こういう話を日常回と言うのでしょうか?よく分かりません。
「どうもこんにちは! まん丸お山に彩りを!Pastel*Palettesボーカルの丸山彩です! 今日は、私達の事務所に所属する、高校生スタジオミュージシャンコンビを紹介したいと思います!」
「……丸山さん、急に来たと思ったら何してるんですか」
事務所のレコーディングスタジオ内。今日は麻弥さんと二人揃ってPastel*Palettesの次の楽曲の仮歌の収録をしていた。
無事に一通り終わった休憩中。事務所にレッスンに来ていた、Pastel*Palettesリーダーの丸山さんが突撃してきた。
手には、彼女がエゴサーチのために使っていると言っても過言ではないスマートフォンが握られ、カメラをこちらに向けている。録画しているのだろうか。
まぁ、恐らくSNS用のものだろう。彼女のファンを増やすために、時々協力はしている。
ただ、その度に変なことを口走ってとちってしまったものをそのまま投稿するのだけは勘弁して欲しいものだ。
「今日はね! 普段の日常生活からずっと一緒に居る二人のオフショットを皆さんにお届けします!」
「ずっと一緒って……そんな事ある訳ないじゃないですか」
「そうッスよ! そんな家族でも無いのに」
二人して顔を見合せ、頷き合う。地べたに座った僕が、ドラム用の椅子に座った麻弥さんを見上げる形だ。もっとも、どんな時でも基本的に彼女の事は見上げているのだが。
そんな悲しいことを考えていると、丸山さんはいやいやいやいや……と手を振る。
「毎朝一緒に登校して、事務所やライブハウスまで一緒に来て、一緒に仕事もしてるんだよ! 休みの日もこうして一緒に事務所に居るし、ずっと一緒だよ!」
拳を握り締めながら力説されても困る。
やけに力の入っている丸山さんを見て思わず困惑。また丸山とちった、とか言われないか心配である。
それがないしっかり者の丸山さんは見たくないけれども。
「それでは、皆さんもよくご存知のドラマー! Pastel*Palettesのドラム大和麻弥ちゃんです!」
「え? えっと、こんにちわッス! 上から読んでも下から読んでも『やまとまや』、大和麻弥です!」
「おー、流石現役アイドル」
いきなり話を振られたが、詰まりながらもいつもの自己紹介を言える当たり流石だ。『ッス!』はやっぱりなかなか抜けてないけど。
しかし、この流れだと僕にも流れ弾が来るよね?
「そしてもう一人! 私達の一個下の努力家ギタリスト! 日菜ちゃんのお師匠さん!」
「どうも、小さな身体のギタリスト、加賀翔です。皆さんが聞いて下さっているPastel*Palettesの楽曲の仮歌やったりしてます」
もっと言えば、初ライブのギター演奏は僕でした、なんて言ったら怒られるだろう。これを知っているのは麻弥さんと事務所の一部の人だけだ。
折角波に乗ってきている彼女らの勢いを僕がへし折る訳には行かないだろう。
「翔くんはボーイズバンド『Knockers』のギターでもあるんだよ! そっちの曲も聞いてね!」
「あ、宣伝ありがとうございます」
「……なんの動画なんですか? これ」
このままではほぼ僕の紹介動画になってしまう。というか、アイドルの居る事務所に居る男ってだけで燃やされそう。
オマケに麻弥さんと基本一緒に居るという誤解を招く発言。あれこれ僕ヤバくね?
今更ながら自分に降りかかりそうな災厄に気付き、内心冷や汗を流し始める。
燃えたくないし、ファンに刺されたくもない。まだやりたいことが一杯ある。いや、そんなに無いかも?
