僕が美術部に入って生きる目標を見つけるまで 作:生煮えまぐろ煮
「それじゃあ、描き始めるね」
放課後、友人に断りを入れてから美術部部室へ行くと先に到着していた藤院さんが言った。周りには絵の具に筆にデッサン人形と様々なものが置かれている。埃が積もっている事から、どうもあまり使われていないみたいだ。
そう言えば藤院さんが自分しか部員がいないって言ってたかもしれない。
「樂漸君は絵を描いたりするの?」
「僕はその、アニメチックな絵なら一応描けるけど水彩画とかは描けないかな……」
アニメチックな絵の中でも肌面積が少ない絵ばっかり描いていることは言わないでおこう。
「ホント? 私も描くんだよ、そういう絵。なんたってイラストレーター志望だもの」
言うだけあって彼女の絵は上手い。僕の貧相な語彙力では上手く表現出来ないが、なんというか、
「話変わるけどさ、樂漸君って帰宅部だよね?」
「え? うん、そうだけどなんで?」
「美術部に入らない? 部員が3人以上いないと廃部らしいの。廃部にされると困るんだ、画材って高いから」
美術部か、まあ別に入っても良いかな。それに藤院さんみたいな美人に頼られて断る事が出来るわけない。少なくとも俗に言う陰キャである僕には。
「良いよ、美術部に入るよ。あんまり普通の絵は描けないけど頑張って書いてみる」
「ありがとう、誰も入ってくれなくて困ってたんだ! ほら、私友達少ないからさ」
友達が少ない? 小柄で綺麗だから人気だと思うけど、まあ僕には分からない人間関係があるのだろう。
「それじゃあ樂漸君の歓迎会しようよ、少しなら奢るからさ」
筆を置き、こちらを見ながら彼女が言った。
「私、中華料理屋でバイトしてるんだ。こっそり量多くしてもらうね」
藤院さんが中華料理屋ってのは意外だ、オシャレなカフェで働いてそうなイメージ。
「うん最初はそうだったけど行きつけの中華料理屋でバイト募集してたから変えたの。それで、樂漸君はこの後大丈夫?」
「大丈夫だよ。けどその店って何処にあるの? 引っ越してきたばっかりだからまだ学校がある駅の北口しか行ったことがないんだ」
この学校は駅の北口を出てすぐにあって、僕は学校から歩いて20分ぐらいのボロいアパートを借りている。ゲームセンターとかレストランは全部南口の方向にあるけど特に遊ぶ相手もいなくて、食事も自炊してる僕はまだ行ったことがない。
「南口行ったことないんだ。タワレコとかブックファーストにも行かないの?」
「昔は店で買ってたけど、音楽も本も今は全部電子で買っちゃうから行かないかな」
そう告げると藤院さんは驚いた。彼女はCDも本も全部実際に買うタイプみたいだ。
「あ、ごめん私のバイト先の話だったね。樂漸君の家って駅から見て東側の方でしょ、バイパスのある方。そっちの方にある商店街みたいな所に『
「あるかも、もしかして橋を渡って51号を進んだ方?」
「うーん多分そうかな、私あんまり道路の番号覚えてないんだ。隣に薬局があればそうかも!」
成程、多分僕のアパートから5分10分って所にある商店街だろう、それなら僕でも迷わないと思う。
「分かった。自炊も飽きてきたところだし夜ご飯も兼ねてそこに行くよ」
僕がそう言うと藤院さんはまるでひまわりのように眩しい笑顔を浮かべた。
「やった、樂漸君が私のバイト先初の友達のお客さんだよ!」
なんと、僕は既に彼女の中で友人にカテゴリされていたらしい。友達が少ないとは何だったのか。
「どうしたの、そんな不思議そうな顔して。片付け手伝ってよ『志在千里』に行くから」
「もう行くの? その絵は良いの?」
「絵なんて何時でも描けるから。それにまだコンクールまで3週間もあるし大丈夫!」
彼女が言うのならそうなんだろう。それにしても美術部に入ることになるとは思わなかった。
数歩前を歩く藤院さんの背中を見つめながら思う。これはなんの奇跡だろうか。少なくとも昨日までの僕には友達とその友達の2人以外とは話すらしてなかったのに。
学校を出て51号線沿いに歩く。退勤の時間帯だからだろう車が増え始め、僕らを追い抜いていく。橋を超え、公園を通り過ぎ、商店街へ向かう。
商店街はまだ街灯を付けてないのか少し薄暗く、人もまばらだった。『志在千里』はそんな商店街の端の雑居ビルの1階に店を構えているようだ。
「着いたよ、ここが私のバイト先。適当にどっか座ってて良いから!」
そう言うと藤院さんは裏口から店の中に入ってしまった。どっかってどこだよ、準備中って看板出てるのに入って良いのか?
僕が悩んでいると中から髪を真っ赤に染めたタンクトップの厳ついお兄さんが出てきて看板の向きを逆にした。店員の人なのか? カラーギャングでもやってそうな外見なんだけど。
「……兄ちゃん、丘高か?」
「え、あ、はい、そうです」
「俺はここの店長やってる火神だ。羽奏の友達らしいな、アイツあんまり友達居ないから仲良くしてやってくれや」
そう言いながら僕の肩を軽く叩くと火神さんは店の中に入っていった。見た目によらず良い人なのかもしれない。慌てて僕も中に入る。
「いらっしゃい樂漸君、いま作ってるからちょっと待っててね!」
中にはエプロンを着た藤院さんが居た。いつもは後ろで軽く縛ってるだけの青みがかった綺麗な黒髪をポニーテールにしている。
奥から火神さんが出てきて僕の目の前の机に杏仁豆腐を置く。これでも食べてろってことだろう。
「……え、この杏仁豆腐めっちゃ美味い」
「でしょ? 火神さんの杏仁豆腐凄い美味しいんだよね!」
藤院さんの賞賛が恥ずかしかったのか火神さんは足早に厨房に籠ってしまった。
とりあえず僕は杏仁豆腐を楽しみながら藤院さんが来るのを待つことにした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
初めて書いた小説なので文法等おかしな点がありましたらどうか御報告お願い致します。
本小説は実在の土地をモデルにしたので地名や道路の番号等が書かれる場合がありますが特に内容に関わるものでは無いので分からなくても気にしないでください。