僕が美術部に入って生きる目標を見つけるまで 作:生煮えまぐろ煮
出会い
彼女と出会ったのは僕が高校に入学した春、学校に植えられたアザレアが見事に咲き誇る日のことであった。グラウンドからは運動部の気合のこもった掛け声が聞こえ、正門からは仲睦まじげなカップルの声が聞こえる。入学早々に交際関係に至るとは非常に羨ましいものである。
しかし入学してまだ1週間程度、この短時間でお互いの何に惹かれ交際したのか僕には分からない。
この日僕は運命的な出会いをした。無論大多数の人間からすればどうでも良いものだろうが、それでも僕にとって人生を左右する大きな出会いであったことは間違いない。
あの日彼女に出逢えた。様々な出来事があった。楽しいこともあった。悲しいこともあった。
でも、まだその事を書くのは早すぎる、まずはあの日の出会いのことから書くべきだろう。
僕は木曜日の昼休み、旧校舎の空き教室でぼうっとしていた。本来なら友人と和気あいあいと昼食を摂る時間だろう。
実際いつもは隣の席のクラスメイトと昼食を食べているが、今日はどうも食欲が湧かなかった。なんとなく1人になりたかった。
旧校舎は静かだ、築50年を越える古びた建物。あるのは文化系の部室のみであり、埃っぽいこともあって用がなければ基本的に誰も立ち入らない。
窓からはグラウンドが見える。昼休みの時間すらも自己鍛錬に使う真面目な陸上部を眺めながら僕は廊下をぶらついていた。
その日は快晴で、遠くには飛行機雲が見えた。理想の春、といった天気である。
「───描け──────い──」
小さな声が聞こえた、女の子の声だ。声がした方を見ると扉があり、そこには、『美術部』と書かれた看板がぶら下がっている。
僕がおそるおそるドアの隙間から教室を覗いた時、彼女も振り向き、視線が合った。肩まである髪を後ろで縛り、細くて優しそうな眉と、活発そうな綺麗な瞳が印象的な子だ。どこかで見た気がする。
彼女は僕の顔を見て固まったあと「え」と声を上げた。驚いた彼女は足元に置いた筆洗の中の水を床にぶちまけることとなってしまい、僕は慌てて置いてあった雑巾を片手に彼女に駆け寄った。幸運にも描きかけの絵に水が跳ねたりはしなかったようだ。
「え、え、なんでこんなとこに、樂漸くんがいるの……?」
「いや、特に理由があったわけじゃないけど。何となく旧校舎にいこうかなって」
「今まで昼休みに私以外の人が来たことなんて1度もなかったのに」
今までと言ってもまだ入学式から2週間しか経っていないだろうに
「掃除、手伝ってくれてありがとう。今度からはドアをノックしてよ。怖いから」
彼女はそう言って
というか誰だよ、と言ってもこの学校に入って覚えた名前なんて隣の席の毒島ぐらいだが。
キャンバスを見つめ唸りながら描いていく彼女を眺めてみる。よく見ると随分と小柄だ、145cmも無いだろうか?
「なに? そんなに見つめられると描きづらいんだけど。というか
僕は驚いて「え」と声を上げてしまった。
「──名前言ったっけ?」
彼女は僕の方を振り向いた。ムッとした顔をしている。
「え、同じクラスなのに私の事覚えてないの? 2つ隣の席なのに」
ヤバい、見た気がする訳だ。そりゃあ同じクラスなら見たことない方がおかしいだろう。
「あ、いや、その」
「
「いや、もちろん覚えてるよ! あの時は、そう、ありがとう! まだ2週間だから全員の名前覚えきれてなくて」
嘘だ。隣の席のヤツの名前しか覚えていない。
「ふーん、じゃあもう一度自己紹介するね。私の名前は
初日に全員自己紹介したはずだけど一切記憶に無い。
これ僕も自己紹介した方が良いかな
「僕は、樂漸湊和。好きなことは……特にないかな、夢もまだ無いと思う……」
「知ってる、もう一度聞いたから」
ごめんなさい……普通クラスメイトの名前ぐらい覚えるよね。
だからそんな目で見ないで欲しい、いたたまれなくなるから。
「えっと……藤院さんはなんでここに居るの? 今、昼休みの時間だと思うけど」
「私美術部だから、次のコンクール狙ってるの。樂漸君こそなんでここに居るの? 帰宅部だよね?」
「いや、僕はその……」
「ああ、なるほど樂漸君いつもボッチだもんね」
違う。いつもは隣の席のヤツとその友達の3人で食べてる。コイツ見た目に遭わず毒舌だな。
「でも樂漸君が
……残念ながらその通りなので僕は何も言えなかった。話を変えるために何とかなく描きかけのキャンバスについて質問してみる。
「上手いね、なんの絵なの?」
「これ? 校庭のアザレア。上手く描けてるでしょ」
「綺麗な絵だね、これで描きかけなんだよね? 凄いな」
彼女は照れ性なのか、僕が褒めると頬を染めてそっぽを向いた。
実際のところ、僕に芸術は分からない。しかしエジソンの偉業が専門的な教育を受けていなくても理解できるように、そんな僕にでも素晴らしいものだと伝わるような絵であった。
僕が熱心に絵を見つめていると彼女が、
「……そんなに気に入ってくれたなら放課後私が描いてるところでも見てみる? あんまり面白くはないと思うけど」
「え、いいの? 他の人に迷惑じゃないかな」
「別に美術部の部員私しかいないから」
確かに言われてみればどの道具もあまり使われている形跡は無い。
それならば言葉に甘えて放課後も行ってみよう。何より、こんな美少女と会話が出来ることなんてあまりないと思うし。
「それじゃあ放課後また来るね、そろそろ昼休みも終わりそうだから」
「また来るねと言っても、私も樂漸君も同じクラスだけどね」
それもそうか、と言って僕は笑った。
一緒に帰る約束をしている毒島達には悪いが今日は彼女の描く絵を見てみよう。
これが僕と彼女との最初の思い出だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
初めて書いた小説なので文法等おかしな点がありましたらどうか御報告お願い致します。
一応最終話までのプロットはあるので完結まで頑張りたいと思います。