そうだ、スライム(魔獣)でオ○ホを作ろう   作:赤雑魚

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そうだスライムでオ○ホを作ろう2(下)

「...............奴は血液を媒介にして炎熱を操る。戦うのなら注意しろ」

「了解です」

「______すまない」

 

 それだけ言い残して、ロアさんが意識を失ってしまった。

 もともと限界だったのだろう、よく意識が持った方だと思う。呼吸は安定しているがはやく病院に運び込みたいところだ。

 

 

 

 ______さて、カッコつけて啖呵を切ったのはいいけれど、命が掛かってるプレッシャーで気が重い。

 

 したり顔で大量のスライムを集めてみたけど、いくら集まろうがスライムはスライムなのでコケ脅しどころか肉壁にすらならない。

 

 巨大スライムだってそうだ。いっぱい魔力取り込んで人間包めるサイズにまで育ったけど、身も蓋もない言い方をすればデカいだけだ。スライムさんの平和的移動速度ではただの的である。弱点の核も剥き出しだし。

 

 対して相手は圧倒的な格上である。

 

 実力は遥か彼方。

 

 闘争経験は天と地ほどに離れ、読み合いなんてできるはずもない。戦闘技術は言うに及ばず。身体性能(スペック)の差を埋めてくれるはずの魔力も、僕の身に宿る量ではあまりに頼りない。

 対戦相手の『赤色鬼』さんも消耗している筈なのだが、ノリノリで剣を構えてるところを見るとスタミナ切れも狙えなさそうだ。

 

 ロアさんが気を利かしてこそっとアドバイスくれたけど、「気をつけるか...」ぐらいの感想しか出てこねぇ。

 

 こんな僕で、奴に勝てるのだろうか。

 

 

 ..................。

 

 

 なんか考えるの面倒臭くなってきたな。

 というかここまでやっておいて、今更逃がしてくれるような相手じゃないし、怖がるのも無駄な気がしてきた。

 

 てかよく考えればだんだん腹立ってきたぞ。

 こっちは店員殺されかけた挙句、『ウ~ズ』を爆破されたのだ。

 

 起きて外出た瞬間に、店が吹っ飛んだのはビックリしたわ。まじで。

 

 

 .........よし全力で行こう、あとは野となれ山となれだ。

 

 

 魂の繋がりを通して敵を討てと命令し、ひときわ巨大な一匹の使い魔に魔力を送り込む。

 魔力を供給して自身の魔獣を強化する。従魔士としては当たり前の手段、単純明快な使い古された戦術。

 

 だが、足りない。

 

 目の前の相手を超えるには、まるで魔力が足りていない。

 

 ゆえに命令を下す。

 

 一体ではなく全体へ。

 単体ではなく群体へ。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 返答は魔力となってやって来た。

 呆れるほどの魔力(ソレ)を、考えることもなく巨大な使い魔に叩き込み、問答無用で強化する。

 

 

 

 

「______『過負荷強化(オーバードライブ)』」

 

 

 

 

 

 行けスライム。

 

 

 

 ハイパーつよつよ体当たりだ。

 

 

 

***

 

 

 

 戦いにおいて魔力の保有量は、強さを測る指標の一つとなる。

 理由は至極単純、自身の戦闘能力に関わるからだ。身体能力の活性化、従魔士であれば魔獣の強化、魔族であれば魔法の発動と、戦闘能力に直結するからこそ魔力量は重要視されるのだ。

 

 効率の良い補給手段として性交渉を行うことが当たり前なほどに。

 

 そして魔力量=強さの等式が成立するほどには絶対的だ。

 

 極端にいえば____魔力量の多い方が戦いを有利に進めることができる。

 

 それを踏まえて、ウィル アーネストはどうだろうか。

 肉体性能、技術、経験においてすべてを上回る悪鬼に対して、魔力さえも劣っているスライム使いは、為すすべなく敗北するしかないのだろうか?

