そうだ、スライム(魔獣)でオ○ホを作ろう   作:赤雑魚

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 前略

 

 

 いくつかのハプニングと誤解を乗り越え、僕はアルバイトを一人確保した。

 

 

 

 

「_______で魔力が切れかけてヤバくなったから、そいつは例のスライムを食べたわけよ。そしたら慌ててたせいで喉に詰めて死にかけてやんの!」

「お仲間に、うちの商品で命をかけないでくださいって伝えてもらえます?」

「だっはっはっはっは!」

 

 お礼騒動から数日が立った僕は、「ウ~ズ」に来たドランさんと世間話をしていた。

 

 Aランクの一流従魔士である彼とスライムの納品依頼しかこなさない万年Eランクの僕。本来なら話すどころか出会う機会すらないのだが、彼はスライムホールの愛用者だった。

 なんかスライムホールの使用感や改良点の話をしている内に仲良くなっていた。

 

 今日は人が少なく暇だったので厨房を抜け、ドランさんの武勇伝兼下らない話で盛り上がっていると、制服姿のロアさんがトレイをもって現れる。

 

 スラっとして高身長、クールな印象の彼女に可愛めの制服。なんというかギャップがいい、ありがとう。

 

 接客業に慣れてないのか、まだまだ動きはぎこちないが、彼女なりに頑張ってくれているようだった。

 

「お待たせしました。『映え映えスライムゼリーパフェ~生クリームチョコレートッピング~』になる.........ます」

「お? おお、サンキューな」

「.........店長もお茶を」

 

 どうやら気を利かせてくれたらしい。

 

 そっと差し出されたティーカップを受け取って、彼女に礼を言う

 

「ありがとう、会計は僕がやっておくからロアさんは休憩してね」

「.........了解した」

 

 店内に消える彼女を見送っていると、スライムゼリーを食べながらドランさんが話し出す。

 

「ふーん、ロアだっけ? マジで魔族を雇ったのな」

「ええまあ、お礼をしてくれるらしいのでアルバイトになってもらいました」

 

 ピタリと、ドランさんのスプーンを動かす手が止まる。

 

「ウィル坊、魔族の評判って知ってるか?」

「まあ、それなりには」

「知ってたのに雇ったのか?」

「.........そうですけど」

 

 前々から良くない噂を聞いてはいたので調べてみたのだ。

 

 が、身体に魔獣の特徴を持つとか、粗暴な性格の人間が多いとか、力が強くて超危険とか、呪われてるから災いを呼ぶとか。

 魔族を厄介者扱いするには、どれも決め手に欠ける様な内容ばかりだったので、根拠のない集団差別的なアレだと判断したわけである。

 

 呪いの下りとか絶対迷信でしょ。ロアさん粗暴そうにも見えないし。

 

 ネットが通ってる時代によぉ! メディアリテラシーのある若者が! そんな情報に踊らされるわけないよなぁ!?

 

「判断材料にするには、不十分な情報しかありませんでしたから」

 

 まあアルバイトを頼んだ手前、「やっぱなし」とは言えなかったので雇用に踏み切ったのだ。なんかヤバそうだったら頃合いを見てクビにするつもりだった。

 

 自分でもまあ妥当な判断だったと思っている。

 

 

 だが________

 

 

「あの情報、全部事実だぞ」

「.........冗談でしょ?」

「メディアリテラシーは高い方だぜ」

 

 笑って流そうとしたが、ドランさんの目は笑っていない。

 

 一瞬だけ、沈黙が降りた。

 

 なぜだろう。

 いつもは人のいい従魔士が、とても恐ろしく見えた。

 

「ネットで調べたら書いてただろ、「アイツらは人じゃない」とか」

「それは、流石に言いすぎでしょう」

 

 言ってはならないだろう、それは。

 

 人じゃないなら、なんだというんだ。

 

「魔族として生まれた赤ん坊がどうなるか知ってるか?」

「.........虐待を受ける、とか」

 