「これは翔くんのお披露目だよ! 翔くんも事務所所属の仲間なのに全く知られてないんだもん!」
「いやいや……お披露目ってほど隠されても無いですし」
今度は僕が丸山さんへ向けて手を振る。事務所がそこまで力を入れて広報していないだけで、メディアへの露出は無い訳では無い。
むしろ、同じ事務所の丸山さんに、ファンの皆に知られていないと思われているのが地味に悲しい。
僕の知名度は、まだまだ低いのだろうか。
「兎に角! 翔君のことを知ってもらうの!」
「駄々っ子ッスね……」
もはや僕も麻弥さんも呆れ顔。謎の行動力があり、頑固なところがあるのが彼女だ。
その度に白鷺さんに怒られているのに未だに学ばないのだろうか? と、口には出さない。
ぶっちゃけ、遊ばしてた方が被害者面できて怒られずに済む。
「それじゃあ……趣味は?」
「ギター」
「特技は?」
「ギター」
「好きな物は?」
「……ギター」
「最近ハマってることは?」
「……ギター」
「ちょっと! 真面目に答えてよ!」
「Guitar」
「発音良い!?」
一部嘘を交えつつ、丸山さんの反応を楽しむ。ただギターと言うだけで、こうもいい反応とツッコミをしてくれると、会話していて実に楽しい。
しかし、これでは僕がただのギター狂いという事しか分からない。いや事実なんだけどさ。
何かしら僕のことを知ってもらう必要はあるだろう。
「あー、ハイハイ……じゃ、何すればいいですか?」
「……何してもらおう?」
「知ってますか? 僕でも怒るんですよ?」
「待って待って! 考えるから!」
キョトンとした顔を見せる彼女に対して、流石に苛立ちが出てくる。僕だって貴重な休憩時間。こんな茶番に付き合っているのだから、その辺はしっかりしておいて欲しかった。
無理だよね。丸山さんだもん。
「……そうだ! 何か弾いてよ!」
「えぇ……無茶振りすぎません……?」
確かに、ギターはすぐ手の届く所にある。弾こうと思えばすぐ弾ける。
しかし、丸山さんのSNS用なのだから、弾くにしても選曲を考えなければならない。
それこそ、知名度あって、事務所的にも大丈夫なの。
「……あー、じゃあ、あれやります。『そばかす』」
「おー! 私たちがカバーしたことのある曲!」
事務所的にも問題ない。知名度も大丈夫。何より、弟子との腕比べにもなる。
そう考えると気合いが入るという物で、僕は勢いよく立ち上がり、スタンドに置いてあったギターを手に取る。
……そうだ、折角ボーカルとドラムが居るのだ。
「折角だし、合わせますか。麻弥さん、行けますよね?」
「モチのロンッス!」
眩しい眩しい笑顔を見せてくれながら、腕はえげつない十六ビートを刻んでいた。最早それ、腕だけ別の生き物でしょ。
ベースは居ないし、キーボードも居ないが、その辺は問題ない。伊達にスタジオミュージシャン名乗ってない。
「え? え? え? 私が歌うの?」
「当たり前でしょ? それともなんですか? 音痴の僕やドラムの麻弥さんに歌わせると?」
「それは……あ、でも! スマホは誰が」
「はいはーい! 私が撮ってるよ!」
そう言って勢いよくスタジオに飛び込んで来たのは、パスパレのギタリスト、氷川日菜さん。
僕の唯一の正式なギターの弟子にして、学校の先輩。そのあまりの自由人ぶりと天才ぶりから、人との衝突もしばしば。
悪い人では無いのだ。善悪の判別が少しばかり苦手なだけで。
「はい、もう逃げませんよね?」
「うぅ……わかったよ……一番だけでいいよね?」
「それを聞くのはこっちなんですけどね……」
「いいッスか? それじゃあ……ワン、ツー、スリー、フォー!」
麻弥さんの合図とともに、僕は六本の弦を操り始める。
──
──────
──
「……やっぱりベース無いと音が足りないですね」
弾き終えての第一声はそれだった。
低音帯を支えてくれるベースの存在が無いせいで、どうにも音圧の足らなさが際立ってしまう。
まぁ、宣伝にはなっただろうし、こんなものだろう。
「……凄い! ギターが二本あるみたい!」
「ねぇねぇ! 他にも何かやろうよ!」
しかし、目の前の二人はこんな僕の演奏を聞いて、いたく感動してくれたらしい。
目を爛々と輝かせ、僕の側までずいっと顔を寄せてくる。美少女二人に迫られているので、若干ドギマギしてしまったのは内緒だ。
「もう、お二人共……翔さんが……こまっ、て…………」
麻弥さんがそんな二人を咎めようとしたが、何かに気付いたらしく、スタジオの入口の方に目線を向ける。
僕も麻弥さんに習って二人の肩越しに入口に目線を向けると……僕も同じように固まってしまう。
「……? 二人ともどうしたの?」
「……後ろ」
「「?」」
僕と麻弥さんの様子がおかしいことにようやく気付いたのか、丸山さんと日菜さんは僕の指さす入口側へと目線を向ける。
「あやちゃーん? ひなちゃーん? 休憩時間は終わってるわよー?」
──鬼がいた。
「し、白鷺さん……これは、その」
「いいのよ加賀君。君と麻弥ちゃんが悪くないのはよぉおく知ってるわよ……じゃ、二人とも」
綺麗な綺麗な……それこそ、丸山さんと日菜さんが固まってしまう程の綺麗な笑顔を浮かべた、パスパレのベース、白鷺千聖さんは、その額に青筋を浮かべて、言い放った。
「しっかり休憩できたわよね? それじゃあこれから休憩無しでも良いわよね?
逃 が さ な い わ よ ?」
──その時に二人が上げた悲鳴は、表の歩道にまで聞こえたとか何とか。
ご閲覧ありがとうございます。気が付いたら休憩時間って溶けて消えてますよね。おかしいですよねほんと。
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それでは、また次回。