 

 

「______『過負荷強化(オーバードライブ)』」

 

 

 ()()()()

 

 

 ウィル アーネストには、奥の手が存在する。

 

 ぎゅるりと()()()()()が、突如として巨大スライムへと流れ込む。

 巨大な使い魔は供給される魔力を喰らい、呑み込み、取り込むことでその体積を増やし、ウィルの戦意に反応して流体を波打たせ______

 

 

 ____()()()()()()()()()()()

 

 

「_______がッ!?」

 

 人間大のスライムがグレンに直撃する。

 

 赤鬼が拮抗する間もなく弾き飛ばされる。

 肉を叩き潰すような怪音。次いで骨がベキベキと砕ける異音が体内で響く。

 

 人間を包み込むほどの大質量が超高速で叩きつけられる威力は___もはや交通事故と言って差し支えない。だが過剰な威力を受けてなお、鬼は獰猛に嗤う。

 

「は、はははは!」

 

 悲鳴を上げる身体を、持ち前の回復力で強引に修復しながら着地する。

 

 速い、速すぎる。

 

 先の戦いで見た『幻狼』と遜色ない速度。

 どう考えてもスライムが持つ本来の性能ではない。スライム使い程度の魔力では不可能なはずの、大量の魔力による強化が行なわれている。

 

 

 その反則(イカサマ)の正体を、赤色鬼は即座に看破する。

 

 

「______群体統率による過剰強化、か」

 

 グレンは知っている。

 

 群体型の魔獣を操る従魔士の技術。

 自身の魔獣が形成した群れから魔力をかき集め、一匹の従魔を超強化する最終手段。個々の魔力が少ない群体型が、格上殺しを為すための最強の切り札(ワイルドカード)

 

 これがウィル アーネストの奥の手か。

 

 ゴミに等しいスライムとは言えど、安全圏一帯を掌握するほどの数量から魔力を集めれば、確かにグレンの喉元に届き得る______!!

 

 

 だが。

 

 

「あァ、ソレは見たことがある」

 

 

 グレンは知っている

 赤色鬼は()っているのだ。

 

 魔族として生を受け、ずっと戦ってきた。

 血で血を洗う戦闘の中で、気が遠くなるほどの闘争の日々の中で、数えきれないほどの屍を築いてきた。男も、女も、老人も、魔族も、魔獣も、そして()()()()()()()すらも殺してきたのだ。

 

 群体統率の魔力運用も、過剰強化の威力も、十分に理解している。

 

 そして、知っていれば対応を取ることも難しい話ではない。

 

 

 スライムが再度弾けるように加速する。

 

 あのスライムとは思えない異様な速度。

 だがそれだけだ。速いだけの突進を二度も受けるほど、赤色鬼は甘くはない。

 

「______『閃撃』」

 

 神速の抜刀が、スライムの核を斬り裂く。

 赤色鬼が誇る最速の抜刀術は発動したが最後、回避も防御も成立しない。

 

 どろり、とスライムがその形状を崩壊させる。

 

 どれほど魔獣が強化されようとも、倒してしまえばそれで終わりだ。

 

 ウィル アーネストの『過負荷強化』は、連発できるような代物ではない。全魔力を消費するほどの大技であるからこそ、過剰強化は奥の手になり得るのだから。

 

 故にここで終わりだ。

 魔力を使い切った従魔士に、出来ることなど残されてはいない____

 

 

 ______はずだった。

 

 

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 ぎゅるりと膨大な力が、突如として()()()()()()()()に流れ込む。

 

 ()()()()()使()()()()は、供給される魔力を喰らい、呑み込み、取り込むことでその体積を増やし______ウィルの戦意に反応して流体を波打たせていく。

 

「............おいおい」

 

 異常な、光景だった。

 

 気が付けば、小さなスライム群はどこにも見当たらない。ウィルの使い魔達はその体躯を成長させ、先ほど斬り裂いた巨大スライムに匹敵するサイズと化していた。

 

 

 そしてなにより異常なのは、スライム達の一匹一匹が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 

 