 僕の言葉に、ドランさんは苦笑した。

 

 

「______捨てられるのさ、その辺に」

 

 

 恐ろしい魔獣の力を持つ人間、育ちきれば殺されるかもしれない。オマケに、そんなバケモノを飼っていれば周囲からは目の敵にされるに決まっているのだから、捨てるのが一番無難に決まっている。

 

「問題は、魔族は一人でも生きるだけの力があることだ」

 

 彼は言う。

 

 たとえ親がいなくとも、泥水で喉を潤し、虫や木の根を齧って空腹を満たし、赤子でも魔族は生き延びられる。

 劣悪な成長の中で、親の顔を知らず、差別と迫害故に愛を知らず、ただ力だけがある。だが力があれば金は稼げる。

 

 傭兵とは名ばかりの、安売りした命の値札を下げて暴力で命をすり減らせば、今日は生きられるのだ。

 

 

 暴力的な性格にもなる。

        周りの全てが敵なのだから。

 

 強くもなるだろう。

        今まで力で全てをねじ伏せてきたのだから。

 

 災いだって起こるだろう。

        血と暴力で築いた人間関係なんて、呪いとなんら変わりない。

 

「お前の思ってる通り、ネットの情報なんて大半が当てにはならねぇがな。『()()()()()()()()()()()』を語るなら、それなりに適当だろうぜ」

「……………彼女もそうだとは限らないじゃないですか」

「そりゃそうだろうよ。これは『魔族』の情報で、お前のアルバイトの情報じゃないからな」

 

 だがな、と陽気な従魔士は続ける。

 

「お前の言葉より、世間は魔族の情報を取るぜ。ほら_______」

 

 

 ______今だって客が来てないだろ?

 

 

 昼過ぎだというのに静まり返っている「ウ〜ズ」には、彼の声がよく響いた。

 いつもはカフェで談笑する主婦も、おやつを食べに来る近所の子供も、誰一人としていなかった。

 

 まるで避けられているかのようだった。

 

 まるでロアさんを避けているかのようだった。

 

 

 嫌な静けさだった。

 

 

「___なんてな」

「.........は?」

「田舎のノスト周辺じゃ魔獣に襲われるなんて日常茶飯事、魔族なんて言われてもお前みたいにピンとこない奴の方が多い。今は様子見だ、ウィル坊とも悪くない付き合いをしてるし、客もすぐに戻るだろ」

 

 いつの間にかスライムゼリーを完食し、ドランさんがスプーンを置く。

 さっきまでの張り詰めたような雰囲気が嘘のようだった。

 

 少し、脱力する。

 

「じゃあ、マジで何しに来たんですか」

「頼まれたんだよ、レイシアちゃんによ。いろいろ心配してたぜ」

「ああ、あの娘ですか」

 

 従魔士ギルドの職員に同い年の人がいるのだ。 かわいいけど怖い女の子だ。

 

「そっけねぇな、もっと他に反応あるだろ」

「たまに出会って話す程度ですから…………、怒ると怖いし」

「ばっかオメェ、そこがいいんだろ」

 

 代金の硬貨をおいてドランさんが立ち上がる。

 

「今の世の中、平和を謳っちゃいるがありゃ嘘だ。陰謀、復讐、憎悪、狂気、争いの種はどこでもある。アルバイトにその気はなくても、トラブルの方から来ることもあるから気をつけな」

 

 「お前は人が良すぎるからなー」と最後に言うと、ドランさんは去っていった。

 

 結局、何も言い返せなかった。

 

「年長者からのアドバイス、だよな」

 

 なんというか、なにか納得がいかなかったが、仕方がないので食器を片付ける。

 皿を洗って、テーブルを拭き、床にスライムをぶち撒けるように召喚して掃除させる。

 

 汚れはスライムが食べてくれる。

 

「……………店長」

「ああ、ロアさん。どうかしました?」

 

