やろっか?」
そんな中、陽の顔色を伺っていた夢が、心配そうな顔をしながら手にしたベースをように手渡そうとする。
童顔だが同級生の僕や、物理的に年下なのに立場で負けている龍樹とは違い、同級生なのに幼さが色濃く出ている夢に気を使われる。
「……いや! ベース弾くの楽しいぜ! 今日もバンドのリズム隊を引っ張ってやっぜー!」
こうなるに決まっている。
ベースをボンボン弾く。スラップまで織り交ぜて、楽しいぜ! と全力でアピールする。
本当に苦労人だ。彼のことを癒してくれる存在が現れることが強く望まれる。
「んじゃ、やるか……つっても、今日やんのは一曲だけだけどな」
「あー、『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』?」
某スリーピースバンドの名曲、『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』。正直僕らのバンドの色とは少し違う曲だとは思っているが、別に嫌いな曲では無いので練習しておいた。
周りのメンバーも疑問に思っているらしく、皆が答えを求めるように龍樹を見る。
「ほら、この曲めっちゃいいじゃん。告白の時とかに。なぁ? ヘタレ」
ビクッ、と肩を震わせるドラムが一人。
あぁ……と全員が納得し、同時に全員の気合いが入る。
弄りの対象が変わったのを、その場の全員が理解した。
「い、いやー? まだ高校生だしさ? 収入も不安定だし彼女のことを養ってあげられるとは思わないしそもそも沙綾みたいに可愛くて面倒見が良くて頑張り屋で健気で親孝行な良い女の子がドラム弾くぐらいしか脳のない俺なんか絶対好きになるわけも無いし好きだったと仮に仮定したとしても俺なんかが沙綾のことを幸せにしてあげられるわけもないと言うか」
「ヘタレ」
「ヘタレ……」
「……ヘタレ……」
「どヘタレ」
言い忘れていた。遥、絶賛片思い中。なんなら、両片思い中。
幼稚園からの幼馴染みで高校一緒で再開した時に抱き着いてきたような女の子が好きじゃない訳ないにもかかわらず、このヘタレ遥は未だに告白すらできていない。
遥にさっさと告白させよう計画はずっと続けているものの、成功していない。
「さてと、んじゃヘタレはほっといてやるか。 ほれヘタレ、リズム取れ」
「うるせぇ……俺はヘタレだけど、ドラムは叩けんだよ! 準備は出来てんだろうなテメェら!!」
遥の悲鳴にも似た怒号に、僕らはニヤリと笑ってそれぞれの楽器で答える。
それを確認した遥もニヤリと笑い、スティックを振るい始める。
「行くぞ……世界は! それを!愛と呼ぶんだぜえええええええええええええっ!!」
────
────────
────
「……うーん?」
引き終わった僕達は、お互いに顔を見合わせて、首を傾げる。
弾いていた感覚としては、所々ミスタッチはあったものの、特段致命的になるようなものでは無い、むしろ一発目としては上出来であると思う。
しかし、それだけでは説明できない『なんか違う』感。
それを感じたのはどうやら僕だけでは無いらしく、全員が首を傾げていた。
「……なんだろう、この演奏聞いても、告白OKしたくない」
陽の言葉に、皆が賛同する。
これまでもなんか違う、と感じることはあったが、それは演奏ミスであったりタイミングの合って無さだったりと、技術的な面が強かった。
──そんな話ではない。
まず間違いなく完璧に弾き切った僕と夢ですら疑問に思っているのだから、これはそんな単純な話では無いのだろう。
「うーん……もしかして、このメンバーで恋してるのが一人だけだから、とか?」
「気持ちが乗ってない的な?」
ありえない話では無い。
曲の理解、と言うのは何もコード進行やテンポ、メロディといった技術的なものだけではない。
どんな意図を持ってこの曲を書き上げたか、どんな感情を持って奏でるべき音なのか。
それらの理解が、本来であれば必要。
「だが……夢や翔にそれが当てはまるか? そんなモノをウヤムヤにするのがこいつらだぞ?」
「……分かんない」
「少なくとも、演奏は完璧だったよ」
「そうですね! 演奏のレベルは高かったです!」
困惑する夢と、理解が出来ていない僕と、相変わらず褒めてくれる麻弥さん。
……麻弥さん?
「おわっ!? 麻弥さん、いつの間に!?」
「フへへ……皆さんちょっと遅れるそうなので、覗いちゃいました!」
「私達も居るわよ」
気が付くと、入り口に立っていた麻弥さんと湊さんと今井さん。
どうやら演奏中ずっとそこに居たらしい。集中しすぎて気付かなかった。
「すいません気付かなくて……それで、お三人はどう思いましたか?」
目を見開いていた龍樹だったが、すぐに取り繕って彼女たちに演奏の感想を聞く。
彼女たちは一様に腕を組んだり、ぽりぽりと頬をかいたりしていた。
まず口を開いたのは、湊さんだった。
「そうね……まず、演奏のレベルは相変わらず高かった。これは間違いないわよ」
「そうだねー。誰かが尖ってるとか、リズム隊が走っているとかいう事もなさそうだったかな? リズムキープ上手いよねー」
湊さんと今井さんの言葉に、ひとまず安堵。どうやら僕たちの気付いていない致命的なミスというのも無いようだった。
「だけど、そうね……厳しい言い方になるけど、響かなかったわ」
「ちょっと、友希那!」
歯に衣着せぬ物言いをする湊さんを抑えようとする今井さん。
しかし、今井さんのことを龍樹が手で制する。
『この程度問題ない』──相変わらず中学三年生とは思えない精神力だ。
「ただ、どうして響かないのかは、私にも分からないわ……ごめんなさい、力になれなくて」
「いえ、貴重な意見、ありがとうございました。次に聞かせる時はもっと良いものにしてみせますので、ご期待下さい」
「ええ、あなた達の演奏は毎回楽しみにしているわ。それじゃ、失礼するわね」
言いたいことは言い切ったのか、湊さんは踵を返してスタジオから出ていく。その後を、ごめんねー! と言いながら出ていく今井さん。
残っていたのは、最初に声を掛けてきた麻弥さんだけだ。
「……あ、気にすることないです! ジブンは、翔さん立ちの音、好きですよ!」
──そう言える彼女が、少しだけ、妬ましい。
湊さんに厳しく言われて落ち込んでいると思ったのか、僕らな事を思って喋ってくれている彼女に、あろう事か僕はそんなことを思ってしまう。
「……ありがとうございます。麻弥さんも練習頑張って下さいね」
「フへへ……了解ッス!」
彼女の笑顔は、やはり眩しかった。
ご閲覧ありがとうございます。今回の作品を書くにあたって、「大和麻耶」という存在についてものすんごく調べました。
なんでこんなに可愛いんですかねこの娘(堕ちた)。
感想、評価等して頂けると幸いです。
それでは、また次回。