「まあ、こんなもんですかね」

「______ありえねェ、魔力は使い切った筈だろ」

 

 道理に反している。

 

 何度も魔力を集められるほどスライムは魔力を持っていない筈だ。ましてや全部のスライムを等しく過剰強化するなど、常識破りにもほどがある。

 

「簡単な話ですよ。僕とスライム達に魔力が無いのなら、別の人間に大量の魔力を最高効率で供給してもらえばいい」

 

 理屈は通っている。だが不可能だ。

 

 一人や二人が協力したところでこれほど莫大な量は集まらない。しかも最高効率の魔力供給を行う手段など、それこそ性交渉くらいしか______

 

 

「______まさか、テメェ!!」

 

 

 気づいた。

 

 一つだけ手段が存在する。

 

 ウィル アーネストには他者の魔力を最高効率で受けとる方法が_______この世界には確かに存在する。

 

「ウチはスライム専門店ですからね。主力商品は手広く販売してるんですよ」

 

 

 ______スライムホール。

 

 

 あれはスライムを加工した道具。そして用途はウィルの使い魔を用いた自慰行為。つまり_____それは言ってしまえば()()()()()()()()()()()()。使用する本人たちにその気はなくとも、発射される白く熱い情熱には大量の魔力が含まれている。

 

 ならば可能だ。

 

 本来不可能なはずの、大人数の最高効率での魔力供給が___かつてないほどの超大規模で成立する。

 

「僕もね、遊びでオナホールを売ってるわけじゃないんですよ」

 

 性玩具界隈で空前絶後の大人気商品。

 年間を通して飛ぶように売れ続け、ついに販売数は10万個を突破。スライムホールを利用するユーザーからの圧倒的な魔力供給は、二年前から途切れることなく続いている。

 

 金策のためではあった。

 だが、それよりも求めているものが彼にはあった。

 

 目的は最初から一ミリたりともブレてはいない。

 

 

 全てを失ったあの日から、ウィル アーネストは強さが欲しかった。

  

 

 大事なものを守るための、確かな強さが欲しかった。

 

 

「そうさそうとも! これこそスライムマスター群体奥義『白夜継承』‼︎______売れば売るほど強くなるってね」

 

 自信たっぷりに、ウィル アーネストはそう告げた。

 

 グレンは動かない___否、動けない。

 

 何をしようが結果は同じだ。死ぬ気で足掻いてみたとして、圧倒的な質量と数量を持った魔獣相手に一体何ができる? どう考えても数匹倒して力尽きるのが関のやまだ。

 

 この状況は、既に詰んでいる。

 

「______はは、こりゃやられたな。お前が、オレの終わりかよ」

「別に、命までは取りませんよ」

「…………………あ?」

「ただでさえ死人を見るのは懲り懲りなんです。夢に出てこられても面倒ですし、お仕置き程度で済ませておきますよ」

 

 愚か者を見るような表情でグレンが顔を顰める。

 

「生ぬるい奴だな。やってることは問題の先送りだぞ」

「わかってますよ」

「どうだかな。そんな性格じゃ、いずれ後悔するだろうぜ」

 

 かもしれませんね、と青年が頷く。

 

「まあ後悔ばかりの人生なんで、今更一つ二つ増えたところで変わりませんよ」

「………………ッチ、つまんねぇ奴」

「よく言われますよ、根暗ですから」

 

 スライムが動き出す。

 

 隙を見定めていなければ、読み合いをする素振りもない。思いつきで動き出したかのような、あまりにもお粗末なスライムの突撃行動。だが、膨大な質量と数量、そして圧倒的な速度を持っているとなれば話は別だ。

 

 崩れた建造物を踏み潰し、逆巻く炎を呑み込み、木々をへし折りながら突き進む様はまるで雪崩。

 

 あまりに強大で、誰であろうと為す術がない。

 

 それはグレンですら例外ではなく____

 

 

 

 _____大質量は抵抗すら許さずに、地獄の悪鬼を呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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