 モップを持っているので、どうやら手伝ってくれるようだ。

 でも正直スライムたちに任せた方が綺麗になるから必要ないのだが。

 

「すまなかった、私はこの店の役に立てていない」

「………………どうしてそう思うんです?」

 

 彼女が視線を彷徨わせる。

 

「私は、戦いしかしたことがない。他は、何もできない」

「………………」

「店で働くのは、初めてだ。住み込みで、報酬までくれて、店長には感謝している。早く仕事ができるように、頑張ろうと思った」

 

 けど、と苦しそうに彼女は続ける。

 

「______店に、客が来ていないのは私のせいだ」

 

 

 ______ああ、なるほど。

 

 

 彼女は人間以上に感覚が鋭い。

 だからドランさんとの会話が聞こえていたのだろう。

  

 あるいはそれすら知っていてドランさんは、魔族の話を切り出したのかもしれない。

 

「礼をすると言ったのに、私は迷惑しかかけていない」

「……………………」

 

 めっちゃ面倒臭いことするじゃん、あの人。

 

 注意しに来たけど、フォロー入れるのは僕がやれってか。

 別に人付き合い得意じゃないんだが、なんなら下手くそな方なんですけど。

 

 

 .........だが、看板娘(暫定)が自信を失ってるなら、店長が支えねばなるまい。

 

 

「ロアさん、接客で一番大事なことってわかります?」

「……………わからない」

「それは笑顔です」

「そう、なのか?」

「はい、笑顔を見ると悪い気分はしないでしょう?」 

 

 わからねぇ。

 

 笑顔の原型は威嚇の表情とか聞いたことがある気もする。接客の極意なんて知らん、絶対他に大事なことあるよ。

 

 だが会話は雰囲気、とにかくそれっぽい話で押し通すことにする。

 

「ほら、ロアさんは笑顔が素敵です」

「……………笑顔、しただろうか?」

「しました、見ました」

 

 見てないが、美人が笑顔とか最強だろ。たぶん。

 つまり彼女の笑顔が素敵なのは間違ってない。見たことはないが。

 

「最初からすべてできるひとなんていません。まずは笑顔です。他は後からついてきます」

「だが、客は______」

「客もロアさんが笑顔になれば自然と来ます! 僕には見える! あなたの笑顔で店が繁盛する未来が!」

 

 そもそも「ウ〜ズ」の主力はスライムホールなので、カフェ目当ての客が来なくても問題がない。

 ていうか仕事が無くて楽なので、この状況がしばらく続いてくれて一向に構わない。

 

「つまり、ロアさんは自分に自信を持っていい。貴方はとても素敵です」

 

 はい、ここで会心の微笑み!

 

 失敗!

 

 ニチャついた笑みになってしまった。だって笑顔なんてまともにやったことねーもんよー、引き攣るんだわ顔面筋が。別にスマイルなくても接客ぐらいできるじゃん.........。

 

 

 けれど

 

 

「............ふふ」

 

 ふわりとした、やわらかな微笑みだった。

 いつのまにか、心底嬉しそうな、世界が色づくような笑みが僕の視界を奪っていた。

 

 見惚れていると、次の瞬間には真顔に戻っていた。

 

「素敵に、笑えるだろうか」

「______大丈夫ですよ」

 

 今みたいに笑えばいいとは、言わなかった。

 

 今のはきっと、彼女の心の笑みだ。

 アレを商売に使えという気にはなれなかった。

 

「ありがとう、期待に応えられるように、もう少しだけ待っていて欲しい」

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ、ロアさん」

 

 彼女がこちらを見る。

 

「どうしました?」

「お願いがある」

「なんですか?」

 

 なんだろ。

 

 聞くつもりはあるけど、あまり難しいのはやめて欲しい。

 賃金を増やすとかなら、全然かまわないが。

 

 金はあるし。

 

「……………ロアだ」

「え?」

「「さん」は要らない。ロア、と呼んでくれ」

 

 

 

 

 えー、一番ハードル高いやつじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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